超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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別離

「あ、おはよう、お姉ちゃん」

「おはようネプギア。……ミズキは?」

「クエストだって。朝早くから偉いよね」

「クエスト……その、難しいのじゃないよね?」

「うん?多分そうだと思うよ。朝ご飯には帰ってくるから、簡単なクエストなんじゃないかなあ」

 

なら、心配はないか。

いや、ただ歩いているだけで血を吐いていたのだ……安心はできない。

 

ここ数日でミズキは簡単なクエストなら受けてもいいというお達しが出て毎日のようにクエストに行っている。

ネプテューヌはそれが心配でもあり、ついて行かせてくれるように頼んでいるのだが、ミズキはそれを遠慮して拒む。

 

「ただいま。朝ご飯、出来てる?」

「あ、はい。もうすぐですよ」

 

その時、ミズキが帰ってきた。

そしてネプギアと軽い会話を交わしてから、ネプテューヌに向けてビニール袋を手渡した。

 

「はい、ネプテューヌ」

「え?私に?何これ?」

「プリン。ネプテューヌ、プリン好きでしょ?」

「え、あ、うん……」

「あれ?反応薄いね……体調悪いの?」

「う、ううん!ありがと!」

 

体調悪いのはお前だろ……というツッコミを飲み込んで冷蔵庫にプリンを入れに行く。

しかし、忘れ物に気付いて振り返るとそこにミズキがいた。

 

「ミズキ……?」

「ん、はい、ペン。プリンに名前書くでしょ?」

 

素っ気なくミズキがペンを渡して椅子に座る。

ネプテューヌはポカンとしながらもキュッキュとプリンに名前を書いて冷蔵庫に入れる。

 

(……プリンが好きって知ってた。名前を書くってことも)

 

やっぱり、私達が忘れているだけなのだろうか。

ネプテューヌはまだ迷いの中にいた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

その日の夜、ミズキはクエストで森の中にいた。

簡単なキノコの採集、これくらいどうってことない。散策のついでにやっているようなものだ。

しかし、キノコを集めているうちにだいぶ奥地に来てしまったらしく、いつの間にかミズキの周りは背の高い木々に囲まれてしまっていた。

 

「……そろそろ戻ろう」

 

カゴの中いっぱいに集まったキノコが手の中にある。

これだけあれば依頼主も満足するだろう。

 

ギルドに戻ろうと振り向いた時、空から巨大な影が舞い降りた。

 

「っ!?」

「……見つけたぞ、お前があの機体の正体だな」

「ブレイブ……!」

 

ミズキの目の前に現れたのはブレイブ・ザ・ハードだった。

すかさずミズキが戦闘態勢を整えようとするが、ブレイブは首を横に振った。

 

「今日は戦うつもりで来たわけではない。……宣戦布告だ」

「……宣戦布告……?」

「どうやら、お前は特別な体を持っているようだな……アレを食らって死なないとは」

「……凄く痛かったけどね」

 

というか、死にかけた。

なんとか立ち上がってジャッジを相手取ることが出来たのはこの次元に戻ってきてシェアを使うことが出来たからだ。

 

「俺はてっきり死んだこと思ってな……。死んでいなかったのなら、再戦を希望したい」

「……構いはしないけど」

「だが、どうやらお前の傷はまだ癒えきっていないようだな。そして俺の剣もまだ完成していない」

 

ブレイブから受け渡されたのは手紙。

ミズキ宛と……ユニ宛?

 

「それはユニに届けてくれ。……中身は、見るなよ?」

「え?う、うん」

 

とりあえず自分の手紙を開けばそこには達筆な文字で対戦を希望する旨の文が書かれている。

 

まあ、この手の文はお互いの当事者でないと読まないのが礼儀だろう。

 

「次に会った時が決闘の時だ。それまで……せいぜい体を癒して剣を磨いていろ」

 

それだけ言い残してブレイブは空へと去っていった。

ミズキは自分とユニへの手紙をポケットに入れて元来た道を帰っていく。

ブレイブが来た時は肝を冷やしたが、戦闘にならなくて良かった。

 

「……あ、そうだ、プリン」

 

報酬が貰えるだろうから、それでまたプリンを買って帰ろう。

 

「……次は、喜んでくれるといいな」

 

ほんの少し微笑して帰っていくミズキ。

そこから少し離れた草むら、そこにカメラを持った人間が息を潜めていた。

 

「……この写真を、諜報部のアドレスで送れば……くくっ、内部分裂を起こして、犯罪組織に有利になる、か……」

 

その人間はプラネテューヌにいながら犯罪組織を信仰する人間のひとり。

そいつが加工した写真のデータが送信ボタンを通じて送られた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

ネプテューヌは夜空を見上げながらミズキの帰還を待っていた。

一応、ミズキにプリンを買ってきてもらったし、お返しをしてあげようと適当なお菓子を買ってきたのだ。

 

まあ、一緒に食べて……それで、少しでもミズキの栄養になってくれるなら。

 

まだネプテューヌは誰にも言い出せずにいた。

このまま、誰にも言えないままになるのではないかと自分でも思っている。

 

その時、ネプテューヌのパソコンからメールの着信音がした。

 

「え?」

 

送られてきたのはプラネテューヌ諜報部から。

その内容を見てネプテューヌは驚愕に目を見開く。

 

「…………!?」

 

ネプテューヌはドアを開いて部屋を、そして教会を飛び出した。

 

 

 

 

「はあっ、はあっ、はあっ……!いた……!」

「あれ?ネプテューヌ?どうかしたの?」

 

ギルドからプラネテューヌの帰り道を走ってきたネプテューヌは案の定ミズキと出くわした。

息を切らして背中を曲げるネプテューヌを心配してミズキが手をかけようとする、が。

 

 

「触らないでっ!」

 

 

「ーーーー」

 

ネプテューヌがミズキの手を弾いた。

パチンと音を立ててミズキの手が弾かれる。

 

「………あ」

「………あ、ああ、ごめん。嫌だった?ごめんね」

 

マズい、と思ってミズキを見るがミズキはまた寂しそうな微笑を浮かべて謝るのみだ。

それがネプテューヌの胸を締め付けるが……今は、鬼にならなければならない。

 

「……裏切ったの?」

「え?」

「………裏切り者……!」

「……っと、ごめん、ネプテューヌ、何を言っているのか……」

「みんなを騙したんでしょ!?」

「いや、だから、何が……?」

 

ミズキは本気で事情がわからずに狼狽える。

しかし、ネプテューヌにはそれが白々しい否定に見えていた。

 

「……さっき、敵の幹部と密会してたんでしょ」

「え?……ああ、ブレイブのことね。うん、確かに会った」

「それで、情報を渡してたんでしょ」

「いや、それは違うよ。僕は果たし状を受け取っただけで……」

 

ミズキが懐からミズキ宛とユニ宛の果たし状を取り出してネプテューヌに見せる。

 

「……そうやって誤魔化してるの」

「……違うよ、ネプテューヌ。ホントに、僕は……」

 

ミズキとネプテューヌが見つめ合う。

ミズキは必死に、信じてもらいたいと、その想いを込めてネプテューヌを見るが……ネプテューヌから帰ってくるのは明らかな敵意の目だった。

 

「ネプテューヌ……」

「………本当のこと、言って」

「本当だよ、僕は本当のことしか……!」

「嘘言わないで!」

 

ネプテューヌがミズキの言葉を食って怒る。

真実を言え、と。伝えている言葉は全部この心から出た気持ちそのままなのに。

 

「ネプテューヌ、信じて。僕は本当のことしか言ってない!」

「ウソだったんでしょ、全部!私達を助けた理由は何?血を吐いたのも演技だったんだよね、違う!?」

「なーーー」

 

まるでネプテューヌじゃないみたいだ。

こんなの……こんなの、僕が知ってるネプテューヌじゃない。

 

ああ、いや、そうか。

もうネプテューヌは僕のことを知らないのだから……。

 

 

「………そっ……か……。もう、ここには……僕の居場所はないんだね……」

 

 

「……なに、はっきり言って」

「ごめんね、ネプテューヌ。……みんなにも、謝っておいて」

 

ネプテューヌが顔を見上げると、ミズキは泣いていた。

静かに静かに、けれど……心を締め付けるような涙だった。

 

「お別れ、だね……。ごめん、もう、2度と、会わない……から……」

 

ミズキが俯く。

ミズキの目からさらに涙が溢れ出てアスファルトを染めていく。

 

「せっかく、会えた、のに……!ごめん、ね……!」

 

「あ、ミズキ……!」

 

捕まえようと前に出たネプテューヌは眩い光に目がくらむ。

そして目を開いた時、その場にはもうミズキはいなかった。

 

「………あれ……?」

 

気付けばネプテューヌの目からも涙が零れ落ちていた。

地面にはミズキが持っていたビニール袋が落ちている。

その中には、朝買ってきてくれたのと同じプリンが入っている。

 

「なん、で……なんで……」

 

ネプテューヌがしゃがみこんで胸を押さえた。

 

「こんなに、辛いんだろ……」

 


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