防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-53 真由美とキョウコ

真由美はショックだった、響子が結婚するという事が。

七草家をある意味背負っている真由美にとって、独身を貫いている響子はある意味憧れだったのだ。

勿論まゆみは事情を知っている、だけど伝統ある藤林家の一人っ娘の彼女が結婚しない選択をした事を憧れをもって見ていたのだ。

摩利に次いで二人目、流石の真由美も心に来るものがあったのだ。

 

市原鈴音はため息をつきたい気分だった。

大学のカフェ、今の時間は他に客はいない。

(大学は8,9月と2,3月が休み、但しこの期間も講義はある。)

真由美から連絡があった時、何か進展があったと期待していたが蓋を開けてみると愚痴だった。

これはもうショック療法しかない、と思った。

考えるそぶりで自然に鈴音は真由美から視線を外した。

交渉では初めに高い要求をしてそのあと少し下げるのが基本。

流石の鈴音もこんな官能小説の様な方法を真由美の目を見て言うのは恥ずかしかったのだ。

「そうですね、ここは真由美さんのお得意の方法で行きましょう。」

「そんな方法があるの!」真由美の声が大きくなる。

「ええ、これまで数多の殿方を虜にしてきた方法が。

それは真由美さんの魔力を生かすんです。

今隣に住んでいるんですよね、だったら夜に食事にでも誘い適当に理由を付けて酔っぱらってしまえば良いんですよ。

既成事実を作ってしまえばあとはどうにでもなりますよ。」真由美から目をそらしたまま鈴音は言い切った。

鈴音は真由美が顔を真っ赤にしていると想像して内心ほくそ笑んでいた。

鈴音は真由美がギブアップして来るのを想定して声が掛かるのを待っていた。

だがいつまでたっても声が掛からない、不思議に思って真由美を見るとテーブルに突っ伏していた。

「真由美さん!!!」鈴音は慌てて声をかけた。

「…何?」力なく真由美が言った。

「どうしたんですか真由美さん、もしかして方」心配そうに言う鈴音をさえぎって真由美が言った。

「…った。」

「え、何ですか?」

「それはもうやったって言ったのよ。」けだるげに言う真由美。

鈴音はその言葉に少しの間固まった。

「どういう事ですか?もっと詳しく!」そして声をやや荒らげて言った。

「どういう事も何もその通りよ。

去年達也君を食事に誘ってお酒を飲み気が付いたらホテルのベットで下着姿で寝ていたわ。」

「……で、」鈴音はこう言うのがやっとだった。

「???ああ達也君には何もされていないわよ。

でも次の朝にその時着ていた服は綺麗に畳んであったわ、私の畳み方じゃ無かったけど。

だからこそ余計に腹が立つんだけどね。」

これを聞いて漸く鈴音は冷静になった、そして冷静になってこう思った。

『ここまでやっておいて未だ分からないと言うんですか真由美さん、まさに魔女、魔性の女ですね。』

それと同時にこれからどうすべきか考えた。

真由美さんの魔顔が司波君には効かない、どうすれば良いかを考えながら真由美の愚痴を聞き続けた。

 

響子いやキョウコは今日も驚きの連続だった。

クライアントの思い人が達也君、そしてその恋敵が七草真由美さんだったとは魔法師業界は狭いと感じた。

こんなカオスな場所に放り込むなんて相変わらず性格が悪い、と真田の顔を思い浮かべながら思った。

(誰のそんな命令を与えていないが、)キョウコは戦略級魔法師大黒龍也の監視を任務に含めた。

それはある意味キョウコの逃避だったのかも知れないが。

とりあえずキョウコは早速メイドとして働き始めた、軍からも派遣会社からもそう命令されているのだから。

だが直接に家事をやる訳では無くHAL任せ、美輪のサポートが(+警護)が主だ。

だが特に狙われている訳でもない、ぶっちゃけると今は美輪の話し相手でしかないのだ。

美輪と話して分かった事は(外見)年齢相当の夢見る女の子。

白馬に乗った王子様(達也)がさっそうと現れ自分を救った、そして熱烈に恋に落ちる、まるでおとぎ話のお姫様だ。

だが達也に釘を刺された様に魔法力を失い、月二回の施術が必須、美輪が達也に依存してしまうのは仕方が無い。

ここでキョウコは顔を赤らめる、もちろん達也の裸を思い出してだ。

全裸で抱き合う達也と美輪、そして美輪の替わりに自分が抱き合っているところを想像して更に顔を赤くする。

「もう真田少佐はろくな事をしないんだから。」とつぶやいて頭を振り妄想を吹き飛ばすキョウコ。

そう言いながらキョウコは美輪を思う微かな胸の痛みは、純粋な彼女への嫉妬なのかもしれない。

そんなキョウコに課せられた軍のミッションは、美輪の恋のサポートで幸せな妊娠なのだ。

そんな訳で翌日、美輪と達也と三人でキョウコはショッピングに出かけた。

美輪が達也とペアの雑貨や達也に選んでもらった服を要望したからだ。

先ずは美輪が行きつけだと言う高級そうな食器店をまわった。

洋食器の事はあまり詳しくないキョウコ、二人はそれなりの時間をかけてセット物の食器を数点購入していた。

出番のなかったキョウコだが店員から『若いですね』とたびたび声をかけられまんざらでもない気分だった。

 




『令和』記念で連続投稿を予定しています、お楽しみに。

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