「クエェェーーーーッ!」
怪鳥は遠泳大会で集まっていた観客の方へ飛んでいく。
『こ、こっちに来た⁉︎みんな、逃げるのよ!え、私⁉︎こんな面白いネタ、撮らないわけにいかないでしょ⁉︎』
「馬鹿野郎ッ、早く逃げやがれっ!」
ブランが追いかけるが間に合わない。
怪鳥がその足でアブネスを掴もうとした瞬間、その前にネプテューヌが立ちはだかって太刀で受け止めた。
「やらせないわよっ!」
「離れてくださいっ!」
「クエッ!」
怪鳥に向かってネプギアのM.P.B.Lが放たれる。怪鳥はまた大空に羽ばたいて離れた。
「僕も行くよ、ノワール!変身!」
ミズキがノワールの腕の中から降りて光に包まれる。
そして現れたのは肩と胸が黒く染まったガンダム。背中には大きくX字に開いたスラスター、そして額に刻まれるのは大きな髑髏のマーク。その姿は中世の海賊そのものだ。
名前はクロスボーンガンダムX1。
クロスボーンは特殊ビームライフル、『ザンバスター』を構えて降下しながら怪鳥に向かっていく。
『み、見なさい!あの人が変身してロボットになったわよ!……えっ?アレはガンダムっていうの?リーンボックスに出てきたやつと似てる……?』
「やるわよ、ミズキ!」
《うん、ノワール!》
ノワールが先行して怪鳥へと向かっていく。
ミズキはザンバスターを怪鳥に向かって牽制するように撃つ。
「クエェェ!」
「うっ、くっ!」
怪鳥は弾を避けながら大きく翼を広げて突風を送り、ノワールを食い止める。
「そこねっ!後ろが隙だらけ!」
風の届かない後ろからネプテューヌが迫る。
だが怪鳥は鳥ではありえない動きで急旋回した。
「クッ、ウエアッ!」
「きゃっ!」
そして口からピンク色の粘液のようなものを吐き掛ける。それはネプテューヌに当たってベトベトにまとわりついた。
「な、なによこれ……気持ち悪い……!」
(あの液……まさか……!)
別に動きを阻害するわけでもなく、ネプテューヌの体をベトベトにしただけだ。
だが後ろからベールが焦った様子で追いついてきた。
「すぐに洗い落とすのですわ、ネプテューヌ!それは毒液ですわよ!」
「えっ、毒⁉︎」
《くっ、ネプテューヌ!》
クロスボーンがネプテューヌを抱きかかえて海へと急降下していく。
「み、ミズキ⁉︎」
《衝撃に備えて!海水で洗い落とすよ!》
「んっ!」
ドボーンと音を立てて2人が海に突入する。2人はすぐに首から上を海から出した。
《ネプテューヌ、無事⁉︎》
「ぷはっ、ええ。なんともな……っ⁉︎」
ネプテューヌの体が鼓動を感じて熱くなる。力が抜けてクロスボーンに寄りかかって息を荒くした。
「やはり、あの鳥……!」
《ネプテューヌ⁉︎ネプテューヌ、しっかりして!どこか痛いの⁉︎》
「う……く……!」
《ネプテーーーー》
「好きっ!」
ぎゅっとネプテューヌがクロスボーンを抱きしめる。
だが、えと、その……。
ありえない発言が聞こえた気がしてみんなの動きが止まる。というか凍りつく。
「好き!好き好き大好き!ミズキだぁ〜い好き!」
《え、えと……え?》
「愛してるわ!大好きよ〜!」
《べ、ベール⁉︎ネプテューヌがおかしくなったんだけど⁉︎》
「おかしくなんかないわ!これは私の正直な気持ち……好きよ〜!」
《変だ〜っ!》
「間に合いませんでしたか……」
「ど、どういうことよベール!別にネプテューヌは!」
「惚れてなかったはずだよな⁉︎それがどうしてあんなラブラブになってんだよ!」
「あんなお姉ちゃん、見たくない……」
「ねぷちゃん、大胆〜」
ベールだけは額を押さえて溜息をつく。目線の先には所構わず愛を叫ぶネプテューヌと狼狽えるミズキ。
「あの鳥は恐らく、R18アイランド名物『チャラオビッチチョウ』ですわ」
「『チャラ男ビッチ鳥』〜?」
「んだよ、その凄え遊ばれそうな名前は!」
ノワールとブランが赤黒い鳥を見て声を上げる。
「別名、
「な、名前からして卑猥ですね……」
《で、その毒ってなんの毒⁉︎》
「……惚れ薬ですわ」
《惚れ薬ぃぃ〜っ⁉︎》
「名前の由来でもあります。その毒を口から吐きかけて愛玩鳥に惚れた動物を捕食するという……」
「クズ!根っからのクズみたいな生き物だなそいつ!」
「毒を浴びてから最初に見た動物に恋慕の情が芽生えると言いますわ。EX化したとはいえ、さすがにここまでベタ惚れになるとは思いませんでしたが……」
《解毒薬は⁉︎あるんだよね⁉︎》
「も、もちろんありますわ。けれど、1度入り口に戻らなければなりませんし……。しかもその毒液は重ね掛けが効くのですわ!」
「重ね掛け……ってどういうことよ!」
「浴びれば浴びるほど恋慕の情は激しくなっていく……。私の見立てでは、2度目を浴びればネプテューヌはミズキ様を襲いますわ!」
「ええええええっ⁉︎」
無論、性的な意味で。
ガチのR18になってしまうということだろう。
「みなさん、あの液にはくれぐれも触れないようにしてーーーー」
「なにそれ〜、楽しそう〜」
「………え?」
「鳥さ〜ん、こっちこっち〜!」
《プルルート⁉︎》
「1回〜、浴びるだけだから〜」
《1回でもアウトだよ⁉︎》
「クエーーーーッ!」
《間に合わない⁉︎》
愛玩鳥は手を振るプルルートに向かう。ネプギアとクロスボーンがすかさずビームを発射するが牽制にもならない。
愛玩鳥はプルルートに向けてピンク色の惚れ薬を吐きかけた!
「う〜、気持ち悪い〜。これで〜、ミズキ君を見れば〜いいんだよね〜?」
《いいっ⁉︎》
「わあ〜……すご〜い……」
プルルートの瞳がぼんやりとし始めて海に浮かぶクロスボーンに向けてフラフラと歩き始めた。
「好き〜、好き〜、好き〜」
《息をするように好きって言うね⁉︎》
クロスボーンはネプテューヌを抱きながらスラスターを懸命に使ってプルルートの方へと向かっていく。
《ダメだよ、止まって!溺れるよ!》
「やだ〜、ミズキ君とちゅ〜するの〜」
《ああっ、迎えに行くのが嫌になる!》
「ああ、プルルートさんまで……」
「な、なんとしても愛玩鳥を倒しますわよ!」
「なあ、ノワール……」
「わかってるわよ、ブラン」
2人は小さく目配せする。
上手くいけばこの惚れ薬を使ってミズキを惚れさせることができるかもしれない。
本来、この愛玩鳥の毒液は誰しも1度は抱くであろう恋を後押しする程度の効果しかない。本能に従う動物ならまだしも、理性のある人間なら抗える程の効果しかない効果なのだ。
だから、この薬はほんの少しの一歩を進ませる薬。踏み出せない一歩を踏み出させる薬なのだ。
だから、こんなのは間違ってる。
こんな、強制的にさせるものなんて、本当の恋なんかじゃないから。
「覚悟しろよ、アホ鳥!」
「焼き鳥にしてやるわ!」
「クエエエーーーーッ!」
愛玩鳥は狙いをプルルートに定めた。毒液を吐きかけたからだ。
プルルートは文字通りクロスボーンしか見えておらず、迫る愛玩鳥に気付かない。
「好き〜、好きだよ〜?」
「クエッ!」
《プルルート!くっ!》
クロスボーンが背中の4基のスラスターを全て下方向に向けて使う。
クロスボーンとネプテューヌの体が少し浮き上がって海から浮いた。
《シザーアンカーッ!》
「わあ〜」
「クエッ⁉︎」
腰部前面装甲の左側がシザースとなり、プルルートに向かって飛んでいく。シザースにはチェーンが付いていてプルルートの手を掴んで引き寄せた。
愛玩鳥はプルルートへの攻撃を外してしまう。
《プルルート、怪我はないね⁉︎》
「うん、好き〜」
《会話が成立しない⁉︎》
「好きよミズキ〜!ん〜」
《ちょ、やめてやめて唇を寄せないでって!》
2人を抱きかかえたクロスボーンは重力が増して機動力が絶望的になる。
「クエッ!」
「させないわよっ!」
「テメエの相手は私だッ!」
惚れ薬。媚薬でもよかった。
後悔はしてない。反省はします。