超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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絶望へと至る罠

「ん〜……せっ!」

 

ロム、ラム、ブラン、Gセルフの3人と1機でラフレシアの分解作業を行っていく。

 

「あ、割れた……」

「こっちも、おしまい、よっ!」

 

バキッと音を立ててラフレシアの花弁が引きちぎられた。

これでもう動くことは出来まい。

 

《それじゃ、後は残ったバグを撃破して……》

「コイツの保護だな。……大丈夫か?」

《た、多分。気絶してる……みたいなものなんじゃないかなあ》

 

ラフレシアはピクリとも動かないのでちゃんと脳が生きているのが心配になる。

氷も脳に直撃はしていないし、無事なはず、だけど……。

 

「痛っ!?」

 

《ん?》

 

物音と悲鳴がしてGセルフが周りを見渡す。

しかし、この中の誰が言ったわけでもない。むしろ3人もその音に周りを見渡していた。

 

《……なんの声?》

「……すごぉく、嫌な感じがしたわ。今」

「私も……。ゾワッてした……」

「そこから聞こえたな」

 

ブランが建物の影を指さす。

多分、裏に落ちたんだろう。

……っていうか、冷静に考えたら今の音ってとても人間が落ちた音じゃないぞ?もっと大きな何かが……。

 

《あの〜、大丈夫です………っえ!?》

「え?」

 

目と目が合う。

声に振り向いてGセルフと顔を突き合わせたのは……トリック・ザ・ハードだった。

 

《……………》

「………………」

 

「執事さん?どうかしたの?」

「何かいるの……?」

 

ロムとラムが動きを止めたGセルフを不審に思って横からのぞき込む。

それと同時にピタリと動きを止めて固まった。

 

《…………》

「……………」

「……………」

「……………」

 

「なにやってんだ?んな固まっ……て………」

 

ブランも顔を出す。

そして例外なく固まる……かと思いきやメラメラと燃え上がっていく。

 

「て、て、テメエ!あの時の変態!」

「ひ、ひ、ひえええっ!な、なぜここに!?無数にある座標の中で……まさか!?誘い込まれた!?」

「今度こそ遥か彼方にぶっ飛ばぁす!くらいやがれぇっ!」

 

ブランが斧を持って前に踏み込み、トリックに向けて思いっきり横に振る。

狼狽えていたトリックは避けることもガードすることもできずブランの斧をもろに腹に受けて吹き飛ばされる。

 

「うげえええっ!?」

 

《………はっ》

 

そこでようやく吾を取り戻す。

石化が解けたかのようにピクリと動いたGセルフがハアハアと息を荒らげるブランの横に立つ。

 

《や、やったの?かな?》

「殺ってねえ!」

《うん、字が物騒だよね。いや、まあ、確かに殺ってはいないけどね……》

 

殺してやりたいほど、なのはわからんでもないが……。

 

すると転がっていたトリックがごろりと起き上がる。

 

「い、痛い……」

「来やがれ!月にぶっ飛ぶまで叩きつけ続けてやる!」

(……おかしい………)

 

ブランは怒り心頭のようだが、Gセルフは冷静に状況を見極めていた。

あの一撃は会心の一撃だったはずだ。

ブランの怒りでパワーがあったのもそうだし、何よりトリック自身まったくのノーガードだった。

なのに、トリックのダメージはたかが『痛い』。

 

「うぐぐ……逃げるのも失敗したし……幼女も取り逃してしまった……」

「何をブツブツ……!」

 

 

「こうなれば……目の前の3人の幼女を綺麗に殺して!中身も肉も全て食い散らかして……肌だけにして!そして、そして、人形にしてやる!」

 

 

「……なに………?」

《ブラン避けてッ!》

 

Gセルフがドンとブランを突き飛ばす。

ブランがトリックの言葉を理解できずに突っ立っていた隙を狙われたのだ。

 

《っ、ブラン飛んで!》

 

Gセルフも間一髪で舌を避けたが、舌は折れ曲がって再び向かってくる。

Gセルフと立ち上がったブランは別々に空へ飛んで舌から逃れようとする。

 

「逃がすか!」

《っ、僕狙いか……!》

 

舌はGセルフを狙ってくる。

Gセルフは持てる限りの最高のスピードで舌から逃げようとするが舌はそれと同じかそれ以上のスピードでGセルフを追ってくる。

 

《速すぎる……くっ!》

 

盾で舌を受け流しても再び舌は折れ曲がって向かってくる。

おまけに盾で防御してしまったためにGセルフは姿勢を崩してスピードを落としてしまう。

 

《う、く!切る!》

 

盾を持った左手でビームサーベルを引き抜き、向かってくる舌を縦に切り裂きながら舌の下へすれ違う。

しかし、舌の先端は2つに分かれながらもまだ伸びてGセルフを追う。

 

《しつっ、こい!》

 

「ミズキ!くそっ、まだやられ足りねえか!?」

 

ブランがそれを見てトリックへと突進していく。

 

「舌が遠くに行き過ぎてる……!お前の身を守るものはもうなにもねえ!」

 

舌はGセルフを追ってはるか上空にある。

ならば、トリックに残っているのは短い手足とでかい図体だけ。

 

「くらいやがれ!」

「っ、お姉ちゃん、待って……!」

 

しかし、ロムが弾かれたように動いた。

悪寒を感じてブランを止めようとするが、時すでに遅し。ブランはロムの手が届かないところにいる。

 

「テンツェリン……!」

「アク……アククク……予測通りだ!」

 

ブランが斧を振りかぶり、トリックにぶつけようとしたその時だった。

トリックの口の中の暗闇、そこからもう1つの槍が飛び出す。

 

「なっ……!?」

「食らえ!」

 

トリックからもう1つの舌が飛び出していた。

それは防御のことを全く考えていなかったブランの腹にもろに命中し、ブランの体はくの字に折れ曲がる。

 

「ぐ………はっ……」

 

「お姉ちゃん!?」

 

ラムが名を呼ぶ。しかしその瞬間ブランは吹き飛ばされラムの隣を猛スピードで通り過ぎ、民家の壁に埋め込まれた。

 

「が……ぐ………」

 

《ブランッ!》

「お姉ちゃんがやられた……!」

「舌が2つあるなんて、何よそれ!」

 

「アククククク、アククククッ!全て全て予測通りだ!お前達の次のセリフすらわかる!そう、何もかも俺の掌の上!」

 

ロムがトリックの意思を感じた。

いや、意思をぶつけられた。

 

「っ、やぁっ!」

「ロムちゃん!?」

「こわ、怖い……!あの、あの、中身……どうなってるの……!?」

 

トリックに付加されたのはニュータイプ能力。

そして、もう1つの付加された能力は未来を見る力。

 

「ゼロ!見える、見えるぞ!次はここだっ!」

《なっ……!?》

 

ミズキが舌に向かってビームライフルを撃つが避けられた。

しかし、その動きは不審だ。ミズキが引き金を引くよりも……いや、銃を向ける前から回避行動に映っている。

 

(未来を見られている……!この感じ、カレンの……!)

 

ゼロシステム。

それは今までの戦闘データを分析、解析してそれを踏まえた上での勝利への道筋を伝えるシステム。

ゼロに身を委ねれば見えるのはまさに未来。

ゼロが命じるままに動けば後は定められた運命のままに戦況は動く。

 

(けど、使いこなせていない!飲み込まれている……!)

 

だがシステムが指し示すのはあくまで勝利への道。

そこには慈愛だの味方だの情けだのが介入する余地はない。

システムの未来を見て、聞き、それを取捨選択できるだけの精神力がなければ残るのは自分ただ1人のみ。

トリックはゼロシステムの未来を取捨選択できず、完全にシステムに飲み込まれていた。

 

(カレンのシステム……!敵にするとここまで厄介だと、は……!)

 

「食らえ!」

《ッ、わああああっ!》

 

舌の先端がGセルフに向かう。片方は盾で受け流したが、もう片方の先端がGセルフの右腕に突き刺さり、貫いた。

 

「執事さんっ!この、いい加減にしなさい!」

「っ、やめて……っ!」

 

ロムとラムが氷塊を作り出そうと杖を前に出す。

しかし、杖の先にできた氷塊は完成する前にトリックの2枚目の舌が貫いた。

 

「なっ……読まれてる……!?」

「大人しくしていろ!そうすれば……楽に殺してやる!」

「やられるわけには、いかないの……っ!」

 

ならば、と隙のない氷の粒を吹雪のように打ち出す。

しかし、トリックは舌を鞭のように動かして自分に当たる軌道を描く氷の粒だけを無駄なく叩き落とした。

 

「ウソ……!」

「感応も、超えてる……感じても、その先をいかれる……!」

 

《っ、く、うっ!くそっ、これなら!》

 

ゼロが導き出す答えに翻弄されつつも、辛うじてそれを避ける。

ニュータイプ能力とゼロシステムの読み合いの勝負。

片方が未来を見ればその先の未来を感じ取る。片方が未来を感じ取れば、その先の未来を予測する。

だからこそ、そんな戦いに終止符を打つためにGセルフが空中に高く舞い上がり体を大の字に開く。

 

《全方位レーザーッ!》

 

Gセルフの全身から無数の細いレーザーが大量に発射された。

それはGセルフに迫る舌に穴を開け、焼き払っていく。

ゼロがたとえ未来を読めるとしても、それはほんの一瞬先。避けられない攻撃をぶつけることが対処法の1つなのだ。

 

(ゼロに勝つには……ゼロに勝った者の真似をしなければいけない……)

 

《っ、っ、くそっ!くそ、くそっ!》

 

ゼロをゼロ以外で破ったのはただ1人。

………ビフロンス、のみ。

 

《アイツの真似をしなきゃいけないなんて……!でも、ブランのフォローもしなくちゃいけない!》

 

ブランは壁に埋まって気絶している。ここでミズキがやられてしまえばロムとラムが集中して狙われ、ブランにも注意がいく。

そうすればブランは防御の手段はない。

 

《ブランを守るために……!やらせないために……!今だけだ!今だけは……アイツの力が欲しい!》

 

悔しくて涙が出そうだ。

けれど、ブランの命には代えられない。

 

(思い出せ……!あの、最悪の日のこと……!)

 

ビフロンスと相打ちになり、ミズキの次元が消えた日のこと。

その日……カレンはどのようにしてやられた?

 

覚えている。悲しくて辛い記憶だが、忘れてはいけない記憶だ。

 

ビフロンスはどのようにしてカレンを倒した……?

どういう思考を辿った……?

アイツの身になった気分で考えるのだ。

絶望に支配された、そんな気分で………。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

「1つ目の絶望の罠……戻らない記憶!」

 

その罠は乗り越えた。

危なかったが、女神は見事に寸前で記憶を取り戻した。知らない間に誰かが死ぬ未来から、女神は寸前で逃れた。

 

「2つ目の絶望の罠……善意の殺し!」

 

その罠も乗り越えた。

ワレチューごとリーンボックスが火の海になる未来を、ネプギアは見事に回避した。助けたいという善意が誰かを殺す未来を。

 

「3つ目の絶望の罠……始まる……」

 

3つ目の絶望の罠。

それはーーーーー。

 

「私の身になること。思考を共有しようとすること。拒絶していたモノを受け入れようとすること……」

 

それは下地になる。

いつか必ず、挫けそうになった時に脳裏をよぎる。そしてその正しさを嫌だからと拒絶することが出来ずに屈服する。

 

「今度も……超えられるかしら?ヒヒヒッ」

 

ビフロンスは小さく笑った。


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