「今度は三校側です、こっちはやや三校側が有利でしょうかね?」
「有利と言うより勝利だろう。」と前田。
「ですがバイタルを見ると吉田先輩は気を失ってはいませんよ。
もうあと三分あればモノリスを開けられたはずです。」と賢人。
「それも計算済みだろう。我が校の勝ちだ。」
「流石にそこまでは…、でもやけに強気ですね前田校長。」とMC。
「…去年の九校戦で万年最下位の四校が大健闘しただろう。
そのせいで今年のうちの受験生が例年に比べて少なかったんだよ。
逆に今年は四校が盛況さ、いい機会だからもっと宣伝させろー。」
「ぶっちゃけましたね校長。」とMC。
「宣伝できそうだから今回の事を許可したんだからこのくらいはな。」
「でもそれなら…、これは後でお聞きしましょう。
そろそろ解説の方をお願いします。
まずはディフェンス側の攻撃について。」とMC。
「そうです、吉祥寺選手はなぜあんな所に?」と賢人。
「あああれは硬化魔法だ、小通連をヒントにした物だな。
裏地が空の色のマントとモノリスの相対位置を固定する事で浮かんでいるんだ。
モノリスの真上にあの時レオ君が使った硬化魔法を強化するマントを浮かべて、それに腹這いになっているんだ。
術の性質上あまり高くは出来ないが長時間いられるのが特徴だな。
そして上空には風が有るのが普通だ、だから霧は吹き散らされてしまうから見通しが良い筈と見込んだ。
古式のあの技は術者の周りは霧が薄いから上から見ればどこにいるかは丸見えだからな。」
「小通連にそんな応用があったとは驚きですね。
やはりいい品です、一家に一台必要ですよね。」わざとらしく言うMC。
「それで攻撃できたんですね。でもあの攻撃は何ですか?
認識阻害も情報強化も効いていませんが?」と賢人。
「あれはインビジブルブリットだ。」
「インビジブルブリット!!、吉田先輩は視認できないのになぜ?術が発動できないのでは。」
「不正解だ、真紅郎は直接選手を狙っていない。
インビジブルブリットの狙いは下草、それを去年開発された散弾タイプで範囲攻撃にしている。
霧の薄い範囲は限られている、そこを無差別攻撃して、そこに居るはずの選手の足を狙ったんだ。」
「そんな事を…」
「一昨年の意趣返しだと言っていたな。
その様子ならリベンジ出来たようで良かったよ。」
「…では後半の高く飛んでいるのは何ですか、あの高さは流石に無理でしょう?
飛行魔法なら使用制限に引っかかるんじゃないでしょうか?」と語気を強める賢人。
「あれはちょっと違うな。そもそも飛行魔法の肝はタイムレコーダー機能と魔法の自動発動だろう。
あれはそれを使ってはいない、だから使用制限に当たらない。」
「えっ、どういう事ですか?」
「一校では飛行魔法を受けて、時間による魔法の停止を実習しているだろう。
それを将輝から聞いて真紅郎の奴は飛行魔法を専用のCADを使わず自前で行えるようになったんだ。
真紅郎の奴は自分の感覚で終了時間を図り、魔法をかけなおしているという訳だよ。
まあそう長くは続けられないが、あのくらいの時間なら風に吹かれても浮いていられる。」
「屁理屈の様な気がしますが。」
「だが使っている魔法は既存の物で、それを終了時に繰り返しているだけだぞ。
今の所真紅郎以外は上手く出来んがな。
それよりそっちの最後の雷撃魔法、あれは威力が規定違反じゃないのか?
あの距離到達するのはかなりの威力が必要なはずだが。」
「ああ、あれはループキャストで連続して魔法を発動して道を作っているんです。
稲妻が通った後は空気がイオン化して電気が通りやすくなります。
短い時間に連続する事で到達距離を伸ばしているんですよ。
上手く繋ぐことが出来れば到達距離は伸びます。
ですがあれほどの距離を出せるのは吉田先輩だからですよ。」と賢人。
「なるほど…物理法則を利用するか、よく考えたものだ。」
「先輩の教えです、魔法と言えど物理法則の影響を受けますから。」
「今や伝説となった彼ですね、これは次の戦いが楽しみになってきましたね。」
「ですが吉田先輩のアレをまともに受けてうごけたのはなぜでしょうか?
前回は一撃でダウンしたはずですが。」
「それは聞いているぞ、チェーンしていく関係上わずかに時間が掛かったらしい。
それで不十分ながら対策が打てたと言っていた。」
「お二方有難う御座います、次はいよいよセンターでの戦いです。
この後すぐ、そのままでお待ちください。」
開始のサイレンと共に将輝と達也は走り出した、そして互いの姿が見えたとたんに砲撃が始まる。
砲撃が始まると同時に立ち止まりゆっくりと歩み寄る、序盤は3年前とほぼ変わらない展開になった。
ただ将輝の同時攻撃数は若干増えているし、達也は銃口を魔法に向けていない(ドローレス)様だった。
前回同様、攻撃と迎撃を行いながらゆっくりと近づいて行く二人。
もう少しで前回達也が体術を使用する事になった距離、将輝は一気に畳みかけようと手首の汎用CADを操作しようとした。
その瞬間将輝が一瞬硬直する、そしてすぐに将輝のヘルメット内蔵カメラの画面がぶれる。
その時、達也が両手と手首のCAD3つを同時操作している。
達也のヘルメットについているカメラの画像に将輝が不自然に倒れこむ様子が映っている。
「何だ、魔法が壊れる……何!あご紐止めが、…不味いぞ。」声に合わせてカン…カンと断続的に音がする。
ここから展開がガラリと変わり今度は将輝がアクロバットな機動で回避行動を始める。
将輝も反撃を試みている様だがまた将輝のカメラ映像がブレ達也の攻撃が続いているようだ。
「くそう、なら、止められない、くっ、動け、動け…」
将輝が慌てて後退するが、単純な回避行動になった途端一瞬の硬直の後将輝のヘルメット内蔵カメラがぶれる。
たまらす将輝が反撃すると映像の不自然なブレが止まる。
だが将輝が回避行動中では同時攻撃数が足りないようだ、代わりに今回は達也自身はほとんど動いてはいない。
前回と正反対の展開になった。
将輝の左手はヘルメットを抑えている、その為今は右手の汎用ブレスレット型CADは使用してはいない。
将輝は偏倚解放を達也の前面に集中させて吹き飛ばし体勢を立て直す。
だが直ぐに達也は立ち直り汎用CADを使用する暇がない。
この時達也は強引に勝ちを取りに行くことは無かった。
そしてこのまま千日手となり遂に時間切れになったのだった。