超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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ジャッジ・ザ・ハード改

「………あと、何分だ……っ!?」

 

プラネテューヌの小高い丘でジャッジが唸る。

綺麗な草原だった丘はところどころ抉れて土がむき出しになっていて、痛ましい光景のように見える。

 

「早くしやがれぇぇぇぇぇっ!」

 

ジャッジがパルチザンを地面に叩きつけるとそこから凄まじい衝撃波が発生し、地面に小さなクレーターを作る。

 

「ハアッ、ハアッ……ダメだ、おさまらねえ……!ああ、止まんねえよ……!」

 

彼の体は赤黒く染まり、姿形はさらに凶悪なものへと変わっている。装甲は厚く尖っていて威圧感だけで脚がすくんでしまうようだ。

 

ジャッジはふわりと少し浮き上がり、パルチザンの剣先をプラネテューヌの住宅街へと向けた。

民間人の家々が立ち並ぶ場所ーーーもっとも今は誰もそこに残っている住人はいないが、そこをジャッジは破壊する気だ。パルチザンの先にエネルギーが集中していく。

 

「街の1つや2つくらい……ぶっ壊しても構わねえだろ……!?」

 

エネルギーは充足し、圧縮され、解放を待って暴れ出す。

ビームマグナム。撃たれれば余波だけで人を吹き飛ばす威力のあるビームの塊がプラネテューヌに目標を決めた。

 

「派手に、壊れろ!」

 

甲高い銃声と同時にビームマグナムの弾丸が街に放たれた。

凄まじいスピードで遠く離れた住宅街に向かった弾丸はしかし、別方向から放たれた全く同じビームによって弾かれた。

 

「ッ、ヒヒヒ……!来たか来たか、来たかァァァッ!」

 

ジャッジが空を見上げた先には2人の女神。

 

2人とも以前見た時とは姿が違うが……そんなことは関係ねえ。

なんでもいい、俺を楽しませろ。好きなだけ戦って、最後には俺の手で壊されればいい。殺されればいい。

願わくば、俺が飽きるくらいにはしぶとくなっていてくれよ。これだけ待って退屈するようじゃ……!

 

「この国の国民全部!俺がお前らの前で大虐殺するハメになるぜェッ!」

 

遥か遠く、風を切りながらネプテューヌとネプギアが凄まじい速度でジャッジへと向かう。

 

ネプテューヌのビームマグナムのEパックが1つ、音を立てて弾き出される。

排莢、次弾装填。

残り4発。そしてネプテューヌのプロセッサユニットに5発分の予備マガジンが2つ。合計14発。

 

「すぅっ………」

 

ネプテューヌが少し息を吸いこんでビームマグナムを構えた。フォアグリップを握って精密射撃の体勢に入る。

ブースターユニットは唸りをあげて加速を続けているが、ネプテューヌはその角度を微調整。ジャッジに向けて真っ直ぐに進むように進行方向を変えた。

 

「お姉ちゃんっ」

「まずは小手調べよ。興味をひく」

「私も、撃つ!」

 

ネプギアが新たなM.P.B.Lを構える。

M.P.S.L《マルチプル・スタングルライフル》。

ネプギアは今まで最大出力でM.P.B.Lを使用することが多かった。しかし、それではM.P.B.Lに負荷がかかりすぎる。

M.P.S.Lの新たな機能はチャージモード。バレルを展開、変形させることでエネルギーの充填を素早く行い、最大出力レベルの射撃を行うことが出来る。

 

ネプギアはチャージモードとなったM.P.S.Lのフォアグリップを握りしめ、ネプテューヌと同じようにジャッジに狙いを定める。

 

「一撃でぶち抜くわよ!」

「戦いを止めるために、私が……!」

 

2人の銃口にエネルギーがスパークする。

片や何本ものビームを束ねた槍のような威力を持つ銃。

片や弾丸ではなく奔流となって相手を溶かし流す威力を持つ銃。

 

『当たってェェェッ!』

 

引き金を引くと同時にカッ、と2人が一瞬だけ閃光を放ったようにジャッジには見えた。

 

「ぬっ!?」

 

その瞬間にはもうジャッジの胸に風穴が開いている。

ジャッジの厚い装甲すら軽く貫き、その背後の地面すらも貫き通してようやく消えたビームマグナムの弾丸。ジャッジが自分の胸を貫いた物体の正体がそれだと気付くまでに少し時間がかかった。

それほどまでにビームマグナムの弾丸は速く、神槍と言われてもおかしくはない貫通力。

 

「ヒッ……ヒヒヒ……ッ!」

 

少し遅れてビームの荒ぶる激流。

それはビームマグナムによる風穴をさらに大きく開き、ジャッジの胸を貫き続ける。そしてそのままビームは上に薙ぎ払われ、ジャッジの頭部を完全に消し炭にした。

 

「まだだよ、お姉ちゃん!」

「ええ、わかってるわ!」

 

ネプテューヌのバズーカに取り付けられたハンドグレネード12発、そして3連装ミサイルランチャーを発射。

大量のミサイルが胸から頭部にかけて削れたジャッジに命中し、爆散する。

すかさず使い切った2つの武器をパージ。さらにネプテューヌは2つのバズーカを両肩に担いでジャッジに狙いを定め、そこに装備されたグレネードランチャーと一緒にバズーカの引き金を引いた。

 

「細胞の1片も残しはしない……燃え尽きなさい!」

 

ネプテューヌの大火力がジャッジの体を襲う。

ジャッジは細胞を1つでも残せばそこから復活する化け物。だからこそ何もかもを消し去るつもりで攻撃しなければならない。

それにはネプテューヌの追加装備が適任だ。強力かつ大量の火器は範囲攻撃で細胞を殺し、生存を許さない。

ネプテューヌのグレネードランチャーとバズーカの弾丸が尽きた。新たな弾倉をそれぞれに装着してネプテューヌが背中に背負い直す。

 

「どう……!?」

「……まだだよ、お姉ちゃん!」

 

「ヒヒヒヒヒヒヒッ!」

 

爆炎を切り裂いてジャッジが顔を出した。

 

「ビットォッ!」

 

ジャッジの装甲がスライドし、その内部を晒す。そしてそこから光が満ち溢れ、無数の胞子となって複雑な軌道を描く。

ほぼ無限に射出されるビットが遠く離れたネプテューヌとネプギアを襲い始めた。

 

「アレは……!?」

 

光の胞子がネプテューヌ達を射程距離内に収め、ビームを放ってくる。

ネプテューヌとネプギアはバレルロールで勢いを殺さないままにビームを避けるが、ビットは突撃まで敢行してくる。

 

「突っ切るわネプギア!背中を頼んだわ!」

 

ネプギアはともかく小回りがきかないネプテューヌは長時間のビットの攻撃に耐えられない。

さらに一段階加速したネプテューヌは背中の太刀を引き抜き、ビームマグナムを収納する。

 

「お姉ちゃんを守る……!お願い、動いて!Cファンネル!」

 

ネプギアの体に装着されていた無数の刃が分離し、ネプテューヌに追随していく。

Cファンネルは敵に突進してその異常なまでの切れ味で敵を切り裂く使い方の他に、刃の腹を盾として使って攻撃を防ぐこともできる。

ネプテューヌのスピードに追いつくことは出来ないが、ネプギアのCファンネルはネプテューヌの背中を狙うビットのビームを防ぎ、そしてビットそのものを切り裂いていく。

 

「ふっ……はっ………!」

 

ネプギアの手の動きに呼応してCファンネルが美しい隊列移動をとり、ビットを撃墜する。

 

(すごい……!これが、ファンネル!)

 

自分の思い通りに動く武器。

まるでオーケストラの指揮でもするかのようにネプギアの指先1つでビットが消えていく。

 

「これなら!」

 

Cファンネルが同時にいくつものビットを破壊して爆発を起こす。その爆炎がネプギアを照らしていた。

 

「だあああっ!」

 

ネプテューヌはバレルロールで可能な限りのビームとビットをかわし、避けきれないビームを太刀で弾いていく。

後ろに流れて去っていくビーム。それがネプテューヌの頬を掠めた。

少し目を細めたネプテューヌは残った片手で腰に装備した太刀をさらに引き抜き、二刀流となってジャッジに接近する。

 

「ヒヒヒヒ、来たかァッ、女神ィィィッ!」

「アナタにプラネテューヌは焼かせはしない!絶対守ってみせる!」

「そんじゃ俺に勝てばいいだけの話だ!だから、戦え!俺と全力でなあああっ!」

「言われなくても……!ミズキが帰ってくる場所を、渡すことは出来ないの!」

 

ネプテューヌが腰に太刀を1本しまい、両手で残った太刀を握りしめた。

ブースターユニットの加速を最大に生かした突貫戦法。それがネプテューヌの狙いだった。

 

ネプテューヌの両足に装備されたハンドグレネードが全て発射された。

ジャッジはそれを避けもガードもせずに受け止め、不敵に笑い続ける。けれど、視界は爆炎と黒煙で曇ったはず!

ネプテューヌのハンドグレネードがパージされ、自重が減ったネプテューヌはさらに加速度を高める。

 

「食らい、なさいッ!」

「来いッ!」

 

ネプテューヌが太刀を腹に構え、ジャッジの胸に思いっきり突き刺す。勢いを少しも落とさずに、躊躇わずに突進したために太刀は厚い装甲を突き破り、深々と突き刺さる。

 

「こ、の!ままァァッ!」

 

ネプテューヌは胸に太刀を突き刺してもスピードを緩めず、ジャッジを押し切りながら前に進む。

ジャッジも1本の矢と化したネプテューヌを簡単に受け止めることは出来ずに後退している。

しかし、ジャッジがパルチザンを地面に突き刺して減速をかけた。

 

「ヒィヒヒヒ、最高だぜぇぇっ、お前ぇぇっ!」

「無駄よッ!」

 

それでもジャッジは自分の体を止められない。

パルチザンはガリガリと地面に溝を作るだけだったが、ジャッジは不敵な笑みをやめない。

 

「捻り潰してやる!ウォラァァッ!」

 

ジャッジの背中が裂け、瞬時にそこから2本の腕が生えてきた。

 

(これが、進化の真髄……!?)

 

ジャッジの両腕と比べても遜色のないほどに強固な腕がネプテューヌを横から潰そうとする。

神に祈るように合掌しようとするジャッジを見て瞬時にネプテューヌは握っていた太刀から手を離し、両腰の太刀を握りしめる。

 

(進化というより、適応ね……!)

 

一瞬で進化を済ませ、環境よりも状況に適した形をとる。腕が必要なら腕が、足が必要なら足が生えてくる。

それはもはや進化とは言えない。捻れ歪んだ進化は望むものを全て瞬時に与えてしまう。

しかし間違っているとはいえ、確かにその能力は脅威だ。こと戦いにおいてはその時の状況に素早く適応できることが必要とされる。

 

しかし、確信を持って言えることがある。

 

「間違ったものが、正しいものに勝てるわけない!」

 

ネプテューヌが引き抜いた太刀が両側から迫ってきたジャッジの両腕を切り落とした。

 

「正義は勝つ!私達が主人公よ!」

 

さらにパルチザンを持っていた両腕も切り裂いた。

ブレーキを失ったジャッジは体勢を崩しながらゴロゴロと地面を転がる。

 

「ヒヒヒ、おもしれえ、おもしれえヨォォッ!」

「いくら主人公と同じになったって!コピーなんて偽物でぇっ!」

 

ジャッジの両腕が瞬時に再生してネプテューヌに殴り掛かるが、ネプテューヌは2本の太刀で両手のパンチを切り裂いていなしてしまう。

だが切り落とされたマジックの両腕は地面に落ちずにふわりと浮き上がった。

そのままネプテューヌの背中を狙ったが、青い光にスパスパと細切れにされ、地面に落ちてしまう。

 

「背中を任されたんです!この程度は!」

 

ネプギアのCファンネルがジャッジの両腕を切り裂いたのだ。

そのままネプギアはジャッジの後ろに回り込み、M.P.S.Lを持って背中を狙う。

再生する3本目と4本目の腕を軽くかわし、背中を切り裂いて深い切れ込みを入れる。

しかしジャッジの肉は高速で再生する。ネプギアが切った端から肉がくっつき、まるで液体を切ったかのようにダメージがない。

 

(やっぱり、再生が早すぎる!)

 

「ヒヒヒヒ、強えなお前ら!けど、効かねえ効かねえ!俺は死なない!全てを殺し尽くすまで、死にやしねえンだッ!」

 

ジャッジの鎧が盛り上がる。全身で肌の下に何かが潜り込んだような膨らみを見たネプテューヌとネプギアはその能力で危険を察知する。

殺気。すぐに距離をとったネプテューヌとネプギアだったが、射程距離から逃れられない。

 

「オラァ!」

 

ジャッジの全身からハリネズミのようにトゲが生え、ネプテューヌとネプギアを襲う。

 

「くっ!」

「こんなのにっ!」

 

ネプテューヌとネプギアは無差別に飛んでくるトゲを切り裂いてガードする。

ジャッジとの間合いが離れてしまったネプテューヌとネプギアが近寄って顔を寄せた。

 

「やっぱり、一瞬で大ダメージを与えないと勝てないわ。切るっていうのは相性が悪い」

「でも、そんな火器は……」

「ブースターの燃料を使うわ。これをぶつけて、大爆発させる」

 

ネプテューヌの推力を補うブースターユニット。その中に入っている燃料は無論、莫大な量だ。なんとかそれを至近距離で爆発させることが出来れば、あるいは……。

 

「それじゃ、お姉ちゃんはまた近くに?」

「ええ。一瞬でもいい、足を止めてその隙にコレをぶつけてくるわ。そしたらネプギア、アナタがすぐに撃ち抜いて爆破しなさい」

「でも、それじゃお姉ちゃんが」

「大丈夫、逃げ切れるわ。それだけの速さが私にはある」

「……わかった。本当に、すぐ撃つからね!」

「ええ!今回も、背中は任せたわよネプギア!」

 

ネプテューヌの後に続いてネプギアがジャッジに向かっていく。

 

ジャッジはトゲを引っ込め、再生した腕でパルチザンを拾い上げた。

そしてパルチザンを地面に突き刺して体を固定し、背中に円盤状のユニットを展開する。

 

「面白くなってきやがった……!戦え、戦え!それが!お前らのッ!贖罪だァァッ!」

 

ジャッジの装甲がスライドして展開、発光するサイコフレームを露出する。

 

(サイコフレーム……!だとしても!)

「お姉ちゃん、カバーはするから!」

「ええ!躊躇はしないわ!」

 

ネプテューヌとネプギアは勢いを緩めずに突っ込んでいく。

しかし、ジャッジの背中の円盤状のユニットから結晶状の物体が展開し、仏の光輪のような光を放ち始めるとネプギアは怖気を覚えて立ち止まる。

 

「っ、ダメ!お姉ちゃん!」

「わかってる!何がする前に、止める!」

 

ネプテューヌも嫌な予感を感じていた。NT-Dから放たれる敵意を超える後戻りのできないような不安感。

ネプテューヌは全速力でジャッジに近付いて太刀をふりかぶる。

 

しかしネプテューヌが太刀の間合いに入り、腕を振り下ろそうとした瞬間。ネプテューヌは不可視の衝撃に吹き飛ばされた。


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