超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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ジャッジ・ザ・ハード改 その2

「サァイコ……シャード……!」

 

ジャッジの背中の光輪が最大限の光を放った。

その光は空間を走る波となってプラネテューヌを覆い尽くす。

その波は意思の光。そして世界を改変する光でもある。

しかし、ネプテューヌとネプギアはそれに気付くことができない。凄まじく嫌な予感としか感じ取れていなかった。

 

ネプギアは躊躇して立ち止まった。ネプテューヌは止めようと先へ進んだ。

しかし、どちらも手遅れ。

ジャッジのサイコシェードは一瞬でプラネテューヌを覆い、その効果をもたらす。

 

「っ、ああっ!?」

 

ネプテューヌが見えない衝撃に叩き飛ばされた。

いや、違う。太刀がまるでジャッジに反発するように弾き飛ばされたのだ。

 

「な、なに!?」

 

太刀は暴れ馬のように動いてネプテューヌの制御を離れようとする。決して手を離さないネプテューヌだったが、気付かぬ間にもう片方の腰にさした太刀が抜かれた。

 

「なっ、あうっ!」

 

太刀がネプテューヌの腕を切りつけた。

そのダメージで太刀を手放したネプテューヌはさらにその太刀からも攻撃を受ける。

 

「な、なにっ!?なんなのっ!?」

 

太刀が襲いかかってくる。まるでジャッジに操られたように、だ。

離れるネプテューヌだったが、ブースターユニットまでもが異音を立てた。

 

「まさっ、か!?うっ、あああああっ!」

 

ブースターユニットがネプテューヌを地面にこすり付けている。

ネプテューヌのコントロールを離れ、凄まじい勢いで地面に埋めようとしてくるブースターユニットをネプテューヌはたまらずパージする。

 

「なに!?何が起こっているの!?」

 

「お、お姉ちゃんっ!?」

 

地面に倒れながらひとりでに動くブースターユニットと太刀に戦慄するネプテューヌ。

ネプギアが手を貸そうと近付いた時、ネプギアのM.P.S.Lが震え始めた。

 

「うそ……!」

 

ネプギアは引き金を引いていないにも関わらずM.P.S.Lがビームを乱射し始めた。しかもネプギアの手を離れようとあちらこちらへと動いている。

 

「な、なにが起こってるんですか!?武器が勝手に……!」

 

そしてネプギアの周りを取り囲むCファンネル。

息を飲んだネプギアがCファンネルをコントロールしようとしたが、上手くいかない。操作を受け付けてくれない。

 

「なん……でっ!?」

 

ネプギアがたまらずM.P.S.Lを手放してCファンネルから逃げる。

暴れ回るCファンネルはネプギアを追い、M.P.S.Lはネプギアにビームを乱射する。

 

「ジャッジは、一体何を……!?」

 

懸命に避けるネプギアにM.P.S.Lのビームがかすった。

 

「うっ!」

 

「ヒヒヒヒヒヒ、これが、サイコシェードだァァッ!」

「サイコシャードは……!?」

「これが俺の望む世界!闘争を望む俺の、俺のための世界だァァァァッ!」

 

簡潔にいえば、サイコシャードはイメージを具現化させる武器だ。

サイコフレームの共振によって起こるエネルギーを利用させることでサイコフィールドにも似たフィールドを展開。広大な範囲において使用者のイメージが様々な形で具現化する。

ジャッジは闘争を望む世界を望んでいた。それは、勝手に動く武器という形でこの世界に現れたのだ。

しかも動くのは純粋な武器だけではなく、武器となりうるものでさえも対象だ。

 

「ヒヒヒ……聞こえるかァッ、この声が!?無様に喘ぐ民衆たちの苦しみの声がよォッ!」

「民衆って……アナタ、まさか!?」

「そうだ!ほら、聞こえるだろう……怒号と悲鳴が!」

 

バッとネプテューヌとネプギアがプラネテューヌへ振り返る。するとじきに耳をすまさなくても聞こえてくる悲鳴。そして心の中に響き始める恐怖の声。そして間髪入れず爆炎をあげるプラネテューヌの街。

 

「プラネテューヌが……!」

「プラネテューヌでも、似たようなことが起こってるんですか!?」

「その通りだ!街には何がある……!?刃物、ガス、電気!」

 

この草原で戦っているネプテューヌ達よりもむしろ街の方が危険だ。

様々なものが街にはある。その物は武器となるものが大半だ。巨大な物体であるだけでそれは武器になるし、全ての家に走っているライフラインも暴走すれば大事故を巻き起こす。

 

「やめなさい!今すぐ!プラネテューヌのみんなは関係ないでしょう!?」

「ヒィヒッヒッヒ!これは篩だ!耐えられるヤツだけが俺と戦え!耐えられないヤツは呆気なく死ね!」

「この……やめなさいって!」

 

ネプテューヌがジャッジに突撃するが、太刀とブースターが行く手を阻む。真っ直ぐに、何も考え無しに向かってくる武器は獣以下だ。

 

「やめてください!本当に、このままじゃ誰かが死んじゃう!」

「それでいい!どうせビフロンス様が全て壊すんだ、少しくらい俺が壊してもいいだろ!?」

「命を、少しですって!?ふざけないで、よっ!」

 

ネプテューヌが武器の突進をくぐり抜けてジャッジに殴り掛かる。しかし、武器を持っていないネプテューヌは軽くジャッジに叩き飛ばされた。

 

「ああっ!」

「お姉ちゃん!」

「それ、耳をすませ!今にも消えそうな声が1つ、2つ……!」

「やめてくださいっ!ダメ、ダメですっ!」

「やめ、なさい……!今すぐに!」

 

2人が必死にジャッジを止めようと突撃を繰り返す。

しかし武器を持っていない状態では近寄ったところで何も出来ない。ジャッジに何度も弾き飛ばされるだけだ。

 

「あぅ!」

「くっ!」

 

2人は焦っていた。ジャッジのいうことは正しかった。2人の心の中にも今にも消えそうな声が聞こえていたのだ。

止めなきゃ、止めなきゃ、助けなきゃ。

必死に消えそうな命を救おうと手を伸ばす2人。

しかし素手でジャッジに立ち向かうことなどできない。

 

「っ」

 

焦るネプテューヌの後ろにブースターユニットが迫っていた。

ジャッジを倒すのに夢中になっていたネプテューヌは加速したブースターユニットを避けられずに背中への突撃をくらってしまう。

 

「うあああっ!」

「お姉ちゃ、きゃあっ!」

 

それに気を取られたネプギアの脇腹にもブースターユニットが当たる。

2人がブースターユニットから離れようと体を動かすが、遅すぎる。既にネプギアのCファンネルがブースターユニットに突撃していた。

カンッ、と軽い音を立ててCファンネルがブースターユニットを貫通する。

 

「ッーーー!」

「爆発ーーーー!」

 

そして、ブースターユニットが大爆発した。

 

「あっ、あああああっ!」

「やあああっ!」

 

ネプテューヌとネプギアが爆発に吹き飛ばされた。

既に大量の燃料を使用していたブースターユニットの爆発は2人の体を粉々にするほどの威力はなかったが、それでも2人を行動不能にさせるには十分なパワー。

吹き飛んだ2人が草原に落ち、ゴロゴロと転がりながら地面に横たわる。

 

「う……あ………」

「く、っ……そんな……!」

 

あまりの痛さに痺れたような感覚を味わっていた2人だったが、それよりもブースターユニットが爆発してしまったことにことを嘆いている。

ジャッジを倒す可能性のあった唯一の武器。それが消えてしまった。

 

 

 

ーーーその瞬間だった。

プツンと、何かが切れる音がした。

 

 

『ーーーーー』

 

 

「ァア?……そうか、最初の死人か」

 

「あ………あ………」

「ウソ……声が、消えて……!」

「ガキか、老人か……どちらにせよ、ドンくせえヤツだったってことだ!そんなヤツのことはどうでもいい……まだ戦えるだろ!?お前らはよォ!」

 

 

「なんっ………で……!」

 

 

「あン?」

 

ネプギアが震えながら声を絞り出す。その瞳には光るものがあった。

 

「無関係な、人を……!殺す意味が、ありましたか……!?」

「この世界から戦えねえ役立たずが1人消えたってだけだ」

「その人にも、誰にだって!親が、兄弟が、子供がいたはず、なのにっ……!」

「それがどうした?」

「っ……!」

 

ネプギアが歯を食いしばる。

その横ではネプテューヌが頭を抱えて首を振っていた。

 

「ウウッ……!なんっ、で……!私は、また……っ!」

「おいおい、悲しんでる暇はねえぜ!その悲しみも、怒りも、糧にして立ち向かってこい!踏み潰せ!全ては戦いによる興奮のためにあるんだぜェェッ!?」

「アナタ、は……一体、どこまで……!」

「どうだァ、女神候補生。カチンと来ただろ?カチンと来たよなァァァッ!ならこい!仇は俺だァッ!」

「許さない……!アナタだけは、絶対に……!」

 

ネプギアが限界を超えていく。

本来30%しか引き出せない力を100%に。有り得ないはずの200%に。それすら突き抜けた300%に。

まだ、まだ、まだまだまだ超えていく。

出力、1000%。

 

 

ーーーーFXバーストモード、発動。

 

 

「はああアアーーーーーッ!」

 

ネプギアの体が薄紫に輝き、空中へと舞い上がった。血走った瞳にはもう涙は見えず、目の前の敵への憎しみしかこもっていない。

 

「それだ、俺が望んでいたのはよォッ!その濁った瞳、最高だ!さあ、戦えェェッ!」

 

ジャッジのパルチザンの先にエネルギーがスパークし、それがネプギアに撃たれた。

掠っただけでも大ダメージを与えるビームマグナムの弾丸。それがネプギアに直撃した。

 

「ハッハァッ!…………あァ?」

 

ビームマグナムの弾丸はネプギアの腹部を貫いたものだと思った。普通のビームライフルとはわけが違う、圧倒的な貫通力を持つビームの槍なのだから。

しかし、結果は予想と真逆。

ネプギアはノーダメージ。ビームマグナムを霧散させ、全身に薄紫のオーラをまとっていた。ネプギアは動かずしてジャッジのビームマグナムを破ったのだ。

 

「ッ!」

 

その時、強化されたジャッジはネプギアのあまりにも強い意思を見た。

ネプギアが憎しみをその顔に、身体中に滾らせてジャッジを掴もうとする。そんなイメージがまるで現実にあるかのように感じた。

そしてそのイメージをなぞるようにしてネプギアがジャッジに向かってくる。

 

「逃がさ、なァァァァァいッ!」

「ぐっ!」

 

戦いを本能から望んでいたジャッジが恐れを感じるレベル。どんな闘争でも喜んで受け入れるジャッジがネプギアとの戦いに恐れをなしてパルチザンでガードした。

ネプギアが手刀を振ると薄紫のオーラはビームサーベルとなってパルチザンに打ち付けられる。

 

「うおおおっ!?」

「絶対に……絶対に……!許すもんかぁぁぁぁっ!」

 

さらにネプギアのもう片方の手から発振したビームサーベルがパルチザンに叩き落とされる。

するとパルチザンは真っ二つに切り裂かれてしまった。

 

「馬鹿なーーーー!」

「ーーーーー殺すッ!」

 

ネプギアの手刀がジャッジの腹にめり込んだ。さらにそこからビームサーベルを発振、ジャッジを貫く。

 

「うごっ……!」

「はあああっ!」

 

さらにビームサーベルにエネルギーが注ぎ込まれ、巨大化する。ネプギアの全身のオーラはまるでハリネズミのようにビームサーベルと化し、近付く者がなんであろうと貫いてしまう。

 

「飛べえええっ!」

 

そしてネプギアが信じられない力でジャッジの巨体を投げ飛ばした。

まるで野球の球を投げるようなスピードでジャッジが投げ飛ばされ、大地を転げ回る。

 

「っ、ペッ!なかなかだぜ、それでこそだ!」

「まぁぁだあああっ!」

「フンっ!」

 

ハリネズミのような姿のネプギアがジャッジに突っ込むが、怒りに任せた攻撃は安易に軌道を読まれ、殴り飛ばされた。

ジャッジの手もタダでは済まないが、すぐにジャッジの手は再生する。

 

「くうっ!」

「ヒィヒヒヒヒ、楽しいなあ……!楽しくてたまらねえ!やっぱり戦いはーーーッ!?」

 

その時、ジャッジが巨大な獣に噛み砕かれる。

 

「うおおおっ!?」

 

ーーーーように感じた。

 

しかしその感覚は全てがリアル。口の中の温い温度も肌にまとわりつく湿気も噛み砕かれる痛みも感じた。

反射的に振り返ったジャッジの視線の先には紫に発光するネプテューヌ。

 

「ユニコォォ………ンッ……!」

 

涙を捨て、まるで体の内側から光るように紫の光が迸る。

 

「ユニ………コォォォォンッ!」

 

地面を蹴って一瞬でジャッジの眼前に迫るネプテューヌ。

武器はない。なら、その身一つで戦う。ネプテューヌは手を握り締め、ジャッジを殴りつける。

 

「ッ、見えんだよッ!」

 

だがジャッジが巨大な手を出した。手のひらの大きさだけでネプテューヌが握りつぶせそうなほどの大きさでネプテューヌの拳を受け止める。

 

「………ヒヒッ」

 

ジャッジが小さく笑った刹那だった。

ネプテューヌの拳が少し淡く輝いたかと思うとジャッジの手から腕、腕から肩へ亀裂が走っていく。

 

「なあああっ!?」

 

バキバキと音を立ててジャッジの片腕が崩れ落ちていく。怪力があった訳では無い。なにか武器を持っていたわけでもない。

 

(なのにっ!?)

 

「ふっ!」

「チィィッ!」

 

もう片方の手でパンチするネプテューヌの手を今度は素手ではなく防御魔法で受け止める。

渾身の魔力を込めて作り出した魔法の障壁。それもネプテューヌの拳が触れた瞬間に音を立ててガラス細工のように砕け散る。

 

「バカ……なっ!」

「はあああっ!」

 

ネプテューヌが両手を手刀にしてジャッジの胸にめり込ませる。容易くジャッジの装甲を貫いたその両手は抉るようにジャッジの肉を削ぎとる。

 

「くううううっ!」

「挫けたりなんか……しないっ!」

「テメッ、エェッ!」

 

後ろからネプギアが急接近してきた。

振り返って叩きのめそうとジャッジが振り返った時にはネプギアの全身から吹き出すビームサーベルが脇腹を切り裂いている。

 

「ーーーーなんっ、だよっ!」

「だああああああっ!」

「あああああああっ!」

 

ネプギアがジャッジの体に無数の切れ込みを入れていく。ネプテューヌが殴りつけた場所は粉々になって崩れていく。それでも細胞は消えない。再生能力の方が上だ。

ーーーーーしかし。

 

(んだよっ!?なんだってんだよ!?)

 

何も出来ないままに肉体は再生した端から砕かれる。そして同時に襲いかかってくる思念はジャッジの精神を切り刻む。

 

(こんな、なにもできねえなんて……!)

 

何度も何度も、どこを砕かれようが切り刻まれようが再生する。それはもはや、死に続けるのと同じことではないだろうか。

 

(……イヤだ………!)

 

その恐怖、痛み、感覚全てが2人との争いを拒んだ。戦いの権化のようなジャッジが、である。

 

(死にたく、ねえっ……!)

 

戦いの権化たるジャッジにただ1つ、不要なものがあったとすれば。幾度の進化を重ねても排除できなかった、補えなかったものは……死の記憶。

誰も経験したことのない、体が焼け付いて消えていくあの感覚。

その意思をサイコシャードは拾ってしまった。

 

「ん……なっ!?な、なんだよ、おい!?俺の、体が……!?」

 

ジャッジの体が灰色になって朽ちていく。

どんな傷でさえも再生するはずのその肉体はあっけなく指先から消えていく。

 

「おい……おい、おいおいおいおい!どういうことだよ、これはっ!?俺は、まだ、まだ……っ!」

 

サイコシャードが拾ったジャッジの恐れ。このまま終わることない死を続けるくらいなら、いっそここで終わらせる……ネプテューヌとネプギアがそこまでの恐怖を与えたのだ。

ジャッジの体が完全に崩れ落ち、風に飛ばされていく。そこでようやくネプテューヌとネプギアも動きを止めた。

 

「殺し足りねえよォォォォォォォッ!」

 

ジャッジはサイコシャードごと完全に風に消えた。

その激戦の後には何も残らず……2人は大きな喪失感を味わうだけだった。


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