防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-36 一条将輝

九校戦の帰り、将輝はぼんやりと窓の外を眺めていた。

チームメイトは(真紅郎を含め)誰一人声をかけることが出来なかった。

将輝のここ半年の奮闘ぶりはみんな知っている。

今度こそ九校戦に優勝して彼女に告白するつもりだったのに。

予想外の事態、万年最下位の四校が今年は全く違った。

黒羽姉弟を筆頭に驚異の頭脳戦で上位入賞、悔しい事にこちらと作戦は一緒だった。

司波達也を警戒して奴の関係する競技以外で点数を稼ぐ、こちらと共食いになり優勝を逃してしまった。

……

 

師族会議の日の京都本部、一条剛毅が将輝を連れて十氏族専用控室に駆け込んできた。

「二木殿、遅くなりました。」

「急なことでしたから仕方がありません、近いと言っても金沢からは距離がありますから。」

「それで四葉の話しは。」データカードを差し出しながら二木は言った。

「残念ながらもう終わってしまいましたが中々興味深い内容でした。

そちらにも関係が有るお話でしたから、但し内容については極秘扱いでお願いします。

私はこれから準備がありますからこの辺で。」

カードの内容を確認した後、剛毅が言った。

「良かったな将輝、まだチャンスは有るみたいだぞ。」と言い残して師族会議に向かった。

将輝はしばらく考え込んでいたが、おもむろに電話をかけた。

「もしもしジョ-ジ、俺た。」

「将輝かい」少し落ち込んだ様子で答えた、九校戦で将輝を勝たせてやれなかった事を引きずっている様だ。

「今日これから時間は有るか?」

「有るけど。」

「今すぐ京都の協会本部に来てくれ、受付で案内してくれるように頼んでおくから。」

「わかったすぐ行く」本部と聞いてあわてた声で言った。

九校戦のショックが抜けていないなと思いながら、待っている間将輝はずっと考えていた。

「ジョージよく来てくれた、まずはこれを。」二木から受け取ったデータを再生した。

それを聞いた吉祥寺はしばらく考え込んでいたが、顔を上げて行った。

「将輝、何が聞きたいんだい。」

返事を待たずに語りだした。

「将輝、今のままじゃ深雪さんの事は勝ち目が薄い、いやはっきり無いと言った方がいいんだろうね。」

その言葉に将輝は黙りこんだ。

その時会議を終えた剛毅が入ってきた。

「将輝待たせたな。おや真紅朗君も来ていたのか。」

だがこの後あわてて言葉を足した。

「真紅朗君はうちの家族みたいなものだ、一緒に帰ろうか。」

後ろにいた二木が剣を含んだ声で言った。

「くれぐれも内密に。」その為か帰り道は、誰も何もしゃべらなかった。

 

一条家に帰り、剛毅の部屋に集まった。

そこで真紅朗が口火を切った。

「将輝…」将輝が真紅朗の言葉をさえぎっていった。

「ジョージの言いたいことは判っている。

実際今度の九校戦、三校が総合優勝したらアプローチしようと思っていたがあのざまだ。

だがどうしてもあきらめきれないんだ。」

将輝の顔は苦渋に満ちていた。

「将輝良く言った、それでこそ俺の息子だぞ。

そんなお前に朗報だ。」剛毅が大声で言った。

将輝に師族会議の結果を話して聞かせた。

「親父……」将輝は感激して言った。

「彼女にアプローチするなら『必ず必ず』ものにして。」真紅朗が真剣な表情で言った。

「ジョージどうした。」剣幕に狼狽えながら将輝は言った。

「僕は初め、将輝に諦めてもらおうと思っていたんだ。」

「…さっきもそうだったが何故だ?」

「諦めてもらって、四葉との関係を修復してもらう様に剛毅さんに頼もうと思っていたんだ。」

「?それに何の関係が有るんだ?」

「さっきあの四葉の会談を聞いたからですよ。

僕らが一年生の時の大事件、あれは『十氏族の娘』七草真由美さんが狙われていました。」十氏族の娘を強調して言った。

「つまり第一位の四葉に次いで第二位の七草が狙われました。

順当にいけば第三位の十文字なんでしょうが将輝、きみの『クリムゾンプリンス』の名を考えると

次の一条家、つまり茜ちゃんや瑠璃ちゃんが狙われる可能性はけして小さく『ない』。」

「だがジョージ、あの話は本当なのか?。

たった一人を攫うには大げさすぎる気がするんだが。」

「それは奴らの最終目的が攫うではないからだよ。

発端が何だったか覚えているかい、実力ではなく盗んだという主張を覆すためだったよね。

つまり旧大漢より力のあることを『示す』必要があるんだ。」示すを強調して言った。

「攫うだけなら旧大漢はより上位の娘を攫っているよ、それに攫うだけでは示すことは出来ない。

もし下手に誘拐した事を示したら国際魔法協会の懲罰動議の対象になりかねない。

だから攫うだけではなく従わせることが必要だ、彼女自ら日本の魔法教育に絶望し亡命したんだと。

そして洗脳された疑いをなくすためなるべく早くね。

だからわざわざ手間をかけて彼女の心を公の場で心を折り、トラウマになった原因の少女を人質にして従わせようとしたんだと思う。」

剛毅も将輝も言葉を失った。

その正気に反応を見て真紅朗が続けた。

「それに茜ちゃんたちを狙っているのはこの国にいる人間主義者もだよ。

2月のテロの時には七草家の下の娘が狙われたんだよね。

それに将輝、二月の件で四葉の諜報能力の凄さを、目の当たりにしたっていったよね。」

「そうだ、彼女が襲われた時も奴が助けに来たんだ。

その時俺は暢気に調査に出かけていたのにな。」苦々しい思いを込めて将輝が言った。

「剛毅さん、二月の師族会議でテロの件の第一報は四葉からだったんですよね。」ここで真紅郎が突然話題を変えた。

「そうだが。」

「それは、テロが起きそうだと言ったあやふやな物だったんですか?」

「いや今にして思えば具体的だった、その証拠に七草からの報告は翌日には来た。」考え込みながら剛毅は言った。

「なら四葉は少し前からそのことを知っていた、なのに師族会議まで報告しなかったのは。」

「それは七草と四葉が仲が悪…」将輝が答えを言いかけてハッとなった。

「そう四葉と揉めていたから、四葉と対峙するという事はそう言う事を覚悟しなければならない。

だから将輝、生半可な気持ちで彼女にアプローチするなら諦めてくれ。

だがもしそうでないなら、それにふさわしい覚悟が有るなら僕は全力で君を応援するよ。」

「親父…」

「言いたいことは真紅郎君にみんな言われてしまったな、将輝後はお前次第だ。」

「わかった考えてみる、」そう言って自室に戻った。

夕食を食べた後もベットに寝ころがりながら、ずっと考えていた。

何時間も経ったころ、ふと日記について思い出した。

ページを捲るとあの時の思い出が鮮やかによみがえってきた。

「よし決めた」そう言って将輝は布団をかぶった。

 




イケメンは少し苦労すべきでしょう。
あんな優柔不断な態度で理想の彼女をGET出来ると思っているのが、真のリア充なんでしょうが。
これで少しは非モテの分かるんでしょうか?

真夜があの話を協会でしたのは克人に聞かせるためでした。
『次は貴男の番、四葉と組みますか?』と問いかけていたんですね。
ですが克人は中立を選びました。
流石十文字克人、何ともないぜ

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