超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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ドスッ(鈍い音)

取り返したプラネテューヌの教会で女神たちが戦慄する。

ゲハバーンを用いても封印までしか追い込めなかった犯罪神の復活。さらにビフロンスの復活も間近に迫っている。

 

「ええ、確かに……ギョウカイ墓場の中心に巨大な敵性反応があります」

「してやられたわね……最後の最期まで!」

 

ノワールが壁をドンと叩く。

詰みだった。

ネプテューヌやネプギアが悪い訳では無い、最初の最初から4人を倒せば犯罪神が復活するという罠が仕掛けられていた。どうしようもなかったし、今だってどうすれば良かったのかすらわからない。

 

「ですが、対策も考えなければ。激戦になるのは確かですわ。けれど、前は4人。今度は9人います」

「ビフロンスと融合されかけちゃってるんでしょ?なら、前よりも弱くはなってるのかも……」

「それに、巨大な敵性反応はさっきから全く動きません。もしかしたら、動くまでまだ時間がかかるのかも……」

 

イストワールは冷静にデータを分析するが、分からないことが多すぎる。

今すぐ倒しに行くべきか、それとも準備するべきか……。

 

「私は今すぐ行ったほうがいいと思うわ。この先いくつ罠が仕掛けられてるのか、分かったものじゃないし」

「それに、犯罪神を倒すことが出来れば……もしかしたら、そのままビフロンスも……!」

 

ユニの意見にネプギアが賛同する。

確かに、犯罪神が鎮座しているのはギョウカイ墓場の中心部。ビフロンスもそこにいる可能性が高い。

その意見に反対意見もないようだ。

 

「なら、突撃は明日の夜ですね。もうすぐ日が昇ります、みなさんも休息を……っ!?」

 

イストワールが切り上げようとすると、敵性反応を映し出していたモニターが警告音を発した。

 

「なになに、どうしたのいーすん!」

「巨大な敵性反応が新たに4つ!?場所は……!?」

 

モニターが地図を拡大し、ゲイムギョウ界全てを映し出す。

そこには赤い点が5つ。

1つはギョウカイ墓場。残りはそれぞれ4国。

プラネテューヌ、ラステイション、ルウィー、リーンボックス、それぞれに何かが侵略してきた形だ。

さらにモニターにラステイションにいるはずのケイの顔が映し出された。

 

《ノワール、ユニ!すぐラステイションに戻ってきてくれ!》

「ケイ、一体何が起こってるの!?敵性反応って、誰なの!?」

《マジェコンヌ四天王が復活した……!既に宣戦布告もしている!》

「はあっ!?」

 

復活という単語についていけない。理解が追いつかない。それは全員同じだった。

ケイはラステイションのとある箇所を映した映像を出した。

そこには赤黒く染まった体で剣を地面に刺す剣豪の姿があった。

 

「ブレイブっ!?」

 

ユニがその姿に驚愕する。

ブレイブは死んだはず、なのにここにいるということでようやくユニも復活という言葉を理解し始めた。

 

「じゃあ、他の3人も!?」

「……みたいです。今映します」

 

イストワールが各国を映し出すとそこにはそれぞれマジェコンヌ四天王が鎮座していた。

プラネテューヌ、ブレイブ。ルウィー、トリック。リーンボックス、マジック。

 

「変態が……またいるのぉ……?」

「しつこいのよ!せっかく倒したのに、生き返るっておかしいでしょ!」

「犯罪神が生き返った影響……?いや、4人は犯罪神のところへ還ったはず……」

 

ギョウカイ墓場中心で蠢いているのは間違いなく犯罪神だ。

なら、各国に居座る4人は……?

 

「幻……いえ、相手がビフロンスだというのなら……」

「コピーの可能性が有り得ますわね。ついに命を造ったということでしょうか……」

 

それではまるで、本当の神だ。

天地を創成し、あらゆる生き物を創った神のようなことをビフロンスは仕出かしたのか?

 

《彼女らの宣戦布告の内容はこうだ。『3日待つ。3日以内に無条件降伏をしない場合』……》

「攻め込んでくるってわけね。こんな露骨な時間稼ぎ……」

「マジックは……利用された、だけって事ですか……?」

「でしょうね。マジックの思惑を知ってて見殺しにして、犯罪神を復活させると同時に四天王のコピーを使った。あからさまな時間稼ぎよ」

「そんな……!」

「でも、まんまとその手に乗るわけにはいかないよね!ここはみんなで1人ずつ、パーっと倒しちゃおう!パーっと!」

「いえ、何処かの四天王が攻撃を受ければ他の四天王は即、国の破壊を始めるわ」

「なら、分散するしかないんじゃない?」

「ミズキ……」

「もう大丈夫なの?」

「こんな事態にいつまでも寝ていられないよ」

 

休んでいたミズキが戻ってきた。

どうやら今起こっていることについては把握しているようだ。

 

「3日っていうのは……多分、ビフロンス復活までのカウントダウン」

「3日経つとビフロンスが復活するということね。なら、その前に四天王を倒して、犯罪神を倒して、復活前のビフロンスを叩く……」

「無理があるよ……」

「ロムちゃんの言う通り、1日で1つのことをするのはもたない気がするわ」

「だからこそ、分散するしかない。どちらにせよ、マジェコンヌ四天王は同時に撃破するしかないし」

 

どこかに集中すればどこかに被害が出る。

ならば、戦力を振り分けるべきだ。

 

「各国の四天王を各国の女神で叩く。とりあえずはそれでいいよね?」

「ええ。でも、犯罪神は?」

「僕が行く」

 

ミズキが決意を持った目でノワールを見た。

 

「でも、犯罪神を倒すのはあくまで二の次。僕は犯罪神をすり抜けてビフロンスを探すのを最優先にする」

「……危険だけれど、仕方がないわね……」

「むしろ注意すべきなのは四天王だと思う。ビフロンスがさらなる強化を施しているはずだから」

「前よりも格段に強くなってる、ってことだよね」

 

マジックが復活させた抜け殻の犯罪神よりももしかすれば強化された四天王が強敵の可能性もありうる。

 

「それで行きましょう。しかし、仕掛けるのは何日後にしましょうか……」

「……それについては2日、いただけませんか」

 

イストワールが挙手をした。

 

「強化を施します。相手がパワーアップしているのですから、こちらもパワーアップしなければなりません」

「いーすん、それってあれ?精神と時の部屋みたいな?」

「残念ながら、それはありませんが……計画だけだったプロセッサユニット強化を施すつもりです。恐らく、他の方々も……」

「ああ。計画はあるよ。君達の新たな力に合わせて大きく路線を変えるだろうが……2日でやり遂げてみせる」

 

ラステイションにも強化プランがあるらしい。それは恐らく、ルウィーもリーンボックスも同じだ。

 

「それじゃ、とりあえず2日間は暇なのね!」

「とりあえず……ルウィーに帰ろっか……」

「そのことについても、なんですが……」

 

イストワールが待ったをかけた。

しかしさっきと違ってその顔は得意げな顔だ。

 

「少し、リラックスしましょう」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「……驚いたわね……」

 

プラネテューヌ教会の裏手。そこには湯気を巻き上げて暖気を伝える露天の温泉があった。

普段は営業用の場所ではあるが、今は戦乱の後で客が来るような時ではない。

そこを貸し切って女神たちは一斉に地下から湧き出る天然の湯に身を預ける。

 

「やっほー、1番乗りー!」

「ちょっ、せっかくの温泉なんだから静かに入りなさいよ!」

「これは……いい湯ですわね……」

「……チッ」

「ブラン?どうかしましたか?」

「どうもしねえようるせえなあ!」

「いいなー、ルウィーにもこれくらいの温泉があればいいのにー」

「寒いもんね、ルウィー」

「もう、慣れてるけどね……」

「私は慣れないわ……あの寒さだけは苦手よ、私」

「コンパ、アナタまた……」

「ふぇ?アイちゃん、どうかしたです?」

「……なんでもないわ、なんでも。ええ」

 

黄色い声を柵の向こう側で聞きながらミズキは1人で風呂に入る。

 

「…………」

「寂しそうだな」

「え?いや、そんなことは……」

「あの中に混ざりたいか?クク……」

「からかわないでよ、ジャック……」

 

いや、ジャックもいた。

ミズキは桶で湯を組んで風呂に浮かべ、ジャック専用の風呂にした。

 

「……まあ、少なくともあの頃に比べたら静かだけど、ね」

「それはあいつらが勝手に男湯に入ってくるからだろう?」

「のクセして僕達が女湯に向かおうとすると叩くんだよね……」

 

昔はこんな露天風呂に入ろうものならシルヴィアとカレンが柵を壊して入り込んで来ていたものだ。その度にどぎまぎして、からかわれて。

 

「………」

「寂しそうだな」

「………ここのみんなは代わりじゃない。だから、あそこのみんながいなくなった穴は埋まらないよ」

 

少しだけ寂しげに笑ってミズキは夜空に浮かぶ月を見た。もうすぐ日が昇りそうだ。

 

「会いたいか?」

「会いたいと思わない日なんてないよ。もしかして、まだ、みんながここにいてくれたなら……」

 

脳裏からみんなの声と顔は消えることは無い。

けれど、その声と顔に新たなものは2度と刻まれないのだ。

 

「……答えも、簡単に見つかったのかな」

 

今に限ったことじゃない。

ここに来てからやってきたこと、みんながいたらもっと楽だったはずだ。もっと簡単でもっと楽しくて……誰も苦悩しなかった。

 

「お前が何を求めてるのかはしらんが」

 

ジャックの声にミズキが振り返る。

 

「あいつらでも悩んでいたはずだ。ただあいつらは少し頭が悪い」

 

冗談めかしてジャックが少し笑った。

 

「簡単なことしかできなかったんだよ、多分な。それは……クク、同じだろ?」

「……僕も、頭悪いのかな」

「当然だ。誰と一緒にいたんだ?」

「クスクス、そうだね、あの次元で1番子供だった人たちだ」

 

なんとなく、朧気だけど答えが見えた気がする。

きっと簡単なことなんだ。簡単なことしか出来なかった僕らがいつも正解していた。だから、きっと、今回だって簡単なこと。

だってそうだ、『僕』の始まりだって簡単なことだった。

戦うため、戦争のため、後世のため……違う。僕がここにいる理由はただ1つ。あの時、みんなが手を握ってくれたことがーーーー。

 

「……ん?」

 

 

 

 

 

「…………」

「どうかした、ネプギア?浮かない顔してるわよ」

 

ただ空を見ていたネプギアの後ろからユニが覆いかぶさる。

ロムとラムもネプギアにすい〜とお湯をかき分けて近付いていく。

 

「ううん、なんか、今までのこと思い出しちゃって」

「たくさん、あったね……。楽しいこと、辛かったこと……」

「思い出したくない事もあるけどね。ったく、なんであの変態がよりにもよってルウィーに……」

「それでナーバスになってたっていうの?アンタは」

「あ、うん……。もうちょっとうまく出来なかったのかなって」

 

しみじみと思い出を噛み締めていたが、ネプギアはそれに感傷的になっていたわけではないらしい。

ネプギアが考えていたのは目にした2つの激戦のこと。

 

「和解出来たんじゃないかな、って。マジックだってビフロンスを倒したがってた」

「和解って言ったって、敵でしょ?」

「まあ、言いたいことはわかるわよ。ブレイブとだって私は戦わずにすんだかもしれない」

「ラステイションには……いる、けど……」

「……撃つわよ。アイツは死んだ、私が撃ったんだから。偽物は許しておけるもんですか」

 

ブレイブとマジック。

2人とは和解の余地があったはずなのだ。それを得られなかったのは間違いなのか、そもそもそんな道などなかったのか。

 

「……諦めたくない」

 

ポツリと言葉が漏れた。

 

「私は、この旅で……1度でも諦めちゃったら何も出来なかった」

 

だから今だって。

 

「私は……」

 

ネプギアの心。その声を正直に言葉にしようとした矢先、騒がしい声に我に返る。

 

「ちょっと、こら、ネプテューヌ!」

「え〜いいじゃん青春だよ〜!」

「お、お姉ちゃん!?」

 

振り返るとネプテューヌが柵をよじ登っていた。竹を縦に並べたような壁だがネプテューヌは器用にもひょいひょいと竹を束ねる縄に足を引っ掛けて上へと登っていく。

 

「青春といえば部活、恋愛、そして覗き!」

「違うわよっ!」

 

もちろんネプテューヌは素っ裸。

顔だけ覗かせるつもりなのだろうが、そういう問題ではなく。

 

「だあ〜もう!止まりなさい!」

 

制止するノワールもよじ登るわけにはいかず、かといって長い棒があるわけでもないので咄嗟に風呂桶を掴んでネプテューヌへと投げ始める。

 

「おっと、おっとぉっ!?残念そんなのに当たる私じゃないもんね〜!」

「この、無駄にすばしっこい!」

「あばよ〜とっつぁ〜ん!」

 

ネプテューヌは素早く横移動して風呂桶の雨あられを避ける。

 

「お姉ちゃん、危ないよ!?柵揺れてるし!」

「だいじょぶだいじょぶ〜!ネプテューヌ様はこの程度の障害を乗り越えて柵の向こうのバラ畑を網膜に焼き付けるのだ!」

「バラ!?」

「ベールさんも反応しないでくださいっ!」

「こういうのは無干渉に限るわ……」

「お姉ちゃん、混ざってきていい!?」

「ダメだアホ」

「即答だった……」

「この、ユニ!アンタが当てなさい!」

「わ、私が!?」

「狙撃できるなら得意でしょ!ほら、早く!」

「それとこれとは話が違う気が……う〜、ええ〜いっ!」

 

ノワールに風呂桶を渡されたユニがヤケクソでネプテューヌに向かって投げる。

綺麗な放物線を描いてネプテューヌに飛んでいく風呂桶だったが、ネプテューヌはキラリと目を光らせた。

 

「甘い!」

「叩き落とされた!?」

「ちょ、アレ、反則でしょ!?」

 

ネプテューヌが風呂桶をパンチでたたき落とす。

 

「もう私を阻むものは何も無い!さあ、前代未聞の男風呂の覗きを……!」

「僕がいるんだよなあ」

「うあいだあああああああっ!?」

 

最大の障害は覗く対象その人でした。

ネプテューヌが顔を出した瞬間に飛び上がったミズキが手だけ柵を越えさせてドスリと目突きを突き刺す。

 

「次からは静かにね……」

「ぐあああああああああ!」

 

床に落ちたネプテューヌが目を抑えながら転げ回る。

しかし今回ばかりは意見の一致。

 

『自業自得』

 

覗き、ダメ、ゼッタイ。


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