デスティニーの光の翼が開き、その美しさが女神を魅了させる。
しかし、その翼で羽ばたく者は……あまりにも悲しい。
《これで叩き切る……!》
「み、ミズキさんっ!」
ネプギアの制止も聞かず、デスティニーが羽ばたいた。
「な……!」
すると、デスティニーが羽ばたく度に残像が残るではないか。
マジックの目にはデスティニーが何機もこちらに向かっているように見えた。
《はあああっ!》
「しかし……見えている!」
しかし、マジックにもSEEDがある。
本当のデスティニーを見極めてアロンダイトと鎌で鍔迫り合う。
(まんまと策にはまったか……!今や、女神とコイツの信頼関係は崩れ去った……!)
《君が、どんな小細工を弄しようと……策を練ろうと……!》
「っ、ぐうっ!?」
デスティニーが足でマジックを思い切り蹴飛ばす。
《悪いけど……八つ当たりさせてもらうよ》
デスティニーの背中の左側、そこに装備されているのは高エネルギー長射程ビーム砲。
そこから放たれる陽電子のビームがマジックを狙う。
「っ……当たりはしないが……メチャクチャだな」
それをマジックは地を滑るようにかわすが、マジックの逃げた痕跡を残すようにビームが地面に傷をつけていく。
《デスティニーなら……こういう戦い方も出来るんだ!》
さらにデスティニーが片手にビームライフルを構えて高エネルギー長射程ビーム砲で照射するのと同時に速射する。
「ふん、この程度……!」
マジックは避けきれないものの、ビームライフルの弾丸程度は鎌で弾いて見せる。
そして反撃すべく飛び上がってミズキと同じ高度まで飛翔した。
《今だ……!》
デスティニーは素早く武器をしまい、両肩に装備されたフラッシュエッジ2を引き抜いた。
《せいぜい、耐えてみせろよ……君程度、倒すのなんてわけないんだ!》
光の翼でマジックに接近し、ビームサーベルにしたフラッシュエッジ2で連続で斬撃を加えていく。
「ぬっ、くっ……!」
《もう傷つけさせない……!それだけは、果たす!離れても、知らなくても、それだけを果たしてみせる……それが……!》
フラッシュエッジ2の斬撃に押されたマジックがたまらず後退する。
そこにフラッシュエッジ2を投げつけた。
フラッシュエッジ2はビームブーメラン。高速で回転しながらフラッシュエッジ2はビームの円盤となってマジックに向かう。
「チッ!」
2つのフラッシュエッジ2を弾いたマジックだったが、次の瞬間背筋に氷柱を入れられたような感覚がマジックを襲う。
……デスティニーの顔が鼻先まで近付いている。
「なっ……!」
《それが、僕だから……!》
アロンダイトが容赦なく、マジックの肩に振り下ろされた。
「ぐああっ!」
マジックはそのまま地面に叩きつけられる。
《はっ、はっ、はっ、はっ……》
「………強い、ですわね」
「……強さは認めるがよ、あんなヤツだとは思わなかったぜ。泣いて謝るんだったら、許してやってもいいけどよ」
「違うよ、お姉ちゃん……!」
ロムとラムがフラフラしながら立ち上がって傷を抑えながらブランに駆け寄る。
「謝らなきゃいけないのは、私達よ!」
「……ラム?」
「ずっと忘れてたから……!謝らなきゃいけないじゃない!助けてくれたんだから、ありがとうって、言わなきゃいけないじゃない!」
「そりゃ、私達を助けてくれたのはありがたいけどよ……」
「ううっ……ひぅ……やだ、いや……!」
「ロム?」
ロムが崩れ落ちて頭を抑えて泣き出した。
ブランが心配して駆け寄る。
「どうした、痛いのか?」
「違う……悲しい、よ……!」
「悲しい?」
「泣いてるよ……!執事さん、泣いてる……!思い出してもらいたくて……でも、ひどいこと言われて……ひどいこと言い返しちゃって……!」
ロムの目から大粒の涙が溢れ出して止まらない。
「伝わるの……!胸が、痛い……痛いの……!」
「ロム……」
《まだ死んだわけないよね……?》
マジックが落ちた場所に呼びかけるが返事はない。
デスティニーは高エネルギー長射程ビーム砲を構えた。
《っ!》
マジックがいた場所にためらいなくビームを撃ち込むと、煙の中からマジックが飛び出した。
「殺す……!」
《こっちのセリフだッ!》
鎌とアロンダイトが再びぶつかり合う。
「よくも、よくも……!私を地に沈ませたな……!」
《腸が煮えくり返ってるのはこっちだ!みんなを傷つけておいて……苦しめて……!》
その瞬間、黙っていたネプテューヌの頭に不思議な感覚がした。
「っ、ダメ!」
「お姉、ちゃん……?」
「今すぐ、あの戦いをやめさせなきゃ!」
「どうしたのよ、ネプテューヌ。急にそんな……放っておけばいいでしょ?」
「ダメなの!嫌な予感がしたの……あのまま戦ったら!」
《許すもんかァァァァァッ!!》
「ダメぇぇぇっ!」
パリィィ………ィ……ン………!
ミズキのSEEDが発現した。
《っ!》
光の翼が出力をあげ、マジックを押し切る。
「ぐ、ぐ……!私が、押されて……!」
《アアアアッ!》
渾身の力でアロンダイトが下に振られ、マジックが地面に叩きつけられた。
「ぐ……はっ……」
地面にバウンドしたマジックの上にデスティニーが迫っている。
《はあっ!》
「ぐあっ!」
さらにアロンダイトを叩きつけ、まるでバスケットボールのドリブルのようにマジックを何度も何度も地面に叩きつけていく。
「図に……乗るなァァッ!」
マジックも余裕を無くし、途中でデスティニーのアロンダイトを受け止める。
《ふっ!》
「ぐ……!」
お互いに力を込めて膠着状態に陥る。
《ははっ、ははははっ……!僕はバカみたいだろ……?そうだろ、マジックゥッ!》
「黙れ!」
足にビームサーベルを展開し、マジックが蹴りかかる。
しかし、デスティニーは肘でその足を叩き落とした。
「ぐあっ!」
悶絶したマジックの顔を拳で殴りつける!
「ぐおおっ!」
マジックが地面を転がって岩にぶつかり、そこでようやく勢いが殺される。
《思い出してもらいたくて……!みんなの前に出れたのを、影から助けてさ……!結局みんなは、最後まで思い出さないままだった!》
「ぐ……く……!」
《ネプテューヌ達に至っては……ははっ、僕の顔を見ても、なにも思い出しやしない!》
マジックが鎌を杖にして立ち上がる。
《信じてたのに……信じてたのに!信じてた僕が、バカだったんだろ!?》
「この……!」
マジックの周りに火球が生まれた。
近接戦では敵わないと見て、魔法に戦略をスイッチしたのだ。
「死ね!」
いくつもの火球がとんでいく。
しかし、デスティニーはその全てをバリアを展開して裏拳で叩き落とした。
《………》
「あ、悪魔か……!」
《せめて、せめて……!信じられていなくても!今でも君達を信じてる、僕からの手向けだ……!》
アロンダイトを構えたデスティニーが再度、光の翼を展開した。
《もう、みんなが……戦わなくていいようにする!》
「うぅ……あぁ………!ダメ、ダメ……!お姉ちゃん、執事さんを止めて……っ!」
「けどよ、ロム……」
「私達、洗脳なんかされてないわよ!?あの人の言ってること、全部本当なの!ビフロンスってヤツが、全部悪いの!」
「それはわかって……」
「わかってないわよっ!」
ついにはラムまで涙を流し始めた。
「なんでわからないのっ!?執事さんだよ!ミズキさんなんだよ!?」
「だけど……」
「お姉ちゃんっ!」
「お姉ちゃん、お願い、ミズキを助けてあげて!」
「ユニ……アナタもアイツを擁護するの?」
「お姉ちゃん……!」
「この際だからはっきり言うけど、私、アイツを信じきれてないわ。だってそうじゃない、なんでアナタ達はそこまでアイツを信じられるの?」
「っ、お姉ちゃんのバカァッ!そんなお姉ちゃんなんて……お姉ちゃんなんて……!」
ユニが一瞬躊躇って……しかし、はっきりとその言葉を告げた。
「お姉ちゃんなんて、大ッ嫌い!」
「っ……」
ユニがロムとラムの手を掴んだ。
「私達だけでも、行くわよ!」
「ユニちゃん……」
「放っておけないでしょ!?もう、お姉ちゃんは頼りにならないんだから!」
「……うん!」
しかし、そんな3人の足元にビームが落ちた。
「っ、ミズキさん!」
《……来るな……!》
「でも……!」
《来るなって言ってるんだよ!》
それだけ言ってデスティニーは再びマジックへと飛翔した。
「………そん、な……」
ユニがガクリと膝をついた。
「もう、ダメなの……?」
「……これでわかったでしょ、ユニ。アイツとの戯言はもうやめなさい」
「違う……違うの、お姉ちゃん……!違う、のに……っ!」
デスティニーのフラッシュエッジ2がマジックの腕をかすめる。
(確かに私の手術はまだ未完成だ……!だが……!)
《があああっ!》
「ぐ……!」
(ここまで押されるものなのか……!?)
「あの方……普通ではありませんわね」
「え……?」
「そうね。ドーピングしてる。……反動があるタイプのね」
「そんな……!」
ネプギアがベールとノワールに駆け寄った。
「ど、ドーピングって……!」
「仮定の域をでないけど……十中八九、何かしらの手段で自分を強化していると、私は見ましたわ」
「じゃあ、なおさら止めなきゃいけないじゃないですか!」
「やめときなさい。撃たれたくなかったらね」
「っ……!」
そしてその考察は間違っていなかった。
《ぐ……!?》
マジックを追い詰めるデスティニーの動きが急に鈍った。
「っ、好機!」
《うわああっ!》
その一瞬を狙ってマジックの一撃がデスティニーに当たり、デスティニーが地面に叩きつけられる。
「はあっ、はあっ、はあっ……!」
《が……!う、ぐ、ぐああっ!うぐ……!》
だがデスティニーはすぐに立ち上がらずに地面でのたうち回って苦しんでいる。
そしてついに変身が解けてしまった。
「ミズキさん……!?」
「う、ガフッ!」
ミズキの口からまるでバケツをひっくり返したような血が飛び出した。
「うえっ、がっ、ゲフッゲフッ!うご、ガアアッ!」
それを見て女神のみならず、マジックまでもが言葉を失う。
「ミズキ!アナタやっぱり、傷が治ってないじゃない!」
「お姉ちゃん、傷って……!?」
「あ……」
ネプテューヌがしまったというふうに口を塞ぐ。
「傷ってなんなの、お姉ちゃん!」
「……ミズキは、ちょっと前にも血を吐いて……検査では問題ないって言われてるけど、多分、体の中は……」
「え……っ!?」
《くそっ、言うこと聞けよ……!こんなんじゃ……こんなんじゃ、みんなを守れやしないだろっ!?》
ミズキが体を震わせながら立ち上がり、次元の向こうから注射器を取り出した。
《うっ……!く、く………!》
そして思いっきりそれを首に突き刺し、その中の液体がミズキの中に注がれていく。
《変、身………っ!》
再びミズキの体が光に包まれ、デスティニーガンダムへと姿を変える。
《う……!う、お、アアアアアアッ!》
「………!」
ネプギアが涙を流して口を手で塞ぐ。
もう、見てられない。
「このままじゃ……このままじゃ、ミズキさんが死んじゃう!」
「あっ、ネプギア!」
ネプギアが飛び出してデスティニーの前に立ちはだかった。
「ダメ、ミズキさん!もう、これ以上戦ったら……!」
《どいて、ネプギア……!もう、君達を……!》
「っ、いつまでも守られるままじゃないですよ!もう私達だって、守れるように……!」
《目に焼き付けておいて……守るってこういうことだ》
デスティニーが優しくネプギアの頭に手を置く。
《目に焼き付けておいて……!神様になるってことは、こういうことだ!》
デスティニーが光の翼を広げて飛び上がる。
「違い、ますよ、ミズキさん……!」
ネプギアは号泣しながら今も戦うデスティニーを見る。
「そんな、自分の身を犠牲にして誰かを守るなんて……間違ってますよ、ミズキさぁんっ!」
「ほう、私にも勝機が見えてきたようだな……!」
《アアアアアアアアア!!》
「一体いつまで体が持つかな……!?」
マジックは時間を稼ぎ、逃げ回りながらデスティニーと戦う。
(存在したのに、誰も覚えていない過去と……!)
デスティニーが必死にマジックへと追いすがる。
(存在しないはずなのに、生まれてしまった今と……!)
《どっちが、真実なんだよォォォッ!!》
狂ってしまった運命。
もう、この掌は……今を掴むことしかできない。過去を掴むことは、できやしない。
この掌からすり抜けてしまったから……。
《結局同じだよ!あの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時もあの時も………!》
「なっ!?」
さらに一段階デスティニーが加速した。
《どれだけ守ろうとしたって……僕の手の中からすり抜けていくじゃないか!》
デスティニーのアロンダイトがマジックを叩きつける。
「ぐうう……!」
《僕が守れなかったのは……あの時の、みんなだ!》
あの時のミズキが知っていたみんなは……もう、死んだようなものだ。
《せめて、せめて……残ったみんなが、幸せに、笑える、よう、に……!》
「っ、そこだ!」
デスティニーの動きが狂ったのをマジックは見逃さない。
《全てを奪われる運命なら、何を信じて前に進めばいい⁉︎》
「ぬああっ!」
マジックの鎌がデスティニーを吹き飛ばす。そしてアロンダイトも吹き飛ばされてしまう。
《崩れたこの世界の果てに何がある……何を見る、何を感じる⁉︎》
「今こそ、アポカリプス……!」
デスティニーはそれでもマジックに接近しようとする。
マジックは素早く必殺技の準備を整える。
「ノヴァァァァッ!」
《っ………!》
「ミズキっ!」
マジックの必殺の斬撃がデスティニーを襲う。
その瞬間、デスティニーのVPS装甲がダウンし、残る全ての電力がデスティニーの脇腹、その一点に注がれた!
「バカな……!」
マジックの鎌がVPS装甲に弾かれた。
そしてマジックは気付く。
デスティニーの掌が光っていることにーーーー!
キン………ッ………!
「ーーーー」
デスティニーに顔面を掴まれたマジックの両手両足が力なく垂れ下がる。
そしてマジックの鎌も地面に落ちて音を立てた。
《……………》
「勝っ……た………の……?」
ネプテューヌ達がデスティニーに目線を向ける。
戦いは終わった、果たして彼はどうするつもりなのか。
……いや、どうするもこうするもない。
まだ戦いは終わっていないのだから。
《…………》
「ーーーー!」
恐らくは気絶しているであろうマジックの顔に再びパルマフィオキーナが叩き込まれた。
さらにもう1発、2発、3発、4発……。
「…………ダメ……もう、執事さんが……壊れちゃう……!」
《………まだ死んでないだろ》
パルマフィオキーナが撃ち込まれる度にマジックの体が力なく揺れる。
そしたデスティニーは白目を向いて気絶したマジックを地面に放り投げた。
「…………」
《お前が生きてたらみんなを傷つけるんだ……もう、そんなことは許さない》
デスティニーは地面に横たわるマジックに高エネルギー長射程ビーム砲を向けた。
そして引き金を引き、ビームをもう動かないマジックへと照射する。
《……うっ、げほ!》
しかし途中でその照射をやめてデスティニーがゆっくりと地上に降下する。
そしてまたデスティニーの変身が解けた。
「…………まだ」
まるで、獣だ。
「ははっ……この、胸に残る痛みも、さ……」
ミズキがゆっくりと倒れたマジックに向かって歩き出す。
「みんなといた証だって……全部、受け入れて……」
そして次元の穴からビームサーベルを引き抜いた。
「また、歩き出すからさ……」
そしてマジックの上にまたがる。
もう呻き声すらあげないマジック。
ビームサーベルを下に向け、両手で持つ。
あとは、このまま全力でマジックの胸にビームサーベルを振り下ろすだけ。
「だから……だから……」
ミズキの目から涙がこぼれた。
「だから……なんだろう………」
ミズキが腕に力を入れた。
「やらせぇぇぇぇんっ!」
「っ……ぐ……あっ!」
ミズキが巨大な足に蹴飛ばされた。
完全に不意打ちをくらったミズキはゴロゴロと転がって女神達の近くまで転がった。
「み、ミズキさんっ!」
「あ……く……!」
女神候補生が駆け寄るが、女神は遠巻きに見るだけ。
その時、女神候補生はミズキの体を見た。
「………っ!」
腕の皮膚はバキバキにひび割れて血を吹き出している上にところどころは死んだような色をしている。壊死しているのだ。
これはサテライトキャノンの発射を助けた時の傷。
「これ……私達の……!?」
「やだ、執事さん……!」
そして胸からは血が滲み出てシャツを赤く染めていた。いや、染めるほど血液は少なくない。溢れている。大出血がミズキの胸の傷が開いて起こっている。
これはユニとネプギアを助けた時の傷。
「これ……ブレイブの時の……!」
「こん、な……!」
「ひでえ……」
「これ、は……助かるの?」
「もう、手遅れのように見えますわ……」
「かは……!誰、だ……」
「俺だ、ミズキ……」
そこに立っていたのはブレイブ・ザ・ハード。
そしてトリック・ザ・ハードも隣に立っていた。