それはいつも突然だった。
まるでそれは春の日の目覚めのように。
それはいつも突然だった。
まるでそれは髪を撫でる風のように。
私の中の何かが、弾ける。
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女神候補生達はモンスターの群れの中を先に進んでいく。だがモンスターの攻撃は激しさを増し、彼女らの進行スピードは鈍っていた。
「くっ!」
ネプギアがモンスターのビームを防御魔法で辛うじて防いでいるところだった。ネプギアは膝をついている。
「ネプギアちゃん!」
「ラムちゃん……!きゃっ!」
ネプギアを助けようとしたラム。それに気を取られたロムが敵の攻撃を食らってしまう。
「ロムちゃん!」
その悲鳴を聞いて振り返ったラムがモンスターに攻撃されかける。
「危ない!」
それを間一髪で狙撃してユニが助ける。
「ユニちゃん、後ろ……!」
「えっ⁉︎くっ……!」
直後背後から現れたモンスターに振り向き、引き金を引く。だが引き金はカチリと音を立てるだけだ。
(弾切れ……!しまった!)
「くっ、負けませんっ!」
ネプギアは攻撃の一瞬の隙を突いてモンスターを倒す。
だがすぐにもう1体のモンスターが弾丸を浴びせてきた。ビームソードは破壊され、防御魔法も限界が近い。
「きゃっ!来ないで、来ないでよっ!」
近くを見ればユニもモンスターの攻撃を辛うじて防いでいるところだ。
ロムもラムも、アイエフもコンパも周りのモンスターのせいで助けに行けない。
(どうしよう……私……間違えてた……?)
絶対絶命。このままでは全滅するのも時間の問題だ。
(やっぱり私達に戦いは無理だったの……?)
防御魔法がひび割れ始めた。だがどうにもならない。武器もないし、助けも来ない。
(助けてよ、お姉ちゃん、ミズキさん……!)
その時、ネプギアは右手に熱を感じた。
「えっ……?」
右手の甲がまるで燃えているように熱い。だが嫌ではない。
(私……またお姉ちゃんを、ミズキさんを頼ってる……)
右手に刻まれた炎が次々とネプギアに言葉を送ってくる。
『何かを怖がっている時だ』
(私は……何を怖がっているの?)
モンスターだろうか。自分が死ぬことだろうか。お姉ちゃんがいなくなることだろうか。
違う……その、どれでもない。私が怖がっているものは、なに?
『君に必要なものは心の叫びだ。心の奥底から気持ちを爆発させて』
「私、は………!」
何が怖かったんだ。何が嫌だったんだ。叫べ、心の奥から。引っ張り出せ、本音を。自分でも気付かないほど奥底にある気持ちを!
「私は……お姉ちゃんに憧れていたかったんだ……!」
私が怖いのは、お姉ちゃんよりも強くなること。お姉ちゃんよりも強くなって、頼れなくなってしまうこと。
だけど、だけど、もし、そのお姉ちゃんがいなくなってしまうのなら……!
「私っ!お姉ちゃんだって超えますっ!」
その叫びがネプギアの体から衝撃波を発した。それに巻き込まれてモンスターは消えてしまった。
「ありがとう、ミズキさん……!」
右手が熱い。この胸が熱い。みんなの意思が、ここにある。
私は、もっともっと強くなる!私は、誰よりも強くなる!
「変身っ!」
ネプギアの体を0と1の数列が覆った。その体に光をまとい、胸に無数の情報が流れ込む。右手、左手とスーツが装着され、光が晴れた時、全身をスーツが覆っていた。
女神、パープルシスターがここに誕生した!
プロセッサユニットを背中に装着し、その手に持つのは『
ネプギアは空高く飛翔し、ユニを襲うモンスターを狙い撃つ。ロムとラム、アイエフとコンパの周りのモンスターもM.P.B.Lから放たれるビームに撃たれて消滅した。
「ネプギア………」
「ネプギア!」
「ぎあちゃん!」
「ネプギアちゃん!」
「すごい……!」
ネプギアは低空を飛行し、モンスターの群れの中へも恐れずに突撃する。
「退くことだけは、出来ません!」
お姉ちゃんを助けるために!あの魔女を倒すために!
「だから、やるしかないのっ!」
ネプギアがM.P.B.Lで敵を切りつけ、射撃して倒す。
「ミラージュ・ダンス!」
ネプギアの猛攻で敵の数がぐんぐん減っていく。
「みんな、今!」
みんなも負けてはいない。士気が上がった彼女らは体勢を立て直し次々とモンスターを撃破する。
地面に転がるレーダーがモンスター全滅の音を立てた。
「バカな!雑魚モンスターが、全滅しただと⁉︎」
《それみろ……!もうみんなはすぐそこまで来てる!》
ネプギア達は姉の元へと向かっていた。
「私が挫けそうになった時、この手の炎が熱く燃えたんです。そして、ミズキさんの言葉が響いた。それで私は自分の弱さに気付けたんです」
「弱さ?」
「はい。お姉ちゃんやミズキさんに守られてたいから、このままでいいって……。弱いままで、強くなっちゃいけないって、思ってたんです。心の奥底からその想いを叫んだら……」
アイエフの疑問に答える。
ミズキさんの言葉が、私を導いた。自分の中に閉じ込めてた想いを解放することが、変身に繋がったんだ。
「参考にならないわね。弱くていいなんて思ったことないもの」
「そ、そうだよね……」
きっと、変身の鍵は人それぞれ。みんなまだ、心の奥底に何かをしまってるんだ。
「さて、そろそろよ」
崖を登るとそこには結界の中に囚われた女神達がいた。
「っ、お姉ちゃん!」
「ネプギア⁉︎変身できてる!」
「……お姉ちゃん!」
「お姉ちゃんっ!」
「お姉ちゃん……!」
「ユニ……」
「ロム、ラム……」
そしてその横では今なお戦っているマジェコンヌとユニコーンがいた。
「ミズキさんっ!」
《ネプギア……!変身できたんだね!》
「ミズキさん、あとは私たちに任せてっ!」
《任せたっ!》
「逃がすか、このっ!」
撤退しようとするユニコーンにマジェコンヌが追い縋る。
「あのおばさん、変身してる⁉︎」
「女神でもないのに……⁉︎」
「おばさんじゃない、マジェコンヌだ!お前達はこの小僧を嬲り殺しにしてからゆっくり殺してやる!」
「ミズキさんはやらせないわよ!」
「執事さんを守る!」
「執事さん……!」
《………クス、こんなに言われちゃな……!》
「お前が1番の邪魔だ……!お前さえいなければどうにでもなる!」
《みんなに、土産を残していく!》
鍔迫り合いから離れてビームマグナムを手に持つ。
《みんなが示してくれた可能性を、無駄にはしない……!》
距離を取ったユニコーンは逆にマジェコンヌに向かって急加速。そして、キィン!という音と共にユニコーンはマジェコンヌの目の前にまで迫っていた!
「なに⁉︎」
その軌跡はまるで心電図のように荒ぶっていた。
ユニコーンがマジェコンヌを蹴飛ばす。そこに頭部のバルカンを撃ちながら接近した。
「くっ、ううっ!」
後退しながらマジェコンヌは防御魔法を展開してバルカンを防ぐ。
《そこに、ビームマグナムが撃てる!》
さらにビームマグナムを撃つ。
「うああっ!」
防御魔法を一撃で貫通してマジェコンヌは吹き飛ばされる。
《みんな!今だ!》
「っ、はい!」
ネプギア達がその声でマジェコンヌに向かって進む。
《最後……!1発殴らせてもらう!》
盾を捨てて身軽になったユニコーンがマジェコンヌに急接近。そしてその速さのままにマジェコンヌの顔面を殴り飛ばした!
「うああっ!」
マジェコンヌはたまらず地面に落ちる。
《………みんなを!》
ユニコーンは反転して女神達が囚われている結界へと向かった。
ーーーーーーーー
「く、ううっ、あいつ………!」
マジェコンヌはゆっくりと立ち上がる。その目線の先には赤く光る機人。
「待ってください!」
「……ああん?」
声のする先には女神候補生達。
「雑魚の分際で……私を見下すな!」
マジェコンヌが地面に武器を怒りのままに叩きつける。それだけで突風が起こりネプギア達は吹き飛ばされそうになった。
「なんで……どうしてこんなことを!」
「フン!私が求めているのは女神の必要ない世界!誰もが支配者になり得る世界だ!」
「それって……アナタが支配者になろうとしているだけじゃないですか!」
「私より強い者が現れればその者が支配者となる。これこそが平等な世界だ」
「そんな屁理屈!」
「ならばお前達が私を倒してみろ。お前達が私を倒してくれるのだろう?」
ふわりとマジェコンヌは空中へと浮かんだ。
「あの小僧を倒す前に……お前達で憂さ晴らしをしてやろう」
「っ!」
「クロス・コンビネーション!」
「ああっ!」
ネプギアが十字の斬撃で上空に吹き飛ばされる。M.P.B.Lで受けたものの、ダメージが大きい。
ネプギアは体勢を立て直して空中で下がりながらM.P.B.Lを連射する。
「遅い遅い遅い遅い!さっきの小僧に比べれば、止まって見えるぞ!」
「うあっ!」
マジェコンヌはそのことごとくを避けてネプギアに接近、叩き落とす。ネプギアは地面に激突した。
「くっ……あっ!」
「ククク、いい気分だ」
起き上がろうとしたネプギアの腹を踏みつける。ネプギアが手で足を払おうとするが動かない。
「ロムちゃん……!」
「ラムちゃん……!」
ロムとラムは抱き合って震えていた。目の前で苦しむネプギアを助けたいのに、その足が動かない。涙がこぼれそうになる。
その時、2人の右手の炎も熱を持ち始めた。
「え……?これ、執事さんの……」
『大切なのは立ち向かう心』
「執事さんの、炎が……!」
『必要なのは気持ちを言葉にする勇気』
そうだ、執事さんはそう言ってくれた。そうすれば、変身だって……!
「ラムちゃん……私、あの人、嫌い……!」
右手の炎がさらに激しく燃え上がる。もっと、もっとと訴えてくる。
「ラムちゃん、私あの人……大っ嫌い!」
「私も、嫌い……!悪い人は、倒さなきゃ!」
姉妹で力をあわせるんだ。
そうだ、ラムちゃんがいれば。
そうだ、ロムちゃんがいれば。
何1つ、怖いものなんてないっ!
2人が手を繋ぐとそこから光が広がっていく。2人の炎が合わさる。体中が、熱くなる!
「変身っ!」
「変身……!」
「なに……?」
2人の体が0と1の数列に包まれた。足元から体が光に包まれ、スーツにその身を包む。2人の元に新たな杖がやって来て、プロセッサユニットが装着された。
女神、ホワイトシスターズの誕生だ!
「やっつける、イヤな人!」
「やっつける、イヤな人……!」
以心伝心、二身一体!
その杖が巨大な氷の塊を作り出した。
『はああっ!アイス・コフィン!』
「なっ、うああっ!」
『やった!』
巨大な氷の塊がマジェコンヌに当たった。だがマジェコンヌはその煙の中から飛び出してきた!
「食らえ!レイシーズ・ダンス!」
「きゃあっ!」
「きゃああっ!」
「ロムちゃん、ラムちゃん!」
吹き飛ばされるロムとラム。それを援護しに、ネプギアが飛んでM.P.B.Lを連射した。
「やった⁉︎」
全ての弾がマジェコンヌに直撃した。
だがマジェコンヌは煙の中で堂々と立っていた。全く、効いていないのだ。
「反撃させてもらうぞ?奴がいないならば……!」
翼の結晶が一斉に分離し、3人にビームを浴びせる。
ロムとラム、ネプギアは辛うじて防御したり回避しているがいつ当たるかわからない。
「くっ……うっ……!」
ユニの持つライフルが震える。撃ちたいのに、指が言うことを聞いてくれない。
(みんなが変身出来ているのに……私だけ……!)
動け動けと言い聞かしているのに、体がまるで自分のものではないようだ。
(お姉ちゃんだって、見てるのに……!)
その時、はっとその気持ちに気がついた。
(なんで私、お姉ちゃんのことばっかり……!)
こんな気持ち、私が抱きたい気持ちじゃない。
私、お姉ちゃんやミズキさんに憧れているつもりでいた。違う、この胸の中に燻る気持ちはそんなものじゃない。ただ、甘えたいっていう幼稚な気持ちだ。
そんなものじゃない。私が抱きたい気持ちは、そんなものじゃない!
その時、引き金を引こうとする右手の甲に熱が宿った。その熱に気付かされる。大切なのは、『ひたむきな心と負けん気』!
みんなが変身できてなんで焦っているの?みんなが変身したからこそ、『私だって』って思うべきじゃない!
お姉ちゃんが見ていてなんで緊張しているの?見ているからこそ、『見せつけてやる』って思うべきじゃない!
なんで、あいつを怖がっているの?あいつを見て抱くべき気持ちはなんなの?
「そうよ、ユニ。標的のことだけ考えるの。私は、どういう気持ちでいるべきなの⁉︎」
答えはわかってる!
「負けてたまるか!」
ライフルが1つの結晶めがけ飛んでいく。それは結晶に命中して撃ち砕いた。
「なにっ⁉︎」
「………見える」
今なら私、変身だって!
「やああっ!変身!」
ユニの体も0と1の世界に入り込んだ。身体を包むスーツを身につけ体は軽量化、髪は白く染まってクルクルと巻かれる。
ブラックシスターがここに誕生した!
手には巨大なライフルである『
狙いをつけてX.M.Bを2連射。結晶の軌道を完全に読んだユニは2射で4つの結晶を砕いた。
「なにっ⁉︎」
「迷いなんかない……!あるのは覚悟だけ!」
全部見える。動きがわかる。この歪みのない感情が私を動かす!
「エススマルチブラスターッ!」
「なっ、うわぁぁっ!」
X.M.Bのビームがマジェコンヌの翼に直撃する。砕けはしないものの、マジェコンヌは大きく体勢を崩した。
「ユニちゃん、カッコいい!」
「やったねユニちゃん!」
「凄い……!」
「みんな……。ええ!あんなのさっさと倒しちゃうわよ!」
変身。
変身するヒーローはたくさんいますけど僕が好きなのはウルトラマンですかね。僕の中でウルトラマンはメビウスで終わってますけど。なんならコスモスで終わってたかも。