《ジョー……カレン………?》
ミズキが動きを止めてそれだけの言葉を絞り出す。
ネプギアもネプテューヌも動きを止めていた。
呆然としていた。目の前の現実が受け入れられない……だが次の瞬間にはもう、胸の中に業火のように湧き上がる感情があった。
《アンタ達はァァァァァァッ!》
《うわあああああああっ!》
アイオスとVsが感情を体現するが如く熱く燃え上がっていく。
《極限進化ァッ!》
アイオスの形が変わっていく。
機動力と防御力が優秀なゼノンのボディにアイオスの翼、そして肩にはエクリプスのブラスターカノンと両手にヴァリアブルサイコライフル。
全部乗せ、カレンとジョーの力を受け継ぐフェースの名は
《ブースト"ゼノン"!》
Vsも体の節々が赤くなり、再び極限状態へと進化する。
だが、体の奥から湧き上がる怒りを抑えきれないのはネプギアも同じだった。
「なんで……アナタ達も……ッ!」
出力1000%。
〈FX burst mode operation〉
「うおあああああああっ!」
ネプギアの体が青く輝き、全身からビームサーベルを吹き出す。怒りが振り切れたように血走った目でEXAを睨みつけるネプギア。
EXAも少しも目をそらさずにネプギアを睨みつけ、宙を蹴って飛び出した。
対してネプテューヌは激戦の代償を目にし、有り余るほどの怒りと憎しみと悲しみをぶつけられても怯まなかった。
ただ決意を持った目でVsを見つめ、視線をぶつける訳でも睨みつけるでもなく……ただ、受け止める。
「私が……背負うから」
《ああああああっ!》
「みんなで……背負うから……!」
《当たれ当たれ当たれ当たれ、砕け散れぇぇっ!》
「るああああっ!」
EXAのブラスターカノンをビームサーベルで弾きながら突進して切りかかる。
EXAは咄嗟にヴァリアブルサイコライフルを連結、余った手でビームソードを引き抜いてネプギアと鍔迫り合う。
「許さない、偽物の分際でッ!」
《アンタ1人の力でッ!私達4人に……!》
ネプギアがEXAに蹴飛ばされ、間合いが開く。その瞬間にEXAのビームサーベルは最大出力になり、その長さでネプギアに叩きつけられる。
《勝てるわけがないの、よォッ!》
「う、アアアッ!」
ネプギアはビームサーベルで受けるが弾き飛ばされる。だがすぐに体勢を直し、愚直なまでに突進して立ち向かう。
「アナタ達が傷つけてェッ!」
《違う!アンタ達が先に傷つけたッ!》
火花を散らすビームサーベル。再び間合いが離れ、ネプギアにクロスバスターモードの銃口が向けられる。
強力な弾頭はしかしネプギアの動きについていけずに宇宙空間に消えていく。
《私達が、アンタらにいつ何をしたッ!?》
「どっちがッ!植え付けられたような薄い記憶でッ!」
ネプギアをアリスファンネルが包囲するが、ネプギアの近くにもCファンネルがいた。
Cファンネルがアリスファンネルに突撃するが、アリスファンネルはワープを多用して次々とかわす。
《私は、アンタが憎いッ!》
「私も、アナタを殺したいッ!」
弾き合い、ぶつかり合う2人。それはまるで、決して包み合うことのない2人の感情や言葉のようだった。
「アナタが憎くて憎くて……!だからッ!」
《私はアンタを殺す……!殺す殺す、殺してやるーーーーッ!》
ぶつかり合うネプギアとEXA。
しかしそれと同時にーー常人には見えていないがーー2人の思念もぶつかり合っていた。
「容赦はしない……ッ!」
《噛み付いてでも、アンタだけはァッ!》
2人の手と手が組み合う。そして2人の思念も手を組みあってぶつかり合った。
EXAの膝蹴りがネプギアの腹にめり込む。そして怯んだネプギアの顔面にパンチをすると、思念もそれをなぞるようにネプギアの顔面にパンチする。
「だああああっ!」
《うがああああっ!》
ネプギアのビームサーベルでの突きがEXAの顔を掠める。アンテナの突き出た部分が消え、顔の半分が焼け焦げる。
だがEXAも代償にネプギアの肩にビームソードを突き刺した。
額と額を付き合わせて睨み合う2人。そのせいか、お互いはお互いの顔が良く見えた。
《なに、泣いてんのよ……!泣きたいのはこっちよォッ!》
「アナタだって、泣いてるくせにッ!」
ネプギアの目からは涙が滲み出ていた。EXAの鉄仮面からは涙は流れないが、思念は宝石のような涙を散らしている。
《2人が……やられたらっ!そりゃあ泣くわよ、私達は人間だッ!》
「アナタ達が先に仕掛けたからでしょうっ!?」
《アンタ達よ、先に仕掛けたのはッ!》
「アナタが、みんなを傷つけて……!こんな理不尽っ!こんな理不尽と戦って、傷ついて……!だから泣く!」
《もう後戻りは出来ない……!アンタと私に何の誤解があろうと、分かり合える可能性があっても!私はアンタが許せないッ!》
「私は、私はッ!」
ああ……やっぱり、偽物だ。この人達は。
きっとミズキさんなら今ここで許せていたんだ。悔やんで、涙を流して、傷ついて……それでも今ここで誤解があることに気付いたなら謝れたんだ。
きっとミズキさんの仲間も同じはず。だってミズキさんと一緒に生きて、ミズキの大切なところを作った人達なのだから。
でも、偽物だとしても……そこに心があるのなら。心なんてあるのかどうかすら分からないけれど、今ここで怒って、悲しんで……その感情がある人がここにいるのなら。
私は……私は………。
「私はそれでも、許したいっ!取り返しのつかない状況なんてない、どんな時だって私は……!この夢を、願いを、諦められないッ!」
《こんな、もう今更ぁぁぁっ!》
「憎しみの連鎖は、ここで終わらせます……!アナタも、解放するッ!」
《私は……!私はそれでも、アナタを殺したいッ!》
EXAのブラスターカノンがネプギアに向けられる。
《カレェェェンッ!》
「っ、わあああっ!」
胸にブラスターカノンを食らったネプギア。だが吹き飛びはせず、両手のビームサーベルをブラスターカノンに突き刺す。
《っ、ジョォォォッ!》
「うわああああっ!」
離れてビームソードを振るが、ネプギアは今度は弾き飛ばす。EXAの手からビームソードの柄が離れていく。
「私は、憎しみも怒りも悲しみも!全部全部超えていく!」
《勝手に1人で納得してるんじゃないわよ!仲間の傷を、死を、そんな簡単に受け入れられるわけがないッ!》
「それでも!人は人に優しくできるはずなんですッ!」
《出来ないわよそんなことっ!現に私が出来ない!私はアンタが殺したくて仕方ないッ!》
「だから私が示すんです!例え、どんな相手でも許せるって……!分かり合えるんだって……!」
《何よりも大切な人達を傷つけた女の言うことかァァァッ!》
「傷つけただけじゃない!今までたくさん傷ついたからこそのッ!」
ネプギアのビームサーベルにEXAは拳で応戦する。ゼノンのボディを基部にしたEXAはビームサーベルが当たったくらいでは壊れない。
《アンタは、目の前で大切な人が死んでも同じことが言えんの!?》
EXAがネプギアを殴り飛ばす。吹き飛んだネプギアにアリスファンネルが追撃のビームをぶつけていく。
「んっ、くっ……!」
《アンタだって、目の前で人が死んだらそんなこと言えなくなるのよッ!》
ファンネルが照射形態になり、太いビームを浴びせてくる。ネプギアはそれを避けながらデブリをビームサーベルで突き刺し、アイオスに投げつけた。
《所詮、子供の夢よ!出来もしないことを叫ぶ子供とおんなじ!この痛みも知らないでッ!》
EXAは拳でデブリを砕いてしまう。しかしその背後からネプギアが迫っていた。
「痛みは……嫌という程感じた……!」
たくさん傷ついて、生きているのか死んでいるのかわからない時もあって、失いかけた時も、忘れていた時もあった。
「出来もしないって、何度も何度も思い知らされた……!」
何度も負けて、1人では勝てなかった時もあって、世界は自分の思い通りには決してなってくれない。
「それでも……私はそれでも……!」
再びネプギアとEXAがぶつかり合う。しかし今度はEXAの腕が高熱で溶け始めていた。
「もう私は迷わないからッ!」
ネプギアがEXAを蹴飛ばす。
そしてネプギアの体から吹き出るビームサーベルがさらに勢いを増した。
「はあああああああっ!」
《アンタは間違ってないかもしれない、けど……!》
EXAの両手が熱く燃え上がる。超高熱の溢れる炎を封じ込めた両手はさらに眩く輝き始めた。
《でもッ!私はアンタを認めない……!認められないッ!みんなのために、私のためにッ!》
「
《私のこの手が真っ赤に燃えるゥゥゥッ!》
ネプギアは1000%の出力からさらに出力を上げていく。全身から吹き出すビームサーベルであっても体への負荷は抑えられず、ネプギアの体に大きなダメージが蓄積していく。
対してEXAも両腕に込められた熱量はいくら頑強なゼノンの装甲であっても耐えきれるものではなくなっていた。ひび割れ、いつ瓦解するかわからない。
《勝利を掴めと、轟き叫ぶゥゥゥッ!》
「はああああああっ!」
ネプギアが羽ばたくように両手で勢いをつけてEXAへと真っ直ぐに手を伸ばして突進。EXAも両腕を前に出してネプギアへぶつかる。
(お願い……ジョー、カレン……!私に力を貸して……!)
そして2人は正面衝突。
互いに体を壊しながらも先へ進み、互いを飲み込もうとする。
ネプギアのビームサーベルがEXAの手に押され始めた。EXAの壊れ始めた腕はそれでも真っ直ぐに進み、ネプギアの目の前で想いを爆発させるべく進む。
《この手は私だけの手じゃない……!ジョーとカレンも!》
「私は、もう誰も泣かないためにッ!」
だがネプギアのビームサーベルもまた勢いを増す。もう腕が痺れ、感覚がなくなっても……!
《私はアンタを倒すッ!》
「私は、アナタもこの先へ連れていく!」
《ッ!》
EXAの手が砕けた。そのままネプギアのビームサーベルは腕さえも砕き始めていく。
「私が、私がアナタに未来を見せる!」
そしてそのビームサーベルは腕を貫き、肩までも突き刺した。
「未来を見ることの出来なかった、未来のために託した、アナタ達のために!」
《アンタは……っ!》
「一緒に見届けるんです……みんなで作る、未来を……!」
その瞬間にEXAの両腕に込められていたエネルギーが暴発した。抑え込められ、制御すら不可能となった膨大なエネルギーはネプギアもEXAも巻き込んだ大爆発を起こし、まるで1つの星のように光り輝いた。