アナタはワタシに気付いてくれない。
こんなに近くにいるのに。
アナタはワタシに気付いてくれない。
こんなに呼びかけているのに。
アナタはワタシに気付いてくれない。
こんなに触れているのに。
アナタが幻だと気付くのに、ワタシは永遠を要した。
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夜のルウィー。
ロムとラムは大きなハート型のベッドで仲良く隣り合って寝ている。
そんな中、灯りもつけずにブランは高速でキーボードを叩いていた。
瞳を赤く光らせてフフッと笑う。
すると部屋の明かりが急についた。
「んっ………、スミキ」
「こんな暗い中でパソコンなんか見たら、目が悪くなりますよ?」
コトリとスミキはブランの机にホットミルクを置く。
「ん……ありがと……」
ブランはそれに口をつけた。
「アナタももう寝なさい……。こんな夜中まで起きてたら、明日が辛いわよ……」
「ブラン様が起きているのに、僕が寝れるわけありませんよ」
「……勝手にしなさい……」
「クスクス、そうします」
どうやら私はこの仮面をつけた優しい男に、だいぶ依存しきっているらしい。
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その翌日。
昼前のルウィーを1台の馬車が……馬車が……馬車?トナカイが引っ張っているから……トナカイ車?いやむしろサンタ?
それが走っていた。
「うわ〜、綺麗な街〜!」
その窓から顔を出してネプギアがカラフルな建物で出来た街を眺める。
「ルウィー、ずっと来たかったんだ」
「ネプギアがそう思ってる気がしてさ〜!むふふ〜!」
ネプテューヌがそう言うとネプギアは窓の外を見るのをやめて座席に座り直す。
「ロムちゃんとラムちゃんに遊びに来てって言われてたの。2人が他の国に行くの、ブランさん許してくれないんだって」
「ああ〜、ブランってお堅いとこあるからね〜。そんなことしてると、ノワールみたいにボッチになっちゃうのにね〜!」
「ふふっ」
「目の前にいるんですけど」
この……この……もう馬車でいいや。馬車に乗っているのはネプテューヌ、ネプギア、ノワール、ユニだ。
アイエフとコンパも連れて行きたかったのだが、2人は仕事が入ってしまった。終わり次第、すぐに向かって合流するとのこと。といっても、予定通りに仕事が進めば2日後にはもうルウィーには着いているだろう。
「っていうか!誰がボッチよ!」
「ごめんごめ〜ん!でも〜、面と向かって聞いた方が、自分を変えるきっかけになるよ!」
「ぐ〜たら女神に言われたくないわよ!それに、私にはミズキっていう友達がいるんだから……」
はあ、と息を吐いてノワールは椅子に座り直す。
「ネプテューヌと一緒に行くのは失敗だったかしら」
1人ないしユニを連れて行けば良かったと今更ながらに思った。
そんな姉を見て妹2人は苦笑いしながら顔を見合わせるのだった。
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バシャーン!
「やった⁉︎」
「今日こそ……」
バケツが水をこぼす音。
ロムとラムはその音を確認して道の角から出る。
これはロムとラムの作戦だ。スミキをゴミを利用して誘導し、バケツを落とす!今回こそは、成功した⁉︎
「あ〜っ!」
「あ……」
だがスミキは傘を差していた。
おかげで上から落ちてくる水は全てガードされてしまった。
「な、なんで教会の中で傘を差してるのよ!」
「クスクス、偶然だね」
「今回こそは……絶対バレないはずなのに……」
「忠告。作戦会議はもっと小声でした方がいいよ」
「聞こえてたの⁉︎」
「ズルい……」
「はいはい。約束通り、片付けなさい」
「ちぇっ、はぁい」
「残念……」
ロムとラム、そしてスミキの間ではとある約束がされていた。ロムとラムはスミキにイタズラしても良いが、失敗した場合は自分達で片付けをするというものだ。
ちなみに、スミキの全戦全勝。
ミズキがイタズラを退けたり2人の相手をしてくれているおかげで今のところブランはスムーズに仕事が出来てとても気分がいい。
だが今まで以上に計画の仕事は忙しくなり、体に疲労が溜まっているのも実感していた。
そして今、ブランはいつもの広い仕事場で会談を行っていた。
ブランの正面に座っていたのは、ベール。
「よろしいですのね?この計画が実行すれば、世界に革命的な変化がもたらされますわよ」
「承知しているわ。実行までには、絶対バレないようにしないと……」
「失礼します」
スミキはロムとラムを退けてから部屋に入って来た。
「紅茶、お注ぎしますね」
2人のカップに紅茶を注いでいく。
「この方は?」
「初めまして。クスノキ・スミキといいます」
仮面をつけた風貌にベールはブランに問う。
しかし、この人、何処かで……?いや、気のせいか。
「ウチの教会の執事をしてもらってるの」
「あら、そうなのですか。それにしても会談中にまで入れるだなんて、信頼しておりますのね」
「……ええ。私の自慢の執事よ」
「ハハ、照れますね」
紅茶を注ぎ終わったスミキは頭を下げて退室しようとするがその扉が乱暴に開かれた。
「お姉ちゃん……」
「見て見て〜!」
「こら、ロムちゃん、ラムちゃん片付けは?」
「すぐするよ!それより、これ!」
「これ………」
ロムとラムはブランに1冊の本を手渡す。
そのページを開くとそこにはとんでもないラクガキがされていた。
「な……これ……!」
「お姉ちゃんだよ〜!」
「ロムちゃんと書いたの……!」
プルプルとブランの体が震えだす。
「げっ」
スミキは挽肉の恐怖を思い出して声を上げた。
「アタシの大事な本に……!お前らぁっ!」
「おんなじ顔になった!」
「きゃあっ……!」
ロムとラムはすかさず退散を始める。
「待ちやがれぇっ!」
「きゃ〜っ!」
「逃げる〜……!」
「お、お待ちください!ストップですブラン様!」
追いかけようとしたブランをスミキは羽交い締めして止める。
「は、離せ!今日という今日は、あいつらを脱穀してやるんだ!」
「マトリョーシカ⁉︎お、お待ちください!」
ブランが持っていた本をスミキはひったくってラクガキが書いてあるページを開く。
「この本を直せばいいのでしょう?お任せください、直してみせます」
「………出来るの?そんなこと……」
「はい。直せたら、また一緒に読書してくださいますか?」
「……約束するわ。任せたわよ……」
「お任せください」
スミキは本を大事に抱えた。
すると曲がり角の向こうからロムとラムの声がした。
「あ〜っ!ユニちゃん、ネプギアちゃん!」
「来てくれたの……⁉︎」
「え………?」
「………っ!」
ブランはその名前に驚いていた。
スミキはまるで胸の痛みを抑えるかのように顔をしかめた。
「それでは、僕は用がありますので」
「あ、スミキ……?」
スミキは走って行ってしまった。
礼もしないで、慌てて……。どうかしたのだろうか?
「うん。遊びに来たよ」
「やっほ〜、ブラン!いるんでしょ〜⁉︎」
奥からネプテューヌの声が聞こえる。ブランはベールと顔を見合わせたが、ベールは落ち着いた様子で紅茶を飲んでいるだけだ。
「あら、美味しい……」
そんな一言を漏らして。
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「まあ〜、そんなわけでね!ルウィーに新しいテーマパークが出来たっていうから、遊びに来たの!」
「それだけじゃないでしょ」
「う、わ、わかってるよ〜!」
4人の女神が教会の庭の丸テーブルを囲む。
妹達は雪が積もっている方で雪遊びをしていた。
ベールは新しい紅茶に口をつけるが、すぐにそれをテーブルに置いた。
「同じ茶葉のはずなのに……こんなに差が出るものなのですわね。
「?ベール、何か言った〜?」
「なんでもありませんわ。それでネプテューヌ、本題は何ですの?」
「イストワールから、連絡は受けたわ……。どういうこと?ミズキが消えた、というのは……」
「えっと〜……」
「まさか……女神を倒せる人間がいるわけが……」
「ブランも信じられないわよね。でも、一目見たらわかるわよ。あの強さは完全に女神を超えてる」
「そんなお方だったのですか……。ですが、手がかりはないのでしょう?」
「全くないね!」
「胸を張って言えることじゃないでしょ?もう……」
何故か威張るネプテューヌにノワールがツッコム。
「だからこそ、とりあえず遊ぼうって言ってるんだよ!多分EXモンスターが出てきたらそこにミズキも来るはずだし!それまで遊んで待ってようよ〜!」
「残念だけど……多分ミズキはこの国には現れないと思うわよ……」
「ええ〜、なんでさブラン!ブランにミズキの何がわかるのよ!もう!」
「昼ドラじゃないんだから……」
またノワールがツッコム。
「この国ではEXモンスターはほとんど確認されていないわ……。確認されたとしても、隣国からやって来たものくらいね……」
「EXモンスターを倒したいならリーンボックスに来ては?自慢じゃありませんが、リーンボックスはそこそこEXモンスターが出没するんですのよ?」
「ええ〜!テーマパーク行きたいよ〜!」
「アンタは結局遊びたいだけじゃないの!……でも、ラステイションでもあの時以来、EXモンスターは発見されていないわね……」
「あ、でも〜、プラネテューヌでも出たって話は聞かないよ?」
その話に全員が食いついた。
「ミズキが来た国のEXモンスターが、いなくなっている……?」
ノワールの考察に全員が頷く。
「でも、ルウィーには来てないんでしょ?」
「ラステイションに来る前にルウィーに来てたのかも……。あるいは、ラステイションとルウィーを交互に移動してたとか……」
ブランがネプテューヌの反論を跳ね返す。
「では、次に現れるのは私のリーンボックスということですか?」
「その可能性は高いと思うわ」
「う〜ん……。じゃあなにさ、ミズキはEXモンスターを倒すためだけに国を出たってこと?」
「確かに……説得力がない……。それくらいの理由だったらネプテューヌに隠す必要はない……」
う〜ん、と女神が唸る。
その脇ではブランの顔をした雪だるまが完成していた。やたらとハイレベルでリアルである。
「でも、EXモンスターを倒しているのは確かよ。リーンボックスに向かった方がいいんじゃないの?」
「私はそれでもいいんだけどね〜。ネプギア達がさ〜」
「ネプギアがどうかしましたの?」
「ロムちゃんとラムちゃんと遊びたがってたから〜?とりあえず、テーマパークには行かせてあげたいなって」
「……まあ、それもそうね」
「テーマパークの噂は私も聞いています。リーンボックスではまだEXモンスターが出たという報告はありませんから……みんなで遊びに行ってはどうでしょう?」
するとそれを聞きつけたラムがこちらに向かってくる。それを追いかけて妹達も女神達のところへ駆け寄った。
「スーパーリテイルランド⁉︎行きたい行きた〜い!」
「連れて行って……!わくわく……!」
ロムとラムの2人はすっかり目を輝かせている。余程楽しみなのだろう。
それを見てブランは考える。女神達が保護してくれれば妹達は安全だろう。だけど、私は………。
「……妹達を連れて行ってくれるかしら」
「え?ブランは?」
「お姉ちゃん……行かないの……?」
ロムが残念そうに言う。
「私は……行けない……」
「え〜、仕事〜?やめちゃいなよ〜!昔の偉い人も言ってるよ〜。『働いたら負けかなって思ってる』って!」
「それ、偉い人じゃないから……」
またノワールがツッコム。今日はノワール大忙しである。
だが突然ブランは机を叩いて立ち上がる。全員がブランに注目する中、ブランは静かに告げた。
「………とにかく、私は無理……」
そうしてそのまま何処かへ行ってしまう。
ロムとラムは突然ブランが怒ったことに困惑し、顔を見合わせるのだった。
曲がり角を曲がって誰にも自分の姿が見えなくなったのを確認してからブランは壁に手をついて体重をかけた。
「………ふぅ……」
「……良かったのですか?」
「……スミキ……」
そこにはブランを心配して見るようなスミキがいた。仮面をかけているからわからないが、声色でわかる。まだ1週間も過ごしていないが、そんなことくらいブランにだってわかった。
「……いいの……。私には、まだ仕事がある……」
ブランは壁から手を離してスミキとすれ違った。
「……どうか、ご無理をなさらぬよう」
わかんないの!馬車って言えないじゃん!トナカイって何科⁉︎
スミキ…じゃない、ミズキの目的とはなんなのでしょう。
ルウィー編は他に比べてささっと終わるかも。