超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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死してなお遺るもの、死してまだできること

呆然としていたミズキの後ろに暖かな感覚があった。

 

「別に……そんな泣くほどのことじゃないでしょ」

 

目の前で起こったことを受け入れることが出来ない。そんな最中に後ろから聞こえる声に振り向くことも出来ない。

 

「私は正直……悔しいけど、アイツらに比べれば優先順位低いし。アンタの助けになったって実感もない」

 

涙が溢れ出る中、その温もりが離れていく。行かないで、とさえ言えない。

 

「でも、まあ……私も最期に希望を繋いだわけだし。後悔はしてないわ。これであの女に一泡吹かせられると思うと、むしろやりきったーって感じ」

 

その温もりは指先だけになる。

 

「まあ……あと、なにかしら。可愛い私からありがたいアドバイス。あんまり熱くなって周りのこと見失っちゃダメよ。アンタ時々そういうところあるし」

 

そしてその温もりはミズキの背から完全に離れてしまう。

 

「私もアンタを見守ってるわ。あ、あと子供たちの写真!アレはツケだからね、責任もって世界中にたくさんの子供の笑顔をつくること!」

 

謝りたい、謝りたいのに口は動かない。

違うじゃないか、君がいなくなっちゃ……もう笑顔は見せられないじゃないか。君が欲しがっていた笑顔はこの戦いが終わった後に嫌という程見るんだ。だから、こんなところでいなくなっちゃダメじゃないか。

 

「……永遠の別れじゃないわよ。アナタにはわからないだけ。私は……いえ、私もそばにいるわよ」

 

呼び止めたい、呼び止めたい、このまま、このままここに……!

 

「アブネス……っ!」

「私が繋いだ火、絶やすんじゃないわよ!じゃあね!」

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《許さ……ない………ッ!》

《ヒヒヒヒッ、怒った?そう、それでいい。これでアナタも本気の本気ね》

《っく、ぐっ………ッ、アブ、ネスを……!》

 

アデュルトの背後からデファンスが現れる。次元フィールドを消したことで役割を終えたはずの2基のシェアクリスタルのファンネルは粉々に砕けてアデュルトの後ろに集まっていく。

まるで輪のように小さな結晶が集まり、円形に展開。そしてアデュルトの体は真っ白な光を放ち始める。

 

《返せェェェェェェッ!!!》

《ヒヒヒッ♪》

 

イブリースに向かっていくアデュルト。だがやはりスピードは優れず、イブリースにいなされてデブリにぶつかる。

 

《うっ、ああああああああっ!》

《ヒヒヒ、絶望した?まだしない?じゃあ次は誰を殺してやろうかしらね!?》

《お前ぇぇぇぇっ!》

 

 

「システムと……地図。この場所で抜き取ったシステムか……」

 

中身を確認したジャックはデータを全て自分の中で保存して地図が示す場所へ向かおうとする。

 

「イストワール」

「…………」

「イストワール!」

「あ、えと、あ、その……」

「ショックなのはわかる。だが今はアイツが遺したものを最後まで繋げなければならない」

「でも、だって、アブネスさんは……!」

「泣いてる暇はない!俺達は後でいつでも泣けるんだ……!」

 

強引にジャックがイストワールを引っ張ってコロニー内部へと向かっていく。戦域を避け、慎重すぎるほど遠回りをして2人はいなくなる。

残された女神たちは各々アブネスの死を感じながら2人の戦いを眺めるのみ。あの中に割って入れるほどの力はもうなかった。

 

《ふっ、うウッ!》

《へえっ、それでぇっ!?》

 

組み合ったアデュルトだったが膝蹴りを何発も貰ってしまう。それでも意地で手を離さないアデュルトだったが、イブリースの胸が光る。

ビームは食らえない、手を離してすんでのところで避けたアデュルトが再び殴り掛かる。

 

《アブネスは、アブネスはッ!》

《大切だった?大事だった!?そうでしょうね、アナタにとっちゃさぞ大切で大事な女の子だったでしょうねぇっ!》

 

カウンターの蹴りを食らって吹き飛ぶアデュルトにイブリースの髪から放たれるレーザーが襲いかかる。

 

《ぐう、う、ううっ……っ!》

《そうでしょう?こうやって命が消える……悲しいわ、ええとても。悲しくて悲しくて……ふふっ、予想通りの悲しみに笑いが出てくるわ!》

《アブネスを、アブネスを……っ!どこまで侮辱するつもりだァァッ!》

 

腕のシェアクリスタルの装甲はレーザーの直撃にも耐え切った。作り出したシェアの刃をイブリースに投げつける。

 

《悲しいからこそ、この悲しみは残り1度で終わらせるべきだと思わない?》

《だからこそ、2度とさせないべきなんだろ!?》

《違う違う。アナタが言うべきは、べきだったのに、よ》

 

容易く弾き、今度はイブリースが擬似ファンネルを手で掴む。そのまま全力投球して来た擬似ファンネルをアデュルトは掴んで握り潰した。

 

《未完成な愛と信念を振りかざして……その犠牲にあの子はなったんじゃないの?》

《違うっ!お前さえ……お前さえいなければ!》

《それは私のセリフよ。アナタがいなければ、アナタの次元で平和は訪れてこの次元まで悲劇は広がらなかったわ》

《平和は悲劇じゃない……!涙の上に成り立つものはッ!》

《平和は悲劇よ。でも平和じゃない世界はもっと悲しいわ》

 

まるで聖職者のように胸に手を当てるイブリース。その髪だけは自在に動いてレーザーを発射してくる。

 

《っ、く……そぉっ!》

《絶望の中にある安らぎ……私はそれを見た。何も見ていないアナタとは違うの》

《僕だって……僕だって見たんだ!暖かな光……何度も、何度も!》

《その光は人に力を与えてしまうわ。戦いをするための力を、ね》

《違う!戦うための力じゃない、その力の使い方は間違っている!》

《現にアナタもその力を使って戦ってきたクセに》

 

デブリの中を縫うようにして動いてレーザーを避け続ける。レーザーはデブリに遮られてしまうが、イブリースは時折胸からビームを発射してデブリごとアデュルトを焼き払おうとする。

 

《かかってきなさいよ。アナタの掲げる希望を信じる根拠は何?1つ1つ、芽を摘むように潰してあげるわ》

《僕は……!》

《結局アナタのしたことは間違いだらけ。人の過ちの塊だけあるわ、あっちへウロウロこっちへウロウロ。その寄り道回り道のせいで何人の人が無駄死にしたの?》

 

イブリースが動き出した。アデュルトの進行方向に向かい、デブリの影から現れてアデュルトを殴りつける。

 

《ぐっ!》

《ヒヒッ、アナタの希望は人を殺すのよ》

 

そしてアデュルトの首に手を当ててデブリに叩きつける。そして首を掴んでアデュルトを片手で投げ飛ばす。

 

《アンタには失望しっぱなし》

 

イブリースの髪から放たれるレーザーがアデュルトの装甲を焼いていく。堅牢なシェアクリスタルも何度もレーザーに焼かれれば砕けてしまう。

 

《アンタを見ていたのはアンタが強かったから。理論じゃない、感情で迫るアナタ達は強かったわね》

 

イブリースが持つ大量の擬似ファンネルがアデュルトに投げつけられ、その装甲に突き刺さる。

 

《でもアンタは随分弱くなった……もう眼中に無いわ、ミズキくん?》

《う、ああああっ!》

 

前に突き進んだアデュルトがいなされ、再びデブリにぶつかる。振り返った瞬間にイブリースが拳を顔面に叩きつけてくる。

 

《ぐっ、ああっ!》

《これで私の目に映るのは平和だけ……》

 

そしてナックルガードが展開し、槍が撃ち込まれる。槍はアデュルトの片目を貫通し、頬や額を掠る。

 

《ぐあああああああっ!?》

《バイバイ、疫病神さん。アナタもあの子と同じ死に方がいい?》

 

そして槍の中の爆薬に火がつく。

 

《答えは聞かないけどね》

 

閃光がアデュルトの頭蓋の中で弾ける。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

アレは昔……本当に昔のこと。

ふと、シルヴィアに聞いたことがある。

 

「人って、死んだら何処に行くんだろうね?」

「天国か地獄じゃないの?」

 

特に気をかけた様子もなくシルヴィアは携帯ゲーム機を弄って即答した。

そんなことは分かりきっているけど、でも僕は納得出来なかったんだ。

 

「だって、死んだら幽霊になるんでしょ?」

「未練があればなるんじゃないの」

「じゃあ僕がここで突然死んだとしたらさ」

 

そこでシルヴィアはようやく携帯ゲーム機をスリープモードにしてこちらに振り向いてきた。

 

「凄い未練が残ってるから、幽霊になるのかな」

「アンタって霊感ある?」

「いや、多分ないけど」

「じゃあ確かめようがないじゃない」

 

素っ気なく言ってシルヴィアは冷蔵庫からジュースを取り出してきた。キャップを開けると炭酸が抜ける音がする。

 

「んっ、んっ……ぷはぁ。あ、でも……なんで幽霊は女湯に出てこないのかって話はあるわね」

「女湯?なんで?」

「覗き放題じゃない。裸」

 

苦笑いしか出来なかった。そこそこ疑問なんだけどな……いや、面倒臭い質問なのかもしれないけどさ。

 

「じゃあシルヴィアは死んだら男湯に入り浸るつもり?」

「嫌よそんなの。女湯にいた方がマシだわ」

 

うげぇみたいな顔をされた。

一応聞くけどその理論言い出したのシルヴィアだよね?

 

「まあ、性欲より大切なものはあるでしょう。そこに幽霊さんはいらっしゃるんじゃないの?」

「んん……」

 

でも、そうだとすると……。

 

「夫が早死にした妻がさ。お婆ちゃんになって死んだとするじゃん?」

「そうね」

「普通は夫と妻が揃ったから2人揃って天国に行くだろうけど……普通は子供が心配じゃん」

「そうかもしれないわね」

「だから2人は子供を見守る幽霊であり続ける……でも、その子供も孫が心配で残り続けると思うんだ」

「ん〜」

 

いつの間にかシルヴィアが冷蔵庫から新しく引っ張り出したお菓子を齧っていた。

 

「……真剣に聞いてる?」

「聞いてるわよ〜。いいから続けなさい」

「む……。……まあ、それでさ。その連鎖は永遠に続くから……結局天国とか地獄に行く人はいないんじゃないかな?これまでも、これからも」

「そんじゃ……私のパパとママも私を見守ってるってことになる?」

 

シルヴィアがこちらを見つめてきていた。

……シルヴィアの両親はシルヴィアが拉致される時に死んだ。その時の事はあまり話さないし、聞く気もないけど……。

 

「そうじゃないかな。僕なら見守るよ」

「……ふ〜ん」

 

シルヴィアはお菓子の袋を閉じた。

 

「じゃ、私が死んだらアンタが死ぬまで見守ってあげるわよ」

 

そしてニヤッと笑った。

 

「アンタにはママもパパもいないんだから、見守ってる人が少ないでしょうしね」

 

そしてシルヴィアはお菓子とジュースを冷蔵庫に戻しに行った。

その時僕はシルヴィアの背中にこう答えたんだ。

 

「母親も父親もいないけど……家族はいるよ」

「義兄弟ってヤツ?盃でも飲み交わす?」

 

茶化してシルヴィアはそう答えた。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

《………あら?》

 

イブリースの槍はいつまでたっても爆発しない。夢のフィールドをフルに使った世界で不発はありえない。故障もありえない。

アデュルトが寸前になにかしたか……そう思った時、アデュルトの後ろに出来ていた小さなシェアクリスタルの環が強く光り輝き始めた。

 

《希望、じゃない……ましてや、絶望でも……ない……!》

 

アデュルトの後ろのデブリが消えていく。

イブリースが異常に気付いて離れようとするが、動きは鈍い。

この異状は……夢のフィールドのものか!?

 

《ッ、誰が!》

《人と人が手を繋ぐ、温もり……それが、きっと……!》

 

アデュルトの後ろにシェアクリスタルの薄い膜のようなものができる。それはまるで蝶の羽のような形で、そこから放たれた推進力でアデュルトは一瞬でアデュルトに迫る。

 

《世界から、戦いを失くすんだァァッ!》


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