防衛大学校の劣等生   作:諸々

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00-10 千葉修次

兄貴の四十九日法要の為に防衛大学校へ忌引きの申請に行った。

だが珍しい事に許可は校長直々に言い渡される事に、合わせて父に書類を渡すように命令された。

ニコニコしながら『ご当主によろしく』と校長から手渡されたため、この時は修次は特に気にする事は無かった。

 

四十九日法要も無事に終わりエリカは家を早々に出て行ってしまった。

家には当主の丈一郎、早苗と三人が残された。

ここで修次は校長からの書類を渡す。

丈一郎はそれを読み、そして早苗に話しかけた。

「早苗、お前の眼鏡にかなう男は見つかったか?」

「いえ父上、門下生にも紹介を受けた方にも残念ながら…」

「そうか…」ここで丈一郎は目を閉じ少し考えている様子だったが突然目を開き修次に対して宣言した。

「修次、学校を辞めて家に入り次期当主としての修行をしろ。」

「な、」想定外の言葉に言葉が続かない修次。

「学校での手続きはすでに済んでいる、明日からでも出来るぞ。」校長からの書類を見せながら言った。

早苗に話しかけたのはただのポーズだったようだ、あるいは事前に確認していたのかも知れない。

兄の寿和が不慮の死を迎えたのだ、次期当主の死は当然相続問題を引き起こす。

姉の早苗は剣の腕が無い、妹のエリカは認知に問題が有る。(達也は高校入学までエリカを知らなかった)

必然的に修次が継ぐ事になるが、その場合は軍人になるのは問題が有る。

軍人は必然的に命を懸ける、兄と同じように戦死する可能性は高いと言わざるを得ない。

千葉家としてはそれは認められないだろう。

「何でそんな事、勝手に決めているんだよ。」と叫ぶ修次。

「軍とも話し合ってこれが良いだろうとの結論になった。

つまり軍からの命令と同じだ、防衛大学校に入る時にお前は軍人になると言ったな。

お前が軍人だと言うなら軍からの命令に従え。」

(事実二次大戦時日本では家督を継ぐ者は兵役を免除されていた。)

この理論に修次は言葉を詰まらせる。

軍人にとって命令は絶対だ、逆らう事は許されていない。

修次は反論を探した、軍からの命令で『千葉家当主になれ』、そして軍人は命令に逆らえない。

命令に従わないなら軍を辞めなければならない。

軍を辞めると言う事は軍人を養成する防衛大学校を辞めると言う事と同じ。

どうにもならなくなって修次は家を飛び出した。

 

まずは防衛大学校に行った、修次は千葉家の力を軽く見ていたと思わざるを得なかった。

ある意味階級がすべての組織で一民間道場の師範代の肩書が影響力を持つ、その異常さを正しく認識できていなかった。

校長をはじめ講師陣は言った。

「千葉家の次期当主が軍関係者で良かった、警察に持って行かれた時はハラハラしたが結果的には良かった。

当主になられた時はどうぞよろしくお願いしますね。」

学校に見切りをつけ(同級生は今は単なる学生で何の力もない)別の就職先を探す事にした。

今までの実績を示せば、警備会社などでは引く手あまただろうと思ったからだ。

だがここでも千葉家の力を思い知る事になる。

実績に興味は持ってもらえるんだが、千葉家との関係を答えると不採用になってしまう。

警備会社は民間と言えど警察や軍と全く無関係ではいられない。

警察や軍と敵対する、その巨大なデメリットを考えると採用できないという事だった。

それに修次の学歴は高校卒、防衛大学校中退という事になる、これもまた不採用の原因になってしまった。

 

失意のうちに実家へ帰った修次、摩利との事を考えると選択肢はなかった。

流石に無職で付き合い続けるのは修次のプライドが許さなかった。

だが千葉家当主、千葉丈一郎の言葉が修次を更に追い詰めた。

「どこをほっつき歩いていた、お前は千葉家の次期当主としては非常に未熟だ。

一刻一秒を惜しんで修行せねばならない身の上のはずだ。

その事をお前はどう考えているんだ。」

「俺は千葉家の師範代のはずだ、それの何が不満なんだ。」

丈一郎は大きくため息を吐き言った。

「あくまで代理だ、お前は千葉の技を習得していないだろう。」

「教えられていなかっただけだろう。」

「なら寿和の『迅雷斬鉄』を習得して見せよ。

大口を叩く訳だから早々に習得するんだろうな。」

「…分かった。その条件を飲もう。

だが習得できたなら俺の話を聞いてもらうぞ。」

だが修次は『迅雷斬鉄』の内容を知らない、これがさらに修次を追い詰める事になる。

 




原作では千葉家の事は書いてありません。(26巻まで)
こんな事になるんじゃないかと思っていただければ幸いです。
旧作をご覧の方はこれがあの話に繋がります。(分かりますよね。)
新規の方は期待してお待ちください。(この作品はじめての戦闘になります。)

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