超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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VSモンスター

ルウィー国境近く、侵攻してくるEXモンスターにユニのミサイルの雨あられが降り注ぐ。

赤黒かった大地は一時的にミサイルの爆炎の中に飲み込まれ、EX化しても大した強さではないモンスターは早々に光になって消えていく。

残ったモンスターの様子は様々で、もう動けない者、足を止めている者、全く効かずに未だに進んで来る者。

しかしそれを確認する前、爆炎が消えるその前からノワールとベールはモンスターの海の中に飛び込んでいた。

 

「切り裂く!」

「穿ちます!」

 

EXモンスターが2人を視認した瞬間にはその体は切れ込みが入る、もしくは穴が開いていた。

光になって消えるEXモンスターには目もくれずに次の標的に向かう。

モタモタすればお終いだ。時間が足りない云々以前に、この赤黒い海の中で足を止めれば後は飲み込まれるだけ。

水の上を走るには沈む前に足を進める必要がある。

ならばこちらも飲み込まれる前に道を切り開く、突き進む。

 

「助けなきゃ……注意を逸らす!」

 

そしてその手助けをするのはユニ。

メガビーム砲では連射が出来ない、左手にビームライフルを持って瀕死のEXモンスターを次々に撃って数を減らしていく。例え瀕死であってもEXモンスターの生命力は侮り難い、倒せる時に倒し、2人が狙うべきモンスターの数を減らすのだ。

そして2人の道の先に巨大な竜のEXモンスターを見つけたならそこへ突撃を敢行する。

できるだけ低空を飛んでEXモンスターの注意を引きつつ、メガビーム砲を構えて引き金を1度引く。

 

「もいっぱああつ!」

 

EXモンスターの腹に風穴が空いた。

動きを止めたEXモンスターの頭めがけてもう1発。急所を穿たれたドラゴンのEXモンスターは光になって一瞬で消えてしまう。

そこに開いたスペースをEXモンスターが埋める前にノワールとベールが滑り込み、ほんの一瞬息を整える。

 

「はあっ………」

「ふうっ………」

 

モンスターの波が触れる前にそれを払い除ける。

そしてまた2人は手当り次第、前に立ったEXモンスターから順に切り続け、突き続けていく。

 

「いけない!」

 

ユニがルウィーへ先行していくEXモンスターを見つけた。

すかさずそこへ向かいながらブレる銃身を抑え、メガビーム砲を撃つ。

ピッタリ、定規で測ったようにそのビームは命中してEXモンスターを光に変える。

そのままユニは敵の最前線近くを横切りながら進行を抑えるようにビームを乱射していく。

 

「このまま!食らって倒れなさい!」

 

そのユニからは白く光るワイヤーのようなものが伸びていた。ユニの軌道をなぞるようにそのワイヤーは宙に浮き、前にしか進まないEXモンスターを転倒させてしまう。

そしてユニがそのワイヤーを切り離した瞬間、ワイヤーはEXモンスターの真下で眩く光った。

 

「爆導索……弾けて!」

 

爆薬が内蔵されたワイヤー、爆導索がEXモンスターの下で爆発して前線のモンスターを薙ぎ払う。

 

これだけでもかなりの数のモンスターが倒されていた。ユニのミサイルは多数の敵を撃破したし、さっきの爆導索もバッチリ決まった。ノワールとベールもまだダメージはゼロだし、順調にモンスターを撃破しているように見える。

しかし3人は直感していた。

 

これは、無理だと。

 

ユニの弾は切れる。近接武器だっていつかは切れなくなる。

そうでなくてもノワールもベールも何かダメージを受けて少しでも怯めばそれでお終いだ。後はモンスターの波に飲まれて骨の欠片も残るまい。

ほんの細い糸、それを綱渡りしているようなものだ。それも先の見えない。それならまだいい。この渡っている糸はいつか切れることが確定している糸なのだ。

だから、無理。不可能。

 

………だとしても。

 

「はっ!」

 

ベールの槍がモンスターを貫いた。

しかし後ろのモンスターが既にベールに向けて拳を構えていた。ノワールやユニのフォローも間に合わない。

しかし、ベールは前に進みながら自分の後ろに魔法陣を展開する。

 

「シレッドスピアー!」

 

魔法陣から飛び出した巨大な太い蔦が絡まり合い、槍となって後ろのモンスターを貫く。

 

(まだ……まだ……っ!)

 

「……………!」

 

ノワールの汗が飛び散る。

力の限り剣を振るい、敵を切り捨てていく。

 

(トルネードソード……!)

 

ノワールが全力で剣を横に振ると極小の竜巻のようなものが巻き起こり、ノワールを囲む敵を吹き飛ばす。

木々を揺らし、葉を飛ばし、その風は敵を切り刻むほどに鋭い。

そしてノワールは大地を蹴って飛び上がる。

視認した景色の中で最も敵が密集している場所へとそのまま飛び降りていく。

 

(ヴォルケーノ……!)

 

すぅっと息を吸い、力のままに大剣を地面に叩きつけた。

 

「ダイブッ!」

 

地面が割れ、マグマが吹き出し、敵を飲み込んでいく。

直接ノワールの剣に触れた者はもちろん、地割れに飲み込まれマグマに落ちた者、そして吹き出したマグマを浴びた者が光になって消えていく。

 

(無理だからって……諦める理由にはならない!)

「そしてまだ、無理だと言えるほど私達は追い詰められていませんわ!」

 

限界を超えた人がいた。

体も心も傷だらけで戦った人がいた。

それに比べて私達は?

 

「清々しいほどに無傷でしょ、まだまだなのよ!」

 

EXモンスターの群れが少し恐れたかのように動きを鈍らせた。

本来ならばEXモンスターに恐れはなく、ただただ目の前の敵がなんであろうと立ち向かうだけの存在だ。

本能を鈍らせたかのように目の前の相手が格上であっても立ち向かい、そして戦いの中で死ぬ。

それが恐れる、とは。

 

女神の気迫がEXモンスターの本能を呼び覚ましたのか?

それともEXモンスターが多少なりともコントロールされているせいで本能が少し帰ってきたのか?

 

ただ1つ言えることは、今の女神は圧倒的に強いということだ。

 

「女神なめんなッ!」

「どきなさい……串刺しにしますわよ!」

 

2人の気迫にEXモンスターは今度こそ動きを止めた。

はあはあと息を切らす2人にモンスターは近付きもしない。

2人の眼光がモンスターを射抜く。

 

「お姉ちゃん……ベールさん……!」

 

ユニはEXモンスターの波を押さえながらその気迫を肌で感じていた。

自分にはとてもあんな気迫は出せない。あの鬼気迫るような気迫はどこから来たのだろう。

覚悟?後悔?焦燥?感謝?

きっとその全てであり、言葉では尽くせないほどのたくさんの感情が混ざりあっている。

それを剣に、槍に乗せて体から発散し、それがEXモンスターの恐れを呼び覚ました。

 

そしてノワールとベールが息を整え、再び武器を握りしめた。

目の前の敵から倒してやる、そう意気込んで足に力を入れた刹那、ピシリと地面が割れる音を聞いた。

 

「っ」

「くっ!?」

 

「えっ!?」

 

ユニの目の前の地面が割れ、そこから槍のようなものが突き出てモンスターの群れを次々と貫いていく。

その範囲攻撃から逃れたモンスターをユニが射撃で撃ち抜きながらその槍を見極める。

 

「触手………!?」

 

その槍は蠢いていた。

先が槍のように尖っているが、吸盤がありウネウネと蠢く姿はタコやイカの触手のようだ。

そしてユニはさらに地響きを聞いた。

 

「………ウソ……」

 

地面から顔を出していたのは高さ100mはあろうかという巨大なイカだった。

 

 

「これが……本命、ってことね……」

「………随分、無駄なことを……」

 

ベールとノワールの周りもウネウネと蠢く触手ばかりだった。

詳しい数はわからないが、今のでかなりのEXモンスターがやられたはずだ。

それでもまだまだEXモンスターは残っているし、問題はやはりこのイカ。

 

「私達と住む世界が違いますわ……クトゥルフとか、そのあたりの神なのではなくて?」

「ちょうどいいじゃない、神殺しの女神って異名がつくわよ」

「いらないからお相手を遠慮したいですわ!」

 

襲いかかってくる職種の槍を避けて飛び上がる。

上空からの景色にベールはゾワッと鳥肌が立つ。

赤黒い触手が蠢き、まるで森全体が何かの生物の体内になったかのようだ。

 

「これ森……だったんですよね?もう完全に……見る影もありませんわ」

「こんな状態でEXモンスターなんて倒せないわ。アイツを潰さなきゃ」

「お姉ちゃん、アイツ……!」

「ええ、ユニ、狙える?」

「……やってみる!」

「頼むわね。行くわよ、ベール!」

「気が進みませんけど……やるしかありませんわね!」

 

ベールとノワールがイカ本体へと向かっていき、その後ろをユニがついていく。ノワール

とベールが撹乱し、ユニが弱点を狙い撃つ作戦だ。

 

「イカイカって言ってもなんだか示しがつきませんわね……」

「じゃあクラーケンでいいんじゃないの。さあ、気を引き締めるわよ」

「了解ですわ。それでは、クラーケン退治を始めましょう!」

 

ノワールとベールがさらに加速して前に出た。

するとイカ改めクラーケンは地面から7本の巨大な触手を出し、さらに額の部分を大きく縦に割いて牙だらけの口を大きく開いた。

 

「キュロロロロロロロロ!」

 

「嫌な鳴き声だこと……さっさと海にお帰りくださいまし!」

 

そもそもベールも1度EX化したアンコウに飲み込まれたことがある。だからこそ開いた口にはもう2度と放り込まれたくないというのが本音で、できれば戦いたくない。

トラウマにも似た嫌悪感を無理矢理押し殺し、ベールが槍を構えてクラーケンに向かう。

 

「私の武器は、触手と相性が悪いですわね……!」

 

槍では触手を切れない。

しかし、やりようはいくらでもある。

 

「………っ、ふうっ……」

 

蠢く触手の槍は確かに切ることができない。

しかし、ベールは息を整え触手の先を凝視する。

 

「見切りましたわ!」

 

自分の腹を串刺しにしようと向かってくる触手に向かって槍を打つ。

槍の先と先、そこがピッタリとぶつかり合い、少しの静寂が訪れる。

その後、触手の先の槍はピキピキと割れて砕け散った。

 

「これで……なっ!?」

 

「な、なによこれはっ!」

 

遠くで触手を切り裂いたノワールも驚愕していた。

ベールの場合は触手の先、ノワールの場合は切り裂いた断面が再生し始めていた。

もしやこの生物、急所を射抜かなければ殺すことができない……!?

 

「ユニ、急いで!キリがない!」

「でも、急所がどこか……!」

「目と目の間あたりよ!多分!」

「わ、わかった!」

「ま、待ってくださいまし!確か、イカは……!」

 

ベールの制止も聞かず、ユニがメガビーム砲を発射した。

クラーケンの図体では避けることが出来ず、モロに目と目の間にビームが直撃した。

そこからまるで噴水のように血が吹き出して周りを青色に染めていく。イカの血は青色なのだ。

 

「やった……?」

「い、いえ、まだですわ!」

「えっ……!?」

「何言ってんの、あの出血量は間違いなく心臓を!」

「イカの心臓は3つあるのですわ!」

「はあっ!?えっ、きゃああっ!」

 

ノワールが鞭のように動いた触手に吹き飛ばされた。

地面に落下しかけたノワールは地面から生えている無数の触手に貫かれないように剣を振り回しながら復帰する。

 

「なによ、それ……!じゃあ……!」

 

やはりクラーケンの眉間は再生して蘇っていた。

心臓が3つあるというのは嘘ではないらしい。

 

「3つ同時に心臓を潰さなきゃいけないってこと!?」

「やるしかないですわ!」

「ああ、もう!」

 

半ばヤケクソでノワールがクラーケンへと向かっていく。

 

「ユニはともかく……!私達が近寄れない!」

「援護する、お姉ちゃん!」

 

ユニが撃つメガビーム砲が触手を切断した。

ノワールがそれを見て触手の結界の内側へと立ち入るが、後ろから迫る触手の気配を感じる。

 

「っ、くっ!」

 

剣で受けざるを得ない。

周りの触手も寄ってきたためにノワールは渋々離脱してもう1度突撃を試みる。

 

「今度こそ!」

 

ノワールがまた巨大な触手を叩き切る。

再び生え始めてくるものの、その生え始めを再び切って再生を遅らせた。

 

「今!」

 

その隙を縫ってノワールがクラーケンへと接近した。

 

「ダメ!お姉ちゃん、避けてッ!」

「え……!?」

 

ノワールがユニの声に振り向いた。

向かって来ていたのは切り裂いた触手の断面。先が槍になっていないものなど何の役にも立つまい、このまま切ってやるとノワールは大剣を振りかぶって横に切り始めた。

しかし、その触手はノワールが切れ込みを入れる寸前に横に大きく真っ二つに割れた。

 

「なっ」

 

ノワールの剣は触手の間を通り抜け、空を切る。

そしてその職種の断面は、まるで針の絨毯のように牙が生え揃っていた。

 

「っ………あああああああっ!」

「お姉ちゃぁぁん!」

 

ノワールの大剣を持った右腕が触手に噛み付かれた。

ユニがメガビーム砲で触手を切ってノワールを解放しようとした瞬間に触手はノワールを地面に投げ捨てる。

 

「っ………」

「お姉ちゃん、お姉ちゃん!ダメぇぇっ!」

 

右腕から大量の血を滴らせながらノワールが地面に叩きつけられた。

それは地面から生える無数の触手の格好の餌食だ。触手は倒れるノワール目掛けて突き刺さっていき、赤黒い触手に覆われて何も見えなくなった。

 

「お姉ちゃぁぁぁぁん!」

「ノワール……!?」

 

ベールがユニの慟哭に振り返る。

しかし、すぐに自分の目の前の触手に気を取られて構え直す。

 

「助けに行かなければ……ええいっ!」

 

ベールが再び槍と槍の先を合わせて触手の槍を砕くが、触手はやはり再生し始める。

しかし、今回は再生の仕方が変わっていた。

 

「な、分裂……!?」

 

触手は枝分かれして細い2つの槍になって復活した。

片方の槍はいなしたものの、もうひとつの槍が容赦なくベールの左肩を射抜く。

 

「ううあああああっ!」

「っ、ベールさん!」

 

そしていなされた方の槍がベールの足へと絡みつく。

 

「しまっ」

 

声を上げる暇もなくベールが地面へと投げ捨てられた。

 


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