防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-20 九校戦の陰で(3)

あの後何回か五輪勇海は四葉真夜と会う機会があったが、結局達也の話は出来ずじまいだった。

少々落ち込みながらあの男を連れて会場を歩いていると、ばったりと七草弘一に会った。

「これは勇海さん、こんな所で珍しい。」と弘一。

「…はっ、弘一さん」考え込んでいたため対応が遅れる勇海。

「勇海さんが九校戦に興味があったとは知りませんでしたよ。

事前に知っていればご一緒できたのですが。」

「いえ、今回はたまたまです。

…そうだ弘一さん、真由美さんを寄こしていただいてありがとうございます。

お蔭で澪も大変喜んでおりましたよ。」

「それは良かった、今ここに真由美も来ていますよ。

本人にも言ってあげてください、きっと喜ぶと思いますから。」

「真由美さんもここに…」

「ええ婚約者の司波達也君の応援ですね。」

「??達也殿の婚約者は司波深雪嬢ではなかったでしょうか?」

「正しくは深雪さんも、ですね。

前回の師族会議で一条殿があの兄妹の婚姻に疑義を唱えられ、息子の将輝君の深雪さんとのお付き合いを要請されました。

そして将輝君のお付き合いが認められました、親に認められたつまり婚約と言って良いでしょう。

そして我が娘の真由美もお付き合いを要請しました。」

「そう言えばそんな事もありましたね、ですが弘一さんあなたの要請は四葉殿は認めましたか?」

「確かにはっきり認めた訳では有りません、ですが明確に拒否されたわけでもありませんよ。

一条殿は認められて私は認めない、それは酷いとは思いませんか。」

「だがあの時は・」

「失礼します、今の話を詳しくお願いできますか?」軍の男が話に割り込んだ。

「貴男は?」

「失礼しました、私は五輪澪の副官を務めさせております。」と名刺を差し出しながら言った。

「真由美様には澪が大変お世話になりました。

所で真由美様と司波達也君は婚約しておられるんですか?」

「ええ、ただ中途半端ではありますが。」

「失礼ですが達也君と結婚された場合彼をどうされるおつもりですか?」

「どうするとは?」

「いえ、四葉はどうも閉鎖的ですからこのままでは彼は埋もれてしまうのではないかと危惧しています。

この九校戦でも活躍した彼の素晴らしい才能を埋もれさせるのはいかにも惜しいと思っております。

七草様が彼を開放されると言うのなら我々も応援したいと思いまして。」

「そういう事でしたか、確かに今大会でもダントツの成果を出していますからね。

ええ、うちは元々『四葉と違い』広くお付き合いをする方針です、我が家に来た暁には囲い込む事は考えておりません。

彼にも我が家の方針に従っていただくつもりですよ。」

「だが今のままでは四葉殿を了承させるのは難しいのではないですか?」と勇海が口を挟む。

「そうですね、真由美には頑張ってもらわないと。」

「度々失礼します、今のままでは真由美さんがかわいそうです、何とか正式に認められる方法はありませんか?」

「それにはまず師族会議を開かないといけませんが、現状それは非常に難しいですね。」

「ですがもし会議が開かれても、今のままなら拒否される可能性が高いですよ。」と勇海。

「師族会議の方はこちらで何とかいたしましょう、七草殿には四葉殿にうんと言わせる方法を考えていただきたい。」

弘一に何かをちらっと見せて副官の男は言った。

弘一はそれを見てハッとして言った。

「分かりましたそちらはお任せ下さい、準備が出来ましたらお知らせいたします。」丁寧に弘一は言った。

「では名刺の所へお願いします。」と言って三人は別れた。

 

割り当てられた部屋にフラフラと入って来たほのかは力なくベッドに身を投げた。

高校最後の九校戦の後夜祭、チャンスだったはずなのに全く生かせなかった。

深雪は一校生徒会長として達也さんと中々一緒に居られないはず。

そう雫に言われ、張り切って臨んだが結果は散々だった。

前半、一般(企業など)との懇親会、名だたる起業家が達也さんに群がってきた。

雫は達也さんの隣に居て目線で呼んでいたが、気後れしてどうしても傍に寄れなかった。

後半、学生のみの場だが四校の彼女(ミラージ・バットのライバル)が皆を引き連れて押しかけた。

結構な時間CAD調整や戦略で盛り上がった。

その後各校のエンジニアが次々押しかけて技術的話題で盛り上がっていた。

専門用語の連発、流石に話題には付いて行けずその内話の輪からは外れてしまった。

あれよあれよという間にラストダンス、さすがに婚約者の深雪を差し置いては出来なかった。

非常に絵になる二人を見ていられず外へ、どこをどう歩いたかわからないが気が付くと部屋に居た。

折角、雫が七草姉妹をダシに何故か二人の関係が進展していない事の裏を取ったのに。

この後には受験が控えている。表立っての機会はしばらく訪れないだろう。

ぼんやりとそんなことを考えていた。

 

北山雫は思わずため息を吐いた。ほのかが見つからない。

目を離した隙に居なくなり、慌ててまず部屋を見に行ったがそこにはいなかった。

ラストダンス、深雪と達也さんを見てほのかはどん底に落ち込んでいるんだろう。

確かに絵になる二人、特に深雪はそれまで一緒に居られなかった事を取り戻すかの様に踊っていた。

高校生活最後の九高戦の懇親会、深雪は総合優勝した生徒会長として殆ど達也と一緒にいられなかった。

だから今回は最大のチャンスのはずだったが、ほのかは結局近づく事さえできなかった。

前半は達也さんは国内企業人達に囲まれていた。

隣に居た北山雫には配慮してもらえたが、ほのかは一顧だにされなかった。

後半は最初は四高生、次に二高生という具合に次々と来て、厚く囲まれ近づけなかった。

(二校とは古式魔法のCADプログラムに関しての話題で盛り上がっていた)

折角七草の双子をうまく使って達也さんと深雪の関係を聞き出したのに。

もう一度雫はため息をついた。

ほのかはヤル気は有る。だがそれだけだ。

今回の九高戦で達也さんは偉業を成し遂げた。

魔法に関するあらゆる人達が彼に関心を持っている。

それに対して、その隣に立つにはほのかはあまりに平凡すぎる。

仮に彼が四葉を抜けて軍に進んだとしても、エンジニアに進んだとしてもこのままでは足を引っ張るだけだろう。

いっその事深雪との仲が深まっていれば諦めもついたかも知れないと思えるほどだった。

もう限界かも知れない。恨まれる結果になっても諦めさせるべきなのかもと雫は考えていた。

 

後夜祭も終わり、雫のたっての希望でロビーの一角で待機している。

企業の重役たちや他校生にもみくちゃにされ、さすがの達也もいささか疲労を感じていた。

深雪は優勝した生徒会長の仕事で離れている。

だが雫はなかなか現れない、そこへ声がかかった。

「司波君」久しぶりに聞く声だ。

「小早川先輩お久しぶりです。」

小早川は30代後半に見える男性を伴っていた。

ただし関係は不明だ。顔は似ていないので親戚ではなさそうだが。

「久しぶりだね。三年間九校戦で事実上負け無し、エンジニアとしては初めてだよね。」

「今年も選手に恵まれましたから。処でそちらの方は?」

「そうだった、防衛大学校の教官だ。今日は彼を紹介する為に来たんだった。」

「はじめまして、防衛大学校で戦史戦略の教官をしています…」

「ヤン教授よ。」話を断ち切って小早川が言った。

「ヤン?失礼ですが外国の方ですか。」

男は苦笑して言った。

「あだ名ですよ。なんでも100年前の小説の主人公に似ているらしいんですよ。

私としてはそんな英雄のつもりは無いんですがね。」

「でも教官、学校では本名で聞いても誰も判りませんでしたよ。

それで初めてお訪ねした時は探し出すのに苦労しましたし。」

「…こほん、先ほどお話しした通り戦略を研究しています。

現在は時流に合わせて魔法を使用した物に関心が有ります。

ですから九校戦で示した君の戦略に興味が有り、彼女に無理を言って紹介してもらう事にしたんですよ。」

「そう、だから司波君を探していたんだ、懇親会では近づけなかったからね。

それでスバル君に聞いたらここに居たって言うんで慌てて来たんだよ。」

「そういう訳でしてね、早速ですが今回のモノリス戦について…」

その後3人でこれまでの戦略について盛り上がった。

別れ際、男は名刺を差し出し言った。

「今日は楽しかったです。今度はぜひ君と一緒に研究したい物ですね。」

「そうだな、その時はぜひ私も一緒に勉強させてくれ。」

そう言い残して小早川達は去っていった。

結局雫の話はうやむやになった。なんでもほのかが見つからなかったそうだ。

雫に謝られたが、大した手間ではなかったと言って笑って謝罪を受け入れた。

 


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