「お姉ちゃん……!」
「ありがとう、ネプギア。1人で良く耐えきってくれたわ」
ネプテューヌがマジックから目を離さないまま言った。
そして背中のビームサーベルの柄をネプギアに向かって放り投げる。
ネプギアがそれを掴むとビームサーベルからビームの刃が発振した。
「ミズキさんは……?」
「大丈夫、無事よ。ここには来れないけど……怪我はしてない」
ネプギアもゆっくりと立ち上がってマジックを見る。
マジックは歯を食いしばりながらネプテューヌを見上げ、ネプテューヌはマジックを厳しく睨みつけている。
「何故……!?貴様は飲まれたはずだ!」
「救い出してくれたのよ」
「この……!」
マジックが内心で舌打ちする。
(裏目に出たか……!)
結果的にマジックはネプテューヌのNT-Dを目覚めさせることになってしまった上に、ミズキもネプテューヌも怪我をしていない。さらにネプギアを始末することすらも出来なかった。
(どうしたというのだ、私は……!)
こんなミス。普段ならありえないミスだ、作戦が予想通りに行かなくともこんな、無様な……!
「ネプギアは下がって。ここからは私だけで大丈夫!」
「……る…よ……」
「っ」
「舐めるなよォッ!」
マジックが地面を蹴ってネプテューヌに飛び込んでいく。
鎌と太刀がぶつかり合い、ネプテューヌが勢いに押され後退していく。
「このまま、叩き潰してやろう!」
マジックの光の翼が展開、さらに加速してネプテューヌを押し込んでいく。マジックの視線の先には壁。
しかし、ネプテューヌはフッと一瞬微笑んだ。
「今の私の加速なら……!」
ネプテューヌのプロセッサユニットが唸りをあげる。
ネプテューヌの背中を押すブースターがマジックの加速を緩やかにしていき、壁への接近が止まっていく。
「バカ、な……!」
「っ、く……!」
互角。
マジックの光の翼による加速とネプテューヌのNT-Dによる加速。それは全く互角で2人はお互いの加速をお互いに止め合ってしまう。
「マジック、アナタには……!」
「私は、私は……っ!この手で!ヤツを!」
「もう負けない!やってみせるっ!」
「殺す!殺すために!私は殺すために戦っているのだぁっ!」
マジックの残った2基のドラグーンがネプテューヌの背後に回る。
しかしネプテューヌは上に飛び、マジックとの鍔迫り合いから逃れながらドラグーンの射撃からも逃れる。
「貴様も……!剣の力となれぇぇっ!」
「剣……!?」
「魔剣は貴様か!?貴様が持っているのかっ!?」
「アナタの狙いは魔剣だって言うの!?」
「ゲハバーンはお前が持っているのかと聞いている!」
ドラグーンの射撃がネプテューヌを襲うが、ネプテューヌのスピードにはドラグーンは追いつけない。不規則に揺れるように動くネプテューヌにドラグーンはただ狼狽えるだけだ。
「アナタは女神を全員殺す気なのね……!」
「そうだ!そしてその力、犯罪神様のために使う!」
「ビフロンスのために戦うアナタには……!」
「あの悪鬼のためではない!我が主のために……!」
マジックが残像を残しながらネプテューヌに接近。
(どれが実体なの……!?)
「くらえよっ!」
「っ!」
ネプテューヌが1歩後ろに退くとそこをマジックの鎌が掠める。
ネプテューヌは背中を向けてマジックの光の翼から逃れる。
「貴様にも死んでもらう!貴様の次はあの女神候補生!その次は動けないミズキとやらだ!」
「アナタは……っ!」
「全ては犯罪神様のために!」
「アナタも……!ビフロンスも……!」
ネプテューヌが振り返ってマジックに相対する。
そしてネプテューヌの太刀とマジックの鎌がぶつかる。お互いの武器が弾かれ、またぶつかり合う。
「平和のためとか!信仰のためとか……!聞こえのいい言葉を隠れ蓑にして!」
「だが正しい!信じることが悪いことか!?それは貴様の力だと言うのに、それを否定できはしまい!」
「アナタのそれは確かに信仰かもしれない!でも、他人を傷つけて……!苦しめて、泣かせて、最後には叫びすら奪う!そんなものが正しくあるわけがないっ!」
「お前だって、他人を傷つけるくせして!」
「だから、私は優しくありたい!」
「そんな偽善で!」
「人は人を傷つける!だから私はそれ以上に人に優しくありたい、傷つける以上に癒し続ける存在でいたい!」
「女神が傷を容認するかぁぁぁっ!」
互いの武器がぶつかり合い、弾け合い、それは加速していく。決め手のないままにぶつかり続ける2人は武器と一緒に言葉もぶつけ合っていた。
「私は傷つけるのが許せないんじゃない!傷つけたくないと、そう思わない人が許せない!だから、だから私は!」
「傷つける自分を許したいだけの言葉だ!傷つけたくないと思っているのに傷つけてしまう、その矛盾から目を逸らすための言葉!結局貴様もあの悪鬼や私と何も変わらない!」
「だから、私は!苦しみや泣き声、悲痛な叫びを見つめ続ける!それが自分のものであっても!他人の苦しみから目を逸らしているのは、アナタの方よ!」
ネプテューヌが太刀で斬りかかり、マジックはそれを手のひらで迎え撃つ。
それがぶつかる瞬間、ネプテューヌの頭に再び悪寒が走る。
「ーーーー!」
この悪寒は少し前も感じていた。
この悪寒は従うべき悪寒。悪寒そのものに寒気を感じながらもネプテューヌは再び寸前でその太刀を止めた。
「……臆したか?」
「っ、アナタが、喋ったの……?」
「世迷言を!」
ネプテューヌの脇腹めがけたマジックの回し蹴りが防御した太刀とぶつかる。
ネプテューヌはその勢いを生かしながら後退して再びマジックに向かっていく。
「アナタを、倒す!」
「それでいい!私も貴様を殺す気だ!」
「でも、できればそんなことしたくない!」
「姉妹揃って甘いな、そんなことで戦えるのか!女神ィッ!」
ネプテューヌの太刀とマジックの回し蹴りがぶつかり合う。
「ッ」
「……!」
続けてマジックが鎌を振り、ネプテューヌはそれを体を沈めて避ける。
しかしその瞬間にネプテューヌの頭に再び悪寒が走る。
「っ、また……!」
「っああああ!」
「くっ!」
縦に振り下ろされる鎌を受け止めた。
そしてそのまま密着し、マジックの動きを封じる。
「貴様……!」
「これ、は……声っ!?」
「私は喋ってなどいないっ!」
むりやり押し離し、鎌と太刀をぶつける。
互角。さっきからネプテューヌとマジックの力は拮抗していて、互いにダメージを与えられない。
ならば、勝負を決めるのは……!
「ドラグーン!」
「っ」
ネプテューヌの背後に再びドラグーンが回り込む。
しかし、ネプテューヌはそれを避けることはせずに自分の背後に魔法陣を2つ光らせる。
「32式、エクスブレイド!」
シェアで作られた刃が魔法陣から飛び出し、ドラグーンに突き刺さる。
ドラグーンは爆散してしまい、それと同時にネプテューヌはマジックを蹴飛ばした。
(ミスを逃さぬ……!ほんの僅かな気の緩みでさえも、狙い撃つ……!)
「はっ、はっ……集中しなきゃ……!」
ネプテューヌがマジックから逃げるように間合いを離す。
マジックは溶岩弾でネプテューヌを狙い撃つが、ネプテューヌは軽々とそれを避ける。
「はあっ、はあっ……!」
「チッ、当たりはしないか……なら……!」
マジックが光の翼を展開した。
加速しようと構えをとった瞬間、マジックは後ろから聞こえる加速音に気付いた。
「たあああっ!」
「女神候補生かっ!」
ネプギアのビームサーベルと咄嗟にマジックがあげた足がぶつかる。
「片腕が使えぬ貴様などに!」
「今だって、気を引くくらいはできる!」
数度足とビームサーベルが火花を散らし、マジックが光の翼で素早く後退する。
その隙にネプギアはネプテューヌと合流した。
「お姉ちゃん、私も……!」
「ええ、ネプギア、ありがとう。……ねえ」
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
「……いえ、なんでもないわ。行くわよ、ネプギア!」
突撃するネプテューヌの後ろからネプギアがついていく。
紫の軌跡を残して駆けるネプテューヌをマジックは正面から迎え撃つことはしない。そんなことをすれば後ろからすかさずネプギアが追い打ちをかけるからだ。
マジックは後退しながら溶岩弾で牽制をかける。
しかしネプテューヌはそれを切り裂いて一直線にマジックに近寄る。
「そこっ!」
ネプテューヌが太刀を振ってマジックに切りつける。しかし、マジックの姿は切り裂いた場所から霧になって消えていく。
(残像!)
「攻めに転じる!」
ネプテューヌが後ろを振り向くとそこにはネプギアへ向かうマジック。
「ネプギアが狙い!?」
「手負いの足でまといから!」
「私は、足でまといなんかじゃ!」
ネプギアとマジックが鍔迫り合う。
そしてマジックは間髪入れずに鎌でビームサーベルを引っ掛けた。
「えっ、きゃああっ!」
そしてネプギアを放り投げる。
「っ、こんな罠なんかに……!ネプギア、今行くわ!」
「お前は後で相手してやる!」
マジックはネプギアに向かいながらネプテューヌへ鎌を投げた。
目にも留まらぬ速度で回転する鎌がネプテューヌを質量で吹き飛ばした。
「うっ!」
「逃がすものかあああっ!」
「当たれない……!」
マジックのパルマフィオキーナがネプギアを襲う。
ネプギアはビームサーベルを上へ放り投げ、残った片手でマジックの右手首を掴んだ。
「っ……!」
「まだ、もう片手でっ!」
「っ、ネプギアっ!」
「ーーー!」
「ネプギア……!?」
ネプギアの体に脈動が走る。
自分の頭めがけて開かれた手のひらが向かってくる。
「はああああああっ!」
ネプギアが前に出た。
全身のプロセッサユニットを使って前方向に進んだネプギアは当然、マジックと衝突する。
「なっ」
「っ!」
ガチン、と鈍い音がしてネプギアの額とマジックの額がぶつかる。
同時に反作用で仰け反り、マジックのパルマフィオキーナのビームは遥か彼方、あらぬ方向へ飛んでいく。
「っ、か……!」
「い、ま……!」
ひどく悶絶しているがネプギアは逃走に、マジックは追跡に意識を切り替える。
額を抑えたマジックが帰ってきた鎌を掴み、ネプギアはマジックを見たまま後退する。
しかしネプギアが退るよりもマジックが鎌を振る方が早い。マジックが力任せに鎌を横に振った。
「っ、あっ!」
ネプギアが吹き飛ばされる。
クラクラと揺れる頭と視界にパルマフィオキーナを構えるマジックが映った。
「ネプギアっ!」
「お姉ちゃーーー!」
自分を呼ぶ声に振り返るとネプテューヌが手を伸ばしている。
ネプギアは咄嗟にビームサーベルを手放してネプテューヌへと手を伸ばす。そしてネプテューヌはその手をしっかりと握りしめる。
その時だった。
ネプギアから発する波動が共鳴するかのようにネプテューヌにまで伝わる。
それはネプテューヌの全身を伝わり、揺らし、体の芯まで響く。
そしてネプギアの才能とも言い換えられる強力な波動はネプテューヌの脳に達し、その最奥を最も強く震わせた。
「ーーーーー」
ネプテューヌの視界が開けていく。
ある人はそれを様々な言葉で表現した。『答えが見える』、『自分が広がる』、『盲人の目が開く』。
ネプギアのXラウンダーの波動がネプテューヌの中の取っかかりを壊し、ネプテューヌの真髄を表面へと引き出していく。
ニュータイプ。
ネプテューヌの奥底にあり、全開まで大量の時間を有するはずだった力は図らずもネプギアのXラウンダー能力により発揮された。
ネプテューヌがネプギアを引っ張るのと同時に前に出て場所を入れ替える。
パルマフィオキーナがネプギアからネプテューヌへと目標を変え、その銛はネプテューヌの顔面めがけて飛んでいく。
それがネプテューヌの顔を掴む刹那。あと数cmで届く距離で手のひらは止まった。
マジックの鳩尾に足がめり込んでいた。
「っ……は………っ!?」
ネプテューヌの前蹴りがマジックの鳩尾に命中したのだ。
ネプテューヌが顔をそらすとパルマフィオキーナから残滓のようなビームが発射されて虚空へと消える。
「私は……1人じゃダメなのね」
太刀が横に振られ、マジックの脇腹へと叩き込まれる!
反射的に太刀から逃れるように動くマジックだったがそれは太刀の傷を少しも浅くすることは無い。
マジックが吹き飛ばされた。
「がっはああっ!?」
このNT-Dはマジックに引き出され。
ニュータイプの力はネプギアに引き出された。
そもそもの力はミズキが分けてくれたもの。
まるで運命のよう。
敵も、味方も、ここに誰か1人でも欠けていたとしたなら……きっと私は何も守れなかった。
「行くわよ!ネプテューンブレイクで決める!」
ネプテューヌがマジックに追い打ちをかける。
マジックは顔を歪め、それでも痛みに耐えて鎌を防御に使う。
しかし、ネプテューヌはそれを読んでいたかのようにマジックの背後に回り込んだ。
「っ……!」
「今の私の力なら!」
ネプテューヌがマジックを切り抜けた。
再び完全に入った一撃。
しかしマジックがその痛みを感じた瞬間にネプテューヌは再び折り返してマジックに向かっている。
「があああっ!」
目にも留まらぬスピード。
連続で切り抜けられマジックの体には幾重にも斬撃の切り傷が浮かぶ。
「落ちろっ!」
「っ、貴様などにぃぃっ!」
ネプテューヌが真上からマジックをたたき落とす。
しかしマジックもただやられてはいない。死力を振り絞り、叩き落とされる瞬間にネプテューヌの刀に手のひらを添えた。
「うっ!」
ネプテューヌの刀が爆散した。
パルマフィオキーナはネプテューヌの刀を粉々にし、もはや使えないほどにしてしまう。
しかし、ネプテューヌは背中のビームサーベルを抜いた。
「往生際が、悪いのよっ!」
落下したマジックにまだ追い打ちをかける。
鎌を杖にして立ち上がるマジックを切り抜けた。
「っ、は……!」
マジックの鎌が両断された。
折り返すネプテューヌにネプギアがビームサーベルを投げる。
「お姉ちゃんっ!」
「ネプギア!」
それを掴み、再びマジックを背中から切り抜ける。
「これで……倒れなさいッ!」
ネプテューヌが2本のビームサーベルをマジックに振り落とし、両肩から袈裟斬りに切り裂いた。
マジックは目を見開いてゆっくりと後ろへ倒れていく。
ネプテューヌがビームサーベルを背中に収納するのと同時にマジックが背中から地面に倒れる。
ネプテューヌとネプギアの勝利だった。
「お姉ちゃんっ!」
「待って、ネプギア」
笑顔で駆け寄ってくるネプギアをネプテューヌが未だ厳しい表情で咎める。
そしてそのまま目を閉じたまま横たわるマジックへと鋭い視線を刺す。
「どういうことよ、アナタ」
「……フ、フフフ…………」
「諦めたわね、なんでよ」
「……これで、いいのだ……これで……」
ネプテューヌは最後の瞬間、マジックから諦観の念を感じた。
有り得ない。マジックに限って、あそこまで復讐の炎を滾らせていたマジックに限って諦めるなど有り得ない。
まだ何かある!
「勝てば……悪鬼に復讐し、私が犯罪神様の跡を継ぐことができた……まあ、それも、有り得たはずのもう1つの未来……」
「アナタは負けたわね」
「それでもいい……フフ、それでも良いのだ……!」
諦観の念は感じた。しかし敵意は消えない。
何か策が発動しようとしていた。マジックの命を賭け金にして発動する巨大な策が。
「私が死ねば……4つの器全てが犯罪神様の元へ還る……そうすれば、犯罪神様は、復活、する……!」
「な……!」
ジャッジ、ブレイブ、トリック、マジック。
その4人はもともと犯罪神の巨大な体の欠片に過ぎない。
「たとえ、悪鬼の下僕に成り果てようとも……その、魂が……欠片でも残っていれば、私は……!」
「ふざけないで!止めて、止めなさいよ!」
「私達がマジックを倒したせいで……ビフロンスだけじゃなくて、犯罪神まで……!?」
「できれば……この身のまま犯罪神様に仕え、たかっ、た……。う……!」
マジックが呻くのと同時に体が光となって消えていく。
「もう遅い……フフ、ざまあ、み……ろ………」
そしてマジックはそのまま完全に消え去ってしまう。
光の粒子はギョウカイ墓場へと向かっていき、2度と戻らない。止めることも出来ない。
呆然と立ち尽くすネプテューヌとネプギア。
直後、ギョウカイ墓場を震源とした巨大な地震が起こった。