叢雲とかないし花もない。月と吹雪くらいしかなかったけどいいよね。なんとなくカッコいいし。
4人が歩き出した巨大モビルスーツに追いつく。
しかし、そのモビルスーツが作り出した光景に唖然とする。
「なによ、これ……」
巨大モビルスーツーー顔はガンダムーーが打ち出すビームが森を焼き払い、山火事を起こしている。
夜中だというのに炎が天を照らして昼のように思える程だ。
「こんなのが街についたら……!」
「大変な被害が出るわ!」
「その前に止めなきゃ!」
その機体の名はデストロイガンダム。
デストロイは背中の円盤状バックパックから放つネフェルテムで森に火をつけている。
ネプギア達はその中をかいくぐりながらデストロイに接近していく。
「どうせ、こいつもまた人間の脳かなにかで動かしてるんでしょ!?」
ユニが気を引こうとX.M.Bを発射する。
するとそれに気がついたデストロイが振り返り、腕のビームシールドで受け止めた。
「この……!」
ユニがさらにビームを撃ち込もうとするとデストロイがユニに向けて両手の指を向けた。
するとデストロイと胸と口、そして両手の指先がスパークし始める。
「な、なに!?」
「ユニちゃん、よけて!」
指先のビームガン、そして胸部に3門搭載されたスーパースキュラ、口に装備されたツォーンmk2が同時に火を噴く!
「っ、くっ!」
ユニがギリギリでその網の中から逃げるものの、発射されたビームはそのまま森に火をつけてしまう。
「避けても被害が出るって、もうっ!」
「鎮火する……?」
「氷なら、被害は押されられるかもしれないけど……!」
「キリがないよ!まずは、アイツを倒してから!」
ネプギアがH-M.P.B.Lを放つ。
しかしデストロイの手の甲から発振される陽電子リフレクターはそれをいともたやすく弾いてしまう。
「H-M.P.B.Lの貫通力でも歯が立たないなんて!」
「これならどうよ!」
「私達の魔法で……!」
ロムとラムが杖の先に氷塊を作り出す。
「アイス……」
「コフィン!」
しかしデストロイはアイスコフィンもツォーンで割ってしまう。
「なによあの火力!おかしいでしょ!」
「このままじゃ、森が焼けちゃうよ……」
「近接戦闘なら……」
この場で近接戦闘を行えるのはネプギアくらいのものだ。
ラムも可能ではあるが、あの弾幕を避けきれるだけの機動性がないとデストロイに近寄ることすらできない。
「近接戦闘に入ります!援護してください!」
「オッケー!任せなさい!」
ネプギアがH-M.P.B.Lを構えてデストロイへと突進していく。
するとデストロイは両手首を切り離し、シュトゥルムファウストを使った。
「っ、あれ自体がファンネルなの!?」
手首自体が独立で飛行し、ネプギアを左右から指先から出るビームの網で妨害する。
「この、落ちなさい!」
ユニがそれに向けてビームを撃つが、シュトゥルムファウストの陽電子リフレクターに弾かれてダメージがない。
「ネプギアちゃん、あれ……!」
「……っ、もう1機……いや、2機!?」
遠方から接近してくる新たなデストロイにロムが気づいた。
2機は間が離れているものの……2機ないし3機なんて同時に相手していられない!
「どうすんのよ、ネプギア。2通りあるけど」
「2通り?」
「そう。4人で速攻で1機ずつ叩き落としていくのと、個人個人で1機ずつ相手にするのと」
増援が来る前に倒すか。
ネプギア、ユニ、ロムとラムで分担してそれぞれを相手するか。
前者は1人1人がやられる危険性が少ないが、壁が破られれば街に一気に被害が出る。
後者は1人やられてしまえば一気に窮地に陥るが、適当に時間を稼ぐだけでも街を守れる。
どうする……!?
「くっ!」
ネプギアがシュトゥルムファウストを避けながら考える。
「あんまり時間はないわよ!」
「サテライトキャノンは、1回が限界だし……!」
「でも、1人で相手して大丈夫……?」
ネプギアの頭が高速で回転する。
変わりはないのは、この状況では勝ち目が薄いということ。
どちらでも負ける危険性は非常に高い。
だからこそ……!
「聞きたいことがあります!」
ネプギアがビームを避けながら3人を見る。
「進化、できますか……!?」
「するしかないってんなら、してやるわよ!」
「了解、お任せ!」
「レベルは、充分……!」
「……じゃあ、各個撃破!信じてます!」
ユニとロムとラムがそれぞれのデストロイガンダムへと向かっていく。
そしてネプギアはデストロイガンダムに相対する。
「……ミズキさんが、守ろうとしたもの……」
ネプギアがH-M.P.B.Lの出力を最大にまで引き上げた。
「アナタ達に……壊させはしません!」
ネプギアのH-M.P.B.Lが最大出力で放たれた。
ーーーーーーーー
ロムとラムが戦うデストロイガンダムは変形していた。
バックパックを機体上部にまで上げ、腰部を180度回転させ足を鳥のようにしている。
「アイツ……」
ラムが軽い魔法をデストロイに向かって放つと全身を覆う陽電子リフレクターに弾かれた。
「……全身バリア?」
「みたいだね……。どうする?撃っちゃう……?」
「また弾かれそうじゃない?」
「……うん………」
最近は無敵と思っていたサテライトキャノンが弾かれたため、なんだか自信がなくなる。
するとデストロイがロムとラムを見つけたのか、バックパックに装備された特大の陽電子砲、アウフプラール・ドライツェーンを向ける。
「アレは防ぎきれないよ……!」
「避けるわよ!」
2人が離れて陽電子砲を避ける。
空中に向けて飛んでいったからダメージはないものの、ネフェルテムが常に地面を焼き払っているために被害は増えていく一方だ。
「やっぱり、近接戦しかないわ!」
「ラムちゃんにできる……?」
「やるわ、やってみせる!」
ラムが杖の先を凍らせてデストロイに向かう。
ロムもそれを追ってデストロイに肉薄しようとするが、ネフェルテムの弾幕が厚すぎる。
「このーっ!」
さらにデストロイの背中からミサイルが発射され、ラムを襲う。
「うっくっ、きゃあっ!」
「ラムちゃん……!」
肩に被弾してしまった。
勢いを緩めたラムを追撃を食らわないようにロムがフォローして後退していく。
「大丈夫……?」
「大丈夫、だけど……」
今もなおデストロイは森を火に包んでいる。
ロムとラムの視界には逃げ惑う動物や弱いモンスターが写っていた。
「なんて、無力なのよ……!」
ラムが杖をぎゅうっと握りしめる。
「見てるだけなんて、嫌よ!私は!止めてみせるの!」
「うん……!一緒に強くなろう……?」
手を繋いだ2人がまたデストロイへと向かっていく。
「何回失敗しても、諦めてあげないんだから!」
「執事さんと同じ……!」
2人が杖の先にアイスコフィンを作り出してデストロイに撃ち出す。
いともたやすくアウフプラール・ドライツェーンで破壊されてしまうが、ロムとラムはその隙にアウフプラール・ドライツェーンの射角外の足元へ向かう。
「ここをくぐり抜ければ!」
ロムとラムがネフェルテムの網をくぐり抜け、足元へとたどり着いた。
「食らいなさい!」
ラムが杖の先を凍らせてハンマーのように尖らせる。
「やっちゃえ……!」
すかさずロムがラムのパワーをあげるサポート魔法を使う。
「ええーーいっ!」
ラムが全力でデストロイの足首を叩く!
……しかし、デストロイには傷一つつかない。
「硬……過ぎ……っ!」
「っ、ラムちゃん避けて……!」
思いっきり叩いたせいでラムの腕が痺れた。
デストロイは悶絶しているラムの上に足を構えた。
「うっ!」
ラムが踏みつけを避ける。
しかし、すかさずデストロイの足がサッカーのように振りかぶられた。
「うっ!……ぐ……っ!?」
「ラムちゃん……!」
ラムの腹に思いっきりデストロイのサッカーキックが直撃した。
「きゃああっ、うっ、あううっ!」
とんでもない距離を吹き飛ばされたラムがいくつかの木をなぎ倒しながら地面を転がって火の海に横たわる。
「ラムちゃん……!」
ロムがラムに寄ろうとするが、それをデストロイのミサイルランチャーが追う。
「うっ、う……!」
防御魔法で受け止めるが爆風でロムの体が激しく鞭打たれる。
そしてさらにデストロイはアウフプラール・ドライツェーンの照準を定めていた。
「っ、きゃああっ……!あっ!」
ロムもそれをガードしきれずに紙屑のように吹き飛ばされ、地面に横たわる。
「うっ、う……!」
「痛、い……!」
デストロイは2人が動かないのを見て、またネフェルテムで地面をなぎ払いながら先へ進む。
「な、何やってんのよ……」
「う、なにしてるの……!?」
「なに、先に行こうとしてんのよ!」
「諦めないって、言ったでしょ……!」
ロムとラムが渾身の力を込めて魔法を唱える。
するとデストロイの足のあたりの気温が急激に低くなっていく。
「えいっ!」
「やあっ……!」
2人の氷魔法が大地ごとデストロイの足を氷漬けにする。
たまらずデストロイは転倒してしまう。
《…………》
「ロムちゃん、アイツのコックピットどこ!?」
「………コックピット、ないよ……?」
「え?」
「コックピットあるの、ネプギアちゃんのだけ……。他は気配がしない……」
確かに、少なくともこの機体はシュトゥルムファウストを飛ばしてこない。アレを扱うには優秀な空間認識能力が必要なはず、それは機械にはできないはずだ。
「っ、ロムちゃん!」
デストロイが氷の足止めを突破し、変形して人型になって立ち上がった。
「もう、ミズキさんがいなくたって……戦えなきゃいけないの……!じゃないと……じゃないと……!」
「執事さんさえ、守れない!」
飛び上がったロムとラムに指先のビームガンが襲いかかる。
「アンタなんかに……アンタなんかに!」
ラムがロムのサポート魔法を受けて前に出る。
デストロイはビームを撃ちながら、その手をラムに向けて突き出してきた。
「っ、こんなの!」
ラムを握り潰そうとしてきたが、ラムはその指の間をすり抜けてデストロイに肉薄する。
「たああああっ!」
腕の上を走り、肩を超え、飛び上がる。
ツォーンがラムを狙っているが、そんなことには構わずラムが杖の先を凍らせた!
「そこっ!」
ラムがツォーン発射寸前の口元にハンマーを叩き込む。
《………》
「きゃあっ!」
デストロイのツォーンは暴発を起こし、爆発を起こす。その爆発に巻き込まれてラムは吹き飛ばされた。
しかしデストロイも頭自体はなくなっていないものの、ツォーンを潰されてしまい、体勢を崩す。
その足元にロムが回り込んでいる。
「もう1回、転んじゃえ……!」
再びロムが魔法で足を凍らせる。
すると足が地に貼り付けられたデストロイが姿勢を保てず崩れ落ちた。
《………》
「どうよ、これが私達の底力よ!」
「これでも無視して行ける……!?」
しかし、根本的な足止めにはならずにデストロイは再び氷を砕いて立ちあがる。
「やっとダメージ1ってところね!」
「このまま、押し切っちゃおう……!」
デストロイは再び体の全面の全てのビーム砲をスパークさせる。
そしてロムとラムに向かってそれを照射した。
ーーーー『Resolution』
「っ……見えるよ……」
しかしロムとラムはそれを鮮やかにかわしていく。
「不思議……なんだか、目をつぶってもいい気がするの……」
「ロムちゃん……?」
「ねえ、ロムちゃん……離れたくないね……」
ビームの照射を避けながらロムとラムが手を繋いだ。
そう、離れたくない、一緒にいたい。その気持ちでロムとラムは新たな変身を遂げることが出来たのだ。
「……今は、違う………」
「ロムちゃん……そうね!一緒にいるなんてモノじゃない!一緒にいるために、私達は強くなるんじゃないの!」
ロムとラムが杖を交差させ、新たな魔法をデストロイにぶつける。
『エターナルフォースブリザード!』
《………》
デストロイの体がバキバキに凍りついていき、氷と一体化して凍りつく。
しかしその巨体は包みきれず、せいぜい拘束具のようになっているに過ぎない。デストロイは抵抗して早くもそれを脱出しようとしている。
「私達は、繋がっていたいの……!」
「心も、体も深く深く!通じあっていたいの!」
「それを……引き裂こうとするなら……!」
「容赦はしないわ!私達が相手よ!」
ロムとラムの背中のプロセッサユニットが変化していく。
2人で1つだったサテライトキャノンは1人1人が背負うようになり、新たなプロセッサユニットも2人の背中に装着される。
それが早速展開され、デストロイに砲口が向けられる。
「私達に、力を……!」
2人の体が白い魔力に包み込まれる。
月からだけではない、焼かれた木の、燃えた動物達の最期の命の煌めきがロムとラムの体を白く白く染め上げていく。
「これは……怒りの感情……みんなが怒ってる……でも!」
「これは、正しい怒りなの!理不尽に立ち向かう力になる、必要な怒り!」
1つ1つはすぐに燃え尽きてしまうほどに小さく、けれどそれが集まって強大な魔力になっていく。
森を味方につけたロムとラムの体の節々から金色の輝きが弾けた。そして2人の背中のプロセッサユニットも金色に光り輝く!
《…………》
デストロイがそれを脅威と見たのか、2人へありったけのビームを注ぎ込む。
スーパースキュラとビームガンが動かない2人に向かって照射される。
しかし、それらは2人に届く前に渦巻く魔力の風に遮られ、霧散してしまう。
「…………」
「…………」
そしてロムとラムの周りを渦巻く巨大な魔力のハリケーンが小さな小さな砲塔の中へ集中していく。
不思議なほどの静けさの後、2人の背中を月が照らす。
「ツイン・アイシクルサテライトキャノン!」
「発射……っ!」
デストロイを軽く超えるほどの太さのツイン・アイシクルサテライトキャノンが放たれた。
その威力は単純に2倍というわけではない、3倍にも4倍にもその威力は跳ね上がっている。
《…………》
デストロイは陽電子リフレクターでそれを防御するも、圧倒的超低温の嵐に耐えられるはずもない。
デストロイの腕がピキピキと凍りついていく。
「今の……今の私達なら……きっとみんな、心の底で繋がれるはずなの……!」
「何も言わなくても伝わる、信じられるはずなの!」
デストロイの全身が凍りついていき、動きを止める。
絶対零度の攻撃は周囲との温度差で嵐を巻き起こし、雪と氷と雹が森を包む。
『………もう、邪魔しないで』
氷の城はデストロイを包んだ後、それもろとも砕け散る。
バラバラに砕けた氷は周囲の火を少しずつ沈下していく。
「力を貸してくれて、ありがと……」
「……助けてあげられなくて、ごめんね」
木も動物も何も応えはしない。
ただ月が栄光を称えるように2人を照らす。
この日、2人はほんの少しだけ大人になれた。