超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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全然進んでない…やべえよやべえよ…
多分今回は最終決戦目前あたりまでですかね…(震え声)


再戦

 

「…………」

 

ここを訪れるのは3度目だ。

みんなを助け出した時、死にかけた時、そして今回。

今回はどうだろうか。

ミズキは目の前に広がる荒廃した大地を見てそう思った。

 

ギョウカイ墓場はもともと荒廃していたが、犯罪神復活の影響か多少の地殻変動が起こっている。

土砂崩れの跡や、地割れ。遠くでは火山が噴火もしている。ギョウカイ墓場を包む沈鬱な空気はさらに重く感じられた。

 

「ーーーーーー!」

 

遠くから雄叫びが聞こえる。

恐らく、犯罪神のものだ。

犯罪神がミズキに気付いて威嚇をしているのだろうか。それはわからなかったが、まず確実にビフロンスは今この瞬間もミズキを見ている。それだけはわかった。

 

ミズキは歩を進める。女神が捕まっていた場所よりもさらにさらに奥、中心部へ。

目指すのは犯罪神討伐ではなく、未だ復活を果たしていないビフロンスを倒すこと。

ギョウカイ墓場の何処かにいるはずのビフロンスを探す。地上か、地下か、秘密基地か。

 

ミズキが進んでいくと高い崖が目の前に現れた。

登るか、回り道するか、逡巡した後に飛び越えることを決意する。

しかしミズキは自分の後ろにあるプロジェクターに気付いた。

 

《は〜い!1名様ごあんな〜い!》

 

底抜けに陽気な声が響く。

プロジェクターは崖をスクリーンとして映像を映し出し、音声を響かせる。

崖に映っていたのはビフロンスだった。

 

《きっとここに来るって思ってました!信じていましたからっ!》

 

キラキラと恋する乙女のように目を輝かせるビフロンス。

いつもの見え透いたお巫山戯だ。真剣に捉えてもいけないが、油断も許されない。ミズキは音声を聞き逃さぬように映像を中止する。最も、聞き逃すほど小さな音ではないのだが。

 

《にしても〜……私の罠にはかからないクセしてマジックの罠にはかかるとか〜嫉妬しちゃうぅ!そっち系が好みなの!?》

 

きゃぴるんという擬音が聞こえてきそうなくらいにはっちゃけている。

けれどわかる。ここまで心のこもっていない演技、並の人には到底できまい。

 

《でもね、もうミズキ君は……最後の罠からは逃げられまセーン!》

「……どういう意味なの」

《世界を絶望で包み込む……けれど、決して絶望に染まらないアナタは殺すしかない。それが平和のためでしょ?》

 

目の前の空間がぐわんと歪んだ。

平衡感覚が消えたようにふらつくが、ミズキの感覚に問題がある訳では無い。

 

「しまっ……!」

 

歪んだのは次元。

恐らく、次元フィールドの応用……!

 

(何処か、連れていかれる!)

 

ミズキがいた空間と何処かの空間がピッタリと繋がる。

一瞬でミズキはギョウカイ墓場の何処かへ移動させられ、歪んでいた空間も何事も無かったかのようにそこにある。

 

「……マズい、ね……!」

 

目の前にいたのはさっきまで叫び猛っていた犯罪神。巨大な体躯と様々な獣を無理矢理合体させたキメラのような体をしている。

同じ神は神でも女神とは大違いだ。犯罪神がこんな禍々しいものだとわかっていれば、誰も復活などさせる気も起こらないほどに。

そして犯罪神ももちろん目の前にいる小さな人間の姿に気付く。

 

「ーーーーー!」

「っ……!」

 

犯罪神の咆哮がミズキを打ちつける。

ビリビリと大気を震わせるほどの声は並大抵のモンスターであれば裸足で逃げ出すほどだ。

精神的に相手を打ちのめし、戦う気力を失わせて戦闘力をも奪う威嚇。俺が今からお前を蹂躙する、と叫びで語っている。

 

《私の本体を壊す気でしょうが、そうは問屋が卸さない。ペットとでも遊んでなさい》

「世界を滅ぼす神様をペット呼ばわりか……!尚更復活させるわけにはいかないよ!」

 

魂の殆どを失い、ほぼ抜け殻の犯罪神。僅かに残った本能の部分で犯罪神はただ破壊を続けるだろう。それを許す訳にはいかない。

全盛期ならば女神4人を圧倒するほどの実力。けれど、抜け殻の犯罪神なら勝ち目もある!

 

「僕の全力で相手をさせてもらう……!変身!」

 

ミズキの体が光に包まれ、素早く高く舞い上がる。

そして光に包まれたミズキからいくつもの小さな光が分離した。それは複雑な機動で犯罪神に向かっていき、目の前で光を脱ぎ捨てる。

特殊な形状をした、ミサイル。それが犯罪神にぶつかる寸前だった。

 

《甘い》

 

ビフロンスの号令で地面からいくつかの赤黒い結晶が射出された。

擬似ファンネル。ビフロンスの代名詞とも言える武装がミサイルを撃ち落としに凄まじい速度で向かっていく。

それがミサイルを捉え、その鼻先にまで迫りミサイルを破壊する。

……とビフロンスは思った。

 

クンッ。

 

ミサイルが不可思議な機動で擬似ファンネルを避けた。

 

《ん》

 

そしてミサイルはそのまま犯罪神に当たり、爆散する。

 

「ーーー!」

 

ミサイルが当たった場所がおがくずのように崩れ落ちていく。

見た目よりもずっと簡単に砕け散った犯罪神の体からは血も流れないし、再生もしない。

 

《どうやら、図体だけみたいだね!》

《ファンネルミサイル、か》

 

今までのガンダムよりもひとまわり大きい体躯と肩から覆いかぶさるようにして装着されたミノフスキークラフト。

宇宙世紀最高の性能を誇るΞガンダムの特徴的な武器、ファンネルミサイルが擬似ファンネルを避けたのだ。

サイコミュによって自由自在に動くミサイルであり、通常のファンネルとは違いビームは撃たずに自分から突撃していく。

 

ミサイルの威力は特別大きいというわけではないが、犯罪神の体は脆く砕け散った。

本当に、見かけだけ。恐らく何もしなくても自壊していたであろうほどの体だ。

これなら、手早く相手を済ませてビフロンスの本体を探すことが出来る。

 

《撃ち抜く!》

《擬似ファンネル》

 

ライフルを構えたΞガンダムに向かってさらなる擬似ファンネルが射出されて向かっていく。

防御魔法で反射することで正確にΞガンダムへと向かっていくおびただしい数の赤い結晶は硬い金属でもやすやすと切り裂いてしまうほどの威力を持つ。

Ξガンダムは犯罪神に向けていたライフルを擬似ファンネルへと向け、距離を取りながら引き金を引く。

 

《ファンネルミサイルも!》

 

さらに全身から射出されるファンネルミサイル。

視界を覆い尽くすほどの擬似ファンネルはライフルとファンネルミサイルによる攻撃で数を減らすが、その中を多くの結晶が突っ切って向かってくる。

 

(いけるか……いける!)

 

Ξガンダムのミノフスキークラフトが展開し、後ろに半球状の透明な膜ができる。

半球状の透明な膜はビームバリアだ。このバリア自体はビームを防ぐほどの防御力はない。しかし、進行方向に展開することで空気抵抗を減らし、スピードをあげられる。

その速さは、

 

(……追いつかない)

 

超音速。

ファンネルミサイルの射出のスピードが速くても音速を超えたスピードには追いつけない。

退路を塞ぐように擬似ファンネルは機動を変えたが、それでもΞガンダムを捉えられない。

 

Ξガンダムは音速で飛行しながら擬似ファンネルを射出している場所を見つけた。

擬似ファンネルは地面や壁から次々と撃ち出されている。その発射口を潰さなければならない。

体をそこに向け、肩前面に装着された装甲が前を向く。

 

(この距離でも届くはずだ……!)

 

メガ粒子砲。

強力なビーム砲が擬似ファンネル射出口へ発射された。

 

《…………》

 

しかしビフロンスは何もしない。

メガ粒子砲は擬似ファンネル射出口を全て焼き払い、爆発させた。

 

(次元フィールドをこんなところで使えないしね……♪)

 

残った擬似ファンネルがΞガンダムに向かっていく。

しかしそれはΞガンダムに届く前にファンネルミサイルやライフルに撃ち落とされ、しかも超音速のスピードに追いつけもしない。

 

《突破する……!》

 

Ξガンダムがビームサーベルを引き抜き、擬似ファンネルを後ろに追わせながら犯罪神に向かっていく。

 

「ーーーーー!」

 

犯罪神は巨大な火球を吐き出したが、Ξガンダムは容易く避ける。

Ξガンダムの後ろの擬似ファンネルも火球を簡単に避けたが、余計な回避行動をとってしまった擬似ファンネルはさらに距離をとられてしまう。

 

《だあああっ!》

 

Ξガンダムが犯罪神の足をビームサーベルで切り裂いた。

積み木を崩すように断たれた犯罪神の足はチリとなって消え、4本のうちの1本の足を失った犯罪神はバランスを崩して体を地につけた。

その衝撃でさえ犯罪神の体は崩れ、ボロボロと砕けていく。

 

(やれる……!でも、油断はまだ……!)

 

ビフロンスがいるのだ。

なにかしてくる。まだなにか策があるはず。

 

《このまま!》

 

ライフルを犯罪神の体に雨あられのように撃ち込む。

犯罪神の体に蜂の巣のように穴が開き、その度に犯罪神が断末魔のような叫び声をあげる。

 

《ほんっとに……使えないったらありゃしない。時間稼ぎもできないの?》

 

ビフロンスが呆れたように倒れる犯罪神を見下す。

もう虫の息の犯罪神にトドメを刺すべくΞガンダムがファンネルミサイルを撃った。

 

《もういらないわ、アナタ》

 

擬似ファンネルが軌道を変えた。

Ξガンダムに向かっていた擬似ファンネルは突如として反転し、犯罪神に向かっていく。

 

《なにをっ》

 

ファンネルミサイルよりも早く、そして無慈悲に擬似ファンネルが犯罪神に突き刺さる。

 

「ーーーー」

《私が望むのは平和な世界。混沌はいらないわ》

 

後からファンネルミサイルが犯罪神に衝突し、爆散する。

しかし、トドメを刺したのはビフロンスだ。ファンネルミサイルは余計な攻撃に過ぎない。

 

《私が来た時からアナタは死んだも同然だったのよ。私の平和を邪魔するなら……神様だって殺す》

 

犯罪神がチリになって消えていく。

それをΞガンダムは唖然となって見ていた。

 

《味方、を……》

《味方じゃないわよ。世界を破壊するだけじゃ平和は訪れない。まあ、コイツ程度の存在じゃ世界が絶望もしないけど》

《……なんでもいい。邪魔がいなくなったなら、君の本体を探し出してケリをつける》

 

味方だったわけじゃない。倒すべき相手だったけれど、後味が悪い。マジックが……確かに敵だったけれど、それでも命と引換に遺したものがいとも容易く砕かれたのは、なんであろうと胸が締め付けられる。

 

《どうぞご自由に?ま、アナタの方から帰りたくなるわよ》

《どういう意ーーー!?》

 

その時、Ξガンダムは気付いた。

犯罪神の跡地、完全にチリになって消えた犯罪神がいた場所に1人の女が横たわるのを。

血色の悪い肌、黒い髪。それはマジェコンヌその人だった。

 

《マジェコンヌっ!》

 

ぐったりとしているが死んでいるわけではない。目立った外傷もない。

Ξガンダムがすぐに近寄ってマジェコンヌを抱き抱えた。

 

《マジェコンヌになにをしたっ!?》

《何もしてないわよ。こちらから返してあげようってんだから素直に受け取りなさい?》

 

すぐにマジェコンヌの体を調べるが、何かがくっつけられている様子もない。本当に、何もしていない。

だがこのマジェコンヌが偽物だったり体の内部、一見わからないところに罠が仕掛けられている可能性もある。

注意深くΞガンダムはマジェコンヌとビフロンスを視界に収め続けた。

 

《……アナタは、私を追い込むように……つまり嫌がることをしているつもりだろうけど》

 

その口がニヤリと歪んだ。

 

《それすら私の掌の上》

 

Ξガンダムを取り囲むように地面が開き、擬似ファンネルの射出口が見えた。

ビフロンスが撃てと命じればすぐに発射されるようになっている。

 

《……無駄だよ。今の僕に擬似ファンネルは追いつかない》

《ええ、そうね。大した機動力よ?人の形をしながら音を超えるなんてなかなかじゃない》

 

けど、今は?

 

《そのお荷物を抱えて音速は超えられる?》

《………!》

《音速を超えたとしてそのお荷物は耐えられる?》

《ビフ、ロンス……!》

《だから最初に言ったでしょ?私の罠からはもう逃げられないって》

 

ミズキは思案する。

発射と同時に飛翔するとしてーーー逃げられるか。マジェコンヌに負担をかけないレベルのスピードで無尽蔵の擬似ファンネルをいなし切れるか。

 

《……………》

《だから、逃げなさい。逃げることこそが罠にかかるということなのだから》

《そういう、ことか……!》

 

ビフロンスはわざと僕を逃がす気だ。

わざと逃がすことで、時間が稼げる。行って戻って来た時には恐らく、復活は完了しているーーー!

 

《っ、く……!》

《2つに1つ。その女を見捨てて私を殺すか、その女と逃げて私を見逃すか……一緒に死ぬって選択肢もあるけど?》

《わかってる、くせに……っ!》

《そうよね。アナタの性格じゃ見捨てるなんて……ヒヒッ、無理よね》

《っ、卑怯だぞぉぉぉっ!ビフロォォォンスッ!》

《あらあらやだもう、復活前に無抵抗な女の子を殺そうとする人に言われたくはないわ〜》

 

ビフロンスが片手をあげた。

下ろせば撃たれる。決断を迫られている。

 

《2秒だけ待つわ。それ以上は待たない》

《く、く……!》

《にい……いち……》

《くそぉぉぉぉっ!》

 

選択肢なんてないも同然だった。

Ξガンダムは叫びながら空を飛び、ギョウカイ墓場から逃げていく。

 

《四天王はどれだけもつかしらね……まあ、負けても勝ってもどちらでもいいわ。変わりはしない》

 

消えた犯罪神の残りカスのような魂がビフロンスに吸収された。

もう、誰も止められはしない。

ミズキが逃げたからビフロンスは復活する。ビフロンスが復活するから世界は絶望に包まれ、平和が訪れる。

そしてその未来を体現する機体も既にできている。

 

《ガンダムには、ガンダム。そしてそれを動かすのは人の夢》

 

ビフロンスの機体はビフロンス本体のすぐ近くで既にその体を晒していた。

額のセンサーは高く天に伸び、後頭部から無数の髪のようなチューブがさらさらと流れている。

二の腕と太ももは細く、しかし前腕から手と 脛から足までは太い。胸には光り輝くクリスタルのようなコアがあり、装甲は灰色をしていた。

 

《出番はもうすぐよ。ガンダムイブリース》

 


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