諜報部から送られてきた情報通りにネプテューヌ達がラステイションに向かうと、森の中の周りを木に包まれた場所に工場がそびえ立っていた。
草陰に隠れながらその工場を偵察する。
「よくもまあ、こんな大きい工場をバレずに作ったものね」
「ですけど、ここを潰せばマジェコンの流通は一時的に止まるです!」
工場の入口以外の人の流れはない。コソコソとみんなで工場の裏側へと向かう。
「ふ〜っ………すぅ〜……」
「ちょっと失礼するわよ?」
「え?むぐっ!?」
裏口で見張りでもしていたのか、タバコを吸っていた男をノワールが峰打ちで気絶させた。
「………大丈夫」
裏口をそっと開いて中を確認するが、周りには誰もいない。全員が物音を殺しながら中へと入っていく。
「わあ……ここが、マジェコン製造工場……見たことない機械がいっぱい……!」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ!」
ネプギアが工場の中の光景に目をキラキラと輝かせてうっとりと眺める。
「ね〜、この工場さ〜、片っ端から壊していい〜?」
「バカ言わないの。そんなことしたら、新型マジェコンを持って逃げられるだけよ」
「一気にトップを落として、工場全体を停止させるのが最善……」
「まあ、そうですわね。できれば静かに、が望ましいですけど」
暗殺じゃないが、隠密に倒せるほどいいことは無い。
ここで働いている構成員が異変に気付かないほどには。
「トップ……って何処にいるんだろう……」
「もしかして……あれ……?」
ロムがピッと指を指す。
全員がそこに顔を向けるとーーーー。
「おらおらおら!もっとキリキリ働け!そこ、サボってんじゃねえぞーっ!」
「………アレはないでしょ」
「下っ端さん、トップになったんですか?下っ端さんなのに?」
「だからないと思いたいんだけど……」
「出世、ってやつね」
「へえ〜、数年前とは偉い違いだね。なんか、指示出す姿も板についてるっていうか!」
「所詮付け焼き刃でしょ。それじゃ、アイツを落としておしまいにしましょうか」
ノワールが溜息を吐きながらやれやれと首を振った。
そのままコソコソと全員で気付かれないように移動してリンダへの距離を詰めていく。
「ほらほら、もっと働け!働いて働いて、犯罪神様へのシェアを集めるんだよ!」
リンダの声に呼応して労働者達が『応!』と叫ぶ。
それに満足した顔をしてへへへと笑うリンダの背後にネプテューヌ達がたどり着く。
「ああん?なんだお前らさっさと仕事……げっ!」
「もう逃げられないわよ、観念しなさい」
「この人数に勝てるわけありませんわ」
「んなっ、卑怯だぞ!数の不利を突くなんてよ!」
「悪党に言われるセリフじゃないわね……」
「さ、どうするの?逃げる?逃げない?」
ネプテューヌ達がじりじりと近付くとリンダも同じ距離だけ後ろに下がる。
しかし、リンダはその足をピタリと止めた。
「に、逃げるわけに……いくかよ!ここは、ここだけは絶対に……!」
「ふ〜ん。じゃあ、遠慮なくやっつけちゃうね!」
ネプテューヌが太刀を構え、リンダが鉄パイプを持ち出した。
ネプテューヌがリンダに飛びかかろうとして腰を沈めた瞬間、工場の天井がぴしりと音を立てる。
「へ?ぴしっ?」
ネプテューヌがその音に気付いて上を見上げた。
「……あれ〜ネプギア?ここの工場ちょっと脆いんじゃない?普通天井って自然に割れないよね?」
「そ、そのはず……だと思うけど……」
「ノワール?大丈夫?この建物ちゃんと免震構造してる?このご時世、地震に弱いようじゃ……」
「くだらないこと言ってないで逃げなさいよ崩れるわよっ!?」
「わかってま〜すっ!うわわわっ!」
天井が音を立てて崩れ落ち、瓦礫がネプテューヌ達の上に降り注ぐ。
ハリウッドでもここまでやんねえぞってほどの瓦礫をネプテューヌ達は一斉に全力で後ろに走って避ける。
「あ、危な………!」
リンダとネプテューヌ達の間にうずたかく積もった瓦礫の山ができた。
そして天から天井を粉々にした主が舞い降りる。
「扮ッ!」
瓦礫の山を踏み潰し、音を立ててブレイブ・ザ・ハードが舞い降りた。
「ぶ、ブレイブ様!」
「お前の覚悟……見届けたぞ、リンダ!」
ブレイブの剣は黄金に輝いていて、傷もホコリもない豪華絢爛なものになっていた。さらにブレイブの体からは一目見てわかるほどの力が満ち溢れている。
「逃げろ、リンダ!ここは俺が引き受けた……!」
「そんな、ブレイブ様!アタイだって……!」
「命を無駄にするなと言っている!それとも……俺が負けるとでも思っているのか?」
「い、いえ………」
「ならば行け!なるべく遠くへな……巻き添えを食らっても知らんぞ?」
「……っ、くそっ!」
リンダが後ろを振り向いて逃げていく。
「逃げろ、お前ら!巻き添えを食らうぞ!持てる限りのマジェコンを持ってトンズラしちまえ!」
そして大声で声を張り上げて構成員達を逃がしていく。随分な量のマジェコンも持っていかれてしまうだろう。
「ブレイブ……」
「ユニか……あの手紙は読んだな?」
「ええ」
「なら、言いたいことはわかるはずだ」
「………」
目の前に立ちはだかるのはマジェコンヌ四天王。全員が気を引き締めて武器を構えたが、ユニが前に立って全員を遮った。
「待って。……コイツは私の相手よ」
「待ちなさい、ユニ。アナタだけでマジェコンヌ四天王に挑むのは危険すぎるわ。それにわかってる?アイツの強さは……」
「わかってる。けど、負けないから。……勝つから!」
ユニが振り返ってノワールの目を見つめ返す。
その目には確固たる意志が宿っていて、何も言わずともその目が強く強くノワールに訴えかけてくる。
「………」
「………」
「……はあ、わかったわよ。勝手にしなさい」
「お姉ちゃん……!」
「けど、必ず勝ってきなさい。約束よ」
「うんっ!」
ユニが変身してブレイブに振り返った。
そして2人は静かに見つめ合う。
「………空だ。こんな狭い場所ではお互いに全力を尽くせまい」
「望むところよ。私はどんな場所だって構わないけどね」
2人がゆっくりと開いた天井を抜けて工場の上へと向かう。そしてある程度の高さまで上った後、同じ高さで動きを止める。
「いいの、ノワール?」
「やりたいって言ってるんだからやらせるしかないでしょ。負けたら承知しないけどね」
「でも、あのブレイブってヤツ……」
「確かに前とは違うわね。けど、ユニだって前とは違うわよ」
ノワールはただ腕を組んで静かにユニを見つめる。それはユニを信じているが故だ。信じているから、ノワールはユニがどんなことになろうが手出しする気は一切なかった。
「なんで、マジェコンなんかばら撒くのよ。犯罪組織のクセに正々堂々と戦う男だと思ってたのに……幻滅したわ」
「マジェコンがなくなれば子供達が娯楽に飢えることを意味する。それだけは許せん」
「マジェコンがあれば、誰も新しいゲームを作り出さなくなるわ。そうすれば、ゲーム自体がこの世から消え去ってしまう!」
「違う。ゲームはこの世に生まれ続ける。何より、俺が見過ごせないのは格差だ。何もゲームに限ったことではない、財、立場、権力、力……いつも弱きものは虐げられる」
「だからってマジェコンをばらまいても、待っているのは破滅よ!」
「それも違うな。犯罪神様は平和な世界を望んでおられる……その先に破滅が待っているわけがない」
「アンタ……!アンタはっ!あのね、犯罪神の正体はっ!」
「もう黙れ。俺はお前と口喧嘩をしに来た訳では無いのだ……!」
「ブレイブっ!」
「行くぞ!」
ブレイブの背中のジェットが唸りをあげた。そして剣を構え、ユニを見据える。
「はっ!」
「っ!」
ブレイブが急接近して自分の間合いに瞬時に入り込む。そして強化された黄金の剣を振るう。
「一文字切りッ!」
「当たらないっ!」
しかしユニが片膝を立て、そこから発振したビームサーベルがブレイブの剣を受け止める。
ギャリギャリと音を立ててビームサーベルとブレイブソードが擦れ合った。
「犯罪神はね、確かに平和を望んでる!けど、それはアンタが望むような平和じゃないのよ!?」
「戦いに集中しろ!」
「きゃあっ!」
ユニがブレイブに押し切られ、吹き飛ばされた。
しかしユニはクルッと半回転してすぐに体勢を立て直し、肩の武器コンテナを開く。
「聞いてもらえないなら……!聞けるように、するまでよ!」
コンテナからミサイルコンテナが飛び出し、そこから無数の小型ミサイルがブレイブに向かって飛んでいく。
圧倒的な範囲攻撃を前に、ブレイブは後退しながら剣を構える。
「はぁ………っ、ぬうんっ!」
「っ!」
ユニが一瞬だけ力を溜めたブレイブを見て危機感を感じる。それは特別な能力ではない、鍛え上げられた戦士の勘と呼べるものだ。
それに従ってユニが背中をそらす。
ブリッジのように仰け反ったユニの顔の目の前を……ビームの剣が通り過ぎて行った。
「………!」
直後、ミサイルが爆発を起こした音がした。
ユニが視線を戻すと、ブレイブは無傷で空中に浮き、ミサイルはわずかな煙を残すだけになっていた。
「な、何今の!?剣が伸びたよ!?」
「一瞬……ほんの一瞬ですけど、あの剣からビームサーベルが発振されましたわね。恐らく、あの剣はビームサーベルも形成できてしまうのですわ」
つまり、それは間合いが遠い。ユニが射撃をする間合いでもブレイブは剣で近接攻撃を行うことが出来るのだ。
「……どうした、言い聞かせるのではなかったか?」
ブレイブがユニに剣を突きつけた。
その見てユニが体を逸らすとユニのすぐ隣にビームサーベルが突き出てくる。
「っ、く!」
まるで如意棒。ブレイブの間合いは自由自在かつ無限大なのだ。
「攻めなきゃ……!攻めなきゃやられる!」
ユニが大きく空に飛翔する。ブレイブもそれに追いつくべく、空へ駆け上がった。
「外しはしない……」
ユニが右手のメガビーム砲をブレイブに向けて構えた。それを意にも介さず真っ直ぐに向かってくるブレイブに向けて引き金を引いた。
「メガビーム砲っ!」
メガビーム砲がブレイブに向けて真っ直ぐ飛んでいく。
ブレイブは真上に跳ね上がってそれを避けたが、それを見越したビームがブレイブに向かっていた。
「おおっ!」
「読み勝ちね」
「ぬ……!」
(当たった!)
ブレイブの体の動きを読んで発射された2発目のメガビーム砲がブレイブに命中するかに見えた。
しかしブレイブは剣の腹でメガビーム砲を受け止めた。
(無理よ……アレの威力は私も見た。いくら四天王とはいえ、まともに受け止められるはずは……)
ノワールもそう読んでいた。
しかしブレイブが剣の腹でビームを受け止めた瞬間、ビームと剣が接した面にほんの少しの眩い閃光が迸る。
(っ、なにか来る!)
ユニがそう見切ってメガビーム砲を下げて左手のIフィールドジェネレーターを稼働させてIフィールドを展開する。
それと同時にメガビーム砲は剣から跳ね返り、ユニに向かって飛んできた。
「っ!?は、跳ね返された……!?」
「アレは……!?」
「ユニちゃんのバリア……じゃない……。じゃあアレは……!?」
ノワールとネプギアが驚愕する。
それもそのはず、必中のはずだったビームは減衰もせずユニに向かって“跳ね返った”のだから。
ユニに跳ね返ったビームはIフィールドに阻まれて弾かれた。しかし、ユニにはただビームが飛んできたよりも強力なプレッシャーがかかる。
「ビームを弾くなんて……!」
「これが、犯罪神様から頂いた剣の力……この剣はそういう素材で出来ているのだ!」
「っ、ビームが使えなくたって!」
ユニの肩のウェポンスロットの壁が開き、中からフォールディング・バズーカが2つ顔を出す。
ユニはメガビーム砲から手を離し、両肩にバズーカを担いだ。
「これはどうかしら!?」
ユニがバズーカを乱れ撃ち、さらにミサイルコンテナまで射出した弾幕がブレイブを襲う。
ブレイブは一旦後退して真上に飛び、全ての弾を避けた。
「一筋縄ではいかんか……!」
「聞いて、ブレイブ!犯罪神なんかいない、アイツはビフロンスよ!アイツの平和は、誰も幸せにならない平和なのよ!?」
「そんな平和があるものか!」
「だから、私達が戦ってるんじゃない!」
「この、意味のわからんことを!」
「うっさい分からず屋!」
ユニがバズーカを発射するが、難なく避けられてしまう。
バズーカは剣に弾かれる心配はないが、弾速が遅い。バズーカの弾頭は目標には届かず、既にブレイブは遠い場所に移動してしまっている。
「どうして聞かないの、ブレイブ!私達は、分かり合えるはずなのに!」
「無理な話だ……!受け入れろ、お前と俺は敵同士!」
ブレイブがバズーカの雨を切り抜けてユニへ接近した。
「争う運命なのだ!」
「うくっ……!」
「躊躇って勝てるほど、俺は弱くはないぞ!」
ユニのビームサーベルとブレイブの剣が火花を散らす。
(ブレイブ……!私、私は……!)
唇をかんでいたユニは歯を離し、今度は強く噛み締める。
勝つ。勝つんだ。
全部その後でやる。
今は……説得とか、仲間になれるだとか、そんなことはどうでもいい。
勝って、言い聞かせてやる。完膚なきまでに叩きのめして、見下して言ったやるのだ。ビフロンスがどんなに悪虐非道の女かということを。
だから……。
「心が………」
「え……?」
「心が、何かにとらわれれば剣は出ない……意味がわかるか?」
「っ……知らないわよ、そんなの!」
ユニがキッとブレイブを睨みつけて力を入れ直す。
「勝ってやる……勝つ!アナタに勝って、それで、教えてやるんだから!」
ユニの足のブースターが火を吹いた。
するとブレイブの体が徐々に後退していく。
(俺が、パワー負けしている……!?)
「調子乗ってんじゃ、ないわよーーッ!」
ユニの推力が完全にブレイブを上回った。ブレイブがユニに押されて物凄い速さで後退させられる。
「ぬうううっ!」
「ハッキリ言うわ!アナタは間違ってる!仕える相手も、世界を正すやり方も!だから、その体に直接叩き込んであげる……!」
ユニが両肩に担いだバズーカをブレイブの顔面に向けた。
そしてその引き金を、何度も何度も引き続ける!
「両手が自由なのよ!」
「ぐおおおっ!」
ブレイブは後退させられながら顔面に何度もバズーカの弾頭をぶつけられる。
そして最後にユニに蹴飛ばされ、工場の天井へと向かっていく。
「どうよ……少しは痛かったかしら!?」
「すごい、ユニちゃん……!」
「負けず劣らず……いえ、ユニちゃんの方が優勢ね!」
「これなら、勝てるかも……?」
妹達は喜んでいるが、ノワールだけは厳しい目つきを変えないままユニを見ていた。
(あの程度で終わるわけがないわよね……)
もし、自分ならばまだ油断しない。
たとえあれだけ弾頭をぶつけようとも……相手の身が砕けようとも。体が砕けようとも動く精神と信念がブレイブにはあるからだ。
「クク……ようやく本気になったか……」
「こんなもんじゃないわよ。私は、もっともっと強いんだから!」
「ならば俺も、奥の手だ……!太陽炉、稼働……!」
ブレイブの背中からコーン状の物体が2つ浮き出てきて、関節はクリアグリーンへと変わっていく。そしてブレイブの背中からは綺麗な緑色の光の粒子が吹き出て来る。
「アンタがどれだけ強かろうと、私は必ずその上を行くの!」
ユニはコンテナにフォールディングバズーカを仕舞い、別のコンテナから軽機関銃を取り出した。
「証明してあげる……アンタが間違ってるってこと!そして、最後には私が叶える!私の願いがアンタの上を行く!」
「ならば、俺も証明してみせよう!俺の正しさと、お前がただ夢を見ているだけの甘ちゃんだということをな!」