超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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姫と騎士

プラネテューヌ教会、そこは既に占拠され、イストワールはトリック・ザ・ハードに捕らわれていた。

 

「い、いや!離してください!」

「アク、アククク……まさか、こんな幼女が教祖とは!素晴らしい!」

 

トリックの舌で巻き付けられたイストワールが身をよじるが、逃げられるわけもない。

すると犯罪組織の構成員の1人が入ってきてトリックへ報告をする。

 

「トリック様!見つけました、次元転送装置です!」

「おお、そうかそうか、よくやった!案内しろ!」

「はっ!」

(転送装置を……!?まさか、それが狙い!?)

 

トリックは部下に案内されて転送装置の元へと向かっていく。

 

「これは使えないのか?」

「今、ロックを解除中です」

「急げ!いつ女神が帰ってくるか分からんのだからな!」

 

どうやらロックは未だに解けていないらしい。

しかし、狭いコントロールルームには溢れかえるほどの構成員が入っている。

これだけの数ならば、いくらジャックが作ったロックだろうと突破されてしまうかもしれない。

 

(そういえば、ジャックさんは……)

 

姿が見えない。

逃げるか隠れるかしていればいいが……。

最悪の事態を想像しかけてイストワールは首を振る。

 

「アククク……いいなあ、幼女……ああ、なんと愛らしい!」

「くっ、今に女神たちが助けに来ます!そうなれば、アナタだって……!」

「果たしてそうかな?幼女を人質に取れば、ヤツらは手出しができんだろう!」

「なっ!私が、人質……!?」

「そうだ!アククク……!」

 

だとすれば、女神たちは返り討ちにあってしまうことになる。と、すれば……。

 

「い、いいえ!女神たちは自分のすべきことをわかっています!いざという時は、私ごと……!」

「アクククク、その時になればわかる!いやぁ、しかし残念だ……幼女よ、人質でなければ……!」

 

トリックが口を歪めてニタァと笑う。

その顔を見たイストワールは恐怖で震えた。

 

「この……細い骨……1本1本、大切にへし折れたのになあ……どんな音するのかなあ……!?」

「な……!?い、いた……!痛い、です……!」

「いいよね?腕1本くらい……大丈夫だよね?」

 

イストワールを縛る舌の締め付けがキツくなってくる。

イストワールは痛みを訴えるが、トリックにはまるで聞こえていない。

 

「簡単に壊れちゃいそうだからなあ……気をつけないと……アクククククク……!」

「あ………苦し……!」

 

全身を襲う痛みにイストワールが顔を歪める。

意識が朦朧としてきて、骨が軋み始めていた。

やがて訪れるであろう激しい痛みに覚悟していた時、部屋にサイレン音が響き渡った。

 

「な、なんだ!?」

「わ、罠だ!しまった……!」

「説明しろ!何が起こった!」

「わ、罠が仕掛けられておりまして!何が起こるか……!」

「っ、はあっ、はあっ……!」

 

それに驚いたトリックが締め付けを緩める。肺に酸素を取り入れるイストワールが、その合間も会話を聞いて状況を把握しようと心がけた。

どうやらジャックの仕掛けたトラップに引っかかったらしい。このけたたましく鳴るサイレンはそれだろう。

そしてその直後、部屋の電気が全て消え、真っ暗な空間に閉ざされた。

 

「な、なんだ!?」

 

電源が消えた、そう思ったが部屋が真っ暗になりすぎて自分の目の前のものも見えない。

しかし、部屋にはガチャンとドアを開く音が響いた。

 

「誰だ!?」

 

トリックの声が部屋に響き渡るが、部屋に侵入した何者かは応えようとしない。

そして直後、次々と構成員達の悲鳴が聞こえてくる。

 

「ぎゃあっ!」

「いでっ!」

「わああっ!」

「な、なんだなんだ!?」

 

トリックが四方八方から響く悲鳴に恐れ戦く。

そして次の瞬間、イストワールを捕らえていた舌の締め付けが緩んだ。

 

「えっ?」

「いだああああああっ!?」

 

そして何者かに抱き抱えられて体が浮いたり沈んだりする感覚。

何者かが飛んだり跳ねたりしているのだ。

悲鳴からしてトリックの舌が切断されたのだろう。だからイストワールは解放されたのだ。

 

自分をお姫様だっこして飛び跳ねる者の正体は誰なのだろうかと顔を見ようとするが、暗闇で輪郭すら見えない。

イストワールはせめて振り落とされないように抱き抱えた主に掴まることしか出来なかった。

 

「よ、幼女が!おのれぇ!」

 

ガシャンガシャンと何かを壊す音が響く。

トリックが手当りしだいに周りを攻撃しているのだろう。

そしてそれはパソコンやコンソールを貫き、火花を散らす。

それで誤作動を起こしたのか、部屋の電気が付いていく。

 

パッ、パッ、パッと順に天井の照明に明かりが灯って点滅する。

それに照らされたトリックは机の上に立つ小さな影を見つけた。

 

「何者だ、貴様!」

 

そこでようやくイストワールは自分を抱いた主の顔を見る。

彼は中世の騎士の鎧を身につけていて、二頭身。しかし、イストワールを見つめるその大きな瞳は鋭くも温かい。

 

「あの、ありがとうございます……その、アナタは?」

《なに?……ああ、まあ、そうか。知るわけがないか》

 

イストワールを降ろして地面に立たせる。

するとイストワールがいつも座っている本がふわりとイストワールの元へと飛んできた。

 

「その、声、まさか……」

《うむ、そのまさかだ》

 

よく見れば彼もガンダム。

ミズキのものとは毛並みが違うが、その顔、装甲、紛れもなくガンダムそのものだ。

そして、それが出来る可能性があるのはここにいないミズキを除けばただ1人……!

 

「ジャック、さん……」

《遅れたな。ミズキじゃないが……助けに来たぞ》

 

そのガンダムの名は騎士(ナイト)ガンダム。

その名に違わず、騎士ガンダムは今、姫を守る騎士としてトリックの前に立ちはだかったのだ。

 

「貴様、よくも幼女を奪ったな!返せ!」

《俺のものだ、返す道理はない》

「屁理屈を!」

 

俺のもの、などというセリフにイストワールが顔を赤くする。

目をまん丸にして驚いているイストワールの前に騎士ガンダムは守るように立つ。

 

《逃げろ、イストワール。兵士はある程度倒したから、簡単なはずだ》

「え?あ、いや、でも……」

《あまり時間を稼げるとは思えん。俺もすぐに行く、早くしろ!》

 

「この、このぉぉぉぉっ!」

 

トリックが騎士ガンダムに向けて舌を伸ばしてくる。

舌は再生していて、舐めたものを回復させる力も格段に上がっているらしい。

それを騎士ガンダムは次元から盾を出して防御する。

 

《ぬ………う、おっ!》

 

舌の軌道を逸らすことに成功する。

しかし、騎士ガンダムも大幅に後退りした。軌道を逸れた舌は壁に突き刺さり、大きな穴を開ける。

 

《早くしろ!俺なら心配いらん!》

「で、でもっ!」

《俺とて子供たちの端くれ!たかがこれしきの敵ごとき!》

 

騎士ガンダムがその小さな体を生かして机の下へ潜り込み、その中を駆けてトリックを翻弄する。

トリックは適当な当たりをつけて舌を打ち込み、障害物に風穴を開けていく。

 

「そこだ!」

《!》

 

動きを読まれ、騎士ガンダムの移動先に舌が風穴を開ける。

しかし、そこには騎士ガンダムはいない。

 

「な!?」

《ぬうううあああっ!》

 

机の上から飛び上がり、小さな騎士がトリックに向かう。

ランスである電磁スピアを手に持ち、トリックの額にそれを突き刺す。

 

「いだぁ!?」

《ふんっ!ふん、ふん、ふんっ!》

 

何度も何度も突き刺すが、トリックの硬い装甲のような表皮が貫けない。

 

《くっ》

「しつこい!」

《ならば!》

 

思いっきり騎士ガンダムを叩こうとしたトリックの手を飛び上がって避けた。

勢い余って自分の顔を叩いてしまったトリックが悶絶している隙に、電磁スピアを上へと放り投げる。

 

《ナイトソード!》

 

盾に収められたナイトソードを右手で引き抜く。そして左手で落ちてきた電磁スピアを持ち、再びトリックに向かっていく。

 

「おのれ、効かない攻撃を!」

《所詮は、時間稼ぎだからな!》

「ならばその手には乗らん!貴様を殺し、幼女は俺が手に入れる!」

《渡すわけにはいかんな!》

 

飛んできた舌を飛んで躱し、その上を走ってトリックの眼前に再び迫る。

 

「んなっ!」

《連続攻撃ならば!》

 

トリックの額に電磁スピアが当たる。

肌は貫けなくてもトリックは頭を打たれて怯む。

その隙に騎士ガンダムは肩を経由してトリックのうなじに向かった。

 

《ぬっ、くっ、はあああっ!》

「いてっ、いてててっ!?」

 

うなじをナイトソードで連続で切りつける。

そこは比較的肌が薄く、騎士ガンダムの攻撃でも肌に切れ込みが入っていく。

うなじを抑えるトリックの手を避けて下へ。

今度はトリックの尻尾に電磁スピアを突き刺す。

 

「いだあっ!?」

《はっ、次!》

 

蝶のように舞い、蜂のように刺す。

それを体現する騎士ガンダムはトリックを翻弄し、手数で圧倒する。

しかし、それはダメージになっていない。

 

(このままじゃ、いつかはジャックさんが……!)

 

蚊が針をいくら刺しても巨象は倒せない。

それどころか、いつかは……!

 

「こ、このぉっ!」

《ぐっ!》

 

トリックの舌がついに騎士ガンダムを捉えた。

盾で防御したが、空中では体を支えるものがなく吹き飛ばされてしまう。

 

《ぐ………お、っ……!》

「死ね!」

《っ、うぐうううっ!》

 

舌の乱れ打ちが騎士ガンダムを襲う。

盾で受けているものの、何度も何度も舌で打たれてはそう長くは防御できない。

 

《何をしている、早く逃げろぉっ!》

「ジャックさん、でも、でも……!」

《はやぁく!》

「っ………!でも、だって……私……う……ううっ!」

 

イストワールが本に飛び乗った。

そして出口に向かって一直線に飛んでいく。

 

(それでいい……!早く、早く……!)

 

「なっ、幼女が逃げる!待て!」

《させるものか!》

 

トリックがイストワールに向かって舌を飛ばした。

しかし、騎士ガンダムが投げた電磁スピアが舌に突き刺さり、舌を壁に打ち付けてしまう。

 

「あがっ!?あ、あががっ!」

《俺の命にかえても、イストワールに触れさせはせん!》

「おご、おがががぁ〜っ!」

 

しかし、打ち付けた先から舌が伸びてしまう。

それはイストワールではなく、騎士ガンダムへと向かった。

 

《フン、怒り心頭だな!》

「うごごあっ!」

《ぐ、おっ!》

 

舌を盾で受け流す。

しかし、トリックにはバレていないものの……盾にヒビが入る音を騎士ガンダムは聞いた。

 

(マズいな……)

 

もってあと1発か……2発。

盾がない状態でトリックから逃げられるか?

 

(……いや、生き延びてみせる!)

 

腕を無くそうと、足を無くそうと、例えこの身が砕けようとも……生きて!

 

《っ、ぐぅ……!》

 

舌を再び受けてしまった盾に今度は決定的な亀裂が走る。

ビキビキと中心部から亀裂が入り、欠片が飛び散った。

 

「うごごおおっ!」

《っ、く……!》

 

次、舌を受け流した後にすぐに撤退する!

そう考えて盾を構えた騎士ガンダムだったが、直後に盾にさらに亀裂が走った。

 

(な……に……っ!?)

 

これでは受け流すことすらままならない。

受け流すことに意識を向けていて、逃げる体勢では既になくなっている。

 

(耐えられるか……!?)

 

まるで弾丸のようなトリックの舌の一撃に盾はもはや耐えられない。

自分の体は……どうだろうか。

 

考えを巡らせる騎士ガンダムに無慈悲に舌は向かう。

腕1本を覚悟して身構えていた騎士ガンダムだったが、その耳に有り得ないはずの声が響く。

 

「やめてぇぇーーーっ!」

《な!?》

「なに!?」

 

イストワールが戻ってきていた。イストワールは逃げたのではなく、助走をつけようとしていたのだ。

本に乗って猛スピードでトリックに突進していく。

それに驚いてトリックは舌の勢いが緩み、騎士ガンダムは舌を避けることに成功した。

 

「ごご、おおうおあいうがら!(おお、幼女が自ら!)」

《何を馬鹿なことを!》

「もう、これ以上、ジャックさんを……ジャックさんを!傷つけちゃダメです!」

 

イストワールの背中の羽が大きく光り輝いた。

それはまるで光の暴力。眩いだけの光の羽が大きく展開し、トリックの目をくらませる。

 

「ああおいで!あいいめてーーー(さあおいで!抱きしめてーーー)」

「光ノ……羽根!」

 

イストワールが回転し、光の羽根で風を起こす。

すると巻き起こった風は光の奔流となって竜巻となり、トリックに襲いかかる。

 

「え!?お、お、おおおおっ!?」

 

それは狭い部屋で避けようのない絶大な威力となり、トリックすらも光の暴風に吹き飛ばされ、舞い上がり、天井に体をぶつけた。ついでに打ち付けられていた舌も千切れてしまう。

 

《な、これは……》

「私だって、私だって……!守られてばっかりじゃないんです!だって、だって!」

 

イストワールの座っていた本の開いたページが光を放つ。

『史書:イストワール』。その真の力が発揮されようとしていた。

 

「う、うう、クラクラする……」

 

地面に横たわるトリックの下に大きな魔法陣が展開した。

その4方、上下左右の4方向に超巨大な魔力の球体が出現する。

 

「う、こ、これは!?」

 

燃え上がる炎、突き刺さる氷、巻き起こる風、飲み込む闇、その4つの属性魔法の球体がトリックを取り囲んだ。

歴史(イストワール)に刻まれた過去の記憶、その力を解放しているのだ。

 

「うおああああああっ!?」

 

その4つの球体から溢れ出す魔法が中心のトリックに向けて降り注ぐ。

4方から降り注ぐ魔法はトリックの肌を焼き、貫き、切り裂き、飲み込んでしまう。

 

「だって!私も!ジャックさんのこと……大好きなんですからぁぁぁぁっ!」

 

そしてイストワールが目一杯に力を込めると膨大な魔力の塊がトリックに向けて移動していく。

その魔法は全属性の攻撃を叩き込む魔法。

火、氷、風、闇、そして残る1つの光。

光になるのは……トリック自身だ。

 

「な、な、な、そんなバカなぁぁぁっ!?」

 

魔法が混ざり合い大爆発を起こす。

それに巻き込まれたトリックだったが、未だにトリックはダメージを受けたものの死んではいない。

 

《っ……今しかない!》

 

騎士ガンダムが次元から廃れた石版を取り出した。

埃まみれ、砂まみれの汚れた石版。しかし、そこには不思議な神秘感が溢れている。

それを騎士ガンダムが見ると、石版には解読できない見たこともない文字が並んでいる。

 

《石版よ……三種の神器を今ここに!》

 

かつてミズキ達が掘り起こした石版。

昔、そこに記された文字を解読した時、そしてジャックが戦う意思を示した時、その石版は応えてくれた。

今だってそうだ。

愛する女を守るためならば!

 

《オーノホ・ティムサコ・タラーキィィッ!》

 

その呪文を唱えると石版の文字が光り輝く。

同時に石版は浮き上がり、光に包まれ、騎士ガンダムと融合した。

 

《ぬうああああっ………!》

 

盾は形を変えていく。伝説の盾、力の盾に。

剣は力を纏う。伝説の剣、炎の剣へと。

そして鎧も形を変え、新たな兜をかぶる。その名は霞の鎧。

その三種の神器を装着した状態はフルアーマー騎士ガンダム!

 

《行くぞ!》

「こ、今度はなんだぁっ!?」

 

三種の神器が共鳴し、フルアーマー騎士ガンダムの体が赤い光を纏う。

そして突進し、力の盾でトリックを打ち付けると体格差がありすぎるのにも関わらず、トリックが吹っ飛んでいく。

 

「ぎゃああっ!」

《はあっ!》

 

トリックが窓ガラスを割って吹き飛び、滑走路まで飛び出していく。

それを追い地面を蹴ったフルアーマー騎士ガンダムの体は残像を残すように速い。

 

《この三種の神器の前に、敵はいない!》

 

炎が剣をまとい、圧倒的な素早さでトリックを切り刻む。

するとその斬撃を浴びた場所からも炎が吹き出し、トリックの体を焼いた。

 

「あつ、熱い!」

 

《人の恋路を邪魔する者は、皆例外なく地獄へ落ちる!》

 

フルアーマー騎士ガンダムが炎の剣をトリックの腹に突き刺す。

するとそこから炎が泉のように吹き出し、滑走路すら割り裂いて炎の海を作る。

 

《消えろ!暴虐の輩よ!》

 

「あ、あ、あつうぅぅぅぅい!」

 

ついに炎が爆発を起こしてトリックを包む。

フルアーマー騎士ガンダムは素早く離脱して管制室へと戻り、トリックを見下ろす。

 

《…………》

「ジャック、さん……あ、その……」

《………ああ、助かった、イストワール》

「や、ありがとうございます……って、そうじゃなくて!」

《わかっているわかっている。ちゃんとこの耳で聞いた》

「じ、じゃあ……その……」

《ああ、イストワール。改めて言わせてもらう。俺もーーーー》

 

 

「い、いーすん!?」

「お、お姉ちゃん!」

 

 

ネプテューヌとネプギアが部屋に飛び込んできた。

バッと振り向いたイストワールはネプテューヌを見るなり、咳払いをして服のホコリを払う。

 

「あ、その……無事?」

《………。ああ、無事だ。今ここで……ん?》

 

ふぅと息を吐いたフルアーマー騎士ガンダムだったが、トリックの方を振り返って違和感を感じる。

今も炎は燃え盛っているが……その中にトリックがいない。

 

《まさか!》

 

「う、あ、熱い……だが、動けぬほどではない!」

 

トリックは地面を這ってカタパルトの奥の壁、いつの間にか開いていた次元ゲートへと向かっている。

 

「あ、マジェコンヌ四天王が……!」

「追うわよ、ネプギア!」

「う、うん!」

《いや、追うな!部屋が崩れる!》

 

イストワールの光ノ羽根、史書イストワールの発動、そして三種の神器で暴れ回った結果、地下にあるこの部屋の壁や天井全体に亀裂が走っていて、今にも崩れ落ちる寸前だ。

 

《やり過ぎたな、イストワール》

「う……そ、そもそもあの変態が悪いんです!」

「でも、逃がすわけには……きゃっ!」

 

追おうとしたネプテューヌの目の前に瓦礫が落ちた。

 

《いよいよ限界だな……逃げるぞ!》

「でも、四天王を倒せるチャンスを!」

《生き埋めになりたいか?》

「う……」

 

渋々ネプテューヌが従って名残惜しそうに部屋を出ていく。

その時にはトリックは次元ゲートに飛び込み、その姿を消していた。

 

「仕方ないよ、お姉ちゃん。ここで生き埋めになっちゃいけないもん」

「うん……でも、口惜しいわ」

《フン、まあ、上手く逃げたと思っているだろうな。ククク……》

「え?ジャックさん、それってどういう……」

《既に座標はずらしてある。あの次元ゲート……どこへ繋がっていると思う?》

 

イストワールにニヤリと笑いかけるジャック。

その顔を見てイストワールはハッと息を飲んだ。

 

「もしかして!」

《ルウィー……生き残れるといいな、トリック。ククク………》

 

 

 

 

 

 

 

その少し後方。

 

(お姉ちゃん、聞こえてたよね!?なんで邪魔したの!?)

(だ、だって仕方ないじゃない!体がムズムズするのよ!)

(もう、せっかくいい雰囲気だったのに……)

(タイミング悪かったわね……いろんな意味で)

 

『人の恋路を邪魔するものは、皆例外なく地獄に落ちる』……らしいが。

ネプテューヌの明日はどっちだ?


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