ラステイション、教会。
ノワールとユニは今にも泣き出しそうな顔で書類に向かっていた。
2人の左側には終わらせた書類の山。その山は迅速かつ正確な2人の作業によってどんどん高くなっていく。
2人の右側にも書類の山。それは左の終わらせた書類の山の軽く3倍ほどはある。これが終わらせてない書類の山だ。
2人は懸命に書類の山を低くしていくものの全く減る気配がない。
何かに追われるように仕事をしている2人がいる部屋にチン、とエレベーターが到着する音がする。
「!」
「!」
2人はまるで油が切れたロボットのようにギギギと首をエレベーターの方へ向ける。
そしてエレベーターの扉が開いた。
「おはよう、ノワール、ユニ。久しーー」
『うわぁぁぁぁぁぁぁん!』
「ええっ⁉︎」
ノワールとユニが突然泣き出した。
「え、えと、その、ご、ごめん?と、とにかく泣き止んで、ね?」
『びぇぇぇぇぇぇぇん!』
「何故⁉︎」
ミズキが近寄って2人を慰めるとさらに2人が激しく泣く。
ミズキは狼狽えながら2人が泣いているのを懸命に慰めた。
ーーーーーーーー
「仕事が終わらない?」
「………うん」
「そうなんです……」
それからしばらくして、2人はしゅんとしてミズキの前に座っていた。
「今日はなんだか特に仕事が多くって……いつもはこんなにないんだけど……」
「私達でも1日かかるような量で……それで、ミズキさんが来る時間に間に合わなくって……」
「なんだ、そんなことか……」
ふぅ、と安堵の息を吐く。
泣くほど嫌われたのかと心配になった。
「手伝うよ。早く終わらせちゃおう」
「ううっ、ミズキぃ………」
「あ、あ〜、もう泣かないで……。どれだけ弱ってるの……」
「み、ミズキ、さ……うぇぇぇぇん!」
「もう泣いてるだと⁉︎」
相当追い詰められていたらしくいつもよりやたらとメンタルが弱い。
ミズキはとんでもない高さの書類の半分を取った。
「さ、頑張ろう。大丈夫、すぐに終わるさ」
「う、うん。そうよね。すぐに終わるわよね」
「が、頑張ります」
「クスクス、その意気だ」
ミズキの励ましで元気が出た……というよりかは吹っ切れた2人が仕事に復帰する。ミズキも片っ端から書類を片付けていく。
「ルウィーで見せたらしい手腕、頼りにしてるわよ」
「あれはジャックにも手伝ってもらったから……」
苦笑いしながら書類を片付けていく。そんなことを言いながらもミズキが書類を片付けるスピードはノワールに勝るとも劣らない。
案外、書類整理は早く終わったのだった。
ーーーーーーーー
そして3人はモンスター退治へと向かっていた。
「あ〜あ、せっかくミズキにラステイションを見てもらおうとプランを立てたのに、台無しよ」
「クスクス、それはまた次の機会にね。別に今回が最後ってわけじゃないんだから」
「また来てくれるんですか⁉︎」
「滞在は難しいかもしれないけど、遊びに行くのはいつでも行けるから。予定が合ったら、また案内して」
「わかったわ。その時こそ、私の国を見せてあげるんだから」
「と、言っても僕もそこそこラステイションは歩いたけどね」
「え?いつ来たのよ」
「アンチクリスタルを探してる時。森の中だけじゃなくて街の中も見てたんだ」
ミズキが困ったような笑顔でこちらを見る。
「アンチクリスタルの時はごめんね、2人とも。それと、ありがとう」
「いいのよ、別に。お互い様……って言いたいけど、まだまだ借りはあるし」
「こちらこそ、ありがとうございました」
ノワールは顔を背けて、ユニは素直に頭を下げる。
「クス、ありがと」
そう言ってまた3人は森の中を歩き出す。
「ミズキは、ラステイションで何をしてたの?」
「ここでは……EXモンスターを追ってたくらいだよ。プラネテューヌを出て初めて寄った国でもある」
「……どう?私の国。パッと見た感じは」
ノワールは少し心配していた。ミズキはネプテューヌの国が好きだと言っていた。ならば、私の国はどうなのだろう。優れているという自信はある。けれど、それと好かれるかどうかは別問題だ。
「心配しなくてもいいよ。この世界の国はみんなが国民を幸せにしたくて、それを追い求めてるのがわかるんだ」
ノワールの頭をミズキが撫でる。
「ちょ、ちょっと!子供扱いしないでよ!」
「ごめんごめん」
ノワールの頭から手を離す。そして今度はユニの頭を撫でた。
「な、なんで私……」
「ノワールが嫌だって言うから。クスクス……」
「か、からかってますね⁉︎」
「ごめんごめん。クスクス……!」
ミズキはユニの頭からも手を離す。
「ネプテューヌはみんなを幸せにする方法が笑顔になることだと思ってる。ノワールはみんなを幸せにする方法が国を発展させることだと思ってる」
ラステイションは工業国家。
ノワールは特に工業に力を入れて国を潤わしているのだ。
「本当にみんなのことを考えて国を作る。そんな人が作ってる国だ、嫌いなわけないよ」
もう1度ミズキはノワールの頭に手を伸ばす。が、触れるか触れないかのところで手を止めた。
「な、なによ」
「撫でて欲しい?クスクス……」
「い、いらないわよ!」
「はいはい」
「〜〜〜!」
顔を背けたノワールの頭を撫でる。ノワールは耳まで真っ赤になってしまった。
少しデコボコした3人はモンスター退治を依頼された場所に進んでいた。
ーーーーーーーー
そして次なる場所は静かな湖畔。
森から少し離れた草原にミズキは寝っ転がった。
「ん〜……気持ちいい……!」
「そうね。私もこういうのは嫌いじゃないわ」
「私はここ初めて来たな……」
モンスター退治も終わらせてすぐ近くに湖畔があるとノワールが言うのでついてきた。
周りにはモンスターなどおらず、ただ静かな風が吹き抜ける安らかな空間だ。
「このまま寝ちゃいそうだよ」
ミズキは目を閉じて笑顔になっている。このままでは本当に眠ってしまいそうだ。
「……私も寝ます!」
ユニがミズキの隣に寝転がった。
ユニが閉じた目の片方だけを開いてノワールに目配せをする。
「ぐ………」
「ノワールはどうする?」
「わ……私も寝るわ」
「そっか。じゃあみんなでお昼寝にしようか」
ミズキを中心にユニとノワールが寝っ転がる。
ミズキは大の字で寝ていてノワールとユニはミズキを向いて寝転がっている。
「……………」
ノワールは目を閉じずにミズキの横顔をじっと眺める。
安らかな顔で目を閉じているミズキの顔は何故かとても安心できる。ずっと隣にいたいとそう感じさせる。
もっと近寄りたいと思う。物理的な距離だけでなく、心の距離も。知ってることも知らないこともあるってことを許せてしまう間柄になりたい。
多分、この胸がじんわりと熱くなるような気持ちは恋だ。証拠はない。確信なんてない。恋なんて初めてなのだから。
これは恋なんかじゃないのかもしれない。勘違いなのかもしれない。
あるいは他のみんなが抱いている気持ちこそ恋なのかもしれない。みんながまだ気付いていないだけなのかもしれない。
この気持ちを誰かに定義してもらいたい。それは恋なんだよ、愛なんだよと。あるいは勘違いだよ、それは恋ではないと。
でもこの気持ちを知ってるのは私だけ。誰かに定義してもらうことなんて出来ない。
なにより、私が他人にそう言われたからってこの気持ちを恋だと信じることをやめはしない。
きっとまだ気付けていないことは驚くほど近くにあって有り得ないほど遠くにある。
でも、これから何があったってきっと私がこの気持ちを恋だと信じることはやめないから。恋を疑うことはしないだろうから。
「ん……ノワール?」
「……………」
ミズキの投げ出した腕の上に頭を乗せる。腕枕というやつだ。
「枕。……枕がないと、眠りにくいでしょ……」
「……うん、眠りにくい」
ミズキはノワールのほんのり赤く染まった顔を見てクスクスと笑う。
まったく、気付いているのかいないのか。甘えてると思ってるのだろうか。
この気持ちを信じてる。疑うことはきっとない。でも、素直にはまだなれないから。
「ん……………」
今はまだ、こうしてるだけで。
3人は川の字になってぐっすりと眠った。
果たして国巡りはどうなるのか。まあ山もオチもないような平坦な話になってしまうと思うんですが。私のアイデア不足が原因。