超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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Xアストレイ

ネプテューヌの両腕を掴んだXアストレイがネプテューヌをそのまま抑える。

 

「ゥ、ァ……!」

《ネプテューヌ……!》

 

しかしネプテューヌの推進力はXアストレイを徐々に後退させていた。

 

「ワアアアアッ!!」

 

ネプテューヌが威嚇するようにXアストレイに叫ぶ。

ネプテューヌの腕に信じられない力が宿り、Xアストレイの腕も震えながら曲がっていく。

しかし、ネプテューヌの瞳から流れる涙は止まらない。それはXアストレイの胸や顔にポタポタと落ちて弾ける。

焦点が定まらずに揺れる瞳は目の前のものを捉えているのかすらわからない。

 

《ん、く、ぐうぅっ……!》

 

ネプテューヌの太刀がXアストレイの肩装甲に刺さり始めた。

PS装甲は太刀の刃など通さないが、ギャリギャリと火花が上がる。

このままでは切られるのも時間の問題だ。

 

(でも……っ!)

 

ネプテューヌは傷つけてはいけない。

けれど、自分だって傷ついてはいけない。自分が傷つけばそれはきっとネプテューヌの傷になる。またネプテューヌが悔やむことになる。

 

それだけは……許せない!

 

《ごめん……約束を、破るよ……っ!でも、それは、約束よりも大切なものを……!》

 

ミズキの中で何かが弾けた。

 

《守る、ためにっ……!》

 

 

パリィ……ィ………ィィィ……ン……ッ…!

 

 

《ネプテューヌ……!》

 

SEED発動。

ついにミズキがSEEDを発動してしまった。ジャック曰く、限界を超えるような能力を発動すればミズキの体に大きな負荷がかかる。

けれど後悔はない。全く。

 

《っ!》

「ァッ……」

 

Xアストレイは渾身の力を込め、ネプテューヌの太刀を押し返す。

グググとゆっくりと持ち上がっていくネプテューヌの太刀がついに装甲から離れた。

 

そしてXアストレイの背中からドラグーンが4基分離した。

 

《誰彼構わず襲いかかる獣は……!》

 

Xアストレイがネプテューヌの手を掴んだまま回転し始める。

段々と回転のスピードを上げていくとネプテューヌの足は遠心力で浮き上がっていき、ミスミスと空気を切る音が聞こえ始める。

 

《たああああっ!》

 

ネプテューヌの手をパッと離した。

ジャイアントスイングの要領で吹っ飛んでいくネプテューヌだったが、そこはさすがNT-Dの機動力と言うべきか、さして距離も離されずに急ブレーキがかかる。

 

「アッ………!」

 

強烈な反動に体と顔を歪ませながらネプテューヌは爆発的な加速でXアストレイに再突撃をかける。

 

しかし、そのネプテューヌをドラグーンが囲んでいた。

 

……ネプテューヌは傷つけられない。だからビームは撃てない。本当は突きとか蹴りとかの打撃攻撃だってやりたくないのだ。

さて、マジックが使うドラグーン。アレはビームを撃つことしかできない。

では、Xアストレイのドラグーンは?

マジックの物とは違って砲門はたくさん付いているものの……それは対ネプテューヌに限っては死に武装でしかない。ビームを撃てないのだから。

 

(……僕とビフロンスは違う)

 

戦うための力をビフロンスはマジックに与えた。

僕は違う。

戦うための、打ち倒すための(ドラグーン)じゃない、戦うために、誰かを何かを守るための(ドラグーン)だ。

ビフロンスの考えが正しいのかもしれない、もしかしたら違う形の平和があるのかもしれない、けれど、絶対に、僕とビフロンスは違う。

だから歩む道が違うのはきっと……必然なんだ。

 

《檻に閉じ込めるッ!》

 

ドラグーンが緑の膜を張った。

正三角錐の頂点をそれぞれのドラグーンが担当し、面を緑の膜が担当してネプテューヌを閉じ込める。

緑の膜はビームバリア。

それは暴れ狂う獣を外に逃がさぬための強固な檻になり得る!

 

「ウッ!?」

 

ネプテューヌが勢い余ったビームバリアにぶつかって弾かれる。

目の前に突如現れた緑の膜にネプテューヌが触れるが、その熱にネプテューヌは反射的に手を離した。

 

「ウッ、ワアアアアッ!」

《……しばらく、そうしてて。治す方法は見つけるから……》

 

ネプテューヌは檻の中から叫ぶが、声でビームバリアが割れるわけもない。

ミズキは早々にSEEDを解除して負担を最小限に抑えた。

 

《ンッ!……頭痛、かな。頭が重い……》

 

ズキリと一瞬だけ頭に痛みが走った。その後も頭が深い倦怠感に包まれているような感じがする。

ほんの数秒だけの使用だったが、体への負担はやはり大きいらしい。今は大したことはなさそうだが、無理はしないに限る。

 

《……満足に戦えない。それでビフロンスに勝てるのかはわからないけど……》

 

みんながいる。みんなを信じるしかない。

 

一息ついてXアストレイは後ろを振り向いた。

そこではまだ戦火が広がっているが、それはだいぶ近いように思える。みんなが来ればネプテューヌを押さえつけることだってできる、それまで待てばいい。

 

そしてまた振り返るとその視線の先にはギョウカイ墓場があった。

僕とビフロンスの歩く道は違う。全ての人の道を断とうとするビフロンスを放ってはおけない。

1つだけ再確認できた。

僕とビフロンスに共存は有り得ない。

当然のことながら、今初めて冷静にそれがわかった気がした。

 

《………っ?》

 

深く考え込んでいたXアストレイがハッと我に返る。

そのきっかけとなったのは何かバチバチと火花を散らす音。

 

(まさかっ!?)

 

Xアストレイがネプテューヌの方を振り返る。そこには自分の体が焼け付くのも厭わずにビームバリアに張り付くネプテューヌがいた。

 

「ァァァァッ!」

《うわあああっ、ネプテューヌぅぅっ!》

 

ネプテューヌの肌が焼け、火傷が広がって黒焦げていく。

 

《ば、バリア解除ッ!》

 

咄嗟にXアストレイはバリアを解除してしまう。

その瞬間に檻から解き放たれた獣は貪欲に獲物へと襲い掛かる。

 

《っ、くううあっ!》

 

太刀で突きを繰り出すネプテューヌを紙一重で避け、ネプテューヌに抱きついた。

腕を抑え、体の動きを封じるように動くXアストレイだが、ネプテューヌの推力に振り回されるばかりだ。

 

《ネプテューヌ、止まって……!》

「ァ、ウウウッ!」

《ダメ、なのかっ……!?》

 

ネプテューヌに振り回されながら宙を舞うXアストレイ。馬が背中に乗った人を振り落とすように暴れるネプテューヌにそう長くはしがみついていられなかった。

 

《っ、わあっ!》

 

ついにXアストレイが手を離してしまう。

振り落とされたXアストレイにネプテューヌは容赦ない追撃をかける。

 

「ワアアアッ!」

《うぐあっ!》

 

ネプテューヌの太刀が振り下ろされ、もろにXアストレイの腹を袈裟斬りにする。

PS装甲には傷はつかないが、衝撃は抑えられない。

斜め下に叩き落とされたXアストレイが墜落した。

 

《うぐっ、かは……!》

 

墜落した先はプラネテューヌ教会の屋上。

背中を強打したXアストレイに休みなく襲いかかり、ネプテューヌが馬乗りになった。

 

「ウッ!」

《っ!》

 

首元に突き刺してくる太刀を腕で払い除ける。

耳のすぐ横に太刀が突き刺さり、それを再び引き抜かせはしないようにXアストレイが両手で太刀を持った手を抑える。

 

「ゥ、ヴ……!」

《く、ぐ……!》

 

膠着状態。

けれどもう1度太刀を引き抜かれたら終わりだ。いくらPS装甲でも関節部は守れない、首に刺されたら問答無用で死んでしまう。

 

《ネプテューヌ、ネプテューヌ……!》

 

涙はXアストレイの顔にポタポタと降りかかる。

 

わかる、わかるんだ。ネプテューヌが苦しんでいることが。

だから助けてあげたい、救ってあげたいのに……!

 

「ハアッハアッハアッハアッ……!」

 

(ここで助けられなかったら……また、同じなんだ……っ!)

 

カレンが、ジョーが、シルヴィアが……!

守りたかったみんなが死んだ時と、消えた時と同じなんだ……!

何ひとつ守れなかったじゃないか……!でもここで色んなことを得られたんじゃないか……!

変わったんじゃないのか!?結局同じなのか!?ここにきてまた、何かを失うのか!?

 

《大切な、人……ッ!》

「ハァッ、ウッ……!」

《僕の……っ!》

 

そんなことは、させない……!

邪魔をしないで、NT-D……!

 

《ネプテューヌは渡さない……っ!》

 

ネプテューヌの太刀が深く地面に突き刺さり始めた。

しかし、Xアストレイの体は光に包まれていき、変身が解けてしまう。

 

「ネプテューヌを返して……!」

 

生身となったミズキがその頬でネプテューヌの涙を受け止める。

 

「ネプテューヌを返せ……っ!」

 

温かなその涙がミズキの頬をつたっていく。

 

「そのための力を……!」

 

涙はミズキの頬を伝い、地面へと落ちる。

その時、ミズキは新たな変身を遂げた。

 

「ガンダムッ!僕の、僕だけの……みんなのための、大事な人のためのッ!」

 

ミズキが変身を始める。

だがその変身は今までの変身とは違う。

今までは光に包まれ一瞬で変身を遂げていた。しかし、今回はミズキの体が上書きされるように体が徐々に新たな装甲に覆われていく。

フレームが剥き出し、バックパックも皆無で武器も持っていない。

そんな未完成の姿が徐々に明らかになっていく。

それでもそのガンダムは、誰かを助け得るだけの力を……!

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「うっ、ううっ、ひっく……!」

「……良かった、良かった……」

「良く、ない……!私、また、ミズキに剣を……!」

「……大丈夫、大丈夫だから。必死に抗ってたの、わかってるから」

 

ネプテューヌがミズキの胸に顔を埋めて泣いている。

それをミズキは優しく抱きしめ、幼子をあやすように優しく頭を撫でる。

 

「ごめん、ごめん、ごめん……!2度とこんなこと、したくなかったのに……っ!」

「ネプテューヌ、いいんだって」

「でもっ!」

 

顔をあげたネプテューヌの頬をミズキがさすった。

ぐしゃぐしゃになったネプテューヌの顔の涙を拭い、目と目を合わせる。

 

「僕は許してるよ」

「ミズキ……!」

「それより、僕より、ネプギアを」

 

ミズキの手がネプテューヌの頬から離れた。

するとミズキの手は力なく落ちて大の字になる。

 

「僕は力入んないや……シェアを使うと、こうなるんだね」

 

ミズキは冗談めかして笑ってみせる。

するとネプテューヌはゴシゴシと自分の目を擦って涙を拭って見せた。

 

「ネプテューヌ、目、赤いよ?」

「……行くわ、私。アナタの分まで、ネプギアを助けてみせるわ」

「ネプテューヌに任せるなら、安心だ」

「……ここに居てよ。帰ってくるから。ネプギアと一緒に」

 

ミズキは少し微笑んで返事とする。

ネプテューヌはそれを見てから立ち上がって飛び上がる。

 

「どんなに私が罪を犯しても……」

 

ネプテューヌの瞳からもう涙は流れない。

 

「私は潰されない。……許してくれるから」

 

ネプテューヌの体には今までにない力が溢れていた。

 

「許し合って許し合うほど……私は強くなる」

 

人と人の繋がりを妨げる罪の存在。

それすら、消し去れるのなら、きっと……!

 

「NT-D……もう私は罪には囚われないから……」

 

ネプテューヌの体が一瞬だけ赤く輝いた。


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