真夜は深雪に考える時間を与えるつもりのようだ、しばらく無言の時間が過ぎる。
やがて真夜は静かに語りだした。
「深雪さん、私は貴女に期待していました。
ですから貴女の秘かな望みを叶えるべく策を弄し、貴女を信じて実行を任せました。
そして真由美嬢に目を付けられる失敗をしても、それを修正しようと努力し一年遅れでしたが婚約にこぎつけました。
ですが達也さんの能力は知られれば手に入れようせざる負えないもの。
それは深雪さんが一番よく分かっていたのではないですか?」
真由美の話が出た所で微かに身をふるわせる深雪、それを見て真夜が続ける。
「どうすれば良かったのかしらね、深雪さん。
高校生になったとしても厳しく注意すれば良かったのかしら?」
真夜は深雪をじっと見つめた、深雪は何も答えられない。
「このまま真由美さんに持って行かれてしまうのかしらね。」
「いいえ!」立ち上がって否定する深雪。
「ですがこのままではそうなってしまいかねませんよ。
深雪さんは私たちの言う事を聞いて下さらないんですから。」
この言葉に深雪は力なく腰を下ろして言った。
「達也さんを目立たせてしまったことはお詫びします。」
「本当に私の言葉を聞いていないのね。」
「四葉の皆さんにお披露目した後、『仲良くしなさいね。』と言ったことを忘れましたか?」
「???」
「深雪さん、会議でも話題になりましたが、婚約して半年がたちました。
同棲している状態で仲が深まらないのは、仲を疑われても仕方がないわね。
特に達也さんは年頃の男の子ですから。
今回も極端に言えば、そう言う関係になってしまいました、と言えば余計な口出しは出来なかったでしょうね。
達也さんなら、貴女が強く望めば拒まなかったでしょう。
そう言う事が嫌だったのかしら?」
「いいえ」深雪は首を激しく振った。
ここで二日前の師族会議に戻す。
七草弘一に追い詰められた真夜は事前の葉山との会話を思い出していた。
「奥様、此度の会議の決定は慎重になさることをお勧めします。」
「どこが主体なのか分かったのかしら?」
「いえそれが故にかなり上がかかわっている事が推測されます。
七草、九島の関係を洗いましたが此度の件にはかかわってはおらぬようです。」
「そう…なら協会側からアプローチする必要があるかもしれませんね。
ですがこちらの調査にかからないという事は最悪国と事を構えなければならない。
そう言う訳ですか。」
「はい、よほどひどい要求でなければ受け入れざる負えないかと。」
「あの方たちは配慮する必要は感じないけどさすがに国はそうはいきませんね。」
……
「そこまでおっしゃるのなら七草殿の要求を認めましょう。」と真夜。
「四葉殿、まだ私の話は終わっておりませんよ。
これまでの話でご理解いただけたと思いますが、司波兄妹の婚姻には疑義があります。
戦中に行われた意識誘導による婚姻の可能性が高いと私は思います。」
「流石に言いすぎでしょう、あの二人は愛し合っているのは明らかな事ですから。」と声を荒らげて真夜が言った。
「半年しても男女の関係ではなくてですか、同衾しているに等しい状態なのにですか?」
「それは…学校との話し合いで決めた事ですから。」
「愛情もその程度だってという事でしょう、ここで私から提案です。
洗脳状態の二人を引き離し、他の婚約者とのみお付き合いをする機会を作るべきだと思います。」
「それは願っても無い事ですが、期間はどのくらいですかな?」と一条剛毅。
「生まれてからこれまで影響下にあった訳ですからその影響を除くには十年単位が必要かもしれません。」
「彼等はもう18歳、流石にそれは非現実的だ。」六塚温子が言った。
「では完全に引き離す必要が有るでしょう、その上で五年以上ですかね。」
一条、三矢、五輪がそれぞれ頷く。
「この辺が現実的だと思いますね、ここで一度決を採りましょう。
七草殿の提案に賛成の方は挙手を。」と議長役の二木。
一条、三矢、五輪、七草、八代が挙手した。
「十文字はこの件には関与しない。」と克人は棄権を選択した。
「賛成5、反対3、棄権1ですか、ちなみに私は賛成です。
いかがしますか四葉殿。」
「…
次の師族会議まで、それが譲歩できるギリギリです。
但し深雪さんとの婚約は解消しません。
それと別居のコストは協会側で負担してください。」と真夜が言った。
「そう言う事なら私も出そう。」と五輪。
一条、七草も賛同する。
「では詳細は後程協議しましょう。」と二木。
真夜は優雅に微笑んでいるが深雪は苦渋の表情だ。
「深雪さん、未だあきらめる事はありませんよ。
あなたは私の息子の婚約者、その事実は変わりありません。
これからの努力に期待しますよ深雪さん。」