その頃アノネデスも必死に逃げていた。ホバー機能を使って裏口へと一直線。
だって捕まれば殺される。それはもう、無残な無残な殺し方で、R指定すら物足りないモザイクがかかってしまうような……。
……遺書を書いた方がいいかもしれない。
「『拝啓、愛しのノワールちゃんへ。アナタがアタシを見つけた時、それはもう無残な姿で原型のない肉塊として転がっていたと思います』……」
涙で時折、字がにじむ。
遺書を書きながらも生きることを諦めずに扉を開けてその扉に寄りかかる。
「ふぅ……ここまで来れば大丈夫でしょ」
生きている喜びを噛み締めて胸を撫で下ろしていると前から小さなカンガルーのような動物がまとわりついてきた。
「な、なに⁉︎や、ちょ、離れてよ!ヤダ!」
振り払おうとするがすばしっこく体から降りてくれない。
「あ〜!くらたん〜!」
「え?ぐふっ…………!」
決まったのはクラタンを追いかけて決まったピーシェのタックル。
パワードスーツすら物ともせずアノネデス本体にまで貫通するダメージ。アノネデスは尻餅をついた。
「いった〜………!」
「くらたん!あはは!」
ピーシェはアノネデスにまたがってクラタンを抱き抱えていた。
するとその物音を聞いたのか、角からネプギア達が現れた。
「ピーシェちゃん!ご、ごめんなさい!」
ネプギアが謝りながらアノネデスへと近づく。
「全く、どういう教育して………ん?アナタ、ピーシェ?」
「うん!ぴーだよ!」
「………………」
アノネデスが見極めるようにピーシェを見る。
「ん?なにこの写真……」
「あ!待ちなさい、それは……!」
ピーシェがぶつかった拍子にカバンの中身をぶちまけてしまったようだ。
アレは多分、アタシのお気に入り!アレを見られたら捕まる!そして死ぬ!殺される!あの白いのに!
「それから手を離してっ!」
「え?あ、は………⁉︎」
「え?」
ユニが驚愕に目を見開く。
その方向に目を向けると扉から太刀が突き出ているところだった。
「………遺書、置いときましょうか」
爆発音と共に扉が開く。開くというか爆散する。
《ヒャッハー!逃がしゃしねえぞオカマァッ!》
「ひいっ!」
「えと……アレ、ミズキさんだよね……?」
「………多分」
ネプギアとユニが固まってしまった。
バルバトスの奥から遅れてノワールがやって来た。
「え?ユニ?だ、ダメよ!早く何処かへ行って!非常に教育に悪いわ!」
「え、えと、教育って……?」
「早く!血みどろでぐちゃぐちゃになったナニカが見たくなければ、離れて!」
「わ、わかった!ほら、ロム、ラム、ピーシェ!こっち来て!ネプギアも!」
「ユニちゃん……腰が抜けて動けない……!」
「はあっ⁉︎」
「なにモタモタしてるのよ!死にたいの⁉︎」
「死にたくないよぉ〜!うわぁ〜ん!」
「あ〜、もうネプギア、私が引っ張るから!」
阿鼻叫喚である。
結局ユニがネプギアを引っ張ってネプギア達は角へと消えていく。
それを確認してからバルバトスはアノネデスを見下ろした。
《さて………アノネデスって言ったよな。お前のこれからの選択肢は2つある》
「………は、はい……」
《
「1つじゃない!」
《ほらよっ》
「あだ、あだだだだだっ!いたっ、痛い痛い!」
メンチレイスでアノネデスの頭を挟んで持ち上げる。チェーンソーは回していないものの、ミシミシとアノネデスの頭部の機械が悲鳴をあげる。
「お、お願い、許して!データは渡すから!今までのことも謝るからぁ!」
《別に僕はさぁ、隠し撮りを怒ってるわけじゃねえんだよ。その写真が公開されても僕はここまでキレねえ……》
「じ、じゃあなんで……!」
《そういう軟弱なことがムカつくんだよ!オラァッ!》
「ひいぃえっ!あぐっ!」
メンチレイスを振り回してアノネデスを壁へと投げつける。
アノネデスはその衝撃で気絶してしまった。
《……はあ、成敗完了》
ミズキが変身を解く。
そして呆然としていたノワールを見た。
「ノワール、どうする?」
「へ?ど、どうするって?」
「こいつ。アノネデスだよ。ノワールも怒ってると思うから……」
「あ、い、いいのよ、それは。もうミズキがけちょんけちょんにしちゃったし」
「そう?ならいいんだけど」
どうやらミズキは元の人格に戻ったようだ。
「さて、じゃあこの写真を
「なんか、ルビがおかしい気がするけど……まあ、それもそうね」
散らばった写真を集めて燃やす。
USBは粉々に砕いた。
「ジャックにファイヤーウォール作ってもらおうね。もう2度とこんなことないように」
「え、ええ。そうよね」
また同じようなことがあって鬼ミズキが出てこられてはたまらない。
すると爆散した扉の向こうから足音が聞こえてきた。
「さ、サー!敵は倒しましたですサー!」
「ん、みんな。ごめんね、任せちゃって。怪我はない?」
「い、イエス、サー!誰1人として怪我はしていないであります、サー!」
「……?なにその口調。クスクス、面白いね」
「……もしかして、戻った?」
「そのようですわね。一安心ですわ……」
「よ、よかった〜!ミズキ、ミズキなんだよね⁉︎」
「……?当然、そうだけど?」
ネプテューヌとブランとベールが胸をなで下ろす。
ミズキはきょとんとしてるあたり自覚はないらしい。
「お、お姉ちゃん……?戻ってもいい……?」
「ああ、ユニ。もういいわよ。もう大丈夫だからね」
角からそーっとユニが顔を出した。
ノワールの許しを得て妹達がゾロゾロと出てくる。
「お、お姉ちゃん〜!私、私………!」
「ええ。怖かったわね。もう大丈夫だからね」
「うわぁ〜ん!お姉ちゃん、わだじ、死ぬかと……!」
「うん、怖かったね!私も怖かった!私も死ぬかと思った!むしろ1回死んだから!」
ネプギアとユニが姉に抱きつく。命がある喜びを噛み締めて。
「あれ?でもなんでネプギア達がここにいるの?」
ーーーーーーーー
警備兵がアノネデスの手に手錠をかけて連れて行く。その顔はひしゃげていて警備兵も何があったのかとノワールに聞いたほどだ。
ちなみにノワールはその質問に「知らぬが花……いや、知らぬが
そして今は勝手にアノネデスを探していた妹達にノワールが説教タイムである。
『ごめんなさい……』
「……まあいいわ。私のことを考えてやってくれたのは確かだし、大きな被害は……物理的にはなかったし」
精神的にはコロニー落としレベルの大災害が起こっているが。
「とにかく。今度はちゃんと私達に相談すること。それと、絶対にミズキを怒らせないこと」
『はい!』
即答だった。
ただしロムとラムは事情を飲み込めていないのか不思議そうな顔をしている。
子供の純真な心だけは守りきったらしい。
いいの、たとえ私達の心が○斗の拳レベルに崩壊したとしてもこの子達が守れれば……。
「さて、一件落着。これでまたいつもと同じだね」
当のミズキは癒えない傷を残したのにも気付かずに涼しい顔をしている。
みんなはげんなりした顔でミズキを見ていた。
するとネプテューヌはピーシェの姿が見当たらないことに気付く。
周りを見渡すと壁に体育座りしているピーシェを見つけた。
「おなかすいた……」
結局あの時に我慢してから何も食べていないのでお腹が空いているのだろう。そんなピーシェにネプテューヌは歩み寄った。
「ピーシェ」
「ん?」
「はい、プリン。こっそり持ってきたんだ〜」
「ぷりん!ぴー、食べる!」
「うん。でも、半分こね。私も食べるから」
そこで全部あげると言えないのがネプテューヌらしいというか。それでもピーシェは嬉しそうに笑った。
「うん!ねぷてぬと食べる!」
「………クスクス、これで仲直りかな」
その様子をミズキが温かい目で見ていた。
ーーーー
そしてラステイションへとミズキ達は戻ってきた。もうかなり遅い時間で夕焼けが綺麗だ。
そのベランダにノワールとミズキがいた。
「あ、あの……ね、ミズキ。私、コスプレしてたじゃない……?」
「うん。凄く出来が良かったよ。写真見た限りじゃ1から手作りだったし」
「まあね、苦労したわ……じゃなくて。その、幻滅した……?」
「幻滅?」
ノワールはベランダの手摺に寄りかかっているためにミズキからはノワールの顔は見えない。でも、多分沈んだ顔をしてるんだということはわかった。
「だって、私女神なのに……その、秘密でこんなことしてて。ミズキも嫌よね、こんな私……」
「……ああ、そんなこと。クスクス、大丈夫だよ、ノワール」
ノワールの頭を後ろからミズキが撫でる。ノワールは赤くなった顔を手摺に乗せた腕に埋めた。
「僕は君を女神としてなんか見てないよ。君は1人の、可愛い可愛い女の子だ。だから、コスプレしてても幻滅なんてしないよ」
「か、かわ……!」
思わずノワールは顔を上げてミズキを見てしまう。ミズキは優しい笑顔でノワールを見ていた。
「クスクス……。頼りにしてるよ、ノワール」
ミズキがまたノワールの頭を撫でる。大人しく受け入れていたノワールだったが、突然ミズキがその手を離す。
「み、ミズキ?」
いい雰囲気だったのに、どうして。
そう思って頬を膨らませてミズキを見るがミズキは空を見上げている。
「………なにか、来る?」
「なにか?なにかってなによ?」
「………アレ、かなぁ?」
まさか、またネプテューヌが落ちてくるわけはないし……と思って空を見るとそこには落ちてくる女の子がいた。
「2度目⁉︎」
「わぁぁぁぁ!どいてどいてどいて〜!」
「ああ、もうっ!」
ミズキが大きくジャンプして女の子をキャッチする。薄い紫の髪をした小さな女の子だ。
「わぁ〜、ありがと〜。キミ、すごいね〜」
「………歯を食いしばろうか」
「歯を〜?うん、い〜」
「健康的だね〜……。ぐわぁっ!」
ドカァン!
「ミズキが墜ちた!」
このひとでなし!
「な、なになに⁉︎凄い音したけど⁉︎」
ミズキと女の子落下の衝撃で大きな音が響いてそれに驚いたネプテューヌ達がベランダに駆け出してくる。
そこにはミズキを下敷きにして座っている女の子がいた。
「危なかった〜。キミ、大丈夫〜?」
「………だいじょばない」
「ごめんね〜?痛かった〜?」
女の子がミズキから降りて背中をさする。ミズキは床にめり込んでいて顔は見えない。
「ちょ、ちょっとアンタ誰よ!」
「私〜?私はね〜、プルルート〜。プラネテューヌの〜、女神だよ〜」
「………え?」
「え⁉︎」
『ええ〜っ⁉︎』
「…………痛い」
慣れたミズキ。2度目の撃墜ってそれ…。
さあ愛しの愛しのぷるるん登場であります。