ドッカァァァァァァァァン!!
昭和の特撮よろしく基地っぽい何かが大爆発を起こして消えていく。
「成敗………」
「え、えと……い、いいの、あれ?やり過ぎじゃ……」
「……そうね、少し暑いわね」
「そういう問題じゃないですよ!?」
「仕方ないですわよ、どうせ捕まるなら自爆してやるとか言い出したんですもの」
ネプギアはオロオロしているが、残りは至って平常心。
脇には逃げ遅れた構成員を抱えている。
「また1つ、つまらぬものを切ってしまったね」
「切ってないよ……跡形も残ってないよ……」
「にしても、まあわかってたとはいえ……地味よね」
「地味じゃないですよ!?派手すぎるくらいですけど!?」
精一杯ツッコムものの、哀れネプギアの言葉は届かない。
「もう飽きた〜!おんなじことの繰り返しでつまんな〜い!」
「まあ、確かに、キリがない感じはあるわよね」
ユニも疲れ果てた様子でダラダラと歩く。
「マジェコン1つ集めるにしたってもっとこう、元から絶たないと意味無いんじゃないの?」
至極真っ当な意見だ。
いくら害虫を駆除しても巣をなんとかしなければ害虫はまた増えてしまう。モグラ叩きというかなんというか、このままだと文字通り終わりがない。
「ん、ごめん」
するとアイエフの電話が鳴った。
足を止めてアイエフが電話し、何度か言葉を交わして電話を切る。
「どうだった、あいちゃん?」
「朗報よ。マジェコンの大規模な製造工場の1つがわかったわ」
「本当!?」
タイムリーな情報だ。
全員の顔が活気を取り戻す。
「それ、どこにあるの?」
「ラステイションよ。ここからの距離はあまりないわね」
「へえ……私の国で好き勝手やってくれるじゃない」
ノワールが拳をバキバキと鳴らす。
「そのマジェコン工場、潰すわよ!」
「おっけー!俄然やる気出てきたね!」
「久々の大仕事ね」
女神御一行はそのままの足でラステイションのマジェコン工場へと向かったのだった。
ーーーーーーーー
ミズキが松葉杖を突きながらゆっくりと進み、アブネスもその歩調に合わせてゆっくり歩く。
2人は少し遠出をしてプラネテューヌの外れにまで来ていた。
「このあたり?」
「そうね、メール通りならね」
指定された場所は丘の上にあり、森を少し抜けたところだ。森を抜けてはいるものの、まだ少しずつ木が生えている。
「いい、怪しくなったら逃げるわよ」
「わかってるよ。ネプテューヌの件もあるし、メールを信用してるわけじゃない」
『取引』という件名のメールには、ビフロンスを倒せるかもしれない手段がある、という文章と座標だけが記されていた。
怪しさてんこ盛り、危なっかしさしか感じないが万が一ということもある。
まあ、こんな餌に釣られたとしたならそれはそれで笑い話なのだが。
「このあたり……ん?」
アブネスが丘を越えると足を止める。ミズキもそれに追いついて下を見下ろした。
「………廃墟?」
そこにはボロボロになった建物がある。だいぶ年季が入っているようだが、見た感じそもそも建っていたのも相当な昔だろう。ボロボロというか、朽ち果てていると言った方がいい。
「多分、これ教会ね」
「教会?」
「女神がアイツになる前……もう相当な昔でしょうけど、その時の教会ね。話で存在自体は聞いたことはあるけど、まさかこんな場所にあるなんて、ね」
アブネスが緩やかな丘を下っていく。ミズキもそれを追いかける。
「多分、指定された場所はここでしょうね……中入る?」
「入らなきゃ始まらない」
「それじゃ、開けるわよ」
2人が警戒しながらドアを開く。
中を見ると、やはり瓦礫だらけの廃墟だが……。
「………あれ」
「どうかした?」
「あそこに行けってことかな」
ミズキが指さす先には瓦礫の山。天井から陽の光が差し込んでいるから、天井が砕けてできた山なのだろう。
その山が一部抜き取られて道ができており、その奥には地下に進む階段がある。
「………地下、ねえ」
「慎重にいこう。危なくなったらすぐ逃げてよね」
「それはコッチのセリフよ」
アブネスとミズキは慎重に階段を下っていく。そこそこ長い階段で天井が低い。アブネスは気をつけずとも頭をぶつける心配はないが、ミズキは頭をぶつけないように歩く。
すると暗かった階段の終わりに光が見えた。
「出口、かな」
「多分ね」
階段を下り終えればそこは真っ直ぐな通路。
明かりも何もないのに不思議とそこは緑色の光の粒子で優しく輝いている。
「き、れいね……」
「ホタル……じゃないよね」
光の正体はわからないが、ミズキが優しく光に触れると手の中に収まった。淡く手の中で輝く粒子をミズキは手放す。
「……行きましょうか」
「ん、そうだね。通路は1本……この先に誰かが待ってる」
そこそこ広い通路を歩いていく。
どこか幻想的な通路は仄かな光でミズキ達の道を照らす。
そしてミズキ達は通路の突き当たり、大きな扉の前に来る。
「………開くよ」
「了解」
ミズキがドアを押して開く。
ゆっくりと開いた扉の向こうの部屋からは据えた匂いがやってきてアブネスが少し顔をしかめる。
「今日は来客が多いのだな……何100年ぶりだろうか」
「え?」
「ん、おっそいわよ。何してたの?」
「っ、君は……!」
ミズキがどこからかの声に振り向いた途端、正面から声がした。
聞き覚えのあるこの声は、まさか……。
「……アノネデス……!?」
「あったり〜。おひさおひさ〜」
アノネデスがひらひらと手を振っている。
その足元にはローブをかぶった小さい影。
「ワレチュー……君達2人とも、脱獄したのか……」
「チュ。でも今は犯罪組織に属してるわけじゃないっチュ」
「アタシ達は、記憶を取り戻してる。だからこそ、アナタに取引を申し出たのよ?」
「取引、って……」
「例のビフロンスを倒す方法?」
「そ」
アノネデスが部屋の中の手すりに腰掛けた。
部屋は鮮やかなステンドガラスの窓と屋根の高い天井に覆われているが、地下のためか周りの景色は見えない。それでもステンドガラスが輝いて見えるのはひとえにこの部屋にも満ちている光のせいだろう。
「条件は3つあるっチュ。1つ、オイラ達を見逃すこと。2つ、必ずビフロンスを倒すと保証すること。そして……」
そこでワレチューが言葉に詰まる。
「っ、あのオバハンと下っ端を必ず取り返してオイラ達のところに連れてきてほしいっチュ」
「…………」
「もちろん、アタシ達もこれから罪を犯そうとは思ってないわ。もし、万が一のことがあれば捕まえてくれて大丈夫よ。あくまで見逃すのはこの場面だけ」
「それは……」
「その前に、ビフロンスを倒す方法ってのを教えて欲しいわね。まさか、努力と根性で勝てるとは言わないでしょ?」
「それは、アタシじゃなくて彼女に聞いてくれる?」
「彼女?」
「……私か」
「え?」
突如響いた声にアブネスが周りを見渡す。だがいくら周りを見渡しても声の主と思われる人間はいない。
「私を見ようとしても無理なことだ。もはや実体はないのだからな」
「思念体……しかも、とんでもなく強い……」
「ほう、お前には私を感じられるのか。有り余る才能の持ち主らしいな」
「え、え、何よ、なに?詳しく説明しなさいよ」
アブネスがミズキにうろたえながら説明を求める。するとミズキに代わってアノネデスが答えた。
「彼女はウラヌス。その昔、犯罪神と戦ってた女神よ」
「犯罪神と……!?」
「いや、待って、犯罪神はビフロンスでしょ?別次元からやってきたアイツと、その、ウラヌスが戦うわけが……」
「いや、犯罪神はもともとここに存在していた邪神だ。数100年昔のこと、私達は犯罪神を相手に戦った……」
「じゃあ、みんなが崇めてる犯罪神って、ビフロンスが成り代わったもの、ってこと……?」
「いいや、成り代わるどころではない。恐らく……飲み込んでいるな」
「っ!?」
「さらにいえば……私達は犯罪神と戦っただけだ。勝てていない……封印にこぎつけるのが精一杯だった」
ウラヌス達、数100年前の女神達……もちろん、4人全員でかかったのに犯罪神は倒すことが出来なかった。
それだけ強大な神の力を、ビフロンスが、吸収しているって……。
「……とんでもないことに、なるわね」
「完全復活より前に倒そうとは思うけど……じゃあ、ウラヌスは犯罪神を倒す方法を知っているの?」
「ああ。少なくとも犯罪神だけなら一撃で封印できるまでに弱らせることが出来た手段だ」
「じゃあ、それを教えなさいよ!」
アブネスが問いかけたが、ウラヌスは答えない。
「……え?ちょっと?」
「……………」
「な、なに?怒らせちゃった?」
「いや……そういう訳では無い」
「……どうかしたの?」
「………おい」
「わかったわよ」
ウラヌスがアノネデスに声をかけるとアノネデスが部屋のさらに奥へ進んでいく。
部屋の突き当たりに刺さっているのは墓標。いや、違う。これは墓標なんかじゃなく……。
「剣……」
「でも、ボロボロよ?」
「これが、ビフロンスを倒せる剣なの……?」
ミズキが進んで墓標のように地面に刺さる剣の前に立った。
錆びている上に、刃も欠けている。朽ち果てていて、今にも崩れ落ちてしまいそうな剣だ。
「そうだ。それが犯罪神を倒した剣だ」
「……これが?本当に?」
「その剣はね、ある条件を満たさないと力を発揮しないのよ」
「条件……?」
「そ。だから使うかどうかはアナタ次第……」
「………その、条件って何」
「………女神の血だ」
「…………!」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!それって、まさか……!」
「その剣は女神を殺せば殺すほどに力を宿す。そういう力を宿した剣なのだ」
「じゃあ、アンタ、まさか……!」
「……軽蔑したか?今でもあの時の光景と感触は覚えている。その剣を使って黒と白の緑の女神の首を断ち切った。血が吹き出て……とても、悲しかったよ」
ウラヌスの独白に言葉を失う。
ウラヌスの言葉はリアルで、何より声だけの姿になってもその声から悲しみが伝わってくる。
「……なんで、そんなことができたの?」
「……女神達は私の友であった。だが……友の3人の命とこの星の全ての命。どちらかを取れ、と……。3人は自ら首を差し出してくれた」
「それで、犯罪神を……」
「全力で戦ったさ。だが……それでも封印。笑うなら笑え、友の命を3つも奪っておいて私は敵1人すら倒すことが出来なかった」
「…………」
「私の悲しみを感じるか?才能を持つ者よ」
「……そんな力なくても、君が悲しんでいるのはわかるよ」
ミズキが空中の1点を見つめてウラヌスに言葉をかける。ミズキには、そこにウラヌスが見えているのだろうか。
「君の判断は間違っているなんて言えない。でも、正しいとも言ってあげない」
「………そうか。その剣をとるのはお前の自由だ。………どうする?」
ミズキが朽ちた剣を見つめた。
「その剣の名はゲハバーン。抜いても使うか使わないかはお前次第。聞こう、汝に覚悟ありや?」
アブネスがミズキを心配そうに見つめる。ワレチューは表情を崩さずに、アノネデスは興味深そうにミズキを見ている。
そして、ミズキは。
その剣を………握った。
「…………」
そして、引き抜く。
「………保険か?」
「………」
「好きにするがいい。まだ使うと決めたわけではないのだろう?」
「……うん」
「ミズキ、アンタ……」
「……まだ、振るって決めたわけじゃない」
「………じゃあ、アンタに預けるわよ」
「………うん」
ミズキの手元からゲハバーンが消えていく。倉庫次元へと転送されたのだろう。
「契約成立ね。それじゃ、ばいばーい」
「……約束っチュよ」
アノネデスとワレチューはさっさと部屋から出ていく。
「……死なせないようにしろ」
「わかってる。……わかってるよ」
ミズキとアブネスもいつの間にかそこからはいなくなっていた。
デデドン!(絶望)
魔剣ルートまっしぐら!やだー!