「ユニぃぃっ!」
絶叫したのはノワールだった。
ピクリとも動かなくなってしまったユニを見て激昴する。
「アンタぁぁぁぁ!」
ノワールがトランザムを使ってゼノンに急接近する。
しかし、その眼前にファンネルが立ちはだかる。
「ッ!」
《行かせないわよ、アンタもっ!》
ノワールの前にアイオスがいた。
ビームサーベルを両手に持ち、通す気は全くない。
「どきなさいよッ!」
《行かせないって言ってんのよ!》
ノワールがアイオスに切りかかる。
受けて立つアイオスだったが、そのアイオスの目の前でノワールは粒子になって消える。
(消えたっ!?)
ビームサーベルは宙を切り、後ろを振り向くとそこには形になっていく緑色の粒子。
《ジョー、抜かれた!》
《……お前も来るか!》
アイオスがノワールを追いかけようとしたが、その前に今度はビームが飛んでくる。
「ノワールさんの邪魔はさせません……!」
《じゃあアンタを瞬殺してから行くわよ!》
ネプギアがアイオスを食い止める。
その隙にノワールはトランザムのスピードでゼノンの眼前にいた。
「叩き切るッ!」
《受けて立つッ!》
ノワールのGNソードⅤとゼノンのビームソードが何度もぶつかり合う。
何度も、何度も、何度もぶつかる中でノワールのスピードは高まっていく。
(この、粒子量は……!)
「ここで……終わらせる!」
さらにソードビットまで射出される。
しかし、ゼノンは恐ろしいことにソードビットとノワールの攻撃を片手でいなし続けていた。
「私が終わらせるッ!」
ノワールのGNソードⅤにソードビットが連結し、バスターライフルになる。
そしてそこに粒子を集中させ、ゼノンに砲口を向けた。
「夢なんかに負けてたまるかァァッ!」
《ぬうっ!》
「トランザムライザァァーーーーッ!」
クアンタの膨大な粒子量から放たれるビームの奔流がゼノンに向かう。
《この程度の斬撃ッ!》
ゼノンはビームソードの出力を最大にし、それをいなしてしまう。いなされた斬撃がデブリをいくつも焼き払って溶かし尽くしてしまう。
《ちょ、ジョー!アンタ!》
《離れていろ!》
「だあああっ!」
《はあああっ!》
超ド級の斬撃同士がぶつかり合い、弾かれ合う。
掠るだけでも飲み込まれて消えてしまうほどの嵐のようなビームサーベルと職人が作ったように薄く鋭いビームソードはお互いに折れもしないし負けもしない。
しかしそれだけの剣を作り出すのには膨大なエネルギーを必要とする。最初にそのエネルギーが切れかけたのはノワールの方だった。
「っ、のっ!」
《どうした……そこまでか!》
もう残り数秒と粒子がもたない。
ならばノワールに許されるのは捨て身の攻撃のみ。
「こんな悪夢なんかにっ!今のミズキに、アンタ達の夢は必要ないのよォォッ!」
《受けて立ァつ!》
横薙ぎに剣を振るノワール。もしゼノンが受け止めようともそれごと切り裂くつもりの文字通り全力を込めた斬撃だ。
「はああああっ!」
《身を捨ててこそ、生き残れる勝負も……あるッ!》
捨て身には捨て身。
ゼノンも防御をかなぐり捨てて剣をまっすぐノワールに向け、突進する。
ゼノンが先か、ノワールが先か。
しかしノワールの斬撃がゼノンの左腕を焼き始めた途端にその斬撃が止まる。ゼノンの突きはノワールの腹に深々と突き刺さっていたのだ。
「ノワァァァル!」
「ーーーー!」
《ぬううううあっ!》
腕が蒸発しようとも突進をやめないゼノン。ノワールはそのままデブリに叩きつけられ、その瞬間にトランザムも終わった。変身は解けていないが、GNバスターソードを手放してしまっている。
「逃げなさい!ノワール、ノワールっ!」
《これで終いだ……!》
ゼノンがビームサーベルをしまい、デブリに叩きつけられたノワールにさらなる連撃を加えていく。
旋風脚による回りながらの連撃。体の全身を痛めつけられ、玩具のように吹き飛ばされるノワールがかかと落としでデブリに叩きつけられた。
《俺のこの手が光って唸る……お前を倒せと輝き叫ぶ!》
もうノワールに抵抗する力はない。辛うじて変身を保っているだけのノワールはゼノンに首を掴まれた。
《シャァァァイニングゥゥッ!バンカァァーーーーッ!》
ノワールの至近距離でゼノンのシャイニングバンカーが叩き込まれる寸前だった。
「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……」
《っ、ぐっ!?》
ノワールの指先がクイッと曲がる。
それと同時にゼノンの背中から腹に抜ける衝撃。
「肉を切らせて骨を断つってことよ……!」
《きさ、ま……っ!》
ゼノンの腹に突き刺さっていたのはノワールが手放したはずのGNバスターソード。
GNソードだけでは操作できなかった、GNビットが装着されていたことによって遠隔操作が可能になっていたGNバスターソードだからこそ出来たのだ。
《ッ、パァァァァイルッ!》
「させるかっての……っ!」
ノワールがグッと手を握って力を込めるとGNバスターソードにまとわりついていたGNソードビットが炸裂するように分離する。
《がっ……!》
腹からビットが分離したせいでゼノンの体が真っ二つに切り裂かれる。
《貴様の……!覚悟が上をいったか……!》
「ふふっ、ざまあ、み、な……さ………」
ゼノンは沈黙したが、ノワールもまた目を閉じる。ノワールの変身が解け、今度こそノワールも戦闘不能となってしまう。
《ッ………!》
そしてそれを見ていたエクリプスが絶句する。
《ジョォォォーーーーーッ!》
エクリプスは半分パニックになって真っ二つになったゼノンの元へと向かう。
(まだ、まだ間に合う……!真っ二つになった程度でジョーが死ぬわけない……死ぬもんか!)
しかしそのエクリプスをドラグーンが取り囲む。ビームの雨あられを避け、それを発射した主を見てギリリと歯軋りした。
《邪魔を……!》
エクリプスが両手のヴァリアブルサイコライフル、肩のブラスターカノン、そしてカルネージストライカーを一気に展開する。
《しないでぇぇぇっ!》
エクリプスのフルバースト。
それはベールだけでなくそばにいたロムとラム、ブランまで巻き込むほどに範囲が大きい。
「っ、ぶねぇっ!」
「適当に撃ちすぎだよぉ……!」
「っ、もう、馬鹿みたいに!」
「油断しないで!すぐ来ますわよ!」
さらにその照射が終わった後に膨大な量のミサイル。それを発射するやいなやエクリプスはすぐ逃げるようにゼノンの元へと向かう。
「私が食い止めますわ!ブラン達は攻撃の準備を!」
ベールの中で何かが弾け、SEEDを発現する。
襲いかかるミサイルがスローモーションに見えるほどの集中力でドラグーンの狙いをつけ、さらに魔法陣から顔を覗かせる無数のシレッドスピアー。
「こちらも!フルバーストッ!」
効率的にミサイルが爆発して霧散していく。
そしてベールのビームと槍がミサイルに届くまでにブランは羽をはためかせて羽ばたき、ロムとラムは集中を始めていた。
「私たちに……力を……」
「お願い……夢の中でも、届かせて……」
夢のフィールドの中の世界であっても魔力は届き、2人の周囲の温度を下げていく。そして2人はサテライトキャノンを構え、エクリプスに狙いを定めた。
《ジョー、ジョー……!お願い、死なないで……!》
エクリプスがゼノンの近くへと迫っている。
《ジョーが死んだら、私……!》
しかしその寸前で後ろからの反応。
《まだッ!?》
「余所見してんじゃ、ねえッ!」
咄嗟にエクリプスはライフルを捨ててビームサーベルを引き抜き、ブランの斧と鍔迫り合う。
《っ、邪魔って言ってんのがわかんないのっ!?》
「口調も素になって、随分余裕がねえなァッ!」
何度もビームサーベルと斧がぶつかり合うが、さすがにエクリプスがパワー負けしている。
《ジョー、フォロー!……っ……!》
無意識にジョーにフォローを求めてしまっている。射撃と格闘、二位一体のコンビネーションが乱されてしまい、そしてそれが回復する見込みももうない。
「お姉ちゃん、そこをどいてっ!」
「動きを止めて……!撃つよ……っ!」
《……!》
サテライトキャノンの砲口が自分に向いている。あの高エネルギー反応はカルネージストライカーに匹敵するレベルだ。
「よし!」
《させない……っ!》
ブランが離脱しようとするのを両手首を掴んで引き止める。ブランが近くにいれば、あの2人は撃つことはできないはずだ。
「てめえっ、離しやがれっ!」
《……っ、ジョー……!》
しかしこのままではいずれ振り払われてそこを狙い撃ちされる。
アイオスはネプギア、Vsはネプテューヌの相手をしていてこちらに来るにも時間がかかる。
《ジョー……ジョー……っ!》
「ん、のっ!」
ブランの斧を持った手が振り払われ、そのまま斧が肩に振り降ろされた。片方のブラスターカノンが潰れ、鎖骨のあたりまで斧がめり込む。
《あああっ!》
絶望的状況。その時カレンが助けを求めたのはシルヴィアでもミズキでもなく……それでもジョーだった。
《助けて……助けてよっ、ジョォォッ!》
《…………》
《お願い、立って!足がなくたって、そばに来て!でないと……ジョーがいないと、私……!》
《なぁぁぁにやってんだ、この、朴念仁ッ!》
その時、アイオスも叫んだ。腹の底から声を響かせ、ゼノンにひたすら呼びかける。
《アンタの彼女がピンチでしょうがッ!助けに行かずに、男を名乗ってられんのッ!?》
《ジョー、起きて!この程度で負ける君じゃないはずだ!》
たった3人の声援。すぐにでもかき消されそうで、でもどこまでも響くその声は確かに、ゼノンの……ジョーの胸を揺らした。
《カレ、ン………ッ!》
《それでこそよ、ジョー!》
《頑張れ、ジョー!》
《お願い、ジョー!私ごとでいいッ!》
「なっ、アイツ……!」
ブランが腰から下がなくなりながらも動き始めたゼノンに戦慄する。離れようとしたブランにエクリプスは投射式ジャミングシステムをぶつけた。
「うおああああっ!?」
ブランに闇色の球体がぶつかるのと同時にそれが爆発するように広がり、ブランの動きを止めてしまう。体がまるで痺れたように制御が利かなくなってしまっているのだ。
しかし至近距離でそれをぶつけたエクリプスもその影響を受けてしまう。エクリプスでさえもジャミングシステムに蝕まれ、動きが止まる。
《お願いジョー!立て!飛べ!》
ゼノンが引き抜くビームソードに再び最大出力のエネルギーが注ぎ込まれ、超極大の刀となる。
《切れーーーーーーッ!》
《があああああっ!》
全力で振り下ろしたビームソードがエクリプスごとブランを切り裂いた。
「が………っ!」
「お姉ちゃぁぁん!」
「味方ごと、なんて……!」
これは覚悟だった。
味方ごと撃てなかったためにロムとラムはエクリプスを倒せず、味方ごと切ったためにゼノンはブランを仕留めたのだ。
ブランは羽がちぎれ、デブリに倒れる。エクリプスも装甲が粉々に砕けながらブランとは別のデブリに倒れた。
(ありがと、ジョー……私を守って……)
エクリプスはそのまま動かなくなる。しかし、ゼノンはまるでカレンから元気を受け取ったかのように叫び出す。
《うおあああああっ!》
《ジョー、もう逃げなさい!後は私たちが……!》
《ジョー!?ジョー、何処へ行くつもりなのっ!》
ゼノンは背中のブースターだけで真っ直ぐに飛び、ロムとラムの所へと向かっていく。姿勢はぶれ、時折デブリにぶつかって転がりながらも死力を尽くして向かっていく。
「お姉ちゃんの仇……!」
「今度こそ私たちがトドメを刺すわ!」
しかしサテライトキャノンの発射までには間に合わない。狙いが定められ、引き金が引かれた。
「ツイン・アイシクルサテライトキャノン!」
「発射っ……!」
ゼノンを眩い絶対零度のビームが包み込む。宇宙空間を凍りつかせるほどのビームの前ではどんな装甲であろうと無力、それがボロボロのゼノンであれば耐えきるはずもなかった。
《ジョぉぉぉっ!》
しかしロムとラムは違和感を感じていた。いつも感じる敵がビームの奔流に飲み込まれていく感覚、それがない。
その原因はビームから飛び出した手によるものだ。
「えっ……!?」
サテライトキャノンから抜け出した手がロムとラムの砲台を掴んで握り潰す。
照射が消えた空間から出てきたのは全身が凍りついたゼノンだった。
《カレ、ンの……!》
動かないはずの左手すら動かしてロムとラムの胴体を握りしめる。
「な、なんなのよコイツ!?不死身なのっ!?」
「離して、離して……っ!」
ロムとラムが暴れるが、ちっとも手の力は緩まない。胴体が音を立てて締め付けられるほどだ。
「っ、離しなさいな!」
しかしベールがゼノンに向かい、その背中に槍を構える。
(……ん〜……ジョーはこれで5人……私は、ゼロか……)
だが移動するベールに静かに照準を向けている機体があった。
(それは、シャク、だよね……あの世で何言われるかわかったもんじゃない、し……)
カルネージストライカーがベールにロックオンした。
(ああ、あの世なんてあるか、分からないし……ほら、死ぬ時は……決めてた、言葉、が……)
「なっ……!まさか!」
ベールがそれに気付いて咄嗟に槍を投げる。エクリプスがカルネージストライカーを発射するよりも早くベールの槍がエクリプスの左胸を貫いた。
しかし怯まない。
ベールへの照準を微塵も逸らさずに、そして呻き声も上げずに引き金を引いた。
(愛してる……愛してるよ、ジョー……聞こえてる、かな……?)
「バカな……!」
ベールがカルネージストライカーの光に包まれて消えていく。しかしエクリプスも発射の衝撃に耐えられずに体が瓦解し始めた。
(すぐ、会いに来てね……)
そしてエクリプスはボロボロに破壊され、2度と動かなくなる。その目の光さえも消えた。
それに気付いたのか、気付いていないのか。ただその手だけは燃えてエネルギーを収束させる。そしてそのまま溜め込んだエネルギーを放出させずに爆散させた。
《命だけは……守り切る、と……誓ったァッ!》
「……!」
「そんなっ」
そのまま腕部ごと大爆発を起こす。
エネルギーの放出よりも暴発と言った方が正しい。しかしその分エネルギーは限界以上に注ぎ込まれ、そしてそれは爆発に変わってロムとラムの体を打つ。
ロムとラムは爆炎が消えた時には変身が解け、漂っていた。
そして腕部が爆散して腰から下はなくなり、全身が凍りついたゼノンもようやく動かなくなる。
その鉄仮面の上からはジョーとカレンの表情はわからない。
だが2人はその鉄仮面の下で笑っていた。偽物だろうと、夢の中だけの存在であろうと残ってる安らぎの記憶の笑顔そのままで。