あ〜、また追いつかれそうだよ…。
《やられるってこと……っ⁉︎》
螺旋を描く白と黒のビームがνを飲み込もうとした、その時。
『アイスサンクチュアリ!』
《⁉︎》
目の前に大きな氷の壁が現れてそのビームを遮る。ここまで強力な氷魔法を使えるのは……!
《ロム、ラム!》
「ダメ、防ぎきれない!」
「砕けちゃう……!あっ!」
だがビームはかなり減衰しながらも氷の壁を貫く。
しかし、さらにνの前に立ちはだかった人がいた。
「ミズキさん!」
《ユニ!》
「Iフィールド、全開!」
ユニの手に持った円形の盾から発せられたIフィールドがビームを散らす。
3つの壁でようやくビフロンスのビームは止まった。
《なんで、君達が……!》
「ユニだけじゃないわよ!」
上空を見れば赤く体を発光させるノワールの姿。
「やああっ!」
「あら危ない」
ノワールはそのまま切りつけるがやはり軌道は逸れてしまってビフロンスにはかすりもしない。
だが傷だらけのνの前にはさらにブランとベールが立ちはだかった。
《ノワール、ブラン、ベールまで……!》
「馬鹿野郎ッ!なんで置いていきやがる!私達はまだ信頼されてねえのかよ⁉︎」
《違う!けど、あいつだけは……!》
「敵わないほど強いのであれば……それこそみんなで力を合わせるべきですわ。ミズキ様1人では勝てませんが、もしかすれば全員でなら勝てるかもしれません」
《だとしたって……!》
「バカッ!アナタらしくないわよ、ミズキ!いつもの自信はどこに行ったのよ!」
「そりゃあ、当然よ。ミズキちゃんは私に勝てなかったのよ?」
ビフロンスが口の端を歪めて笑う。その姿は蛇のようにおぞましいものだった。
「今は機械の体だからわからないけど……本当は震えてるんじゃない?泣き出しそうなんじゃない?怖くて怖くて、たまらないんじゃないの?」
《っ、そんなことは!》
「うふふ、アナタも嘘がヘタね」
νが少しビフロンスと距離を取る。その行動こそがミズキの恐れを如実に表していた。
「怖いのがなんだっていうのよ!そんなこと言ったら、私はもっと前から怖い戦いばっかよ!」
「けど……!私は、ロムちゃんが、お姉ちゃんが……!みんながいるから、怖くない……!」
「執事さんだってそのはずよ!1回負けたんなら、次は勝てばいいんだから!」
「うふふ、でもね。私も平和のために負けられないのよ」
ビフロンスの前にモニターが現れた。
《まさか、やめろっ!》
「いただきま〜す♪」
『‼︎』
突如女神達の体が重く沈み込む。浮いているのだけで精一杯という感じだ。変身も体にノイズがかかって解けかけている。
《君は、みんなのシェアまで!》
「私、第3形態……」
ビフロンスの右手のシェアクリスタルが量を増す。それに従って左手のアンチクリスタルもさらに量を増した。
「私とミズキの決戦にアナタ達は邪魔……。あの子と同じように……」
ビフロンスは壁に磔にされたネプテューヌを見る。未だ結晶の中に閉じ込められているネプテューヌは苦しそうな顔で目を閉じている。
「眠ってなさい」
《させるかっ!》
ビフロンスの手から放たれた結晶化光線が放たれるのと同時にνの意思でフィンファンネルが全員を覆うように三角錐のバリアを張った。
バリアに阻まれて光線は弾け飛ぶ。
「ミズキさん!」
《……君達はそこにいて。僕がやるから》
「おい、ふざけんな!お前、勝てるわけないだろ⁉︎」
《勝つんだよ。……自分の宿命は自分で断ち切る》
「ミズキ!テメエ、死ぬ気かよっ⁉︎」
《死ぬ気なんてない。僕1人で……勝たなきゃ》
(……………!ミズキ様……!)
ミズキが振り返って全員を見る。
そしてνは再び傷だらけの体でビフロンスへと向かった。
「馬鹿ね、アナタ!バリアなしでこのビームを防げるわけが!」
《避け切ってみせる……っ!》
ホーミングレーザーがνへと追いすがる。
νは尋常ではない高機動でそれを避けるが、やはり多勢に無勢。その上ビームはいくらでも追尾するとなれば避けようがないと言っていい。
《うわぁぁっ!》
「惜しい。次はアナタの腹を撃ち抜くわよ!」
ビームライフルがホーミングレーザーに貫かれて爆発する。
「ミズキ!くっ、やっぱり行かなきゃ……!」
「ダメですわ、ノワール。今行っても足手まといになるだけです」
「だからって、ここで何もしないでただ見ているだけなんて!」
νは反転してビームのいくつかを盾で受けるが焼け石に水だ。
《くっ、ううっ!お前を、倒すんだ!みんなの仇をっ!》
「憎しみで戦うから!そんなんだから私に勝てないのよ!」
《黙れェェッ!》
「執事さん、ダメ!あのままじゃ……!」
「………!まさか、執事さん……!」
νが急旋回してるビフロンスの方へと向かっていく。
「ホーミングレーザーを次元フィールドを逆手にとって防ごうってわけ?でもね……?」
ビフロンスからミサイルが放たれた。
νは挟み撃ちにされたのだ。
《今だ、デコイを!》
だがνの両手の指からダミーバルーンか射出され、νを守るように前後方に漂った。
「その程度で!」
《この程度だから!》
まずビームがデコイに当たる。後続のビームがデコイを貫いてνを貫こうとするが、デコイは爆発するとキラキラと輝く粉のようなものを撒き散らす。
それに触れたビームは減衰して消えていってしまった。
「ビーム撹乱幕……!」
《さて、こっちの中身はなんだろうね!》
次にミサイルがデコイに衝突し、デコイが炸裂する。
その瞬間、眩い閃光と爆音が辺りを包んだ。
「スタン、なんて……!」
《今なら!》
νが急加速した。
右手で背中からビームサーベルを引き抜いて接近。だが近付こうとしたのはビフロンスではなかった。
《うおおおおっ!》
「まさか、シェアを奪う装置を⁉︎」
「執事さんに私達の声、届いてた……!嘘ついてただけ……!」
「そうそう上手くいかせないわよ……⁉︎」
一瞬でビフロンスがνと機械の間に立ちふさがる。その機動力たるや、残像や軌跡すら見えないほどだ。
「アナタにこの装置を破壊させるわけにはいかないわ」
《だけど、次元フィールドを開いたままじゃ立ち塞げないよ!》
「……あまり私をなめないでね?」
次の瞬間にはνの腹に飛び蹴りが入っていた。
《うっ、ぐえ……!》
「ミズキさん!」
「なんだよ、アレ!まるで見えなかったぞ!」
《うっ、が……!まだぁっ!》
飛ばされたがすぐに前進し直して盾から牽制用のビームキャノンとミサイルを撃つ。
「いい加減、ウザいわよ」
《っ!》
「人が遊んでるからっていい気になって……お仕置き」
《っ、あ……!》
瞬時にνの目前にまで移動していたビフロンスの右手には巨大な金属鎌。
ビフロンスがそれを振った瞬間、盾を持ったνの左腕の肘から先が盾ごと切断された。
《ぎゃああああああぁぁぁっ!》
「ミズキ!ミズキ、ミズキ!ベール、離して!これでも助けに行っちゃダメだって言うの⁉︎」
「ダメですわ!今は耐えるんです!」
《っ、くっ!》
苦し紛れに右手のビームサーベルを振るが、その手首を掴まれた。
ギリギリと万力のような力で握り締められて動けない。
《うあっ、ああああっ!》
「次元フィールドがなくったって、私は強いわよ?気付いてた?私さっきまで一歩も動いてなかったのよ?」
《うぐっ、離せ……!》
「はい、どうぞっ」
《ぐわあああぁぁあっ!》
今度はνの肘が膝蹴りで折られた。曲がってはいけない方向へ肘が曲がってしまう。
「ミズキィッ!俺はもう、見てられねえぞ!こんなの、ただのリンチじゃねえかァッ!」
「ダメだと言ってるでしょう!」
「うるせえ!くっ……!」
ベールの手を離そうとするがシェアがないために力が出ない。
「このままじゃ、ミズキが、ミズキが!死んじまうってのに……っ!」
「今は、耐えるのですわよ……!私だって、辛いのです……!」
ベールの握った手から血が垂れている。シェアを失ってもそれほどの力が腕に込められていた。
《うくっ、うううっ!》
バルカン砲を撃つが効いていない。
「いい加減、飽きたわ。せいぜい苦しんで死になさい」
《っ、海ヘビ……っ!》
ワイヤーがνの胴体にくっついた。
その瞬間、ビフロンスから放たれた電撃がνを襲う。
《うわぁああぁ!あ、あぁぁあああぁあ!》
「ミズキ!」
「ヒヒッ!このまま死んでいきなさい!」
《うわぁ、あ、ば、ばががががが、あぁぁあ!》
νの体は高圧電流によって痙攣し、体から黒い煙を上げていた。
金属が焦げる嫌な臭いが女神の鼻をつく。
νの体はスパークして崩壊寸前になっていた。
「ヒヒヒヒヒッ!」
《あ、ああああっ!あ、うううおおおおおっ!》
「あら」
νの折れた右腕が歪に持ち上がる。
その手に握ったビームサーベルからビームの刃が発振される。
「海ヘビなら切れないわよ?対ビーム加工はしてあるわ」
《うがっ、がああぁぁあっ!》
だがνは海ヘビにビームサーベルを振り下ろすことはしなかった。
νは逆手にビームサーベルを持ってそれをビフロンスに向けた。
そしてそのまま、自分の右肩ごとビフロンスの左肩を貫いた!
「っ、ちょっと。痛いじゃない」
《うわぁぁあぁぁあ!ベェェェルゥゥウウウッ!》
「え?」
「任せてくださいまし……!」
νが断末魔のような声でベールの名を呼ぶと、ベールは手に持っていた槍を大きく振りかぶった。
「ベール⁉︎」
「あの時、ミズキ様は光信号で私達に伝えてくださいました……!ビフロンスを出し抜くために、声では伝えられず……!」
νがファンネルバリアで女神を覆って守った時、νの目が点滅して光信号でメッセージを伝えてくれていたのだ。
その内容は、『チャンスクル。シンジテル』。
「はあああぁぁぁっ!」
ベールが残り少ない力を全て使って投げた槍がシェアを奪う機械に向かって真っ直ぐに飛んでいく。
その勢いなら、確実に機械を破壊できるはず。
「このっ、うっ!」
《が、が、があがぁぁあああ!》
「アナタ……!」
ビフロンスが槍を止めようとするかνがビームサーベルで自分の体を貫いて固定しているので動けない。
「さっさと死になさい!アナタが死ねば、多くの人が絶望できるのよ⁉︎アナタなんかがいるから、平和は!」
ビフロンスが擬似ファンネルを召喚しようとするが、今放っても槍に届かない計算が瞬時に頭の中に浮かぶ。
ベールの槍は吸い込まれるように機械へと向かっていき、そして……!
《いっけぇぇぇぇぇぇッ!》
機械へと突き刺さる!
しかし、女神達は自分の体にシェアが戻るのを感じなかった。
「ど、どうしてだよ!力が……!」
「当たり前よ。強度だって最大限確保してるんだから。そんな味噌ッカスみたいなシェアで……」
「そ、そんな……!」
《まだぁぁぁっ!ファンネルゥゥゥッ!》
ヒラリ、と。
最後のファンネルが機械の目前へと迫っていた。
「アナタ、いつの間に!」
《うわぁぁぁぁぁぁっ!》
ファンネルががむしゃらに機械へとビームを放っていく。ベールの槍にそのビームが当たると槍は爆散して内部から機械を傷つける。
しかしνの変身も解けかけていた。
νの体が光り輝いて粒子に変わり、変身が維持できなくなる。
それと同時にファンネルも徐々に消えていく。
《ーーーーーーーー!》
νの声はもはや言葉になっていなかった。
だがそれでもνの意思を受けたファンネルは突進し、コの字型の先端を機械へと突き刺した!
0距離でビームが乱射される。
機械の内部が次々とビームの熱量で分子になって消えていく。
そして、ファンネルとミズキの変身が解けた。
ファンネルは消え去り、ミズキの変身も解けた。それに従ってビームサーベルも消えてビフロンスの肩が解放される。その瞬間にはもうビフロンスの肩の傷はふさがっていた。
ビフロンスが電流を解除してワイヤーでミズキを引き上げる。
ミズキの体は肉が焦げる匂いと黒い煙を発していて、その瞳は閉じられていた。左腕は肩から切断されていて右肩には穴が空いている。体には無数の切り傷が目立つ。
「……惜しかったわね。ほら、女神も結局……ってあれ?」
振り返るとそこには女神はいなかった。
逃げたかな、と思うと目の前に紫の光を散らしながら突進してくる影を見た。
「んっ、早いねぇ」
「ミズキをッ!離してぇぇぇぇっ!」
電撃って恐ろしいですよね…。Vでやってたんですけど、電流が流れると筋肉が縮んで離したくてもハンドル(?)みたいなのを離せなくなるらしいですね。怖い怖い。