超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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魔剣の行方

「あ、お帰り、みんな」

「うん、ただいま〜……」

「ネプテューヌ?元気ないね……疲れた?」

「疲れた……」

 

帰ってきたみんなをミズキが出迎えた。

ネプテューヌは疲労困憊と言った様子でだら〜んとハイタッチをミズキにすると教会の椅子に座り込む。

 

「見てる方が疲れるよ〜、危なっかしくて……」

「なんの話?」

「ん〜、えとね〜?」

 

ネプテューヌがラステイションであったことを話し始めた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ギョウカイ墓場、その中心部にある巨大な管。

試験家のような透明なパイプの中で液体に包まれていたマジックが目を開く。

 

「………ぬんっ!」

 

次の瞬間、透明なガラスのパイプは割れてあたり1面に多数の破片と液体を撒き散らす。

そしてマジックは自分の体についたコードを強引に引きちぎっていく。

 

「お、おいおい、もういいのか?そんな乱暴に出ては、せっかく治った傷も……」

 

それをトリックが見咎めて諌める。

トリックの体はところどころが金属質の肌になっていて、光沢がある。他にも様々な体のパーツが機械のものに置き換わっていた。

 

「そんなことはどうでもいい!それよりも……ブレイブまでやられるとは……予想外だった」

「あの作戦が裏目に出たな。確かに絆を断ち切ることは成功したが、逆に更に強くヤツらの結び付きは強くなってしまった」

「次の作戦で挽回する。シェアを乱し、時間を稼ぐ……わずかでいい。そのための道具も揃っている」

「何をする気か知らないが……幼女を傷つける作戦なら降りさせてもらうぜ?」

「心配はいらない。女神候補生達はお前に任せる。好きにすればいい」

「ほ、ホントか!?」

 

突然トリックの鼻息が荒くなった。

 

「く、首輪とか、制服とか用意しちゃっていいかな!?他にも、他にも……!」

「だから、好きにしろと……」

「か、監禁とかして!傷つけないように、窒息させるのがいいな!それで、中に蝋を詰めて……人形にしよう!そうすれば、永遠に幼女の姿のままだし!」

「……なに…………?」

「アク、アクククク!綿を詰めて剥製にするのもいい!氷漬けとか、中の肉は食べてしまおう!ステーキがいいかな、いや、ハンバーグもいい!挽肉にしよう!」

 

トリックがわけのわからないことをまくし立てる。

本来、トリックは幼女趣味の変態ではある。それはわかる。しかし、この発言はトリックが言うようなことではない。

幼女を愛し、さっきも幼女を傷つけるようなら作戦を降りるとまで言っていたトリックが、わけのわからないことを言っている。

トリックが幼女を殺すわけがないのに。

トリックが、狂っている。どこか、狂っている。

マジックはその発言に不本意ながらも寒気を感じてしまった。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ミズキがラステイションで起こったことを聞いて息を飲んだ。

 

「そっか……ブレイブが……。……ユニは?ここにはいないみたいだけど……」

「怪我してたから、ラステイションで休ませてるわ。と言っても、大きな怪我はしてないから心配するはないと思う」

「そっか……良かった……」

 

ミズキがほっと胸を撫で下ろした。

 

「はあ、もう疲れた〜。早く帰って休みましょうよ〜」

「私も……疲れた……」

「先にルウィーに帰ってる?」

「うん、そうする。お姉ちゃん、後でね!」

「私も、帰って、休みたい……」

「あ、途中まで送るよ」

 

ロムとラムがだらけながら教会を出ていく。そしてネプギアがそれを追いかけて協会を出ていった。

 

するとアブネスがこそこそっとミズキのそばに寄ってきて耳打ちをする。

 

(アレ、どうするのよ!)

(……うん、話そう、とは思うけど……)

(……まあ、好きにすればいいけど!内緒ってのはダメよ?今、話しなさい!)

(わ、わかったわかった)

 

「なになに、何の話?」

「あ〜、いや……」

 

ネプテューヌがそれを不審に思って寄ってくる。

なんでもない、と言いかけたがアブネスの目線が突き刺さって言うのをやめる。

 

「……ちょっと、大事な話があって」

「大事な話?」

「重要なことなら、私達席を外すですよ?」

「いや、コンパとアイエフも……ユニもいれば良かったんだけど、今話さないとずるずる引き摺りそうだから……」

 

ミズキが次元の穴から朽ちた剣、ゲハバーンを取り出した。

女神達の目線がその魔剣に向く。

 

「なに、その剣?」

「……順を追って話すよ。まず、僕らはとあるメールを受け取ってそこに記された場所に向かったんだ。そこにいたのは……脱獄したワレチューとアノネデスだった」

「は?」

「ま、待ってノワール。気持ちはわかるけど、抑えて抑えて」

 

ノワールの顔が歪んで心底嫌そうな顔になった。今すぐにでもアノネデスを探しに行きかねないノワールをミズキが宥める。

 

「場所は昔あったプラネテューヌ教会の跡地。そこには2人の他に思念体になった過去の女神……ウラヌスがいたんだ」

「ウラヌス……ネプテューヌ、知っておりますの?」

「いや全然?」

「そこまでだと逆に清々しいわ……」

 

ブランが頭を抑える。

 

「取引の内容は……こちらがリンダとマジェコンヌを救い出し、ビフロンスを倒すことと引換に……ビフロンスを倒す手段を教えるって取引」

「ビフロンスを、倒す?もしかして、そのボロッボロの剣が?」

「うん。過去に犯罪神を封印できるようにまで追い詰めた魔剣、ゲハバーン」

「ゲハバーン……ねえ。胡散臭い話だけど。そもそも、犯罪神はビフロンスであって、昔封印したなんて嘘っぱちじゃないの?」

「いや、過去に犯罪神は存在していたよ。本当に。でも……ビフロンスは今、その力を吸収しつつあるらしい」

「私から補足させてもらうと、犯罪神単体でさえ、過去の4人の女神が束になっても歯が立たなかったらしいわ」

 

その言葉に全員が言葉を失った。

 

「バケモノがバケモノを食う……まるで蠱毒ね」

「神で蠱毒なんて、冗談じゃありませんわよ」

「でも、その剣があれば勝てるんでしょ?楽勝じゃん!」

「………その、こと、なんだけど」

 

ミズキが目を伏せた。

その様子にネプテューヌも余裕ぶった笑みを無くす。

 

「……どうかしたの、ミズキ?」

「……この剣が力を発揮するには条件がある。今は、ノワールが言った通りのボロボロの剣でしかない」

「その条件は、なんなの?」

 

ネプテューヌがミズキに詰め寄った。

ミズキは息を何度か吸った後、ゲハバーンの柄をぎゅうっと握りしめた。

 

「この剣は……っ、女神を……」

「……女神を?」

「っ、女神を殺せば殺すほど、力を増す魔剣なんだ……っ!」

 

全員が驚きにカッと目を見開いた。

真実を知っていたアブネスも目を伏せる。

 

「ちょっと待って、アンタ……ネプ子達を殺す気なの?」

「断じて違う」

 

ミズキがアイエフに即答した。

それに女神4人は少しばかり安堵する。

 

「お、驚かせないでくださいまし……はあっ……」

「でも、じゃあなんでその剣を持って帰ってきたですか?」

「……うん、それが本題」

 

ミズキは握りしめていたゲハバーンを床に落とした。カランカランと音を立ててゲハバーンが床に転がる。

 

「僕は、君達を切ることは出来ない。もちろん、倒す努力は最大限する。でも、もし、ダメだった時は……」

 

ミズキが女神達の顔を1人1人順に見ていく。

 

「誰かが……誰か……切ってほしい」

 

誰しもが言葉を失った。

しばらく誰も言葉を発することが出来ずに、ミズキの言葉を反芻しているだけだった。

 

「ま、待ってよ!だって、私達だって、そんなの………!」

「……ウラヌスは、過去の4人の女神は……天秤にかけたんだ。友達の命と……民の命。3人はダメージが少なかったウラヌスに剣を託して喜んで首を差し出した」

「だ、だって……でき、ないよ……」

「……僕だって、できない……」

 

誰も床に落ちたゲハバーンを拾い上げようとしない。

 

「せっかく、取り戻した君達を……自分の手で奪うなんて」

「私だって、私達だって!みんなを、ミズキを殺すなんて!」

 

ネプテューヌがミズキに詰め寄った。

2人とも胸に訴えかけるような悲痛な声で話す。

 

「……まだ、決まったわけじゃないのでしょう?」

「それは、そうだけど……」

 

ブランが剣を拾い上げた。

そしてそれをミズキに差し出すように前に出す。

 

「アナタに託すわ」

「……ダメだよ、僕は君達を切れない」

「ううん、そんなことはないわ。……きっと、もし、最悪の事態になった時は……泣きながらでも、私達を殺してくれるはず」

「ブラン、やめて」

「アナタは本当に無理だと思っていると思う。けど……私は信じているわ、ミズキ」

 

ブランは優しく微笑んだ。

それを理解出来ずにミズキは数歩後ずさった。

 

「あのね、ミズキ……私は、殺されるのならアナタがいい」

「………!」

「勘違いしないで。死にたいわけじゃないわ。生きていたい。けど、殺されるのならアナタがいいのよ」

 

ブランがミズキが後ずさった分だけ前に出た。

 

「やめなさい、ブラン。それはアナタが楽したいだけよ。ミズキがどれだけの重荷を背負うことになると思ってるの」

「……そうね」

 

ノワールの言うことにブランが剣を下ろした。

 

「でも、私はそう思える。もし、どうしようもなく命を絶たれるのなら……そう思う」

「……考える時間が欲しいですわ。……逃げかもしれませんけど」

 

ベールが目を伏せた。

 

「とりあえず、ミズキ、“預かって”くれる?まだ誰が切るか決まったわけじゃない、けどアナタが持ってるのが1番安全だわ」

「……わかった」

 

ミズキがブランから剣を受け取り、別次元にしまいこんだ。

 

「……私はルウィーに戻る。この件、よく考えておくわ」

「また明日……ですわね。私もチカと話し合いたいと思います」

「私も、ユニと話さなきゃいけない。ミズキも、ネプテューヌも、それでいいわね?」

「……うん」

「わかった。……まだ、決まったわけじゃないけど」

「だからって考えないわけにはいかない、よね。それじゃ」

 

3人の女神はそれぞれ変身して自分の国へと帰っていく。するとネプギアが帰ってきた。

 

「ただいま〜……?お姉ちゃん?」

「……え、ああ、いや、なんでも……ある」

「え?」

「ネプ子、とりあえずネプギアにも話しておきなさい」

「う、うん。……わかってる」

「今すぐによ。内緒にするわけにはいかないでしょ」

「わ、私……先帰ってるです」

「私も帰ってるわ。いい、各自勝手な行動はしないこと。例えそれが誰かのためになると思っていてもね」

 

アブネスとコンパは教会を出て行った。

確実に状況は良くなってきているはずなのに、教会の空気は酷く澱んでいて重く感じた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

また1つ、マジェコン製造工場が煙をあげて制圧される。

ここはラステイション、その東寄りの町外れだ。

 

「……ん、リハビリにはちょうどいいかな」

 

ミズキがマシンガンでマジェコンを破壊していく。もう彼の体から包帯は取れ、松葉杖をつくこともなくなっていた。

 

「ご冗談を。退屈〜とか、手応えがないって顔してるわよ」

「クスクス、そんなことないよ。戦いがないのが1番」

 

ノワールが呆れながらミズキの横に並んだ。

 

「これでおしまい?」

「ええ。後はウチの軍隊に任せればいいわ」

「了解。それじゃ帰ろうか」

 

工場の外に出ると、そこに全員が揃っていた。

 

「ごめん、遅れて」

「奥地に行き過ぎたわね」

「ううん、今来たとこだよ〜」

「それはどっちかと言うと彼氏側のセリフだと思うのですが……」

 

誰1人欠けることなく、また怪我もなく集合した。ユニはまだ体に絆創膏が貼られているが、まあ問題はないだろう。動きを見たが、冴えがあるどころか見違えるほどの動きだったし。

 

「それじゃ帰り……ん?」

 

ブランのポケットの中の通信機が音を立てた。

ブランはそれを取って通信を繋ぐ。

 

「もしもし?………なんですって?」

 

ブランが目を見開いた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「始まる……もう誰にも止められない。どちらに転ぼうが、勝利は揺るがない」

 

マジックがギョウカイ墓場で低い笑い声をあげる。

 

「犯罪神様復活は秒読みに入った。……せいぜい、今のうちに嘆くが良い……ククッ……」


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