超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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第7章〜最後の四天王、近付く終焉の足音〜
深淵の向こう側


「…………ぅ」

「ん」

 

ベッドの上に横たわっていたブランが目を覚ます。

ゆっくりと目を開いたブランが首をゆっくりと回し、ミズキを見る。

 

「起きた?」

「……ええ」

「気分は?」

「………すごく、疲れたわ……」

 

深い溜息をついたブランが再び目を閉じた。

それをクスクスと笑ってからミズキは窓の外を見る。

………今ならわかる、アレはビフロンスの罠だった。

ブランが止めてくれた、あの時ブランがゼロシステムを手に入れていなければミズキは絶望という深淵を覗いてしまったかもしれない。

現にミズキは深淵の始め、大きな暗闇は見えてしまった。

しかし、けれど、だからこそ。

………何かを得られた。……気がするのだ。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

トリックを倒したとはいえ、まだマジェコンヌの進撃は止まっていなかった。

プラネテューヌは未だに犯罪組織に占拠されていて、今この時も軍と軍の衝突が起きている。

 

「そう……あの変態を倒したから終わりだと思っていたけど、まだ安心はできないのね」

「作戦は決まってる。中央を切り開いて、一気に指揮官を倒す。多分、指揮を執っているのは……」

「残った1人、ね。なるほど、骨が折れそうだわ……」

 

おそらくマジック・ザ・ハードが待ち構えているはずだ。

4人の女神とネプギアをたった1人で倒した相手。それが奥に待ち構えているとしたら、苦戦は必至。

 

「けど、マジックを倒せばマジェコンヌ四天王も終わる」

「……なんとか復活前に終わりそうね」

「うん。そしたらまた、前みたいに戻れる」

「………私待ちかしら?」

「いいや、みんなもブランほどじゃないけど怪我してるし疲れてる。心配しないで、ゆっくり休んで」

「そういえば、アナタ腕は?」

「くっついてるよ。この通り」

 

ミズキは両手を広げて自由に動くことを示すためにぐっぱぐっぱと手のひらや指先を動かす。

それをブランは目を細めながらじっと見ていた。

 

「大丈夫なの?」

「大丈夫」

「……ならいいわ」

 

もう嘘はついていない。

ブランは力を抜いてまたベッドに横たわる。

 

「1日待って。そしたら十分よ」

「うん、わかった。伝えておくね」

 

そう言ってブランは目を閉じた。

まるであの日のようだ。

あの時と同じ、ミズキはブランを眠るまで見つめ続けていた。

あの時と違うのは、もう離れないことだった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

あの時、覗いた深淵。

ビフロンスの思考、ビフロンスの信念、ビフロンスの信条。

ビフロンスは僕らの次元を壊した。あの次元にいた大切な全てを壊していってしまったのだ。だから……憎んでいた。

 

今だってその気持ちは変わらない。親兄弟にも等しいみんなが殺されたのだ。これが憎くないわけがない。

それに、譲れないものがあった。守りたかった、結果的には次元は壊されて何一つ守れなかったけれど……でも、守り抜きたかった。

 

だからこそビフロンスもビフロンスが掲げる平和の理論も認められなかった。

今、この時初めてビフロンスの平和を理解しようと努めた気がする。けれど反論はできなかった。その理論に穴はなかった。

仮にもずば抜けた頭脳を持っているビフロンスが考え出した理論だ。ただこの世を平和にしたい。争いをなくしたいのなら、争わないようにさせる。

しかもそれを自分からしないように……穴が見つからない。そして多分、確実だ。

 

絶望に反対して対義語の希望を掲げた。きっと人は分かり合える日が来ると、そういう可能性に僕は賭けた。だからこそ、その可能性も摘み取るビフロンスは許すことが出来ない。

何より……みんなを奪われたくない。

きっと僕の考えは正しい。でも、今はビフロンスの考えも否定出来ない。

 

ただ単に意地の問題だ。きっと選びたい方を選んでいるだけだ。

希望に満ちた世界と絶望に満ちた世界。きっとどちらでも平和は得られるし、正しい。どちらも穴は見つからないからだ。

 

では、ビフロンスの掲げる平和と僕の掲げる平和。どちらが正しいんだろう?どっちの方が“良い”んだろう?

 

今は一概にビフロンスを間違っていると認められない。けれど僕が間違っているとも認められない。

 

けど、そういうものなのだろうか?

世界がよりよく……平和になる方法。きっとそれは唯一のはずなんだ。きっと人は無意識にそこへ進んで、でも未だに成し遂げられずにいる。

希望、絶望、どちらへ人類は進んできたのだろうか?

どちらへ……僕は進めばいいのだろうか。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「ミズキ、入るよ〜」

「あ、うん」

 

一旦思考の海から浮き上がってドアを開くネプテューヌを迎える。

 

「なに?悩んでるの?コレについて?」

「あ、あ〜……それもあるけどね」

 

微笑んだつもりだが悩んで眉をしかめているのは隠しきれなかったみたいだ。

だがネプテューヌは悩みの原因をパソコンの画面と勘違いした。

 

「ガン……ダム?」

「うん。ようやく形にはなったかな。後は組み立てるだけ」

「……へえ〜……ライフルと、バズーカ……これ盾でしょ?」

 

画面の上の図面をめくりながらネプテューヌが武器について言及していく。

そういえば、アブネスは無事だろうか。

プラネテューヌにいたはずだが、上手く逃げているだろうか……アブネスのことだ、捕まっていないとは、思うけど。

 

「で、それだけじゃないって?」

「……うん。なんか、わからなくなっちゃって。ビフロンスの考えと僕の考え。どっちが正しいのかな……って」

「…………はあっ!?」

「ね、ネプテューヌ近い近い近い」

「大丈夫!?熱でもあるの!?」

「いや、僕はまともだから……ま、まず話を聞いて!」

 

鼻先がくっつきそうなくらいに近寄るネプテューヌを引き剥がして落ち着かせる。

 

「もちろん、ビフロンスは倒す。アイツがいたら、みんなが死ぬ。だから戦う。守るよ」

「う、うん……」

「でも、僕の戦う理由はそれだけだ。倒すことに躊躇はないよ、けど……平和って、なんだろうって思って」

 

あっちを取ればこっちが取れない。

それぞれに欠点が見つかってしまう。

 

「ビフロンスが言うことは誰かが不幸になることだ。でも僕が言うことは凄く不確かなことだ。……どっちが正しいのかな、って」

「そりゃあ、ミズキが正しいに決まってるじゃん。不確かでも、きっとあるって信じてるんでしょ?」

「でもさ。……うん、信じてる、けど」

「よくわかんないんだけど……でも、みんなが不幸せになるのは間違ってるよ」

「でも、人の幸せは食い違うよ。誰かの願いが別の誰かの願いを妨げることだって有り得る」

「う、う〜ん……」

 

ネプテューヌが腕を組んでうんうんと唸り始めてしまった。

 

「でも、でも……う〜ん、じゃあ、みんな勘違いしてたってこと?」

「え?」

「いや、ず〜っと昔の人もさ……平和ってなんだろ〜って考えて……でも、その考えは間違ってたってこと……かな?」

「…………」

 

認めたくないけど、そうかもしれない。

別に遥か古代の偉人だけじゃない、カレンもジョーもシルヴィアも……間違ってたってことなのかもしれない。それは凄く嫌だった。

 

「じゃあ、平和ってさ……今まで誰も見つけられなかったものなのかな?」

「……かも、しれない」

「でもさ、人間の歴史って長いよ?それでも見つけられなかったのかな?」

「…………」

 

あるいは、そんなものないのかな。

見たことのない、きっとあると信じてるものを探し続けて……でも、結局はそんなものなかったなんて……。

 

「きっと、あるよ。……見つけられなかっただけだと思う」

「ん〜……あ、ほらほら!なんていうか、アレ!灯台は明るい!」

「はい?」

「ち、違う違う……えと、ほら、『どこ?メガネメガネ!』だよ!」

「……メガネ………メガネ……メガネ?」

「あ、えとほら……ああ!灯台もと暗し!」

「あ、ああ。……ああ、メガネってそういう……」

 

頭の上にメガネがあるのにメガネを探すキャラの姿が浮かんだ。ああ、つまり、そういうことね。

 

「で、何の話だっけ」

「ほら、探し物ってさあ、案外身近にあるじゃん!発想の転換だよ!」

「アブネスにもそれ言われたな……考え方を逆転させるとかなんとか」

「多分、そういうことなんじゃない?山を登っている時は山の大きさはわからない的な!」

「どういうことなの……」

「ん〜と……上手く言えないけど……1+1は2じゃん?でも、今は3とか4とかになっちゃってるっていうか……だから、どうすれば2になるかを探してるっていうか……」

「………?」

「や、やめて!『何を言ってるんだこの子は……可哀想、色々と……僕が支えなきゃ!』みたいな顔はやめて!」

「いや、そこまでは考えてないけど……可哀想より前は思ってるかな」

「うぐっ!」

 

ネプテューヌの胸に深く深く矢が突き刺さりネプテューヌがうずくまる。

わあいたそう。

 

「ち、違うんだよ………1+1は2なの!どうしたって1+1は2だから……3とか4になった答えを引き算しても割り算しても意味ないんだよ!だって2だもん!」

「う、うん……」

「ちょっと息をふっと吹きかければ、ホコリが飛んで2になるかもしれないし……もしかしたら、目が悪いから3に見えてただけかもしれない。だって1+1は2だから!難しく考えたって……」

「…………」

「ううっ、理解してもらえてない……よよよ」

 

わざとらしくネプテューヌが目元を押さえる。

うん、や、その、ごめん、全然わかんないや。

ネプテューヌ語の翻訳してくれる人いないの?せいぜい僕は4級くらいだからこんな長文わからないよ。

 

「ま、まあその!難しく考えないで!そんな感じ!」

「ネプテューヌに言われると説得力あるようなないような……」

 

簡単にしか考えない人にそんな事言われるとなんかこう複雑。

 

「そういえば、なんで僕の部屋に?」

「え?ああ、その……私も?っていうか……相談があるっていうか?」

 

指を突き合わせて急にもじもじし始めた。

 

「明日のこと?」

「うん……いやあ、本当に私でいいのかな〜……って……」

 

だが赤くなっていた顔はすぐに暗くなって目を伏せる。

 

「みんなの方が……なんならネプギアの方が多分私より強いしさ〜!だから……その……サポートというか……一緒に戦えるかな、って……」

 

既に作戦は決まっていた。

僕、ネプギア、ネプテューヌの3人で中枢に突撃し、その他のみんなが敵を抑える。

プラネテューヌを救うための戦いだ、人選がどうとか誰が1番強いとか誰が戦いたいとかよりも、この人選が適切だと思える。

 

「大丈夫だよ、多分」

 

不安なのだろう。

だがあえて僕はあっけらかんと答えてみせた。

だって、ネプテューヌ自身がさっき言ったばかりだ。難しく考えたって仕方がない。

 

「多分って!」

「クスクス、大丈夫。きっと勝てるよ」

 

隣に誰かいるのなら、ネプテューヌがいるのなら……怖いもの無し。

マジックがどんなに強くたって、どんな戦法を取ったって、そんなの関係なしに勝てるような……根拠はない、けれど確信にも似た自信があった。

 

「今日、夜。月が出たら突撃」

「……うん。今日の夜……今度は、勝てる、かな……」

「きっと勝てるよ。僕がいる」

「……それ、『ノワール+ブラン+ベール<ミズキ』って自信があるの?」

「え、あ、や」

「ふ〜ん……へ〜……告げ口しとこ」

「いや、そういう意味じゃなくて!」

「ミズキくんはぁ、女神3人よりも強い自信があるんだって〜へ〜!」

「す、ストップネプテューヌ!」

 

最後の決戦の時は近い。

マジックを倒せれば、終わるんだ。

復活なんてさせはしない、穏やかな日を……取り戻したい。

だから、今は……平和とか、そういう考えは捨てる。

ただ、戦わなきゃ守れないから戦おう。この戦いは守るための戦いだ。


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