幻想殺しと電脳少女の幻想郷生活   作:軍曹(K-6)

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Stage 2  忘れられた雪の旧都

地底に立つ住居の数々。地上にある人里に酷似したその景色に上条は愉しそうに謳っていた。

 

「スッゲー。これが旧都か」

『元々の地獄ですからね。あまり長居して気分の良い場所ではないですよね』

「そうか? 元々地獄だったとしても、それは昔の話。俺はあんまり気にしないけどなー」

『ご主人みたいに神経図太くて、他人の心さえもずかずか土足でのぞき込むような馬鹿と乙女の心を比較しないでください!』

「同じ人間だろう?」

『ヒロイン系主人公と乙女の思考回路で既に違うというのに何を言い出すの馬鹿トーマ!』

「・・・悪い。中途半端に悟りを開いててな」

『4京もの時間の間でですか』

「そゆこと」

 

というわけで・・・。と、上条は呟いて。

 

「街では暴れることにしよう」

『ちょぉ待ちぃ!?』

「ヒャッハァーッ!」

『馬鹿・・・・・・』

 

 

―――暫く上条は暴れていた。そりゃもう破壊神並みに。

 

「あんた、なかなかやるね。何者か知らんけど、暴れる奴には暴れて迎えるのが礼儀ってね!」

「そんな礼儀、俺は知らんッ」

 

突然現われた一角の女性に上条の破壊行為は止められる。

 

「気に入った! もっと愉しませてあげるから、駄目になるまでついてきなよ!」

「テメェと酒呑む気はねェよ」

 

上条はその女性を無視して進もうとする。暴れている最中にこっぴどく女性陣からお叱りを受けたのが原因だ。

 

「おい。目の前をちょろちょろするんじゃねーよ。邪魔だ」

「あらあら、つれないねぇ。地上の奴らが降りてくる事なんて殆ど無いのに」

「知るかよ、そんな事。って言うか、降りてくるヤツなんか全くいないんじゃねーの? というか、早く退いてくれはりますか?」

「一体、誰の下に向ってるんだい?」

「教える義理はないね。そもそも教えたところでどうにかなる問題でも無いだろうし。それで? アンタ、鬼だろ? 鬼って山にいるんじゃねーの?」

「いかにも、私は山の四天王の一人、力の勇儀。といっても、もう地底に降りて来ちゃったので山には行ってないけどね」

「あっそ」

『・・・地底に住んでいるのなら、間欠泉が吹き出た原因だけでも分かりませんかね?』

「ん? ・・・そうだなぁ・・・・・・間欠泉なら地霊殿の奴らの仕業じゃないかな」

「地霊殿・・・? そこに行けば良いのか?」

「地霊殿ってのは、旧地獄の中心に建っているお屋敷だよ。そこには偉そうにしている奴らがいるんだ」

「へぇーそこに行けばとりあえず何とかなるのかな」

『恐らくすぐに向かうことはできませんよ。コイツが目の前にいる限りね』

「そこの珠の向こうのは良く判っているね! 我々、鬼の性格が! 強い者を見ると力比べしたくなる性格が!」

「・・・・・・どっかで見たことあるな」

『『『お前だよっ!』』』

 

勇儀は、顎に手を当てて首をひねる上条に勢い良く突撃してきた。

鬼の一撃が上条の体を貫くように見えたが、その攻撃の向きが強制的に上方へ逸らされ空中にその体が投げ出され、後方へ消えていった。

 

「なっ・・・」

「・・・・・・・・・はい。片付け完了。地霊殿とやらに向かいますか」

「―――行かせると思うのかい?」

「・・・ヘェ。結構遠くに飛ばせたと思ったんだがなぁ・・・」

 

新しいオモチャを見つけた子どものように嗤う上条に、博麗神社の面々は頭を抱えていた。

 

「あーあー。こりゃ霊夢や魔理沙が来た方がよかったんじゃねーの?」

『は? 何でよ』

「お前等で潰してやらんと可哀想だろ?」

「かわいそう?」

「ああ。俺に出番回しちまったら、マジ九割殺しにしかねんからな」

「やってみなよ。もう簡単に投げられないよ」

「鬼にゃ勿体ねーが見せてやろう。俺の五十%の全力ってのをチラッとな」

 

その頃貴音が上条達の闘いを見ることができるように通信機材を改良していた。

そして()()()()()()()()()()が、勇儀の腹部にめり込んだ。

 

「ご・・・!?」

『え!?』

『打撃!?』

「二百kgだろーが1tだろーが、動く相手なら投げられる。あと、力で勝負のパーセンテージ大きく変動するお前等のレベルと一緒にすんな。それとな・・・、『投げ』だけの単能で、俺らのレベル務まると思うな」

『・・・あんな強力な打撃、あの体勢で放てるの?』

『いや・・・、別に大した「ヒジ」じゃないですよ。打撃の本職に比べれば全然フツーです』

「面白いじゃないっ」

 

攻撃にかかってきた勇儀の目の前で上条の体が布のように散らばって消え、彼女の後頭部に蹴りを入れた。更に連続して数十発勇儀の体に並みの攻撃が撃ち込まれていく。

 

『め、滅多打ち』

『・・・どうして鬼の肉体に並みの打撃が効くの・・・?』

『アレも投げの見切りの応用ですね。合気道系(わたしたち)は相手の重心移動や筋肉の連動を読んで投げる。ご主人ほどになれば筋肉のどの部位が緊張して、どこが緩んでるか先読みできます。多少ケンカの覚えのあるものが全くの素人を殴ろうとしても・・・、面と向かってじゃ意外にスカッと殴れないものですよね。素人でも反射的に身構えますし。ですがご主人なら並みの打撃でもどこにどの瞬間打てば効くか分かる。まさか全身の筋肉をずっと緊張させておくなんてできませんしね。つまりそれぐらいできれば、あのご主人の馬鹿みたいな硬い肉体に一撃加えることができるって訳です』

『『ヘぇ~』』

 

数分後、そこには予想以上に物理的にボロボロにされた勇儀がそこには立っていた。

 

「なっ・・・、なんでよ!? 私がなんで・・・打撃でここまで・・・」

「投げられっこないって思ってるからスキだらけなんだよ。ならいっそお望み通り投げ使わないでやってんだ。何でお前程度に半分の全力出してやるか分かるか? 間違ってもお前が強いからじゃねぇ。鬼の四天王の一人(お前)なら『頑丈さ』だけはありそうだからな。全力出してもすぐ壊れず、すぐ死なず遊べそうだからだ。知ってるか? オモチャってのは基本的にかなり頑丈でないとダメだっての。子どもなんてオモチャ乱暴に扱うからなー」

「うう・・・・・・」

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

『相変わらずの残虐性ですね・・・』

 

苦し紛れか、鬼の意地か。上条に一撃入れようと飛びかかる勇儀だったが、

 

「腰が高い!」

「がはっ」

「脇が甘い!!」

「ぐっ。くっくそ・・・。捕まえれば・・・捕まえさえすれば」

「ここは、狭い闘技場とかじゃねーの。分かってる? アホタレ!」

 

勇儀の頭に、上条が放った膝が入る。

 

「あ・・・」

「体がシビれちまうだろ? 脊髄や延髄にいい具合に『入れる』と神経しばらくマヒしちまうんだ。鬼も魔女も妖怪も。ヒト型を取ってる者は全員これが効く。特におめーみたいのは自分が『いたぶられる』経験もしとくべきだ。鬼の肉体だ。どーせ今までいたぶる立場だろ? いい人生経験になる。鬼に人生があるのかどうかは知らんがね」

『・・・(私達)に人生語れるのも当麻だけだろうね』

「・・・もしかしてそこにいるのは萃香か?」

『・・・そうだけど』

「萃香の知り合いか・・・。じゃあ強いのは当たり前だろうね。あんた、名前は?」

「俺か? 俺は上条当麻、趣味で博麗の巫女の代理をやっているものだ。巷じゃ世界の基準点(イマジンイーター)なんて呼ばれてるがね」

「イマジンイーター・・・なるほど。お前が・・・! 道理で強いわけだ・・・・・・。これなら地霊殿に行っても大丈夫だろう」

「そんなかもしれないみたいな言い方は止めようぜ。俺は、大丈夫すぎるんだよ」

 

上条はニヤリと不敵に笑うと、そのまま地霊殿の方に歩いていく。

 

『『『ヤバい。上条当麻が頼もしすぎるッ!』』』

 


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