ネプテューヌはプラネテューヌの森の中で木に寄りかかって座っていた。
「……………」
後悔している。それはわかってる。
もっと優しくしてあげればって思ってる。もっと遊んであげればって思ってる。もっと一緒にいればって思ってる。
けど、だからなに?
「………ぴー子……」
今となってはどうしようもないこと。胸の中の黒く渦巻く感情は時間がどうにかしてくれるものじゃない。私がどうにかしなきゃいけない。
けど、私はどうしたいの?
ぴー子を無理矢理親から引き離して……ぴー子は私のものだって言うの?そんなのは違う。
じゃあこのままぴー子のことを諦めるの?諦めて仕方がないって……そんなのも違う。
「ミズキ、ミズキは……どうなの……?」
そこにミズキはいないのに問いかけてみる。ミズキなら答えてくれそうな気がするから。ミズキは色んなことを経験してきたから。
でも、それは逃げじゃないの?違う、友達に助けを求めるのは当然じゃないの?
「…………私は、わからないよ……」
ミズキの時は、必ず帰るって言ってくれたから。帰りたいのだとわかっていたから。
でも、ぴー子はどうなの?ぬいぐるみを置いていったってことは帰りたくないってことじゃないの?
いや、考えるまでもなく親の元にいるのが1番の幸せのはずだ。幸せなはずなんだ。私が入る隙間なんてないはずなんだ。
「どうすれば、いいの……私は……⁉︎」
「ね〜ぷちゃ〜ん」
「………ぷるるん……」
頭を抱えたネプテューヌが寄りかかっていた木の後ろからプルルートがやってきた。プルルートはネプテューヌの隣に腰掛けた。
「どうして〜、泣いてるの〜?」
「………わかんない。私、どうして泣いてるんだろうね……。私、なにもわからなくなっちゃった。こういう時ってどうすればいいんだっけ……?」
そっと空に手をかざしてみる。
果たして、私は何を求めているのだろうか?
「私ね……ミズキを助けた時にね、誓ったの。ずぅっとミズキの側にいるって。絶対隣から離れないって。それで、一緒に悲しんで、苦しんで、喜んで……そうしてみせるって誓ったんだ」
「うん〜。ねぷちゃんは〜、いつもミズキ君の近くにいたよ〜?」
「でもね……ぴー子は何処かに行っちゃった……」
「そうだね〜。何処にいるか、わからなくなっちゃった〜」
「…………あれ、なんで私こんなこと考えてるんだろ……。こんなの、何にもならないのにね……」
ふぅ、と息を吐いて静かに日の光を浴びる。
「……ねぷちゃんは〜、後悔したいの〜?」
「……違う、と思う」
「じゃあ〜、何がしたいの〜?」
「……わかんない」
「会いたいんじゃないの〜?」
「会いたいかも、しれない。けど、ぴー子が嫌がるんなら……」
「……ね〜え〜。ねぷちゃ〜ん?」
プルルートがネプテューヌの顎を掴んで自分の方へと顔を向けた。そのまま間近で見つめ合う。その顔は嗜虐的に歪んでいた。
「ぷ、ぷるるん……?」
「私ね〜……ねぷちゃんのこと、好きだよ〜?でもね〜、今のねぷちゃん……なんだかつまんな〜い」
「っ!」
ネプテューヌの顔が悲痛に歪んだ。
「ね〜え〜。ねぷちゃん、いつまで嘘ついてるの〜?嘘つきすぎて〜、自分でもわからなくなっちゃった〜?」
「私……嘘、なんか……」
「ついてる〜。嘘ついてるから〜、わからないんじゃないの〜?」
「あ……う……やだ、やめて……嘘、つかないから……」
「へえ〜。どんな嘘つかないの〜?」
「そ、それは………」
「また嘘ついた〜。嘘がわかるって、嘘ついたよね〜……?」
「ご、ごめん……なさい……。謝るから、お願い……やめて、嫌いに、ならないで……!これ以上、いなくなっちゃ、嫌だよ……!」
ボロボロとネプテューヌの目から涙が溢れ出した。その涙は頬を伝ってプルルートの手にも触れた。
「………やっと謝れたね〜。でも〜、それは私に言うべきじゃないよね〜……?」
「あ………!」
見失って、いたんだ。
謝りたかっただけなのに。あの時のことを謝って、仲直りしたかっただけなのに。
「ぴぃ……子……!」
変に理由を振りかざして。変な大義を振りかざして。変に自分を誤魔化して。
自分がしたかったことを偽って隠して自分さえも騙してた。
例え、私のことが好きでも嫌いでも。ここにぴー子が帰ってきたくてもそうでなくても。親のところにいたくてもそうでなくても。
私がしなきゃいけないこと、あるじゃんか……!
「あうっ、あ、ああっ………うわぁぁぁ………!」
「……よく頑張ったね〜、ねぷちゃん……」
号泣するネプテューヌをプルルートが抱き締めた。
「関係、ないんだ……!誰の気持ちとか、どんな気持ちとか、何がしたいとか、するべきとか……!私は謝りたかったんだ……!あの時、やらなかったことを、今度こそ……!」
「うん〜。それでいいと思うよ〜?」
「……ありがと、ぷるるん……。私、今は迷わないよ。次も迷うかもしれないけど……今は迷わない。謝るため、だけに……」
「……どういたしまして〜」
2人が静かに抱き合って陽の光を浴びる。
そこに慌てた様子でミズキが降り立った。
「………ネプテューヌ……プルルート……」
「ぐすっ、ミズキ……」
「……わかったの、答え……」
「うん、わかった……。私、謝りたかっただけなんだよ……?ミズキの時は、会いたかったから……会って一緒にいたかったから、連れ戻そうとしたよね?」
ネプテューヌがプルルートの胸から離れて立ち上がり、ミズキの方を見据えた。
「でも、今度は違うよ。会って、謝る。それだけ。……ミズキは手伝ってくれる?」
「うん、手伝う。手伝うよ、ネプテューヌ」
ミズキはしゃがんでネプテューヌを抱き締めた。そして頭を撫でる。
「それで〜、ミズキ君は〜どうしてここに来たの〜?」
「あ……うん。実は、大変なことが起きたんだ」
ミズキが空にモニターを映し出した。やっているのはニュースのようだ。そのニュースの見出しは。
「………新国家エディン、誕生。……だってさ」
「…………えええええええええっ⁉︎」
「だから今すぐみんなと合流して調べに……うん?コンパ?」
「え?コンパから電話?」
「うん。ちょっと行ってくるよ。みんなと合流してから調査をお願い。くれぐれも気をつけてね」
そう言ってミズキは空へ飛び上がった。
ーーーーーーーー
「た、大変よ!今連絡があって、新国家が誕生したって………どうしたの?」
アイエフを除いた全員は危険なために部屋から離れていた。そこでコンパが新国家誕生の連絡を受けて、ユニとロムとラムもそれを知った。
ニュースを知らせにユニはアイエフの元へと駆け寄ったが……既に部屋の扉は開いていた。
アイエフは部屋に少し入った状態で立ち竦んでいる。
「あ、あいちゃん?どうかしたですか?」
「………すぐにミズキを呼んで。ジャックでもいい」
「え?でも今は……」
「早く!早く知らせなきゃいけないのよ!」
「は、はい!」
アイエフが凄い剣幕で怒鳴ってくる。コンパは慌ててミズキへと連絡を取り始めた。
「ちょ、ちょっと!そんなに怒ることないじゃない!」
「その中……何かあるの……?」
「……大アリよ……なによ、これ。あの女はミズキと関係があるの?その新国家ってのは壊れた次元と関わりがあったってことなの……⁉︎」
アイエフが手に持っていたのは1枚の写真。凄く古びているし、端っこは破れたり欠けたりしている。
だがアイエフはその写真を決して傷つけないようにしていた。
疑問もあるが、それ以上にこの写真はーーーー!
『え?写真?』
『そうよ!ついに我が子供たちもインスタントカメラというものを買うことができたの!ほら、撮るとすぐに写真が出てくる!』
『へえ、凄いにゃ。いちいち写真屋に行かなくていいって、便利だにゃ〜』
『ちなみに、このカメラを買ったことでまた予算が圧迫されている』
『また⁉︎……まあ、ネズミ食べれるならいいけど……』
『おい、何てことをしてくれたんだシルヴィア。またネズミ狩りの暮らしに逆戻りか?』
『う。ま、まあまあ!次の拠点で奪えばいいのよ!それよりほら、みんな集まって!撮るから!』
中央には満面の笑みを浮かべた4人の男女と小人。その周りを囲むようにたくさんの幼い子供達がニッコリ笑っている。
間違いない、この写真は……ミズキの次元で撮られたものだ!
「ミズキの次元は、壊れたはず……!」
ーーーーーーーー
新国家エディン誕生の報せを受けた女神とネプギアはR18アイランドへと向かった。そしてそこには捕まったはずのアノネデスと新たな女神、イエローハートがいた。
「アナタ、どうして……!監獄にいたはずよ!」
「アレはアタシの影武者」
アノネデスは低い声で笑う。その脇には敵意を持った目で女神を見つめるイエローハートがいた。
「あのね、あのこわ〜いお姉さん達、みぃんなアタシを捕まえようとしてるのよ」
「……許さない!パパをイジメる人は、みんな、落ちちゃえ〜っ!」
イエローハートは黄色の髪をした活発そうな女の子だ。胸はベールよりも大きく、手に爪を装備して襲いかかってきた。
「っ、なんてパワー……!」
「ええいっ!」
大剣で爪を受けたノワールが吹き飛ばされた。
「ノワール!くっ……!」
「きゃあっ!」
ネプテューヌの斬撃が命中した。
だがまったく効いている様子はなく、むしろ楽しそうにイエローハートは笑った。
「あはは!楽しいね〜!もっと、もっと遊ぼ!」
「戦いを、楽しんでる……⁉︎」
「このっ!」
「くらいなさい!」
「きゃっ!あはは、痒い〜!」
ブランとベールの同時攻撃を受けてもピンピンしている。
イエローハートは円陣を蹴ってネプテューヌに迫った。
「ええ〜い!」
「っ!」
「このっ!」
だが寸前で戻ってきたノワールがイエローハートを蹴飛ばした。
「あはあは!お姉ちゃん達と遊ぶの楽しいね〜!」
「なんで、効かないのよ……!」
するとイエローハートが何かを感じたように海の方向を向いた。
「来た⁉︎」
「え?」
イエローハートは女神達を尻目に海の方向へと降下し始めた。
「あ、あれはミズキ様では?」
「あいつ、ミズキを狙ってやがるのか!」
「援護するわよ、追わなきゃ!」
4人がイエローハートを追って駆け出した。
《く、なんで、なんでだよ……!》
ミズキはクロスボーンガンダムX3に変身していた。
クロスボーンガンダムX3はクロスボーンガンダムシリーズの3号機。青の装甲が特徴的で胸には髑髏、額には3のマークが刻まれている。性能自体はX3と変わらないが実験的な武装が多く装備されている。
X3は水面スレスレを滑るようにして飛んでいた。狙いは、アノネデス。
「ダメっ!パパイジメないで!」
《っ!》
だが目の前にイエローハートが立ちはだかった。
X3はイエローハートなど見ていない。その向こう、足を組んで座っているアノネデスだけを見つめている。
《なんで、邪魔しないでよっ!僕のこと、みんなのこと、覚えてないのっ⁉︎ 》
「知らない!アナタみたいな人知らないもん!」
《ぐ……これが……こんな、ことがっ!》
「……フフフ………」
《これが人間のすることかッ!貴様ァーーーッ!》
「やめて!パパから離れてっ!」
イエローハートは爪でミズキに襲いかかってくる。
X3は手に持った実体剣、ムラマサブラスターで受け止めた。
「あらあら、アタシが何をしたっていうの?その子はアタシのために戦ってくれてるのよ?」
《戯言をッ!コンパに呼ばれた場所で見たんだ……!君は、アレがどんなものなのかわかって!》
「わかってるわよ。強い投薬や強迫観念を植え付けるマインドコントロール……その危険性はわかってるつもりよ?」
《君は、何もわかってないよッ!よりにもよって、強化人間への改造だなんて……ッ!》
「やめて!パパから離れてっ!」
《っ、くそ……っ、くそ、くそ……ッ!正気に戻ってよ!》
イエローハートに押し切られてX3が後退する。
そこに女神達がようやく追いついた。
「ミズキ、援護するわ!」
《っ、やめて!攻撃しちゃダメだ!》
「お姉ちゃん達も、パパをイジメるならっ!」
《くっ!》
X3がネプテューヌとイエローハートの間に入って爪を止める。
「なんでだよ、ミズキ!これはアイツから仕掛けてきて……!」
《違う!ダメなんだ、操られてるだけなんだ!みんなはアレが誰なのか、わかってるの⁉︎》
ギャリギャリと爪とムラマサブラスターが擦れあって火花を散らす。
「お兄ちゃんも、どいて!」
《くぅぅっ、ピーシェェェェッ!》
「えっ………?」
その名前にみんなが呆然とする。
今、誰の名前を……?
《セーフティ、解除ォッ!》
X3のムラマサブラスターから小型のビームサーベルの刃が14本飛び出した。
圧倒的な熱量がピーシェの爪を焼き始める。
「あつっ!」
《動きを止めさせてもらうッ!》
ピーシェの両手の爪が溶断された。ピーシェは防御魔法をX3に向けたが、X3はムラマサブラスターではなく、徒手の拳を構えた。
「Iフィールド・ハンドッ!」
ビームを防ぐバリア、Iフィールドが掌から発生した。それは防御魔法をも無効化してピーシェを殴り飛ばした。
「きゃあっ!」
《これで、邪魔しないでっ!》
すかさず回り込んだX3がムラマサブラスターでピーシェの背中のプロセッサユニットを切断する。
プロセッサユニットを失ったピーシェは海へと真っ逆さまに落ちた。
暴走…みたいなことはしないネプテューヌと謎の写真。
すいませんちょっとカットしたら不自然になりましたね。ここまで入れたくって…。
ピーシェに施されていたのは強化人間への手術。なぜそんなものがもたらされて短期間で可能になったかはそのうち。