犬吠埼樹は悪魔である   作:もちまん

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第十三話 白粉花に寄せられて

LOCATION:讃州中学校、勇者部部室

 

 

樹と園子のサシ勝負。

2人の点棒は園子79600点、樹35500点。その点差、44100点。

園子の策略により好調だった樹の親は流され、場は東二局へと移行。

 

 

風「(さて、頑張るぞいっと………む、ドラ表示牌は{東}…つまりドラは{南}か。樹には少しでも高い点数であがってもらいたいこの状況で字牌がドラなんて、ちょっと微妙ね…)」

 

樹「………勘違いっス」

 

風「樹?」

 

樹「お姉ちゃん、1トンずれてるよ。賽の目は11なのに、12で区切ってる」

 

風「え?…ああ!ごめんごめん。ってことは、ドラ表示牌は{東}じゃなくて…隣の{⑤}!つまり、ドラは{⑥}!」

 

夏凜「まったく。姉の方が取り乱してどうすんのよ…」

 

東郷「(落ち着いている…こんな絶望的な状況なのに…樹ちゃん、何かアテがあるの?)」

 

 

東二局。親は風。ドラ{⑥}

 

樹の配牌…

{一三①②⑤1444667北} ツモ{南}

 

 

東郷「(強力な手が欲しいときにこの配牌…しかも、ツモも平凡…手が安め安めにいく…)」

 

 

数巡後、樹、{4}切りでテンパイ。

{三四五①②44446667} ツモ{③}

 

 

樹「………」

 

東郷「(張ったわ…でも、ただそれだけのこと。この手、リーチをしないと役がないわ。このままでは安い…ここはもう少し手替わりを待って…)」

 

樹「カン」{■44■}

 

風「新ドラは…ややっ…!」

 

園子「え?」

 

 

新ドラ表示牌は{3}。つまり、カンした{4}4枚がそっくりドラに。

 

 

樹「ふふ…いいドラっスね…そのっちさん」

 

園子「(まだ流れはイッつんにあるみたいだね…)」

 

東郷「(さすがの樹ちゃん、古今無双のてんてこ舞いね…役なしのゴミ手が、あっという間にドラ4内臓の黄金手…!満貫確定!リーチしてツモれば跳満…この{5-7-8}の三面待ちなら、引けないはずがないわ)」

{三四五①②③6667} カン{■44■} ツモ{東} ドラ{4} {東}切りで{5-7-8}待ちテンパイ

 

樹「リーチ!{7}」

 

東郷「(えっ…?)」

 

 

樹、嶺上牌で引いてきた{東}単騎待ち。

{三四五①②③666東} カン{■44■}

 

 

東郷「(おっ、お馬鹿…!なぜ三面待ちを捨てるの?なぜ…三面待ちを蹴って、{東}単騎?しかも{東}はすでに場に2枚切れている、地獄待ち…!そのっちからの直撃を取るためなの?でも樹ちゃん、そのっちはそんな手に引っかかるような甘い打ち手ではないわ。三面待ちであっても地獄待ちの字牌単騎であっても、防御重視のそのっちは決して振り込まない。それなら、ツモれる可能性の高い三面待ちの方がいいはずなのに…それを…)」

 

夏凜「(と、東郷…{東}ってたしか…)」

 

東郷「(あっ、そういえば…この局の始め、風先輩が間違ってめくったドラ表示牌…それは{東}!そして{東}は捨て牌に2枚、さらにドラ表示牌の隣に1枚あるから合計3枚…つまり、この{東}待ちはカラ…!あがれる可能性は無し…!この土壇場でなんて過ち…!)」

 

樹「………」

 

東郷「(…いえ。あの樹ちゃんに限って、そんな過失をするわけがないわ。樹ちゃんのことだから、何か考えがあるはず…考えられるのは、次々の嶺上ツモがあの{東}ということ。誰かがカンをしたうえで、樹ちゃんが4枚目の{6}を引き当ててカン!嶺上開花でツモあがりという可能性。だけど、4枚目の{6}はすでに捨てられている…その芽はないわ。

残るは誰かがカンを2回して、あの嶺上牌にある{東}を打ってくるという可能性。そのっちはもちろんしてこないだろうけど、風先輩か友奈ちゃんが援護でカンをしてくるかも…でも、それも期待薄。なぜなら、カンをするには同じ牌を4枚集めないといけないし、それを2回もするということは…それだけ、そのっちの手にドラを乗せる危険性がある。樹ちゃんの待ちがわからない2人は、そんな危険をわざわざ冒しはしないでしょう。つまり絶無…あの{東}は、決して河には放たれない…!)」

 

園子「{南}」

 

東郷「(また現物…リーチ後のそのっちの捨て牌はすべて現物だわ。それはつまり、守りに入ったということ。仮に{5-7-8}の三面待ちでも、{東}単騎でも、そのっちからは出なかったでしょうね…樹ちゃんがリーチとなれば、あとは徹底的に降りるだけ。ただ逃げるだけの、楽な麻雀…)」

 

 

否!実は園子は苦しんでいた。

楽な麻雀だと感じるのは、すべてを知っている傍観者の発想。

園子にはドラ4が見えている。樹のリーチはただただ不気味。

 

 

園子「(張った…でもこの手、あがってもしょうがないよね。現物があるうちは現物っと…)」

{5558889四四六八中中} ツモ{七} {9}切りで{四中}待ちテンパイ。

 

 

数巡後

 

 

園子「(うっ…カン材(4枚)が2組も…悪い流れ…ベタオリしようってときに、こう牌が重なっちゃ苦しいよ~…カンをして嶺上牌に安牌を求めることもできるけど、もし危険牌を引いたら、ただイッつんにドラを乗せただけってことも…安牌かどうかの確認をしようにも、体力的にわかちゃんの霊体能力はもう使えないし………ん?んん…?待てよ~…)」

{55558889四四八中中} ツモ{8}

 

東郷「?」

 

園子「(とりあえず、これが最後の現物…残るはあと1巡。これで終わり…!)」

 

 

次巡、園子のツモ。

 

 

園子「(また危険牌…ふふ…でも私には、最後の最後に秘策がある…!ここだけの話、とっておきのウルトラCってやつだよ~!)」

{555588889四四中中} ツモ{3}

 

東郷「(そのっち…?)」

 

園子「カン~!」{■55■} 新ドラ{白}

 

東郷「(えっ…?カン?)」

 

園子「(嶺上ツモは…これもイッつんに通っていない牌…ならもういっちょ…)」

{388889四四中中} カン{■55■} ツモ{④}

 

東郷「(…え?)」

 

園子「カンカン~!」{■88■} 新ドラ{①}

 

東郷「(なっ!こ、これは一体…?)」

 

園子「(嶺上牌…!そう、欲しかったのはこの{東}…!これはこの局の始めに誤って見えた牌。このことはイッつんも覚えているはず。なら、場に2枚捨てられ、ヤマに眠っているこの{東}でイッつんが待つはずがない…!しかもカンを2回したことによって、イッつんのラストツモも消した…ツモはゆーゆで終わる…一石二鳥だっ…!)」

{39四四④中中} カン{■55■■88■} ツモ{東}

 

東郷「(そっ、その牌は…!まさか!)」

 

園子「{東}~」

 

夏凜「…お、おお…!」

 

東郷「(あり得ない…絶対に出ないと思われた{東}が…{東}が飛び出してきた…樹ちゃんは、これを察していたとでもいうの…?)」

 

樹「…ふふ…」

 

園子「?」

 

樹「タロットカードで例えるなら、そのっちさんは『愚者』のような人物…生半可なことでは、その天才から点棒はむしれない…つまり『理』ではダメ…『理』では動きを読まれてしまう。そんなトリックスターを捕まえるには、別の力を使うしかない」

 

東郷「別の力?」

 

樹「つまり、『偶然』という力です。これはそのっちさんだけに限らない。誰しも『偶然そうなる』ということに無防備…その旅人の足は、偶然によって止まる…!」

 

園子「イッつん…何を言って…」

 

樹「それだ…そのっちさん…ロン…!」

{三四五①②③666東} カン{■44■} ロン{東}

 

園子「…え?とっ…!{東}単騎~…!?」

 

友奈「す、すごい…!」

 

風「い、樹ぃー♪」

 

東郷「(吸い込まれた…!そのっちの徹底した守備…理が、樹ちゃんの偶然に…!)」

 

樹「ドラ、裏表合わせて7か…リーチを加えて、倍満16000点」

{三四五①②③666東} カン{■44■} ロン{東} ドラ{4①四五}

 

園子「ぐうっ…!」

 

東郷「(2つの偶然…誤って見えた{東}と、そのっちの2回のカン。樹ちゃんは{東}を待っていたというより、対子場による牌の偏り…その結果生じる、そのっちのカンを待っていた…つまり、偶然の機会を待っていた…)」

 

 

まさに、別領域からの刃…!

人は理で避けられても、偶然までは避けられない。

理に頼る人間は、理であることに無防備…必ず殺せる…

樹の手にかかれば、その人の心理や状態…すべてが映し出される…!まるで鏡のように…

なぜなら樹は、『心の痛みを判る人』だから…

 

 

樹の倍満直撃…!

これにより、樹は一気に園子に迫る…!園子63600点、樹51500点。

 

 

園子「ちょ、ちょっとトイレ…」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

LOCATION:女子トイレ

 

 

園子「………はぁ…」

 

若葉「大丈夫か?園子…だいぶ、詰め寄られたが…」

 

園子「え?うん…大丈夫だよ。あんなあがりは、一度だけ…次は私の親だし、そこでまた引き離せばいいんだよ。まぁ…流れはイッつんにあるようだけど…私はそのことよりも、イッつんの親…それがもう来ないことの方が大きいと思う…」

 

若葉「そうなのか?」

 

園子「私との点差は10000点ほどしかないけど、連荘を狙えないこと…それはイッつんにとって厳しいはずなんだよね。イッつんの親はもう終わったから、イッつんがあがれる回数はどう見積もっても残り2回。つまり安手であがるだけじゃ、点数的にも無理がある。どうしても高めの手作りと考えないといけないよね」

 

若葉「ああ」

 

園子「逆に私は、次の親で連荘して稼げるし~、仮に親が流れてオーラスのゆーゆになったとしても、点棒がイッつんを越えていれば安手で流して逃げ切れる。ふふ、短期決戦でこの差は大きいよ~」

 

若葉「そうか…園子がそう言うのなら、何も言うまい…」

 

園子「うん…信じて…」

 

若葉「(だが、私にはわかる。園子は無理をしている…2回も霊体能力を使ったのだ。相当疲労が溜まっているな…それゆえに、ますます理に頼ろうとしている…麻雀とは偶然や、不確定要素の大きいゲームだ。『絶対』なんて保証、ありはしない。

それでも園子は自分の理で、大赦の打ち手をこれまで何人も打ち破ってきた。つまり、ここに来て頼るのは己の理しかない。しかし犬吠埼樹という、理だけでは太刀打ちできない相手が出てきてしまった…だから園子は、あれほどまでに樹に追い詰められている…)」

 

園子「うっ」

 

若葉「園子!?」

 

園子「だ、大丈夫…ちょっと、めまいがしただけ…」

 

若葉「(…園子を倒してくれとは言ったが、ここまでしろとは言っていないぞ…樹…!)」

 

 

 

第十三話、完


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