超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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勝利の果てに

デストロイの陽電子リフレクターが全身を覆う。

ビームも実弾も通さない陽電子リフレクターはユニにとって絶望的なバリアだ。

 

「成長する、言葉にすればなんて簡単なのかしらね!」

 

いざこうしてデストロイの前に立つと手がかりすら掴めない。

 

何を、どうやって、どこへ、誰に!?

 

「………ダメ、自分で見つけなきゃ」

 

デストロイが放つ指先のビームガンを避けながらユニがX.M.Bを握り直す。

 

「教えてもらっちゃ、前と同じよ、ユニ。それはダメだって、少なくともそれはわかってるじゃない!」

 

誰かに教えてもらって、手助けしてもらって、それも大切だろう。自分が知らないこと、見えていないものを教えてくれるはずだ。

 

だが、しかし、それでも、それじゃ……!

 

「イヤだもの。……ワガママかもしれないけど、そんなこと言ってる場合じゃないかもしれないけど、それじゃ、勝てないのよ!」

 

ユニがX.M.Bから貫通弾を放つが、それでも陽電子リフレクターを貫通できない。

 

「実体弾でもダメか……!じゃあもう道は1つよ!」

 

信じて、任されたのだから。

それに応えられなくてどうする!?

 

「ゼロ距離で叩き込む……それだけ!」

 

ユニがデストロイに向かって飛ぶ。

変形したデストロイのネフェルテムを避けながら接近を試みるも、やはり弾幕が厚い。

 

(くそ、お姉ちゃんがここにいたら……!)

 

きっとあの弾幕の中、恐れずに前へ飛び出してあの巨大な装甲を切り裂いてくれるはずだ。

そしてもっと精進しなさいって、そう言って……。

 

「っ、あっ!」

 

ネフェルテムがユニを掠めた。

それを機にユニは首を振って意識を集中させる。

 

「集中しなきゃ……!」

 

飛翔して弾幕を避けつつ、デストロイにビームを撃ち込んでいく。

だがそれも陽電子リフレクターに弾かれて徒労に終わる。

 

「無駄、なの……!?」

 

頭の中に影がちらつく。

あの時に振り切ったはずの影がユニの前に立ちふさがる。

 

『…………』

 

影は振り返り、愛しい顔を見せる。

しかし、ノワールの顔は無表情でユニになにか問うているようでもあり、ただユニを見つめているだけのようにも見える。

 

「お姉ちゃんに、追いつく……違う!お姉ちゃんはそういうことを私に望んでるんじゃないの!」

 

X.M.Bのビーム・ジュッテを展開してユニがデストロイの周りを旋回する。

 

「どいて……お姉ちゃん!お姉ちゃんに出来ることは、私にできないんだから!だから、だから……!」

 

デストロイが人型に変形し、ユニに向かって指のビームガンを発射する。

 

「私は、私だけの輝きで!私だけの道を歩くの!」

 

ユニのビーム・ジュッテがデストロイの指の1本を断ち切った。

しかし、ユニはそこから離脱しきれない。

 

「うっ、あうっ!」

 

デストロイに握られた。

ギリギリとデストロイがユニの体を握りしめる。

 

「あ……ああっ………!」

 

そしてデストロイは拳を振り上げ、思いっきり地面に向けてユニを叩きつけた。

 

「うっ……あっ……!」

 

ユニが地面に叩きつけられてバウンドし、地面に倒れる。

プロセッサユニットはひび割れ、ユニはピクピクと動くだけだ。

 

(何やってんのよ、私は……!)

 

ノワールと違う道を歩むとか言っておきながら、無理な接近戦を仕掛けるだなんて。それは自分がノワールの影を振り切れていない証拠じゃないか。

 

(せっかく教えてもらったこと、助けてもらったこと、何も使いこなせてない……!)

 

ミズキさんが教えてくれたこと。

みんなに助けてもらったこと。

それを返すことが何ひとつ出来ていない。まるで、それらすべては無駄だったのだと言うように。

 

デストロイが左手を握り、天高く掲げる。

 

ひたむきな心と負けん気だとか、私だけの輝きだとか、何もかもか無駄に……。

 

そしてデストロイが拳を振り下ろす。

その瞬間、ユニが息を吹き返してX.M.Bを空に向けた。

 

 

 

「ふっ……ざけないでよぉぉぉぉぉッ!」

 

 

 

ユニのX.M.Bのビームがデストロイの拳に向かって放たれる!

 

《…………》

 

「無駄に……するかどうかは、私次第なのよ!そうでしょ!?」

 

デストロイの拳がビームに射抜かれ、そのまま肘までビームが突き抜ける。デストロイの左手は爆発を起こして四散した。

 

「ああ、そうよ!全然弱いわよ!お姉ちゃんに勝てないし、それどころかこの中でも最弱かもしれないわよ!けどね!けどね……!」

 

ユニがX.M.Bをデストロイの顔に向ける。

 

「あの人の……あの人が、成そうとしたこと!やり遂げたこと……残してくれたこと!それだけは、無駄にしてたまるもんですかっ!」

 

デストロイが残った右手でX.M.Bをガードする。しかし、その勢いは片手だけでは受け止めきれず、ビームは貫通しなかったもののデストロイを後ろに倒す。

 

「今こそ、前に進むわよ……!負けられない、負けられないの!」

 

デストロイが立ち上がるのと同時にユニが飛び上がる。

そしてデストロイのスキュラとX.M.Bがぶつかり合い、相殺する。

 

「勝ちたい、勝ちたいのよ……けど、それじゃできないこともあるの!」

 

飛んできたデストロイのミサイルを散弾で撃ち落とす。

そしてビームガンを避けながらユニは息を吸った。

 

「振り切るんじゃない……見てて!これが成長した私だから……見せ付けてやる!」

 

ユニがビームの嵐の中、恐れずに飛び込んでいく。

ビームが髪を焼き、頬を掠め、視界を塞ごうとも恐れない。

 

(そうよ、この感情は……!)

 

ユニにツォーンが発射された。

ユニは防御魔法をぶつけるが防ぎきれず、体勢を崩す。それでも突進はやめず、進むユニの前でスキュラがスパークし始めた。

 

「叶えたいの!私は!夢で描いたこと、全部全部成し遂げたい!そのために、私は……強くなる!」

 

ユニに向かってスキュラが発射される。

 

「掴み取ってみせる……!私が勝つ未来も!お姉ちゃんが、ミズキさんが……みんなが笑う時間も!」

 

ユニが目の前に立つノワールの影に手を伸ばす。

少しだけノワールは微笑んだように見えた。

 

「っ!」

 

ユニの手から広がる透明なバリアのようなものがスキュラを弾いた。

まるでユニを何かの加護が守っているようにスキュラの奔流はユニを避けていく。

 

「ん、ん………!」

 

それでもユニはスキュラの勢いに後退しかける。後に退きそうになる。それでも、ユニは這いつくばるように前に進む。

 

その先のものが見えない。目の前に見えるのは赤い光の奔流だけ。

でも、別れた道を進むと決めたのだから。それは、1人で道を歩くということ。その孤独に耐えなければならないということ。

 

必死にユニが手を伸ばす。

 

掴みたい、掴みたい、掴みたい!

 

あと10cm、あと1cm、あと1mm……すぐ、そこ!目の前!

 

私の手が、道を拓く!私が望むもの、全部全部さらっていく!勝ち取る!

 

誰にも渡したりなんかしない!

 

「来なさいっ!」

 

ユニの手に、円形の盾のようなものが握られた。そこからビームを弾くバリアが発生しているように見える。

それはIフィールドジェネレーター。

ビームを弾くIフィールドで全身を包ませるための装備だ。

そしてX.M.Bは小型化したのが一転、元の大きさよりもさらに大きく巨大化していく。

そしてユニの足にはブーツ状のブースター、背中と肩に武器コンテナが装備される。

 

「はあああっ!」

 

ユニの足のブースターが唸りをあげ、スキュラを跳ね返しながら前に進む。

そしてそれはスキュラを完全に押し返し、ユニの盾がスキュラの砲口を叩く!

 

《…………》

 

スキュラが砲口でスパークしてしまい、真ん中の砲門が潰れた。

ユニはそれだけでは飽き足らず、デストロイを押し出す。

 

《…………》

 

「やああああっ!」

 

なんと、ユニがデストロイを持ち上げて空中を飛ぶ。

そのままユニはデストロイを投げ捨てた!

 

《………》

 

デストロイが地面を転がり、バックパックが煙をあげて大爆発を起こす。

それを見下すように空中に浮かぶユニは超ロングバレルになったX.M.B改め、メガビーム砲をデストロイに向けた。

 

「この……パワーなら!」

 

メガビーム砲から放たれるビームがデストロイに向かう。

デストロイは陽電子リフレクターで受けるが、腕が弾き飛ばされるほどの衝撃だ。

デストロイは素早く立ち上がり、スキュラをユニに発射する。

 

「もう、そんなもの避けるまでもないわ!」

 

ユニがIフィールドジェネレーターを稼働させるとスキュラはユニの前で偏向し、彼方へと飛んでいく。

 

「何者にだって……負けやしない!アンタの向こうに……掴みたいものが待ってるの!」

 

ユニが真っ直ぐデストロイへと突進していく。

デストロイが放つビームは全てユニには届かない。全てがIフィールドの前には無力だ。

 

《…………》

 

「てやああああああっ!」

 

ユニのメガビーム砲がデストロイの頭を射抜く。デストロイの頭は四散し、ユニがデストロイとすれ違う。

 

「次ッ!」

 

《………》

 

再びユニがデストロイへと向かう。

デストロイは無駄だとわかっていてもビームを撃つしかない。そしてそれはユニには届かない。

 

《………》

 

しかし、デストロイも簡単にやられてはくれない。

ギリギリまでユニをひきつけて拳でユニを殴りつけた。

 

「っ、あうっ、くうううあっ!」

 

だがユニは気合で体勢を立て直す。

拳の威力は高く、ユニの骨が軋んだ。メガビーム砲がひしゃげた。

それでもユニは前を向く。

 

「沈め沈め沈め、沈めぇぇぇぇっ!」

 

ユニの膝から巨大なビームサーベルが発振した。そしてデストロイの左肩にそれが突き刺さり、デストロイの左肩を切り落とす!

 

「お姉ちゃんの真似だけど!」

 

メガビーム砲を捨て、ユニの膝に挟まれたビームサーベルの柄の片方が飛び出てユニの手に握られる。

 

(バイバイ、お姉ちゃん……いや、お姉ちゃんの影!)

 

ビームサーベルと呼ぶにはあまりにも剣の部分が長い、ビームソードのようなビームサーベルが唸りをあげる。そしてもう片膝のビームサーベルは膝から展開し、デストロイを切り刻む!

 

「レイシーズ……!ダンスッ!」

 

手と足で繰り出す踊るような斬撃がデストロイの胸を切り刻み、スキュラを完全に潰しきる。

 

(もう、幻は見ない……!)

 

力尽きたのか後ろ向きにゆっくりと倒れていくデストロイから後退し、ユニが武器コンテナからミサイルを射出した。

 

「………!」

 

雨あられのようにミサイルはデストロイの下半身を激しく打ち据える。

いくらデストロイの装甲がPS装甲と言えども関節部まではそうではない。

ミサイルは関節を完全に破壊してデストロイをダルマにした。

 

「…………終わり……?」

 

デストロイはもうピクリとも動かない。動いたとしてももう武装はない。

 

「……勝ったの?」

 

ユニが自分の両手と眼下に広がる倒れたデストロイと交互に見る。

そしてそれからようやく全身の力を抜いた。

 

「勝った……勝った、勝った勝った勝った!」

 

子供のようにユニが笑って飛び跳ねる。

 

「あはっ、あははっ、やった、やった!私!勝ったよ……勝った!これで……!」

 

ユニは敵のさらに奥にあるもの、敵の向こう側にある勝利を掴むことができた。

 

「……っ、嬉しい……っ!」

 

ユニは勝利の喜びを静かに噛み締めた。


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