超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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暴走

マジックが放ったアポカリプス・ノヴァの閃光が消えていく。

少しの熱と甚大な被害を残して他には何も無い。

 

「………ほう」

 

マジックがくるりと振り返るとそこには教会の屋上で膝をつくネプギアの姿。

Xアストレイとネプテューヌも空中でなんとか体を支えて浮かんでいた。

 

「はっ、はっ、っ……!」

「耐えたか。やはり、余波ではその程度のダメージにしかならないようだな」

 

効いた。

のっけから一気に体力を持っていかれた、体に力を入れると鋭い痛みが走って動きたくない。

 

「負ける、わけには……!」

「やれ」

 

スーパードラグーンがネプギアの元へと向かっていく。

ネプギアは体に鞭打って両肩とブースターを唸らせ、ビームの集中砲火から逃れる。

 

「この機動力なら、簡単には……!」

「逃がさんぞ!」

 

マジックも飛翔してネプギアを追う。

ネプギアはM.P.S.C(L)から楔形のビームを何発も放つが、全て避けるか弾かれる。

確かにXラウンダーの先読み能力はマジックの動く方向へ曲がる。

だがマジックの反射神経の方が上だ。SEEDによる優れた空間認識能力にかかれば向かってくるビームなどフライをキャッチするようなもの。

次第にじわじわとネプギアとの距離を詰めるマジックだったが、後ろからビームが飛んでくる。

 

「チッ、追いつかれたか」

 

《ネプギアはやらせはしない……!》

 

Xアストレイがビームライフルでマジックに牽制の射撃を行う。

それに気付いたマジックはビームを避けながら、ドラグーンにネプギアを追わせたまま、Xアストレイに向き直った。

 

「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす……もう油断はしないッ!」

 

マジックのドラグーンを射出した後のプロセッサユニットが大きく開いた。

するとプロセッサユニットから虹色の光の粒子ーー光子ーーが吹き出て、まるで翼のように展開する。

 

(バカなっ!?光の翼!?)

「PS装甲……さすがの防御力だ。だが!」

 

マジックが肩に鎌を担ぎ、加速した。

ミラージュコロイドを散布しながら飛んでいるためにマジックが何体にも残像を残して飛んでいるかのように見える。

 

マジックを打ちのめしたデスティニーガンダムの武装の1つ、光の翼。

それすらもマジックは使いこなしてーーー!

 

「させないッ!」

「っ、ふんっ!」

 

横からネプテューヌが飛び出し、マジックに切りつけた。

マジックは加速を止めて鎌で受け止め、ネプテューヌと鍔迫り合う。

 

「私もその武装は見た……!真似事が通用すると思って!?」

「見ても見切れぬだろう!」

 

マジックが鍔迫り合ったまま光の翼の推力でネプテューヌを押し飛ばす。

そしてマジックの膝から爪先、脛に被るようにビームサーベルの刃が発振された。

 

「ぬんっ!」

「くっ」

 

ビームサーベルの蹴り。

ネプテューヌは縦に太刀を構えて受け止めるが、マジックの蹴りの連撃が続く。

 

「そらそらそらっ!」

「っ、く……!この!」

 

両足でステップでも踏むように連続で蹴りをネプテューヌの太刀に打ち込んでいく。

ネプテューヌは力で足を打ち落とし、自身も蹴りをマジックに食らわせようとする。

 

「ーーー!」

 

しかし、ネプテューヌの動きが急に鈍った。

まるで気圧されたかのようにネプテューヌは蹴りを減速させ、後ろに飛び跳ねて間合いをとる。

 

「………なに……?」

「怖気付いたか?」

「っ、なにを!」

《このっ!》

「ふん、当たらんよ」

 

Xアストレイのプリスティスとビームライフルがマジックに撃ち込まれる。

マジックは体を逸らしてそれを避け、Xアストレイに向かおうとする。

 

「させませんっ!」

「っ、チッ……!」

 

しかし後ろからネプギアのビームが迫る。

自分の動きを読んで撃たれる弾にはいくらマジックといえども闇雲に避けるわけにはいかない。

軌道を見切るのは容易、しかし軌道を読まなければビームが当たることになってしまう。注意せざるを得ない。

 

(時間さえ稼げれば……!)

 

時間を稼ぐことが出来れば、みんなが追い付く。

そうすればいくらマジックといえども勝つことは出来まい。

しかしマジックもそのことは痛いほどわかっていた。

 

(ならば!)

 

マジックが急旋回、光の翼の推進力をもってネプギアへと突進した。

 

「えっ、きゃあっ!」

 

ネプギアがマジックに蹴飛ばされる。

M.P.S.C(L)で受けたためにダメージはないが、意表を突かれたためか大きく後退してしまう。

 

《ネプギア、くっ!》

 

Xアストレイにはドラグーンが牽制をかけ、近寄ることを許さない。

 

「ネプギアはやらせないわ!」

 

ネプテューヌが果敢にマジックへと向かっていく。

しかしマジックは不敵に笑い、ネプテューヌに手のひらをかざす。

 

「それをこそ待っていた!」

 

マジックが火炎の球をネプテューヌに放つ。

ネプテューヌは防御魔法で受け止めようとする。

 

(っ、なに!?)

 

ネプテューヌに何故かはわからない危機感がアラームを鳴らす。

あの時、蹴りをマジックにカウンターしようと思った時も感じた悪寒。

あの時は蹴りを止めることが出来たが、しかし今は間に合わない。

 

防御魔法に火炎球が命中した。

 

ネプテューヌは一瞬だけ思う。勢いがない、威力が低い、軽すぎる。

そして次の瞬間、目の前が真っ白になった。

 

「うっ、きゃあっ!」

 

火炎球が防御魔法に当たった瞬間に破裂し、眩い閃光を放ったのだ。

一時的に目を潰されたネプテューヌへとマジックが向かい、ネプテューヌの頭にグレネードのような物体を押し付けた。

 

「うっ!」

《ネプテューヌ!》

「感謝しろ……私が貴様を強くしてやる」

 

マジックがグレネードの栓を抜く。

その瞬間、Xアストレイとネプギアは突然後ろに吹き飛ばされた。

 

《っ、わああああああっ!》

「なにこれっ、あああっ!」

 

常人が見ればXアストレイとネプギアが勝手に吹き飛んだように見えただろう。

しかしXアストレイとネプギアにとっては膨大なエネルギーをぶつけられたのに等しいことが起こったのだ。

 

マジックがネプテューヌに押し付けているのは対ニュータイプ用グレネード。

そのグレネードは爆発もしないし、常人に全く効き目はない。

そしてそのグレネードが撒き散らすものは破片でも爆発でもなく……強大な脳波。敵意。

 

一瞬とはいえニュータイプやXラウンダーの持つ特殊な脳波を撒き散らすそのグレネードは相手が強い能力持ちであればあるほど効果を発揮する。

もしゼロ距離で食らったのがミズキやネプギアだったら良くて気絶、悪くて廃人になるレベルの勢いなのだ。

 

もちろん、それは使用者であるマジックに効果はない。

そしてそれはネプテューヌにも同じはず。

……はず、だった。

 

「あ、あ、ああああっ………!?」

《ネプテューヌ!?》

「お姉ちゃん!?」

 

「獣を目覚めさせてやる……お前の内に眠る、野獣をな」

 

ネプテューヌの体がガクガクと痙攣し始めた。

なにかに怯えるような震えは止まらず、ネプテューヌの呼吸が乱れていく。

体が思い通りに動かないのか、ネプテューヌは目だけをXアストレイに向けて震える口を必死に制御する。

 

「あーーーー」

《ネプテューヌ!?》

「み、ミズキ……ね、ネプギ、ネプ、ネプギア……!」

 

Xアストレイとネプギアが急いでマジックを退けようと近付く。

しかし、それは既に手遅れだった。

 

「助けーーーーー!」

 

ビクン、とネプテューヌの体が反り返って硬直した。

2人に向けられた言葉は完結することなく、ネプテューヌは口をぼうっと開いている。

 

そして、ネプテューヌの体に紫のラインが入っていく。

体に流れる力を視覚化したような光るラインが全身に広がり、ネプテューヌの全身を覆う。

 

「始まるか……NT-D!」

 

マジックがグレネードを投げ捨てた。

ネプテューヌは脱力して虚ろな瞳でただ宙を眺めている。

 

「お姉ちゃんに、何をしたんですかっ!」

「クク、じきにわかーーー」

 

その瞬間にネプテューヌの目が光を取り戻す。

しかし、その瞳はいつものネプテューヌの瞳ではなかった。妖しく光る紫の瞳は、完全に正気を失っている目だった。

そしてネプテューヌは太刀を握る手に力を込め、目の前……1番近くにいる相手、マジックに向けて太刀を振るった。

 

「っ、ぐあっ!?」

 

不意を突かれたマジックが吹き飛ばされた。

宙返りして態勢を立て直したマジックが驚愕に目を見開いてネプテューヌを見る。

 

「バカな……!なぜ私をっ!?」

 

「お姉、ちゃん……」

 

ネプギアがゆっくりとネプテューヌに近付いていく。

ネプテューヌはそれに気付いたのか、ネプギアに振り返った。無表情にただ見つめるだけの瞳にネプギアが少したじろぐ。

 

その時、ネプテューヌのプロセッサユニットにブースターが増設され、ビームサーベルの柄が背中に装備される。

 

「っ」

「アアアッ!」

 

ネプギアが危機感を感じた瞬間、ネプテューヌが叫んでネプギアへと向かう。

 

「お姉ちゃんっ!?」

「ウ、オアアアッ!」

《ネプギアっ!》

 

反応が遅れたネプギアの前にXアストレイが立ちはだかり、ネプテューヌの太刀を盾から発振するビームサーベルで受け止めた。

 

「ミズキさんっ!?」

《ぐ、く……!》

 

ネプテューヌの細い腕から信じられないほどの剛力が出ている。

Xアストレイは自分の手をもう片方の手で抑えなければネプテューヌの太刀を受け止め続けることができない。

 

「無差別か……予想外だな。これではもはや暴走だ……」

「これは、これはどういうことなんですかっ!?」

「NT-D……予想通りに自動的に起動……望んだ形の発動ではないが……まあ問題はあるまい」

「何を言ってるんですか、アナタはっ!ちゃんと、ちゃんとわかるように説明してください!」

「話は後で聞いてやろう。その女神を抑えられたらの話だがな」

 

マジックがドラグーンを収納し、背中を向けて逃げていく。

 

「逃げるんですかっ!?待って、待ってくださいよ!」

《ネプギア、追って!》

「ミズキさん……っ!」

《ネプテューヌは僕が抑える!だから、逃がしちゃダメだ!今、この機会を逃したら次はない!》

「わかりました!お姉ちゃんをお願いします!」

 

ネプギアがオービタルの機動性をフルに生かしてマジックを追っていく。

 

「ハァァ………ッ!」

《君は行かせない……!何が起こったのかは、わからないけどっ!》

 

Xアストレイのプリスティスがネプテューヌの方を向いた。

 

《今度こそ!君を傷つけずに君を守る!守ってみせる!》

 

Xアストレイのプリスティスが射出されてネプテューヌの腕を掴もうとする。

しかし、ネプテューヌはそれがわかっていたかのように瞬時に後退してプリスティスを避けた。

 

(速い!)

 

「ウゥ、アァッ!」

 

そしてブースターの推力を乱暴に使ってXアストレイに向かっていく。

 

《プリスティス、行けっ!》

 

プリスティスがネプテューヌを捕まえようと飛んでいく。

しかし、ネプテューヌはバレルロールをしながらXアストレイに向かい、プリスティスはネプテューヌには当たらない。

しかもネプテューヌがプリスティスとすれ違った時に太刀を振り回し、プリスティスを、両断してしまった。

 

《ぐっ!》

「ア、ァッ!」

 

プリスティスが爆発するのと同時にネプテューヌが力任せに太刀をXアストレイに振り下ろす。

まるで野生の動物のように襲いかかってくるネプテューヌはいつもとパワーが違う。しかし、逆に技術が伴っていない。

 

《っ》

 

Xアストレイがネプテューヌの太刀をいなした。

ネプテューヌは勢い余って背中をXアストレイに晒す。そこをXアストレイは飛び蹴りを叩き込もうとした、が。

 

「ゥ!」

《なっ》

 

ネプテューヌはあろうことかさらに加速。

素早く離脱してXアストレイの飛び蹴りをかわしてしまう。

 

《なに、この速さはっ!》

「ゥ……ァッ………!」

 

そのまま紫の光の奇跡を残しながらネプテューヌが舞い上がり、Xアストレイと相対する。

その時、Xアストレイは初めて静かにネプテューヌの顔を見つめることができた。

 

まるで獣。

獲物を狩るような、そんなギラギラした目つきと食いしばった歯。息は荒くなっていて構えも何処か動物的だ。

けれど、そんな状態になったネプテューヌでも獣ではない部分もあった。

 

「ゥ、アアアアッ!!」

 

威嚇するように本能のままに叫ぶネプテューヌ。その両目からは涙が零れていた。

 

《ネプテューヌ……泣い、て》

「ウォォーーッ!」

 

涙を散らしながらネプテューヌが向かってくる。

凄まじい速度で向かってくるが、Xアストレイはキッとネプテューヌを見つめ返す。

 

《あの時、ネプテューヌは言いかけていた……!》

「ゥ、ォ……!」

《『助けて』って!ならッ!》

 

Xアストレイがビームライフルを投げ捨て、真正面からネプテューヌに立ち向かう。

 

「ウォァーーー!」

《っ、おおおっ!》

 

ネプテューヌにタックル、たじろいだネプテューヌの両手首を両手で握り締めた。

 

「ゥ、ァ!」

《離さないッ!泣いて、助けを求めているのならッ!》

 


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