超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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果てなく続いた空の果てには

深い裂傷がイブリースの胸に刻まれる。そこからスパークを散らし、イブリースが膝をつく。

 

「うっ、ぐ!が、あああっ!」

 

イブリースの胸が大爆発を起こし、変身が解けながらビフロンスが吹き飛んでいく。転がったビフロンスは背中に強く岩を打ち付けて呻き声をあげる。

 

「ぐっ、あ、あっ……くっ……」

「はあっ、はあっ、はあっ……!」

 

そしてアデュルトの変身も解ける。戦いの疲労で今にも倒れそうなミズキはゆっくり歩いて少し離れた場所に落ちている拳銃を手に取った。

 

「ぐっ……まだ、まだ終わってない……まだ……!」

「……っ、はあっ……」

 

アブネスの拳銃だ。

弾倉を引き抜いて弾丸を全て捨てると地面に落ちた弾丸が軽い音を立てる。ミズキがそこに1つの弾丸を込め、弾倉を入れ直した。

その間にビフロンスは岩に背中を預けて座り、その隣からマシンガンが音を立てて落ちる。まだ次元の扉を開いて武器を取り出す余力はあるのだ。

 

「負け、るか……!負けて、たまるか……!」

 

ビフロンスが両手でマシンガンを構えてミズキに乱射する。

しかしミズキは避けもせずにゆっくりと真っ直ぐビフロンスに歩み寄る。

 

………不思議な光景だった。

 

ビフロンスも疲労が溜まって銃を構える手がぶれているのか、視界がぶれているのか、弾丸が1つもミズキに当たっていなかった。

頬を掠める弾丸、後ろに流れて去っていく景色。

まるで、そう、何かに守られているかのように。

 

「はあっ、はあっ、くそ、くそ、くそっ……!」

 

ビフロンスは引き金を抑え続けるが、やがてマシンガンは発砲音を響かせなくなった。

諦めたようにビフロンスがマシンガンを降ろすとマシンガンも光となって消える。

ふとビフロンスが上を見上げるとこちらに拳銃を構えるミズキの顔があった。

 

「っ」

 

ダァン、と銃声が響いた。

それと同時にビフロンスの胸と同時に1発の弾丸が撃ち込まれる。シェアクリスタルの弾丸、それがビフロンスの体の中に沈んでいた。

 

「………負け、た」

「僕の勝ちだ。でも……殺さない」

 

2つの次元を跨ぎ、長い時間を超え、多くの犠牲を生んだ戦い……それがようやく終焉を迎えた。

 

ビフロンスの胸から膨張するシェアクリスタルがはみ出て、胸に開いた穴からシェアクリスタルがビフロンスを覆っていく。

 

「どういう、つもりよ……」

「君を、封印する」

 

喋る間もシェアクリスタルはパキパキと音を立ててビフロンスを包んでいく。

 

「いつか君が自力でこのクリスタルを破って……外に出てきた時。その時には僕が世界を平和にしてみせる」

「……出来るわけないわ。私はアンタを認めない……」

「だからだ。実物を見せつけてやる。本当の平和……戦いなんて起こらない世界を見せて、君を納得させてやるんだ」

「……なるほど、このクリスタルはそれまでのタイムリミットってわけね」

 

クリスタルがビフロンスを完全に包み始めていた。そのまま残すは頭部だけになる。

 

「私は……この終わらない螺旋から、降りる。ただ自分のために生きて誰かを傷つけてしまう、そんな悲しい螺旋から……。期間限定だけどね」

 

しかしビフロンスは最後にヒヒッと笑った。

 

「置き土産よ。私はアナタを認めない、その証……。悔し紛れのヤケクソ。せいぜい、破ってみなさい……」

 

そう言ってビフロンスは目を閉じ、クリスタルに完全に包まれた。

 

「……終わったか」

「ジャック、いーすん……」

「ひとまずは、お疲れ様でした」

「……ええ」

 

女神全員が変身を解いた。

 

「……あ〜あ、なんかどっと疲れでちゃった!帰ってプリンでも食〜べよっと!」

「そんな力もないわよ……はあ……」

 

ネプテューヌがドタっと地面に尻餅をついて座る。

だらしなく足をぶらぶらさせているが、正直咎める力もない。それどころか許されれば今すぐ寝てしまいたいくらいだ。

 

「帰ろ、ミズキ!」

 

ネプテューヌがミズキに向かって手を伸ばす。

振り返ったミズキはクスリと笑ってネプテューヌにゆっくりと近付いて手を握る。

 

「……まだ終わってないよ?」

「………はい?」

 

その瞬間、強い揺れがギョウカイ墓場を襲った。

 

「わ、わ、わ!?なになに!?今のはもう終わりの雰囲気だったじゃん!」

「ほら、立って」

 

ミズキがネプテューヌを引っ張ってむりやり立ち上がらせる。

 

「何が起こっている……!?」

「ビフロンスの置き土産……まあロクなものじゃないよね」

 

ミズキが空を見上げる。するとそこには……。

 

「ちょっと……冗談よね……?」

 

ノワールが戦慄する。

誰でもそうなる、空にあったのは今にもこの星に落ちそうな……隕石だった。

 

「ぎゃあああ〜〜〜〜っ!」

「ホントにロクでもないものを遺していきましたわね!?」

「あんなのが落ちたら……この星が割れるわよ……!?」

 

既に地割れが始まり、台風のような風がギョウカイ墓場を襲っている。衝突まで幾ばくかもない、このままでは平和もクソもなくこの星が終わってしまう。

 

「あんなの止まんないよぉ……!」

「今更壊しても仕方ないし!」

「ど、どうすれば……!」

 

「……止めるよ」

 

ミズキの自信に溢れる言葉にみんなが振り向いた。

 

「止まるよ。みんなここにいる……何も出来ないことなんてないさ」

 

ミズキがスッと手をかざす。

するとミズキの手のひらのすぐ先で隕石が止まった。

夢のフィールド……意志を力にするフィールド。それは巨大な隕石すら受け止めるほどの力を生み出していた。

 

女神たちは隕石を受け止めたミズキを見た後、少し微笑んで同じように手を伸ばす。さらに強い想いの力が隕石を受け止める。

 

隕石は徐々に押し戻され、ゆっくりではあるが宇宙へ帰っていく。

だが地上に与える影響は凄まじい。地割れはさらに激しくなり、風は大嵐のように吹き荒れた。

 

「っ、きゃあああっ!」

「イストワール!?む、ぐぅ……っ!」

 

体の小さいジャックとイストワールが暴風に吹き飛ばされた。2人は砂嵐の中へ消えていってしまう。

 

「いーすんさん、ジャックさん!?きゃっ!」

 

続いて地割れも激しくなる。堪らず膝をついたネプギア、その目の前の大地に亀裂が走った。

 

「っ、お姉ちゃ、わあっ!」

 

妹たちと姉たちの間に大きな地割れが走った。

それに影響されたかのように妹たちが立つ大地は亀裂が次々と走って壊れていく。段々とネプギアたちの足場はなくなり、姉たちから離れる一方だ。

 

「お姉ちゃん、っ、お姉ちゃんっ!」

「大丈夫よ、ユニ!アナタ達の想いは届く……遠く離れててもね!」

「アナタ達は少し離れてなさい。ここは私達の見せ場よ」

「でも……っ、だって……!」

「危ないよ、お姉ちゃんっ!」

 

姉たちの所にも亀裂が走っていた。一歩間違えれば地割れに飲み込まれ、2度と帰ってはこれない。

 

「安心しなさいな。絶対すぐに帰りますから」

「そうだよネプギア!せっかくこれからだってのに、私達が死んでどうするの!」

「お姉ちゃん……っ、絶対帰ってきてね!絶対、絶対……きゃあっ!」

 

ついにネプギア達が立つ大地が崩れ始めた。

隕石に引き寄せられるように浮き上がる瓦礫の中を縫うように走る。

しかし、ネプギアの目の前で大地がパックリと裂け目を晒した。

 

「っ」

 

がくんと足場がない感覚。

 

「ネプギアっ」

 

ユニが振り返った時にはもう遅い、ネプギアの体が崖下に落ちそうになった……その時に手が握られた。

 

「うっ……」

 

宙ぶらりんになったネプギアは下を見た。真下は底の見えない真っ暗な空間。

それから上を見ると、ネプギアの手を握っていた人の顔が見えた。

 

「アナタは……!」

「いいから逃げっぞ!……これで借りは返したからな!」

 

手を握っていたのはリンダだった。

ネプギアを引き上げたリンダは座り込むネプギアを睨みつける。

 

「言っておくが、マジック様を倒したお前達を私は許さねえからな!仲間になったとか、そういう風に考えんじゃねえぞ!じゃあな!」

 

それだけ言ってリンダは砂嵐の中に消えていく。ぽかんとする妹たちは轟音に我に返って後ろを振り向いた。

 

巨大な隕石、それが光を放って消え始めていた。

まるで太陽のような激しい光を発する隕石、それはミズキと女神たちの力で消え去っていく。

 

「きゃあっ!」

 

隕石が受け止められた場所を中心にして激しい風が吹きこみ、砂嵐が晴れた。それと同時に光が降り注ぎ、地面が再生していく。

地割れを起こしてヒビ割れだらけだった大地は癒えていき、硬い岩だらけの大地は柔らかい砂となって豊かな草が生え始めた。

草は育ち、花を咲かせ、つい数分前まで戦場だった場所は楽園のような花畑となった。

 

「………お姉、ちゃん……?」

 

はっきりと晴れた視界。なのに、隕石が落ちた場所に姉はいない。

 

「ミズキ、さんは……?」

「ウソ、ウソよそんなの!」

「……声が……聞こえない……」

 

大きな花畑、豊かな大地へと変貌したギョウカイ墓場。だが残ってほしいものはそこには残っていなかった。

 

「お姉ちゃん、ミズキさん……!ウソ、ウソ……!うわああぁぁぁっ!」

 

アブネスが遺したカメラがからりと音を立てて転がった。


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