超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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過去の再来

 

イブリースがアデュルトに剣の切っ先を向ける。

 

《人の想いが作り上げたガンダム。ええ、見事ね。そうそうできることじゃないわ。でも、全人類の想いを集めたとて、1人の天才が作ったガンダムに敵わない》

《違う!みんなの想いは……!》

《アナタの言う希望は何なの?ただひたすら救いを信じて足掻くことなの?あるかどうかも分からないモノに縋ってひたすらに?》

《それも違う!ほんの僅かな可能性を引き寄せることが、それができる力の源が希望だ!》

《じゃあ確実な可能性を私はアナタに叩きつけてあげるわ。絶望は間違ってる?どんな些細な可能性にも、或いは確実な可能性にも存在している。アナタは絶望を否定しているようで、その実ただの感情論に過ぎない》

《っ、僕は!》

《100%の物事に対して希望は生まれない。確定したことに希望も何も無いもの。だから私は100%の絶望……つまりアナタの死を全人類にプレゼントするわ》

 

イブリースが再び膝を曲げ、突撃のポーズをとる。

 

《ビフロンス!君は間違ってたんだ!》

《正解はこの先の戦いが決めるわ》

《でも!僕も間違っていた!》

 

言葉を聞き流してイブリースがアデュルトに突撃する。身を下げてかわしたアデュルトの後ろの岩になんの抵抗もなくイブリースの剣が突き刺さる。

 

《……フゥーー……》

 

そのまま剣を下げて切りつけるのを避ける。

強靭なはずの岩はバターでも切るかのように綺麗に断面を見せていた。

 

《ビフロンス!》

《何をいまさら》

 

ビフロンスがナックルガードを展開して岩に槍を突き刺した。

そのまま持ち上げ、アデュルトに岩を向ける。

 

《っ》

《エクスプロージョン》

 

岩が爆散し、凄まじい勢いで破片がアデュルトに飛んでいく。

そしてその破片に紛れてイブリースも突撃してくる。

 

《私の理論武装を打ち破る気なら……私以上の天才を連れてくることね》

《ぐっ、ああっ!》

 

ビフロンスの回し蹴りがアデュルトの腕にめり込んだ。吹き飛ばされるアデュルトにイブリースが追いついた。

 

《ビフロンス……!》

《私が正しいわ》

《違うっ!希望も絶望も、正しくはなかったんだ!》

 

イブリースの剣がアデュルトの胸に飛んでいく。

 

《無責任、ねッ!》

 

アデュルトの胸にイブリースの剣が当たる。

しかし、その剣は一瞬しなった後にへし折れて破片が遥か彼方に飛んでいく。

 

(折れた?いや、これは何かの衝撃?)

(ここだっ!)

 

2人とも予想外の事態に一瞬思考が止まった。

だがいち早く思考を取り戻したのはミズキの方だ。拳をイブリースの頬に叩き込み、エクスブレイドで切りかかる。

 

《ん、っ!》

 

拳は顎に入ってビフロンスの思考を揺らし、エクスブレイドがイブリースの肩のVPS装甲に当たって火花を散らした。

 

《なに、よっ!》

 

イブリースがエクスブレイドを持った手を払い除け、ナックルガードを展開して胸を思いっきり叩きつける。しかし、槍は装甲を貫いてもその奥のフレームに届いていない。

 

《ぐ、っ……!》

《エクス、プロージョンッ!》

 

確かに呻いたミズキを確認してから槍を爆散させる。

胸部から腹部にかけての装甲は砕け散り、確かに焦げて吹き飛んでいく。

しかし黒煙の中から見えた輝きは未だ曇らないシェアフレームの光。

その時ビフロンスはようやく気付いた。シェアフレームの光、その輝きははじめに変身した時と比べて段違いに明るい。

 

(不死殺しの武器が通じない……!?)

《………!》

 

煙の中から光るアデュルトの目が見える。

そしてさらけ出された胸部装甲が眩い光を放ち出した。

 

《っ、目くらまし、なんてっ!》

 

一時的にシェアクリスタルの輝きは目を潰すほどになり、イブリースの視界を封じた。

どんな人であっても視界を瞬間的に封じられれば狼狽える。戦闘経験の少ないビフロンスなら尚更だ。

そして狼狽えた間にビフロンスの胸に鈍い衝撃が走る。

 

《うぐっ、チッ……!》

 

地面に背中を擦り付けられ、しかしそれでもすぐに立ち上がり、目が未だに回復しないことを悟る。

 

(……でも、ね)

 

そして次元フィールドを展開した。

無敵のフィールド、これで目が回復するまでの数秒間を凌ぐ。

視覚の代わりに聴覚を研ぎ澄まし、自分の横と後ろで爆発音を聞く。その轟音から正面からの攻撃が次元フィールドによって受け流されているのがわかった。

 

そしてイブリースの両隣から空気を切る音。

それが次元フィールドにぶつかるだろうと思われる近い距離でその音が止まった。それと同時に閉じた目に再び眩い閃光が突き刺さる。

それと同時にイブリースの胸に強い衝撃がぶつかってきた。

 

《………っ!?》

 

声も出せずに完全に油断していたイブリースが後ろへ吹き飛ばされる。

そして岩石にぶつかって背中が強制的に反らされた。

 

《な、に……っ!?》

 

完全無欠、絶対無敵の次元フィールドを乗り越えた衝撃がイブリースの胸を強かに打ち付けていたのだ。何が何だか、わからない。

しかしそれも一瞬のこと、すぐに世界最高の頭脳が次元フィールドが破られた過程を導き出そうとする。

答えは案外簡単に見つかった。

 

(あのシェアクリスタルの塊……!)

 

《ッ、デファンス!》

《たああーーーーッ!》

 

再び胸に鋭い衝撃。

ぼやけた視界で懸命に自分の胸を見下ろすとそこにはエクスブレイドの切っ先が突き刺さっていた。

 

(VPS装甲で命拾いしたか……!)

《ここで!スパァァーークッ!》

 

VPS装甲の防御力のおかげで切っ先は装甲を貫いてはいなかった。しかしエクスブレイドでさえも眩く輝いて熱を放ち始めた。

 

《熱っ》

《分子結合を強固にするPS装甲!けど、分子ごと吹き飛ばす熱量ならば!》

 

エクスブレイドがVPS装甲に飲み込まれていく。

しかしイブリースもエクスブレイドが熱を放つ前にアデュルトを吹き飛ばそうとしていたのだ。

 

《っ》

 

ガンッという音と共に金属の槍が地面に打ち込まれている。そしてそれもまた一瞬の光を放ち、同時に爆風と破片がアデュルトを吹き飛ばす。

 

《くううっ!》

《っ、チッ!何が起こったっていうの……!?》

 

突如アデュルトの体から放たれた光。

ようやく元通りになった目で前を見ると、そこにはエクスブレイドを構えるアデュルトがいる。

装甲の合間から放たれる光は以前とは比べ物にならないほど眩しく、砕けた胸の装甲からは結晶化したシェアクリスタルが成長している。

そして今も装甲を下から砕きながらシェアクリスタルが外へ出ていこうとしていた。

 

《装甲が拘束具になってるじゃない……原因は……》

 

イブリースのレーダーが1人の人影を見つけた。

 

《アイツか……!》

 

遠く離れた崖の上でカメラをこちらに向けているゴスロリ服の小さな女。

 

《アブネスっ!?》

「これよこれ……!これが私に出来ること!」

 

アブネスがカメラに収めているこの光景は全世界に中継されていた。ミズキが戦っている、そのありのままの姿を見せることで民衆から送られるシェアが倍増し、質も良くなった。

その流入の瞬間がアデュルトが光を放った瞬間だったのだ。

 

《邪魔よ、アンタ……これは私とアイツの決闘》

「っ、やば……!」

 

イブリースがアブネスの方を向いて膝を曲げ、地面を蹴る。

怯えながらもカメラは手放さないアブネスに到達するまで1秒とかからない。

だがその軌道上にアデュルトが重なる。

 

《アブネスのところには……行かせないっ!》

《じゃあアンタから焦げた肉片にしてあげるわよ!》

 

イブリースはナックルガードを展開し、アデュルトに叩きつける。

それをアデュルトは回し蹴りで受け止めた。

 

《エクス……!》

《弾けて……!》

 

槍は装甲を貫いたがフレームを貫けない。しかし直後の爆発でアデュルトは吹き飛ばせる。

 

《プロージョン!》

《シェアクリスタルっ!》

 

イブリースの爆薬が巨大な衝撃を生み出すのと同時にフレームが光り輝いてイブリースに勝るとも劣らない衝撃を発生させる。

お互いにお互いの衝撃を受け止めきれず、後ろへ大きく吹き飛んだ。

 

《チッ……!》

《うっ、く……!》

「わ、わ、ぶつかるぶつかる!」

 

猛烈な勢いで後退するアデュルトがぶつかりそうになってアブネスが目を細めるが、アデュルトはぶつかる寸前でしっかり止まってみせる。

 

《アブネス、なんて危ないことを……!》

「申し訳ないけど、心配無用よ!自分の身くらい自分で守れるから!」

 

アブネスの周りにミズキがかつて使った機体達が集結する。

 

「いいからアンタは戦いなさいよ、私が怪我しないうちにアイツを倒しちゃいなさい!」

《……!》

 

イブリースは地面に立ちながらチッと舌打ちをする。

 

《蝿が追いついたみたいね……》

 

それと同時にミズキも予感を感じる。

 

《みんなが……》

《邪魔くさい……!いまさら、どうにもならないってことがわからない女たちが!》

《そんなことはない……!みんながいれば、必ず君を倒せる!》

《だからわかってないって言ってんの!》

 

イブリースが腰からビームサーベルを引き抜く。通常では考えられないほどの高出力のビームサーベルの刃は激流のように荒れ狂っていた。

 

《全部全部まやかし。アンタの言う希望も、そうでない何かも。だって歴史が証明してる、この私が証明してる!》

《だからそれを打ち砕くんだ!僕と、みんなで!》

《人の過ち、何も出来ない神……!気に障るようなものばかり、ここにはある……!》

 

イブリースの髪のようなユニットが次々と地面に突き刺さる。乱雑なようで狙い済ましたそれはまるでコードのよう。

 

《私は見たの。戦争の中で世界を救う絶望を。その絶望で私は戦争を打ち砕くの、平和にする。誰にも邪魔させない、私はそれだけ平和が欲しい……!》

「なに、なに?なんなの?え?」

 

ピシピシと小石が揺らめき始める。イブリースの周りから空気が歪んでいく。虹色の空間が開き、それが徐々にこの世界を包んでいく。

 

《あれは、次元ゲート……!》

《この螺旋は、私が終わらせる!》

 

次元ゲートが一瞬のうちに大きく口を開き、ギョウカイ墓場を飲み込んだ。抵抗もできずに白い光の中に飲み込まれ、その先の空間へ強制的に移される。

 

《うっ……ここは……?……っ!?》

「う、ちゅう……?でも、息ができるし……わ、わ、わ」

《夢のフィールド、直結……あの時の決着をつけましょう》

 

巨大なコロニーの残骸、浮かぶ岩塊、黒い空間、輝きを放つ巨大な太陽と星。そして何よりも無重力。それが宇宙のようでもあったが、アブネスが呼吸ができるということは宇宙に転移させられたという訳では無い。

 

《この、宙域は……!忘れも、しない!》

《アナタが逃げた場所よ……特別に再現してあげたわ》

 

イブリースの髪のようなユニットが大きく伸びる。それそれが別の生き物のように蠢いてアデュルトを狙っている。

 

《死になさいよ、アンタ》


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