「博士、状況は我々の想定以上のペースで進行しています。
実行部隊から作戦変更の打診がありますが、いかがいたしましょうか。」
「話を聞こうじゃないか。」
……
…
「耐えられるのかね?」
「こちらでも計算しましたが安全マージンは取れそうだと報告を受けています。
ただあのシステムだけはブラックボックスですが、テスト結果からは耐えられるようです。」
「…では許可をお願いします。」
「了解しました。」
博士と呼ばれた男は余談なく送られてくるデータを注視している。
そして頭の片隅でこう考えていた。
『それにしても早い、いや早すぎると言って良いレベルですねこれは。
これは当たりかも知れませんね、良いデータが期待できそうです。
旧大戦のスクラップ一つで貴重なデータが取れると思うと心が躍りますね。
両者ともせいぜい頑張ったあがいてくださいね。』
「艦長、相手は予定通り中性子ビームで攻撃してきました。」
「で、ビームのデータはどうだ?」
「若干予測より性能が良いですね、ですが想定を超えてはいません。
何とか躱し続けることは出来そうですね。」
「…何発か躱したらわざと当たる。」
「何故ですか?」
「予定より相手の対応が早い、このままでは追い詰めることが出来そうにない。
のらりくらりと躱してじらした挙句に終盤でビーム攻撃を受けて無事なのを見せつけるんだ。
機関長、奴らはあと何発打てる?」
「発電機に残っている燃料を考えると8発程度かと。」
「なら6発目にしようか、いけるな?」
「それでしたらOKです。
ですが最終目的の攻撃、あの地形をも変えてしまうあの攻撃に関しては未知数ですがね。」
「あれは海中、つまり我々には直接攻撃できないのではないかと推測されている。
物質エネルギー変換には正確な照準が欠かせないと予想される、成層圏監視システムでも海中を正確に認識できないからな。」
「ですが海面で放たれても影響は免れないのでは?」
「だから俺一人で行くはずだったんだがな。
脱走兵扱いになっている息子の名誉回復が出来るのなら、大戦中に一度も戦闘に参加しなかった臆病者の命など不要だ。」
「なるほど、、私も参加していませんから丁度良い。
では後方にも連絡しておきます。」
新ソ連の計画では5年前の事件はこうなっていた。
・軍を脱走した一団が佐渡を占拠。
・沖縄で手いっぱいの日本は佐渡にまで手が回らない。
・新ソ連の軍隊が脱走兵の捕縛に出動する。
・脱走兵を捕縛の後に治安維持を名目に佐渡に居座る。
だが沖縄戦が早期に収束したことで作戦は崩壊、艦長の息子は見捨てられたのだった。
「4射目が終了、本艦の機能に問題はありません。」
……
…
「加速器起動確認しました。」
「…回避、その次はわざと当たるぞ、そのつもりでいろ。」
「了解しました。」
だが艦長の期待は裏切られることになった。
甲高い警報音が鳴り響く。
「なんだ?」
「外部中性子モニターの警報です。直撃を受けた模様。」抑揚のない声で返事が返ってきた。
「バカな、回避したはずではないか?」
「少々お待ちください、確かに本艦は回避に成功して射線からは外れています。
ですが直撃を受けたのは事実です。」
「……つくづく予想を裏切ってくる連中だな。
で、本艦に影響は?」
「ソーサリーブースターは正常に作動しました。
本艦への影響は軽微、ですが奴らの能力は明らかに想定を超えています!!」
「…仕方が無い、急速浮上の後入り口を塞ぐ、念の為バンカーバスターも準備しろ。」
「はっ」
その時再び警報が鳴り響いた。