防衛大学校の劣等生   作:諸々

79 / 97
00-77 ローゼンの闇

千葉家の一室、エリカとレオは鼻を突き合わせていた。

ローゼンの最悪の予測を否定する材料はいまだ見えない、と言うより反対の傍証が集まるばかりだった。

二人はあれからもう何回突き合せたか分からない。

ちゃぶ台に突っ伏したレオがうんざりした口調で言った。

「こんな所で話てても、無駄なんじゃねえか?」

「…」エリカはレオを無言で睨みつけた。

「結局堂々巡りだぜ。落ち目のローゼンが俺たちに災悪を引き寄せる。

だが俺らにはそれをはねのける力は無え。

そんな力を持ってそうなのは達也ぐらいなんだが、協力させる方法が無い。

深雪さんを使え、とおめえは言ったが四葉の次期当主をどうにかできんのか?」

「あんたは良いわよ、事が起こった時には痛みは一瞬だわ。

で後は貴重な人体実験の結果として、臓器のホルマリン漬けが研究所かなんかに飾られるだけでしょうけど。

でもローゼン一族の私は大衆に集団リンチの上火あぶりになるわね。

職を独占している魔法師を生み出した傾国の美女、大衆の怒りを受け止めさせるのには絶好の存在よ。

歴史の闇に消える絶世の美女、まさに現代のジャンヌダルクね。

似合っているかもしれないけど、私はごめんだわ。」

相続放棄の手続きをした事がエリカの存在を公にしてしまったのだった。

「…そのフレーズに色々突っ込みたいところだがそれは置いておくぜ。

実際のところ何か具体的な策はあるのか?

俺たちと深雪さんとのつながりは実際のところ達也だけだ。

つまるところ学校が同じってだけだ。

で達也はあきらめて他って考えるんだが、ケントや小春たちは普通に優秀な技師だ、起死回生の手にはならねえ。

これは達也とケント両方のテクを知っている幹比古に聞いたから間違いねえ。

このレベルを100人位集められるなら何とかなるかもしれねえが金がかかりすぎる。

今、ふっと思ったんだが、達也一人取り込んでもローゼンの中で上手くいくかな。

エリカ、前にCADを作った時大変だったって言ってたじゃねえか?

『若造には任せられねえ。』だっけか、あん時はスポンサー特権でごり押ししたんだっけか。」

「その辺はちゃんと考えているわよ。その辺はあのおっさんに何とかしてもらう予定よ。

運命共同体なんだからそのくらいは当然。」

「丸投げかよ。まあ確かにそれしか方法はねえか。

でも結局堂々巡りだぜ。もっと考える事は有るんじゃねえか?」

「具体的には?」

「……例えば卒業後の進路とか。」

「そう言うあんたは?」

「山岳救助隊にでも入ろうかと思ってるよ。」

「大学行くんじゃないの?」

「夢ではな、実力が圧倒的に足りねえ。

実習は2科生の中でも上位じゃねえ、座学はついにTOP20に入ることは出来なかった。

正直受かるのは奇跡だろうよ。」

「新設の制度を使えば?防衛大学校から編入制度よ。」

「金がかかりすぎる。編入時にそれまでの費用の2倍払う必要が有るんだぜ。」

「そっか、流石にそれはきついわね。」

「そう言うお前はどうなんだよ。」

「…深雪とおんなじ所、とか考えてた。」

「そいつは……、でも意外だったな。」

「何が?」

「達也と深雪さん、進路が別々だった事だよ。」

「何で、高校でも学校こそ一緒だけど進路としては別じゃない。

前に達也君に言われたけど学内では別々の事が多いって。

だから別に変じゃないと思うけど。」

「だけど今は家も別々じゃねえか?病弱な親戚の中学生の面倒を達也が見てるんだよな。

これで学校まで違うとなると全く会わねえって事になるぜ。」

「そう言われてみればそうね。」

「流石に中学生の前でイチャイチャ出来ないだろうからせめて学校でとか考えていたんだがな。

でも考えてみたらあの二人、婚約を発表した後の方がイチャイチャしてなかったかもしれねえな。」

「あんたねぇ…でもそう言えばそうね。

確かに何かあの二人に齟齬が出来たのかも知れないわね、…あっ」

「何だ!」

「だれかに深雪の話を聞こうと思ったんだけど意外に話を聞く人がいないなって思ったのよ。」

「話を聞く人がいない?人気は学校一なんじゃねえの。」

「崇拝者じゃなくって友達、親友って呼べる存在よ。

ほのかと雫はどちらかって言うと達也君寄りでしょ。

前に一条君が来た時、実習を深雪とやったって自慢してたじゃない。

それは言い換えると普段決まった人がいない、って事でしょ。」

「そういやそんな事もあったっけか。で、それがどうした?」

「あたしが深雪の親友になるのよ。今いないって言うのなら可能性はあるわ。

親友になって達也君をGetするのよ。あんたも手伝いなさいよね。」

 

数日後、ローゼン日本支社応接室にエリカたちの姿が有った。

エルンスト・ローゼン日本支社長が入ってきて言った。

「やあ、ひさしぶりだね。」

「ええ、そうね。」と素っ気ないエリカ。

「お互い暇じゃないだろうから単刀直入に行こうか。」

……

……

……

エルンストはエリカの話を聞いて深く頷いて言った。

「彼と本社との話はこちらでもすでに想定済みだよ。

当初の計画はこっちにデザインセンターを作って、そこをトーラスシルバーに任せようと思っていたんだ。

それが彼に替わるだけだ。

本国とはコンペの形で競わせれば良いだろう。」

「…それで良いわ、じゃあ・」

「ちょっと待ちたまえ、レオ君にプレゼントが有るんだ。

ぜひとも受け取ってくれるとありがたいね。」

その言葉に秘書が部屋の外に行った。

エリカはエルンストの意図を読もうとして彼から目を離さない。

一方レオは自身へのプレゼントという事で振り返リ思わず言った。

「な、なんだー……あの女どこかで見たような?」

エリカはあきれたかのように振り返り言いかけた。

「ずいぶん古臭いナンパねレオ、少しTPOを…」

エリカは見た、異国の女性を、そして言葉を詰まらせた。

その女は何も持っていなかった、そして手術時に着るような白い薄手のワンピースを着ていた。

だがエリカはその女を知っていた、ここにいるはずの無いその女を。

「何であんたがここにいるのよ。」

その言葉にレオがエリカの方を向く。

その言葉にエルンストが満足そうに言った。

「やっぱり君はあれの事を知ってたようだね。資料を見たのかな?」

「そうよ、ただし表紙だけね。

で、何であんたがここにいる。」戦闘態勢をりながらエリカが言った。

レオはエルンストが合図をするのを見たがそれが何なのか分からなかった。

衣擦れの音がしてレオは思わず女の方を見ようとした。

エリカは女の行動を見ていたが以外過ぎる行動でそれを止めることは出来なかった。

「なんだー、痛てえ、痛てえ、痛てえ、目が、目が、目が」とレオ。

女の行動は止められなかったが、目の前にいたレオは違った。

女は何をしたのか?それはワンピースをみんなの目の前で脱いだのだった。

手術着に見えたそれの中はエリカの予想した全裸ではなく水着であった。

ただエリカが誤解したのも当然だった、それは極小すなわちストリングスと言われる水着だったから。

それを目にしてエリカはレオの目から手をどけた。

「痛てえじゃねえか。……オウ!」

レオを無視してエリカがエルンストを見つめて、女を指さし言った。

「何のつもり!」

「言ったはずだよ、レオ君へのプレゼントさ。

煮るなり焼くなり好きにしてくれたまえ。

中々美しいだろう、もちろんレオ君がナニをしても構わないよ。

その結果出来ちゃってもこっちで処理するからその点でも安心して良いよ。」

ギョッとするレオ。

「デレデレしない!そいつは去年のあんたの相手よ。」

「えっ!」とのけ反るレオ。

エルンストを睨みつけるエリカ。

「見ての通り敵意はない、文字通り寸鉄帯びていないよ。」

「それ魔法師に意味あるの。」とエリカ。

「現代魔法師はCADが無いとロクに魔法が使えないんだし、通常戦闘力が上の君たちには意味が有るだろう。」

「レオ、どうする?」酷くそっけなくエリカが訊いた。

「ど、どちらかと言うと遠慮したいかなーなんて。」エリカの迫力に口調も変わったレオ。

「だ、そうだよ。残念だったね。」酷く冷酷にエルンストは言った。

「…覚悟はできています。」水着の女は言った。

それを聞いたエリカが言った。

「まちなさい、アンタこれまで彼女を人間扱いしてないわね。

あたしたちが受け取りを拒否したらどうするつもりよ。」

「あれはわが社の製品だ。

残念ながら君たちによって味噌を付けられたがね。

すなわち不良品という訳だ、我が社に莫大な損害を与えた、ね。

そして残念なことにこれを維持するのにも金が掛かる。

それでこのままでも使い道は無いかと考えて『レオ君』にプレゼントする事を思いついたんだ。

だがそれも無理だとすると処分するしかないね。」

「それは殺すという事か。」とレオ。

「何でレオなの?そんなに美人なら他に需要が有りそうじゃない。」と皮肉な表情でエリカが言った。

「確かに美人だが戦闘魔法師だよ、怖がってその手の需要は無いね。

魔法師に美人が多いけど作り物と言う認識はみんな持っているしね。

レオ君に渡すことは要するに保険だよ。

君たちが司波達也君を確保できないかもしれない。

そして司波達也君を得ても状況は改善されないかもしれない。

あれの次の世代、つまり第4世代に望みをつなぐ必要が有る。」

エリカは厳しい顔をして黙り込んでいる。レオは狼狽えて言った。

「どういう事だ?」

「要するにあんたを種馬にして新たな兵士を作ろうって話よ。」

「でどうするんだい?私としては君の話だけでは全然安心できないね。

エリカ君、君と司波深雪嬢との関係は我々の調査では知り合い程度だ。

君のお願いを聞いてくれるかは未知数だよね。

我々を動かすのなら、何か他に担保をくれないか?」

エリカはしばらく考え込んでいたが、やがて意を決して言った。

「分かった、彼女はあたしが預かる。」

「分かってくれたようだね、これからは彼女がこちらとの連絡を務めるよ。

吉報を待っているからね。」

こうしてエリカは後ろ盾を得て動き出した。

 




このあたりから旧作では語られなかった所だと思います。
ここからはこれまでの伏線の回収とSS的な話になります。
ここで語られたエリカたちが襲われた事件、原作では語られていませんが小さい事件なんでしょうか?
軍の基地内で未成年の民間人が襲われた、しかもそれは外国の魔法師だった。
原作で書かれていますが魔法師の出入国は規制されているはずなのに。
という事でこんな物語にしてみました、有りそうだと思っていただければ幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。