超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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平和への道は

ーーーー僕を呼んでる人がいる。

 

 

「ノワール、ブラン!」

「わかってらあ……!勢い余ってミズキに当てんなよ!」

「こっちのセリフよ!ブランこそ、足引っ張んないでよね!」

 

ノワールはGNバスターライフル、ブランはツインバスターライフルを構えた。

今も尚大きくなり続けるシェアクリスタルの牢獄に向かって、2人は同時に引き金を引く。

 

「帰ってこい、ミズキぃっ!」

「アンタが死ぬにはまだ早いのよッ!」

 

超大火力のビームがシェアクリスタルの牢獄に直撃した。2人のビームは使いようによっては国がひとつ潰せるレベルのものだが、それもシェアクリスタルに風穴を開けるには至らない。ただ、凹みは出来た。

 

「チッ、エネルギー再装填……!」

「粒子供給……早く……!」

 

その凹みの中にもシェアクリスタルは発生し、せっかく縮めた距離をまた大きくしてしまう。

ノワールとブランの射撃の間に間髪入れずにロムとラムが躍り出る。

 

「執事さんのためなら、何回でも……!」

「クリスタルなんて、割れちゃえぇぇぇっ!」

 

ツインアイシクルサテライトキャノンがノワールとブランが開いた凹みに撃ち込まれる。絶対零度の嵐はさらに凹みを大きくしたものの、ミズキにはまだ手が届かない。

 

「次、お願い……!」

「私が行くわ!」

 

ユニがメガビーム砲を連射して凹みの中心、もっとも深い部分をさらに深く掘り進める。

そこへ撃ち込まれては消えていくビームと槍の嵐。ベールが1点に標的を絞ってフルバーストを当てている。

 

「このために、私達がいたというわけですわね……!」

「クリスタルは壊します!ミズキさんは、“こっち”なんですッ!」

 

ネプギアがバーストモードとなってみんなが開いた窪みにビームサーベルを突き刺す。再生よりも早くシェアクリスタルが削れ、少しずつ、少しずつではあるがアデュルトの本体に近づく。

だがそれでも未だアデュルトへは遠い。さらに一点に集中したせいで周りは再生が進み、出口が塞がってきてしまっている。

 

「くっ……!」

「ネプギア、私が行くわ!」

 

ネプギアがビームサーベルを突き刺した場所に3本の太刀が突き刺さる。ネプギアが離れた瞬間にネプテューヌが手を伸ばし、自らクリスタルの中に飛び込んだ。

 

「お姉ちゃんっ!」

「ミズキを、呼び戻す!この夢の中なら、それが叶うはずなの!」

 

夢のフィールドの力は何もミズキやビフロンスだけに及ぶものでは無い。この空間の中ならば、信じられないほどの強い想いがあるだけで誰だって夢が叶う。

 

「ねえ、ミズキっ!こんなのがアナタの夢なわけがないでしょっ!?」

 

こんな世界は、ミズキが望むものではなかったはずだ。誰もが泣き喚いた先にある平和なんてミズキが求めたものではなかったはずだ。

8人の女神の想いが1つとなる。

巨大なシェアクリスタルにはヒビが入っていき、降り注ぐシェアの雨が止んだ。

だがそれは外側からだけの力。シェアクリスタルを割る内側からの力……見守ることしか出来なかった魂が歪んだ願いの形を砕いていく。

 

《な、んで……ッ!?今のアンタが手放さなきゃ……私を納得させることも、アンタが望むものも、失ったものも、全部全部手に入れられたのに……ッ!》

《みんなが……呼んでいた……!そして僕はただ失ったわけじゃない……そのことに、今!気付いたッ!》

 

シェアクリスタルは粉々に砕け散る。

弾かれるように吹き飛んだ2人は地面にゴロゴロと転がり、お互いに変身が解けた。

 

「っ、は……!ぐっ!」

「うっ、はあっ、はあっ、チッ……!」

「ミズキ!」

 

女神達が倒れたミズキに駆け寄る。しかしミズキは立ち上がって女神達を腕で抑える。

 

「ありがとう……けど、まだ、終わってない……!」

「ヒヒッ、アンタは今たくさんの人を殺したわ……今まで死んだ人、これから死ぬ人……!神になるチャンスを逃したせいで!」

「だからと言って、僕はこの世界を否定する気は無い……!」

 

2人が夢のフィールドから得られる力を得て変身した。

夢のフィールドの恩恵を受けている状態ならば意思があるだけで倒れることは無い。ならば、勝負を決めるのはお互いの意思。どちらかが先に負けを認めるかどうか、互いの想いのぶつかり合いだ。

 

「争いが生まれる世界も……誰かが悲しんで、例え死んだとしても……!ここが!僕の、僕達の次元なんだ!」

「人が積んだものが争いと死なのなら!壊さなくちゃいけないでしょう!」

「それでも!人が平和を求めて積んできた時間は間違いなんかじゃない!」

 

アデュルトがビームサーベルを持ち、イブリースもビームサーベルを握った。

 

「人が持ち続けた希望も……いつも背中にいる絶望も!人が重ねた未来を決めるものじゃない!」

「絶望を知りもしないアンタがッ!」

「人は、手を繋ぐ人のために戦う!そこから悲劇が生まれたとしても底にあるのはいつも同じ、愛だった!」

 

2人の剣がぶつかり合う。

弾き合い、叩き合い、ぶつかり合う。

 

「違う!誰かを愛することで戦いが起こるなら、愛なんて消えればいいのッ!誰かを愛する余裕なんてなくなるのが絶望!」

「でも、君の根底にも愛がある!」

「何を……ッ!」

 

イブリースがアデュルトの腹に蹴りを入れる。後退したアデュルトにビームサーベルが振り下ろされる。

 

「もらったァッ!」

「怯むな!受け止めろ!」

「う、あああっ!」

 

アデュルトはすんでのところでイブリースのビームサーベルを受け止めた。

 

(今の声は……!ウソよ、私が殺したはずッ!)

「今の声……ついさっき聞いた……ばっかりの……」

「あの、男の人の声……」

 

ノワールとユニが周りを見渡すが、人影はない。

 

「終わらせたいんだろ!?人が争って悲しむこの世界を!だったらそれは紛れもない、愛だ!」

「違う!人に感情など存在しない!感情を武器にするアンタ達と私は違うッ!」

 

アデュルトがビームサーベルを跳ね返し、イブリースに切りかかる。

 

「そこにゃ、終わらせてやるにゃぁっ!」

「っ、くうううっ!」

 

間一髪でイブリースは身を沈めて避けたが、掠った装甲がほんの少し融けた。

 

「何やってんの!次は決めるわよ!」

「うおおおっ!」

「聞いた声ばかり……でも、あの人たちは死んだはずですわ」

「偽物さんたち……?ううん、違う……」

「でも、確かに声は聞こえるわ!ハッキリと!」

「……何が起こってやがる」

 

ビームサーベル同士が何度もぶつかり合うが、押されているのはイブリースだった。

 

「アンタ、なんなのよ……!」

 

アデュルトは1人なのに、この感覚は……!

 

「アンタは誰と一緒に戦ってんのよっ!?」

 

アデュルトの後ろに無数の人を感じる。それは特別な才能などなくても感じられるほどの巨大な、しかし1つ1つは微細なもの。

 

「違う、違う違う!生の始まりは化学反応に過ぎない、人間存在はただの記憶情報の影に過ぎない、魂は存在しない、精神は神経細胞の火花に過ぎない、神のいない無慈悲な世界で人はたった1人で生きなきゃいけないッ!」

「それでも……!」

「罪も咎も憂いもない世界を私が作る!罪がない世界は苛まれない世界!咎がない世界は怯えない世界!憂いがない世界は恐れない世界!そう、たとえその数瞬先に死があろうとも!」

 

イブリースが強くビームサーベルを叩きつけるとそれを受けたアデュルトが数歩後退する。

 

「君は!初めて絶望を見た時、絶望に見惚れただけではなかったんじゃないのかっ!」

「勝手に買いかぶらないで!私はあの時、絶望に憧れた!何もかも終わらせる圧倒的な力に!」

「でも、絶望に苛まれた人たちを解放してあげたいとも、そうは思わなかったのかっ!?」

「思わないッ!」

 

イブリースがアデュルトにビームサーベルを叩きつけていく。後退するアデュルトとイブリースで鍔迫り合った。

 

「ええ全く、強がりも何もなく心の底から何も思わないわ!」

「どうやらホントみたいね。やっぱ相当ネジ飛んでるわ、この女」

「うるさい!死人は黙ってなさいよっ!」

「この歪み……もうどうにもならない。ならば、どうするか?」

「アンタは不幸だっただけにゃ。下手したら私達がこうにゃってたかもしれにゃいしね」

「私が不幸!?何処が!?むしろ幸運よ、世界を救いたいと思った女は救える手段を偶然にも手に入れた!」

「……隣に、誰か1人でも……!」

「なに……!?」

「君が、手を繋いでいる人が1人でもいれば!それだけで良かったのに!」

「何をッ!」

 

アデュルトがビームサーベルを弾き返した。

 

「ッ……!」

「アナタの奥底にも愛がある、でもそれは独りよがりですわ!勝手な善意の押しつけ、絶望を強いてくることからもわかります!」

「愛じゃない!私は、私のために……!」

「それも愛だよ……!自分から自分に注がれる、愛……!」

「それにアンタは絶望絶望言いながら、自分1人だけは本気で絶望に浸かろうとしたことなんてなかった!自分が良いと思った絶望を自分だけじゃなく世界に広めようと思っていた!」

「戯言をッ!私は平和が見たいだけ、その手段として人の絶望を選んだだけのこと!」

 

アデュルトとイブリースのビームサーベルが弾かれ合い、その隙にお互いが拳を顔に叩きつける。

数歩下がった2人は怯まずすぐに前に進む。

 

「なんてことないわよ、アンタもやっぱり人だったってわけ!周りに人がいないだけの、ただの人よ!」

「大切な人が1人でもいれば、アナタはそのために平和を目指したはず!大切な人が苦しむ平和なんて選択肢はなくなったはず!」

「はず!?架空の話はやめなさいよ、有りもしない可能性をつらつらと!大切なのは結果、私はこういう私なの!」

 

頭をお互いにぶつけ合い、反動で仰け反りながらもビームサーベルをぶつけ合う。

 

「人は人と手を繋いで平和を目指していました!例え絶望に飲まれても、手の温もりが希望を思い出させてくれる!絶望だけでも、希望だけでもないんです、人が紡ぐ未来はそれだけじゃないんです!」

「それで!?じゃあアンタ達はいつ平和にできるのよ!?何年何月何日何時何秒!?そしてそれはどれだけ続く!?また争いの歴史、また繰り返す、同じ同じ戦いを!」

「いつか、人がみんなと手を繋げた時……分かり合えた時!その手が繋がれている限り、人は争いなんて起こさない!何もかも許しあって、理解し合えるの!」

「そんなの私は待てないッ!私は、私は待ちきれない!今すぐ、この私の手のひらに欲しいの!出来ないでしょ、でも私にはできる!」

「僕は成す……!どれだけ時間がかかっても!」

 

アデュルトの後ろに一瞬、無数の人影が見えた。あの次元も、この次元も、ミズキを知った人であれば全員が。死んでいても、生きていても、意志の力が力となるこのフィールドの中で存在を示している。

全員が、ミズキの背中を押す。

 

「ーーーーー!」

 

イブリースのビームサーベルが手から離れ、クルクルと宙を舞う。

 

「ーーーー私の意思がッ……!」

「ッ!」

「アナタに劣ったって言うのッ!?」

「でりゃあああああッ!」

 

アデュルトのビームサーベルがイブリースの胸を切り裂く。

深く深い傷をイブリースは負って、決着がついた。


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