超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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まぁた前日譚をやってるよ。アニメにない部分まで書いちゃうから進まないのって言ってるでしょ!


第2章〜ルウィーの戦う執事。計画とペドリストと舞い降りる翼〜
暖かな時間


新しい国。

 

新しい土地。

 

新しい街。

 

新しい家。

 

新しい人。

 

なのに、アナタの心は古いまま。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ルウィー。その教会でブランはキーボードを高速でタップしていた。カタカタと静かな部屋に音が鳴り響く。

チラリとブランは時計を見た。

 

(そろそろね………)

 

時計を見ると既に10時ぐらいにはなっていた。

もうすぐ、新しい執事が来るはずである。

ブランの予想に(たが)わず部屋のドアがコンコンコンとノックされた。

 

「入りなさい」

「失礼します」

 

キィ……と音を立ててドアが開く。そこには燕尾服を着て白い手袋をつけた男が立っていた。

 

「アナタが新しい執事ね」

「はい」

 

その男の特徴といえば……仮面をつけているところか。目だけを覆う仮面をつけていて顔がわからない。

 

「初めまして。クスノキ・スミキと申します」

「………アナタ、仮面は外せないの……?」

「はい。理由がありまして」

 

仮面を付けた男が執事など怪しくて仕方がないが……一応、ミナが面接したのだし、大丈夫だろう。

ちなみにミナというのはルウィーの教祖だ。

 

「……そう。まあいいわ。仕事の内容は既に説明されているわね?」

「はい」

「なら……」

 

ブランが続けようとしたところで部屋のドアがまた開く。

 

「お姉ちゃ〜ん!」

「一緒に遊ぼ……?」

 

ロムとラムだ。2人は元気いっぱいにブランのいる方へと走ってくる。

その途中で2人はスミキに気付いた。

 

「あれ?誰この人?」

「新しい執事よ。私は仕事があるから、その人と遊んでくれないかしら」

「執事……さん……?」

 

スミキは振り返るとロムとラムに目線を合わせるためにしゃがんだ。

 

「初めまして。クスノキ・スミキだよ。一緒に遊んでくれるかな」

「うん!いいわ!遊んであげる!」

「あげる……」

 

なぜ上から目線なのか。

スミキはチラリとブランに目配せをしてロムとラムに引っ張られて部屋を出て行った。

それを確認してからブランは溜息を吐く。

 

(さて……今回は何週間、いや、何日もつかしら……)

 

姉のブランが仕事で忙しいためにロムとラムの世話は一部メイドや執事に任せているのだが、雇った端からやめていくのだ。

原因はロムとラム。2人がイタズラをしてある者は怒って、またある者は諦めて教会を後にしていく。

ブランは2人のイタズラに付き合わされるスミキを内心可哀想に思いながらまたパソコンに向かった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「何して遊ぶ⁉︎」

「何して遊ぶ……?」

 

2人に部屋に連れ込まれたスミキは2人に言い寄られていた。仮面を付けていても分け隔てなく接してくれる無邪気さに感謝しながらスミキは部屋の周りを見渡した。

 

「そうだね……。絵本とかどう?」

「もうここのは全部読んだ〜!」

「退屈……」

 

まあそれもそうか。

それじゃあ、とスミキは人差し指を立てる。

 

「僕が知ってる昔話をしようか」

「昔話?」

「そう。……むか〜しむかし、ここの次元ではない、遠い遠い次元のお話です」

「遠いところ……?」

「うん。そこでは戦争が起こっていました。地球に住んでいる人と、宇宙に住んでいる人のね」

「宇宙って……星があるところ?」

「そうだね。お星様が輝くところだ」

「お星様……綺麗……」

「地球に住んでいる人は負け続けて、もう戦争にも負けてしまいそうでした」

「この星……負けちゃうの……?」

「宇宙人にやられちゃうの⁉︎」

「その時、地球人に救世主が現れたのです」

 

そう、それが全ての始まり。

 

「救世主……?」

「凄い人ってことよね!」

「うん。救世主の名前はガンダム。ガンダムはとても強くてあっという間に宇宙人を倒してしまったんだ」

「地球人の勝ちね!」

「ばんざい……」

「その次元ではその後もたくさんの戦争が起こるんだ。だけどその度にガンダムは姿形を変えてみんなを助けたんだよ」

 

地球に住む者と宇宙に住む者。侵略する者と抵抗する者。人種の違い、世界の破壊。

 

「ガンダム……凄い……」

「ガンダムって強いのね!」

「そうだよ。君達のところにも、ピンチになったら必ずガンダムが訪れる」

「私達のところにも⁉︎」

「やった……!」

 

ロムとラムは無邪気に喜ぶ。ピンチになるようなことがないのが1番望ましいのだが。

 

「これで僕の話はお終い。次は……オセロでもやろうか」

「いいわよ!私強いんだから!」

「ラムちゃん……いつも私に負けてる……」

「そ、そんなことないわよ!勝負よ、執事さん!」

「執事さん?」

「?何か変?」

「執事さんは、執事さん……」

「クス、そうだね。それじゃ勝負だよ、ラムちゃん」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「…………ん……」

 

ブランは机に突っ伏していた体を身じろぎさせる。

そしてハッとしたのか急に体を起こして時計を見た。

時刻は3時過ぎ。

どうやら、寝てしまったようだ。

 

「しまったわね………。ん……?」

 

座っていた椅子の背もたれから毛布が落ちた。私の体にかけられていたようだ。一体、誰が………。

 

「お目覚め、かな?」

「……アナタ………」

 

私にスミキが寄ってくる。その手にはコップがある。

 

「どうぞ」

「……ありがと……」

 

中身はホットミルクだ。程よい熱さで、飲むと胸から温まる。ブランはほう、と息を吐き出した。

 

「……毛布をかけるくらいなら、起こしてくれればよかったのに……」

「仕事中に寝てしまうなんて、余程疲れてるのかと思いまして」

「ロムとラムは……?」

「遊んでいたら寝てしまいました。お昼ご飯の後だったので、余計に」

 

そう言えば昼ご飯も食べていなかった。ホットミルクを飲んだことで今更ながら空腹を覚える。

 

「今からでも簡単なものを作りましょう。座ってお待ちになってください」

「いいわ。書類仕事が間に合わなくなる……」

 

時間にして2時間程寝てしまっていたのだ。単純計算すれば、その分今日は夜更かしすることになってしまうだろう。

 

「書類なら、ほとんど終わらせておきましたよ」

「……え……?」

「ブラン様が直接書かなければならないもの以外は全て終わらせておきました。ブラン様がやらなければならないのはこれくらいです」

 

そう言ってスミキは奥から書類の束を持ち出してくる。その厚さは5mmもない。これくらい、30分もかからないだろう。

 

「どうして……」

「私はブラン様の執事ですから。最近、お疲れではありませんか?」

「それは……そうだけど……」

 

ベールとの計画がある。そのために仕事は余計忙しく、最近はロクに睡眠も取れない有様だ。

 

「ちょうどいい機会です。今日はゆっくりお休みになってください。では、僕は昼食を作ってきますので」

「あ………」

 

そう言ってスミキは部屋を出て行ってしまった。

 

(お礼も……言えなかったわね……)

 

ブランは引き止めようとあげた手を下ろした。

気を抜いた瞬間にブランの体に重い疲労感がのしかかる。自分の体はだいぶ酷使されていたらしい。

椅子に寄りかかって目の前の書類の束を見る。

ブランがやらなければならない仕事だというのに、その書類もほとんど仕事は終わっている。せいぜいブランが判子を押したり、サインを書いたり、ブランしか見れない重要な書類だったりな程度。

他の雑多な部分は全て埋められている。それも、完璧に。

正直、助かった。

このまま仕事を手伝ってくれればだいぶ楽にーーー。

 

(………ダメ。これは本来、私の仕事なのだから……)

 

甘えそうになる自分を律する。

それに、どうせすぐ辞めてしまうのだ。執事になって1日目からこれとは、正直頼もしい。

だがそれに頼っては辞めてしまう後が辛くなる。

でも、今だけは。

ブランは椅子に引っかかった毛布にくるまって暖をとるのだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ごちそうさま……」

「お粗末様」

 

クスクスと笑ってスミキは皿をさげる。

素直に美味しかった。仕事も出来て料理も出来るなんて、ますますここ(ルウィー)にいて欲しい。

 

「それじゃ、お休みになってください」

「……今は、目が冴えてるの……」

 

1回寝たからだ。

 

「では、まだ仕事を?」

「……いや……もう仕事はないし……」

 

スミキが昼ご飯を作る間に書類仕事も終わったし、計画の準備も今日のノルマはこなせた。

だとしたら、アレだ。最近出来なかったアレをしよう。

 

「……しばらく、読書をしようと思うわ……」

「読書、でございますか」

「そうよ、読書。スミキは、嫌い……?」

「……いえ。嗜む程度ですが、好きです」

「ならちょうどいいわね。……付いてきて」

「僕も、ですか?」

「アナタと本が読みたいの。……嫌かしら?」

「……クス。いえ、喜んでお伴します」

「よろしい」

 

ブランも笑顔になる。

ブランはドアを開いてスミキを先導する。

 

「そういえば、まだお礼を言っていなかったわね。……ありがと」

「……どういたしまして。クスクス」

 

顔が見えないのをいいことにブランはお礼を言った。ブランは気恥ずかしくて少しばかり歩調が早くなる。

 

「……ここよ」

 

ブランは扉を開く。そこにはまるで図書館のようにたくさんの本棚と本が並んでいた。

 

「凄い……ですね……」

「私の自慢の蔵書よ。好きなのを読んでいいわ」

 

ブランは広大な本の海の中でも迷わずに目当ての本へと向かう。

 

(踏み台を……)

 

これだけの蔵書ならば必然的に本は高いところへも積まれる。ブランが読もうとしていた本はブランの身長では背伸びしても届かないくらいの位置にあった。

踏み台を探そうとすると後ろから手が伸びて目当ての本を取ってくれる。

 

「これでよろしいですか?」

「……ありがと」

「どういたしまして。クスクス」

 

ブランに本を手渡してスミキは何処かへ行ってしまう。ここにある蔵書ならきっとスミキが好きなジャンルの本もあるはず。

ブランは本棚の近くに置いてある椅子に座って目当ての本の目当てのページを開く。

 

「………………」

 

ペラ、ペラと本をめくる音だけが響く。周りから切り離されたような静かな空間ではそんな音でさえ部屋中に響く。

そして、本を探すスミキの息遣いさえも。

 

「………………」

 

どうにも集中出来ない。

音が近づいたり遠ざかったりする度にちらりちらりと音のなる方を見てしまう。そんなことをしても見えるはずがないのに。

本を取ってめくる音。その本を気に入ってくれるだろうか。

そしてまた本を取ってめくる音。その本は気に入ってもらえるだろうか。

そしてまた本を取ってめくる音。その後に本をしまう音はせず、こちらに向かって歩く音が聞こえた。

 

「………………」

 

意識的に目線を本に戻す。

………しまった、この辺りの文章に見覚えがない。数ページめくって見覚えのある文を見つけてそこからまた読み始める。

 

「……………?」

「………………」

 

コツンと椅子に何かが当たる。

目線をチラリとそちらに向けると椅子をわざわざこちらに持ってきたスミキがいた。

 

「……………」

 

スミキの顔を見るとスミキはニコリと笑って私と背中合わせになるように座って本の1ページ目をめくった。スミキの読んでいた本は物語の本だった。

 

「………物語は、好き?」

「はい。出来ればたくさん笑ってたくさん泣けるような、そんな話が好きです」

「……そう………」

 

会話はそれだけ。

ブランは本に目線を戻す。本の中ではルウィーの有名な学者が生物についてあーでもないこーでもないと論じていた。俗に言う、説明文だ。ブランはそれぞれの文にそれぞれの良さがあると思う。

ブランは説明文の良さは自分で考えられることだと思う。

文を読み、自分の頭の中で噛み砕いて理解する。説明文はとてもじっくりと読める文章だ。

だが、噛み砕けない。

特別この文章が難しいわけではない。むしろ途中まで読んだ感想としてはわかりやすい説明だと思うくらいだ。

文が頭の中に入ってこないのだ。チラチラとバレないようにスミキの方を見てしまう。

 

「………………」

 

スミキの息遣いが気になる。私の息遣いも聞こえてしまっているのだろうか。

気になって、気になる。まるで引き寄せられるようにブランはスミキの背に寄りかかった。

 

「………………?」

「……このままで……」

「……はい」

 

スミキはしっかりと私の上半身を受け止めてくれる。意外とその背は大きくて私がすっぽりと収まってしまうほどだ。

ミズキが呼吸をする度に膨らむ背中がわかる。ミズキの体温がわかる。仄かな安心感。ブランは本を閉じていた。

そして、すぐ後に図書館に響いたのはブランの寝息だった。

 

「…………すぅ……すぅ……」

「…………クス。仕方ない人だね」

 

スミキも本を閉じる。

背中に寄りかかる心地よい重さを感じながらスミキは仮面を外した。

 

「ごめんね、ブラン。バレちゃいけないからって、こんな……」

 

ミズキは寝ているブランに謝る。

アンチクリスタルはすぐそこにある。だが、壊さなければならない。ジャックに解析は頼んでいるものの、いかんせん警備が厳重だ。

ジャックも簡単には入れない。入れたとしても長時間はいられない。

これはどうやら、だいぶ時間がかかりそうだ。

 

「……………すぅ……」

 

静かな寝息が聞こえた。

そうだ、とりあえずは。

 

「頑張ったね、ブラン。……お休み」

 

ブランを、ベッドに運ぶことから。




一年戦争にはどっちが悪いとかはあんまりないとは思いますけどね。どっちかっていうと連邦が悪いですけど、やってたのは高官たちですし。
ブランと静かな読書をしたい感は異常。ルウィーの教会に図書館なんてありましたっけ…?(小声

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