犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

14 / 25
第十四話 水仙を選ぶ

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

東郷「あっ、『ゆユゆ』のスタミナ消費しないと…ピコピコ…」

 

友奈「好きだねー東郷さんも」

 

樹「(LANEでメッセージ送りつけて妨害してやるっス!)」

 

東郷「むむっ…これは…樹ちゃん…『らぶゆ~』って…」

 

樹「なんでもないっスw」

 

園子「戻ったよ~」

 

樹「さて…始めましょうか。東三局」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

勝負再開。

東三局。親は園子。{ドラ三}

 

 

園子「(配牌は………よし、安いけど軽い手だ。ツモもいい…今この場で、強力な手は要らない…サッとあがる。要はイッつんが何かを仕掛ける前にこっちが先にあがっちゃえばいいんだよ~!なんでこんな簡単なことに気付かなかったんだろう~)」

 

 

数巡後

 

 

園子「よぉ~し来た!ピンヅモドラドラ~、2600点オール~」

{三三五六①②③④⑤⑥123} ツモ{七} ドラ{三}

 

 

東三局一本場。ドラ{5}

 

 

友奈「{⑧}」

 

園子「ロン~!タンヤオ一盃口ドラ1、一本場で6100点~」

{二二⑥⑥⑦⑦⑧345666} ロン{⑧} ドラ{5}

 

 

園子、二連続和了。園子77500点、樹48900点。

樹への直撃にはこだわらない。とにかくあがって連荘し、点棒を増やす。

 

 

園子「(ふふ、なかなかにいい流れだよ~…この勝負、私はもうイッつんとはぶつからない。スピードのみを優先!それが今の私にとってはベスト…誰よりも最短距離を駆け抜ける~…!)」

 

若葉「(だがリーチは保留か…無理もない。園子が怖いのは、樹への振り込みのみ。それならば、手替わりができなくなるリーチは当然できない。それにダマテンで張ることにも意味はある。テンパイの有無を教えないということは、周りにのびのびと打たせることになるが、裏を返せば、それは警戒されないということ。万が一、樹からロン牌が出れば更に差を広げられる…その可能性も信じてのダマテン…手は高くはならないが、ここはこれでいい…さすが園子………って、褒めてどうする。この勝負、樹にはどうしても勝ってもらわなくてはならないというのに…)」

 

 

若葉は、ノリツッコミを覚えた。

 

 

東郷「(まずいわね…そのっちが調子を取り戻しつつある…)」

 

風「(このまま連荘が続けば差が開く一方…こうなったら…!)」

 

園子「~♪」

 

風「(頼んだわよ、友奈…樹は調子が悪いようだし…ここは私があがる!)」

 

友奈「(任せてください…!)」

 

 

東三局二本場。園子、三度目の親。ドラ{九}

 

 

友奈「{中}」

 

風「ポン!」{中横中中}

 

樹「{七}」

 

風「チー!」{横七八九}

 

園子「(…開き直ったのかな?この土壇場に来て…役は萬子のホンイツ?一見、ただの悪あがきにしか見えないけど、それでも私の足止めはできる。つまり、私の手の中にある萬子と字牌…これらが切りにくくなった…さすがにまだテンパイにはなっていないだろうけど…)」

 

友奈「(風先輩、園ちゃんから萬子と字牌を縛った…だけどこの局の目的は、園ちゃんから直撃を取ることじゃない…次の親を、私に回すこと…!私から振り込んでもこの親は流れる…幸い、私の手には萬子がまだまだある。いつでも振り込めますよ、先輩…!)」

 

樹「………はぁ…」

 

 

樹の手牌は悪い。

風の鳴きが流れを歪めたのか、それとも園子に流れが傾いてきているのか…

 

 

樹「(手牌が形になってこない…とりあえずこの局は、そのっちさんの現物を切るか…)」

 

 

10巡目

 

 

園子「{1}」

 

風「…ロン!」

 

園子「…へ?」

 

風「中チャンタ三色ドラ1…二本場で8300点」

{⑦⑧⑨7891} ポン{中横中中} チー{横七八九} ロン{1} ドラ{九}

 

友奈「(こ、これは…!)」

 

若葉「(萬子のホンイツではなく、チャンタ三色…だと…?なるほど。序盤の鳴きは、ホンイツに見せかけたチャンタ!萬子のホンイツを匂わせたのなら、筒子や索子の端の牌は、タンヤオ狙いの園子からは最も出やすい牌…そこを狙ったのか…!)」

 

友奈「(てっきり萬子のホンイツかと思っていました!風先輩、さすがです!)」

 

園子「くっ…」

 

風「(とりあえず連荘を阻止することはできた…樹、お姉ちゃんにできるのはここまでよ…)」

 

東郷「(よし…残るはオーラスね…)」

 

 

東四局。オーラス。親は友奈。ドラ{⑦}

園子69200点、樹48900点。

その差、20300点。樹は跳満を園子から直取りすれば逆転である。

 

 

東郷「(…普通に考えれば、厳しい大差ね。この20300点という点差…逆転には跳満の直撃が必要…でも、そのっちもそこだけは心得ていて、直撃だけは慎重に避けてくる。いざとなれば徹底的に降りるだけ。つまり、通常での戦いでの勝ち目はすでにない…だからここで求められるのは、ツモあがりのみ!言うならツモで倍満や役満が成るという奇跡。通常の波高を遥かに超える高波…百に一度のα波…!そんな強運で勝つしかないわ…)」

 

 

樹の配牌…!

{三四五五①③③⑦⑧1北西西}

 

 

東郷「(うっ…なんてつまらない配牌…艶がない…高波の予兆なし…)」

 

 

その樹の第一ツモ。

{三四五五①③③⑦⑧1北西西} ツモ{西}

 

 

東郷「({西}…!いやん…オタ風の暗刻なんて最悪…!これでは平和もタンヤオも付かない…つまりこの手の未来はもう安手と決まったようなもの…樹ちゃん…!)」

 

 

否!そうではなかった。

実はこの{西}引きこそ予兆…通常の波高を遥かに超える高波…百に一度のα波…!

 

3巡目、樹手牌…

 

 

樹「………」

{三三四五五③③⑦⑧北西西西} ツモ{三}

 

 

東郷「(…わずか3回のツモで、強烈に匂い立ったある役満…!あと2つ…!)」

 

 

8巡目、樹手牌…

{三三三四五五③③⑦5西西西} ツモ{③}

 

 

東郷「(三暗刻…!なんて流れ…やっぱり樹ちゃんはすごい…常人の計りを遥かに超えているわ…!でもこうなると問題になるのが、そのっち…)」

 

風「{八}」

 

園子「チー!」{横八七九}

{■■■■■■■} ポン{九九横九} チー{横八七九}

 

東郷「(もう2鳴きもして、生牌打…役は萬子のホンイツかチンイツ…樹ちゃんの手、まさにここからが正念場。この四暗刻、絵に描いたぼた餅か…それとも…)」

 

樹「…!」

 

 

10巡目、樹、四暗刻テンパイ…!

{三三三四五五③③③5西西西} ツモ{五} {四か5}切りでテンパイ。

 

 

東郷「(うおおっ…来たっ…!四暗刻テンパイ!しかもツモは理想的{五}…これでロンあがりでも四暗刻を確定できるわ…ここは、そのっちには多少危険でも{四}切り。とりあえず{5}で受けて、より理想的な単騎待ちへと移行。それが常套…)」

 

樹「リーチ…!{5}」

 

東郷「(え?リーチ?しかも{5}切りの、多面待ち…!リーチするならせめて、四暗刻が確定する{四}切りの、{5}単騎待ちでしょ…!)」

 

樹「オープン」

 

東郷「(は…?)」

 

樹「オープンリーチ、{二-三-四-五-六}待ち…!」

{三三三四五五五③③③西西西}

 

 

ざわ…ざわ…

 

 

園子「…オープン?」

 

東郷「(あああ…樹ちゃん!どうして?このオーラスが最後かも知れないのに…どうしてっ…!?こうなるともう、何が何やら…)」

 

夏凜「東郷」

 

東郷「夏凜ちゃん…」

 

夏凜「不思議に思うことはないわ、東郷。これは樹の『理』なんだから」

 

東郷「樹ちゃんの…理…?」

 

夏凜「樹の読みは独善的で断定的。しかも樹は、ああ見えて一度決めたことは決して曲げない性格。その判断の見切りがあまりにもバッサリだから、私たちトーシロには…それが奇異に見えるのよ」

 

東郷「え、ええ。で、でも…あの打ち回しは…」

 

夏凜「話は簡単よ。もう場は10巡目…仮に園子がすでに張っているとして、その待ちが{四}だとわかっていたら…東郷はどうする?」

 

東郷「…切らないわね。絶対に」

 

夏凜「そうよね。待ちがはっきりと見えてしまったら、当然{四}は切れないわ。切ったらロンされるんだからね。鳴きと捨て牌から見て、園子は明らかな萬子の染め手。なら、ロンされる危険がある{四}は切れない。そう樹は踏んだ。そして自分の手は役満の四暗刻。これ以上の高目も望めないし、{四}が切れなくて手替わりもできない。なら、リーチにいってもおかしくないわ」

 

東郷「そ、それはわかるけど…なにも、オープンする必要はないわ。リーチには相手の足止めを狙う効果もあるけど、跳満以上の直撃が必要なこの場面でオープンしてしまったら、そのっちは決して振り込まない…」

 

夏凜「…たしかにオープンをしてしまったら、園子は振り込まないわね。でも、園子が振り込まないこと…それ以上のあまりある効果があのオープンに含まれているのよ」

 

東郷「あまりある効果…?」

 

夏凜「あれは、園子から直撃を取るためのものじゃないってこと。つまりオープンは脅し…風や友奈から手中を引き出すためのね…」

 

東郷「風先輩や友奈ちゃんから…?」

 

 

夏凜の推察は半分当たり、半分外れていた。

このときの園子、{一-四-七}待ち…!樹の読み的中。

{二三四五六八八} ポン{九九横九} チー{横八七九}

 

 

園子「(四暗刻オープンリーチって…めちゃくちゃするな~…)」

 

東郷「どういうこと?」

 

夏凜「オープンすれば待ちは明白になるから、通常のオープンリーチでは誰も振り込んだりしてくれないわ。オープンする場合、自分があがれる可能性はツモくらいしかないけど、味方がいるときは別よ」

 

東郷「…わかったわ!樹ちゃんの狙いは、風先輩か友奈ちゃんからの差し込みね!役満の32000点なら、そのっちから直撃を取らなくても逆転できる…!」

 

夏凜「ふふ、そういうこと☆」

 

風「{①}」

 

東郷「(えっ?)」

 

 

東郷の思惑は外れ、風…振り込まず。

 

 

東郷「どっ、どうして…(キレそう)」

 

夏凜「お、落ち着いて…うーん。ここら辺はちょっと難しいのよね…」

 

東郷「?」

 

夏凜「園子が{四}で待っている可能性が高いってことは、さっきも言ったわよね。もし風が{四}を持っていて、それを樹に差し込んだとしても…席順的にあがれるのは樹じゃなくて頭ハネで園子。その可能性があるから、軽率に{四}は差し込めないのよ。今の風はきっと、こう考えているんじゃないかしら…『振り込むのは、もう少し乃木の様子を見てから…』ってね」

 

東郷「そんな………あっ!でも、友奈ちゃんからの差し込みなら…!」

 

夏凜「…ええ。友奈からの差し込みなら頭ハネはないから100%通る。そこは安心していいと思うわ。あと、樹の待ちは他にも{二-三-五-六}と4種類。つまり{四}以外でもあがれるけど、この場面…{四}以外の選択肢はないわ。なぜなら、それ以外の牌であがったとしても、オープンリーチ三暗刻で満貫止まり…園子は越えられないからね…」

 

東郷「いくら役満を張っても、あがれなければ意味がないってことね…」

 

夏凜「そうでもないわよ。樹には風と友奈の差し込みがあるんだから、実質3回のツモが可能ということ…そのスピードを考えるとこの勝負、樹が有利ね…!」

 

 

{四}は園子が1枚、樹が1枚使っている。

つまり樹の四暗刻完成に必要な{四}は、残り2枚…!

 

 

 

第十四話、完


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。