超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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全方位レーザーにより怯んでいた舌が再び向かってくる。

ゼロが判断したのだろう。この程度の怪我は問題ない殺せ、と。ゼロは自らの怪我すらも労わってはくれないのだ。

 

(ビフロンスの、思考を、真似して……)

 

それはまるで麻薬のよう。過剰に摂取すれば死ぬことは見えている、そのギリギリのラインまで近付かなければならない。

 

(圧倒的な力と、頭脳……ゼロすらねじ伏せるほどの……)

 

「執事さん、後ろ!」

 

《っ、ぐっ!》

 

後ろから迫った舌がGセルフを狙う。

Gセルフ本体は避けたが、メガキャノンが片方壊れてしまった。

 

《バランス、が………!》

 

そのせいでバランスが崩れ、Gセルフの動きが鈍くなる。

その隙に舌がGセルフの上でしなり、鞭のように動いてGセルフを叩き伏せる。

 

《わあああっ!》

 

強烈な一撃を食らってGセルフのバックパックが歪む。

なんとか地面には墜落しまいと必死でバランスを取ろうとするが、落ちていくGセルフにさえ舌が追いつく。

 

《っ、があああああっ!?》

 

完全に避けられない。

残った左腕までもが肩から貫かれ、切断された。

両腕を使えなくなったGセルフはあえなく墜落してしまう。

 

「執事さんっ!」

「やめて……!」

 

ロムとラムが魔法を撃つが、軽くあしらわれる。そうしている間にもGセルフに追い打ちの舌が迫っているのに。

 

《っ、く、ぐ……あっ》

「執事さんっ!」

《ッ、光子フィールド!》

 

立ち上がれないGセルフに向かう舌だったが、突如Gセルフから発した謎の光に吹き飛ばされる。

Gセルフの過剰エネルギーを全身から放出することによって舌を退けたのだ。

 

《マズい……このままじゃ!》

 

しかしそれも苦し紛れの策。その場しのぎに過ぎない。

ミズキは未だにビフロンスの思考を感じ取ることも、勝利への道を見つけ出すことも出来ずにいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「う………く………」

 

瓦礫に埋まって気絶していたブランが目を覚ます。

しかし、目は開けない。あまりにも大きすぎるダメージのせいだ。

 

(情け……ねえ………っ、体、が……)

 

ピクリとも動かない。

全身が痛みを訴え、ブランは呻くことすら難しい。

それでもブランは目を開いて状況を視認しようとする。

 

(ミズキ、は……ロムと、ラムを………私が……!)

 

助けなければならないのに。

目を開いた先で見えたのは両腕がなくなったGセルフ、そしてトリックに簡単にあしらわれるロムとラムの姿だった。

 

「アクククク……未来を見るこのシステムに、死角などない!諦めろ!」

 

(未来を……見る、システム………だと……)

 

トリックを虚ろな瞳で見つめるとトリックもギョロリと目を動かしてブランを見た。

ブランが目覚めることはわかっていたことらしい。しかしトリックはすぐにブランから目を離す。

 

(敵じゃねえって……こと、かよ………)

 

ゼロシステム、その前に確かに敵はいない。

けれど、勝たなければならないのだ。勝てない敵すら打ち砕かねばならない。

そうでなければならないのに、ブランの体は動いてくれない。

 

(くそっ………くそ……!ゼロを破る方法は……私が1番わかってるはずだろ!)

 

かつてゼロを使っていたのなら、その弱点すらも見つけられるはず。

考えろ、体は動かなくても思考はできる。

 

(早くしろ……!誰かが……死ぬ、前に……!)

 

思考が早くなる。

ゼロシステムの仕組みと効果を理解したブランは……即時にその裏を見る。

 

 

…………見つけた。

 

 

ならば………。

 

 

 

(アイツを、殺す……!)

 

「ぐ、く、くお、あ………!」

 

「お姉ちゃん!?」

「動けるの……!?」

 

ブランが斧を杖にして立ち上がる。

しかし膝はがくがくと震えていて、前に1歩進むのも一苦労だ。

 

「コンピューターに勝てる、ぞ……私なら!かかってきやがれ!」

「アククク、威勢はいいな!ならば!」

 

ロムとラムと戦っていた舌がブランへ一直線に向かっていく。

 

「お姉ちゃん、避けてっ!」

 

咄嗟にロムとラムも動けない。

仮に避けてもそれを予測してしまうゼロシステムの前にブランは再び打ちのめされてしまう……と誰もが思った。

 

「っ………」

「あらっ!?」

 

しかし、ブランはダメージが来たのか膝からカクンと崩れ落ちる。

するとブランがしゃがみこんで避ける形になり、舌はブランの上を通り過ぎていく。

 

「あ、危ない……!」

「……今、避けられた……よね……?」

「え?」

 

「あら、あららら?予測、出来なかった……!?」

「無敵のコンピューターに勝つ方法は1つ……コンピューターを始動させないこと……!」

 

ブランが再び斧を杖にして立ち上がる。

 

《そうか!ゼロはあくまで今までのデータから相手の行動を予測するシステム!》

 

今まで、過去から今現在、相手の動きや周囲の状況、全てを分析して確実な未来を見せるのがゼロシステム。

ゼロはつまり、起こりうる可能性をパイロットに見せる。しかし、だからこそ!

 

《可能性のなかった偶然……無限に起こる偶然には対応出来ないのか!》

 

足から力が抜けるかも?転ぶかも?心臓麻痺で死ぬかも?あるいは?もしくは?もしかしたら?

そんな無限の可能性をゼロは切り捨ててしまう。考え出せばキリがない、そんな無限の可能性をゼロは考えないのだ。

 

「だが、これは偶然!そう何度も偶然が続くわけがない!ええーい!」

 

ブランに再び舌が向かう。

しかし、今度は舌よりも早くロムとラムがブランに触れていた。

 

「回復!」

「強化……!」

 

「助かる、ぜぇっ!」

 

ロムとラムの回復魔法と強化魔法を受けたブランが斧で舌を切断する。

 

「痛いっ!?な、な、なぜだあっ!?」

 

「まだまだ破る手段はあるぜ……!お次はこれだ!」

 

ブランが斧をトリックに投げ飛ばす。

軌道をゼロが予測したため、トリックは斧をはじき飛ばすが、その影からブランが迫ってきている。

 

「な、しかし武器は!」

「ミズキ!よこせ!」

《っ、わかった!》

 

Gセルフがビームサーベルの柄を蹴飛ばしてブランにパスする。

ブランはそれをキャッチするとトリックに真っ直ぐに向かっていく。

 

「ぜ、ゼロ!?どうしたというのだ!?未来を、未来はどうした!?」

「予測できねえよなあ!?なにしろ、私がこの武器を使うのは……ッ!」

 

ブランがビームサーベルをトリックの口の中に突き刺す!

 

「おごああああっ!?」

「初めてだからな……データもクソもねえ!」

 

そしてゼロの更なる弱点は、データのないことに対応出来ないこと。

だからこそ身体能力を強化されたブランの動きを予測できずに舌は切られてしまい、ビームサーベルを初めて使うブランにも対応ができなかった。

 

もし、もしゼロに頼り切っていなかったなら……まだ対応できたというのに。

 

「お、おごごご!」

「チッ、タフだな……!仕方ねえ、これだけはやりたくなかったが……!」

 

口に剣を突き刺されてもなおトリックに多くのダメージは通らない。

タフすら超えて異常なほどのスタミナと装甲に舌打ちしたブランはトリックの上顎と下顎を掴んで大きく開かせる。

 

「返してもらうぜ……!それが付加されたものだってんなら、私にも!」

 

そしてブランはなんと、自分からトリックの体内に入り込んでいった!

 

「んごっ!?」

 

「お姉ちゃん!?」

「うぇ……」

 

ロムがその感触を想像しただけで少しえずいた。

しかし、ブランは躊躇わず……いや少し、いやかなり嫌だったがトリックの中へ入り込んでいく。

 

あの時のトリックは……ロムとラムを誘拐した時のトリックはこんなシステムを使ってはいなかった。

ならばこの力は後から付加されたものだ。恐らく……ビフロンスによって。

ならばその付加されたところを叩く。

そしてシステムなど重要なものは体表には出ず、必ずその内側に収めるもの。

ならば、その口の中!勝つためなら……突っ込んでいく!

 

「うご、ごご……うえっ!」

《ブラン!》

「心配すんな!ゼロに勝てるのはゼロだけだ……!なら私が!ゼロを使いこなす!」

 

そう言い残してブランの体は完全にトリックの中へ消えた。

 

「ゴクリ。………う、うそおおおっ!?」

「ほ、ホントに……食べちゃった……」

「無茶だよぉ……」

 

《……ブラン………》

 

 

ーーーーーーーー

 

 

光の届かない体内、大きく膨らんだトリックの腹の中は不快だった。

大きくはあるが決して広大ではないはずのトリックの体内は光が届かないせいでまるで無限の空間のようにも感じた。

 

しかし、その中でもブランは迷わずに進んでいく。

別に直感が告げている訳では無い。

ただ、途中で見つけた太いコードのようなものを辿っていただけだ。

 

「くせぇ……あちぃ……息苦しい……」

 

そんな三拍子に苦しめられつつもブランはコードを辿っていく。

別れていたなら太い方へ、途切れていたなら後戻りして。

 

「この中に長くいたら……多分、死んじまうな……。冗談抜きで」

 

瘴気ではないが……あまり良くないものが充満している気がする。

外にいるミズキ達のためにも、ブランは急いでコードを辿っていく。

そしてそれの終着点に、ブランは驚愕する。

 

「ん……だ、これは………」

 

コードがたどり着いた先は大きな機械の球体。

機械自体が発する光のおかげで暗い体内でも浮かび上がって見えてくれる。

ブランがそれに近づくと、機械の球体の扉が開き、その先には人1人が入れるだけの空間があった。

 

やはり、機械か。

恐らくこの扉の中の空間は点検とかそういうことをするための空間だろう。

ブランはその中へゆっくりと入っていく。

 

「………んで、どうするか……」

 

見つけるまではいいものの、見つけてからを考えていなかった。

最悪の場合この機械を壊してしまえばいいのだろうが……ブランが望むのはそれではない。

ゼロを、この手に掴む。

きっと来る、いずれ来るはずのビフロンスとの戦いのために。

 

「ゼロ……お前は、コイツを……トリックを、相応しいと思うのか?」

 

ゼロは何も答えない。

それでもブランは語りかけていく。

 

「はっきり言ってやる。トリックはお前に……ゼロに相応しくねえ!」

 

ブランの声が体内に響き渡る。

 

「私を試せ、ゼロ!もし、私を相応しい使い手だと認めたのなら……!力を貸せ!」

 

そうブランが言った瞬間、扉が閉まる。

ブランが反射的にそれに振り向いた瞬間、ブランの脳にありったけの情報が流れ込んできた。

 

「んあっ!?あ、あ、あああああっ!?」

 

ブランが激しい頭痛に悶えて頭を抑える。

しかしそれ以上に苦しいのは流れ込んでくる情報に流されないようにすること。

 

(な、んだこれは……っ!私が知ってるゼロじゃねえ……!)

 

 

目の前に敵がいる。

では味方を殺してから敵を殺せ。

勝てない。

ならば味方を殺してから敵を殺せ。

勝たせろ。

それなら味方を殺してから敵を殺せ。

 

従えば……敵を絶望に叩き落とせるぞ!

 

 

「くあっ!これは……ビフロンス、かよ……っ!いや、ちげぇ……ビフロンスに、似た……!ビフロンスを肯定したのか、ゼロ……!」

 

ゼロシステムはビフロンスを肯定していた。ゼロに身を任せるのではなく、従えるでもなく、ゼロを飲み込みその考え方すら変えてしまったのだ。

ゼロが使用者に未来を流し込むように使用者もゼロにその絶望を刻み込んだ。

 

「あ、ぐ、く………!」

 

ブランの体に暗闇がまとわりつく。赤黒い暗闇は肌から染み込むようにブランの心を侵食していく。

 

(のま、れる……!)

 

ブランの体に赤黒い斑点がポツポツと現れた。

流れ込んでくるのはあらゆる絶望の可能性。

 

みんなが万全の状態で挑んだ。みんな死んだ。

ゲハバーンを使った。みんな死んだ。

ビフロンスを復活前に倒しに行った。みんな死んだ。

 

ブランが、みんなが考えていた策も、そして望んでいた未来も全て叶わぬと叩き伏せられていく。

ブランの体の斑点が広がっていく。皮膚を侵食し、体の内部にまでビフロンスの絶望が迫ってくる。

 

「な、さけねえな……」

 

しかし、ブランはそれを理解すると笑いながら立ち上がり始めた。

 

「お前が……ゼロが!どう足掻いても絶望に落ちる未来しか見られないって言うのなら……」

 

ビフロンスがあらゆる可能性の先に絶望を見出したというのなら……見つけ出す。

ゼロにもビフロンスにも見つけられなかった、予測できない未知数の未来。それを叩きつける。

 

「私が見せつけてやる……!お前が、ビフロンスが間違っていたことを証明してやる!だから……!」

 

ブランの赤黒い斑点が引いていく。

 

「力を貸せ、ゼロ!私が望む未来を見せてみろ!」

 

ブランの背中から大きな純白の翼が4枚生えた。

ブランは翼を広げ、大きく羽ばたいた。

 

 

 

 

「うごっ!?」

 

外ではトリックが苦しみ始めていた。

腹や喉を抑えて苦しんでいる。まるで吐く寸前かのように……!

 

《ブランが、来る……!》

「く、苦しい!やめろ、出てくるな……う、うごあああああっ!」

 

トリックが口を大きく開きながら天を仰いだ。

それと同時に白い何かがトリックの中から飛び出る。

4枚の翼で全身を包み込み、ブランが天へと舞い上がる。そしてブランはその翼を大きく広げた。

 

「……………」

 

その姿はまるで天使。

翼を広げた瞬間にブランの穢れは全て吹き飛び、純白の羽を散らしながら光り輝く。

太陽の光を反射して眩しいほどの純白に輝くブランはルウィーの雪原をキラキラと照らす。

まるで天地全てがブランを祝福しているかのようにブランは明るい。

そしてその大きな翼がゆっくりと曲がっていく。

羽ばたく。

そうトリックが予測した瞬間にブランは翼を鳴らし、羽を散らしてトリックへと突撃した。


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