防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-45 USNA(2)

リーナはこの春ボストンの魔法科高校に入学していた。

軍からの命令で魔法科高校卒業に不足する単位を取得するためと説明されての事だ。

そしてこの夏無事に卒業認定が出た。

ボストンでの生活はリーナにとっては退屈な物だった、深雪の様にわくわくさせる人はいなかったから。

(ボストン校はこの国の最高の高校だが、本当に実力がある人材はリーナの様に青田買いよろしく既に囲い込まれている。

だから高校へ通うのは秀才程度、一校だと服部や光井ほのか程度の人しかいない。)

それに短期集中コースの為に授業ごとにクラスが異なるのは当たり前、また補習クラスに入る事もあった。

その為まともに友達と言える存在は無く、また学校の外は人間主義者のデモ、ある意味収容所暮らしにも等しかった。

おまけに何故か認定に時間が掛かり、たった一人の卒業、刑期を終える感覚で魔法科高校を卒業した。

 

バージニア・バランス大佐は忸怩たる思いでその会議に出席していた。

監査員たる彼女の下にはいち早く資料が届いていた、そしてその結論を支持せざる負えない事も理解していた。

対照的に太平洋方面艦隊司令は余裕の表情をしている。

メンバーが集合し議長が開会を宣言した。

「では結果について報告を。」

「はい、マイクロブラックホール実験に端を発した脱走兵の」

「ちょっと待ってください、その件はテロリストがそう主張しているだけで根拠はありません。

それとも具体的な証拠が発見されたのですかな?」白衣の男がイライラしながらかみついた。

「失礼しました、MBH実験と同時期に起きた軍の集団脱走兵の処理に当たったシリウス少佐についてご報告します。

この集団脱走には複数の奇妙な共通点がありました。

まず第一に魔法戦闘力の異常な上昇が挙げられます、どの程度かは個体差が有りますが階級を超えているのは間違いありません。

今までの常識を超えプラネット級でも一等星級と渡り合う場合も、これが一等星たるシリウス少佐が派遣された理由でもあります。

第二に言動が今までとガラリと変わり、まるで別人の様になってしまうようです。

但し記憶などは失われておらず、今までと同じようにふるまう事が可能なので注意が必要です。

事実派遣した討伐部隊にも紛れ込んでいました、敵対しサイオンパターンを照合するまで気づかれる事は有りませんでした。

そして最後にこれらは伝搬するようです、ちょうど麻疹の様に周囲に感染すると言った方がイメージしやすいでしょう。

同じように周囲全てに感染する訳では有りませんが、確実に感染に似た現象は起きています。」

「その辺はすでに承知している、肝心の少佐の状況について説明を。」

「失礼しました、少佐はかの国において対象者ミカエラ・ホンゴウと濃厚接触の状態にありました、それも長期にわたって。

現在の所少佐の言動をはじめ各種心理チェックの結果には異常は認められておりません。

ですが少佐の魔法力は当該時期に限り有意な上昇が確認されています。

これは同じく濃厚接触したシルビア准尉には見られない現象ですね。」

「明らかに少佐がおかしい訳だが、考えられる原因は何かね。」

「はい一つは潜伏しているケースです、先ほど麻疹に例えましたが潜伏期間と例えれば分かり易いでしょうか。」

「だがあれから一年以上経過しているぞ、流石に長くないか?」

「インフルエンザなどなら長いですが、例えば帯状疱疹などは潜伏期間は数十年に及びます。

相手は未知の現象です、一概に長いとは言えないかと。」

帯状疱疹と聞いて顔をしかめる出席者がかなりいる、それなりに痛い目に会っている様だ。

「もう一つは環境の変化です、少佐はかの国の魔法科高校に二か月ほど通っていました。

こちらでは少佐は通ってはいませんでしたから、俗に言う水が合った事が考えられます。」

「それで学校に通わせたわけだろう、その結果は?」少しイライラした様子で艦隊司令が言った。

「半年通わせてみましたが有意な結果は得られませんでした。」

艦隊司令は満足そうに何度も頷く、ここでバージニアが口を開く。

「学校が違います、カリキュラムに問題があるのでは?」

「かの国で少佐が通っていた高校は国際規格準拠の国立校です、わが国で近いボストン校を選びました。

なおかつ日数も倍以上掛けました、その点に関しては問題ないと思っています。」

「往生際が悪いぞ、シリウスは汚染された可能性が極めて高い事はもう決まりだ、今は何とも無くとも将来禍根を残す。

議長、国務省からの要求に対する我々の案を提示したい。」

「許可します。」

「かねてよりの話の通り、かの国との同盟強化にシリウスを差し出す。

具体的には奴の活動範囲にかの国を加える、もちろんシリウスはそちらに常駐だ。

もしスターズが奴を必要とするなら我々が30分以内に送り届けてやろう、ただしそちらの金でな。

一次指揮権はかの国に渡す、今回の不祥事に対する我が国の譲歩だ、これで初動が遅いという文句も出ない。

これにはシリウスが狂った場合に備えるという意味も有る、我々に累が及ばないためだな。

指揮権を渡しておけば奴がかの国で何をしでかそうとも知らぬ存ぜぬだ。

勿論我が軍に対する攻撃は拒否させてもらう、可能性も含めてな。

必要なら大使館の連中に優先交渉権を与えておけばいい、お得意の交渉とやらで指揮権を採り返してもらえば良い。

かの国の戦略級魔法師に問題があるようだし丁度良い筈だ。」

出席者の中でただ一人バランス大佐だけが手を挙げた。

「大佐、発言を許可します。」

「議長、発言の許可ありがとうございます。

軍機に触れていない彼女にこの仕打ちは問題があると思います。」

「これは異なことをおっしゃる監察官殿。

彼女の軍における立場はいささかの変化も無い、守備範囲が若干広がるだけだ、それも面積を考えれば誤差に過ぎない。

(USNAはカナダとアメリカ、メキシコを合わせた国家、陸地面積では比べるまでもない。)

それに今回の不祥事たる不審船の不当な撃沈はスターズの責任だ、隊長が少し苦労するのを問題にする必要は無いでしょう。

そして作戦自体は同盟国との共同戦線を張るものだ、不名誉な点などどこにも無いと思われますが。」

バランス大佐」は手を挙げたまま苦渋の表情をする。

「それともスターズには奴がこれ以上の力をつけ暴れた場合に排除する事が可能なんでしょうか?

人間主義者の蔓延るわが国でもし奴が暴走し被害が出たらスターズはどう責任を取るつもりなのかお聞きしたいものですな。」

この言葉に流石のバランス大佐元を下ろさざるを得なかった。

スターズ基地司令のウオーカー大佐は異を唱えなかった、事前に話は通っていたのだろう。

「他に意見はありませんか?

では艦隊司令の案の決を採ります。

反対の方は起立を。」

艦隊司令の発言にバランス大佐は反対できなかった、監察官の立場では軍規に触れない限り反対する事は難しい。

 


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