超次元機動戦士ネプテューヌ   作:歌舞伎役者

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新章が始まったぜ!でも元通りまではまだまだだぜ!


第5章〜ミズキの慟哭。光る掌はただ砕くことしかできず〜
迷いの中で


「墓守がやられたか……」

「アククク、ヤツは四天王の中でも最弱……!」

「……確かに女神は弱い。しかし!あのミズキと名乗る人物……ヤツは強い」

「……ヤツが強かろうと弱かろうと構わん。もうこの流れは止まらない」

「アククク……犯罪神様の復活は、あと僅か」

「……本格的に動かなければならぬか……」

「すべては、犯罪神様のために」

 

 

ーーーーーーーー

 

 

女神が救出されてから1週間。

1通りの体のメディカルチェックを終え、数日前にそれぞれの女神候補生と女神は各国へ戻った。

積もる話もあるだろうし、しばらく3人きり、2人きりにしてあげた方がいいだろう。

1人もいるが。まあアレはチカがいるから大丈夫だろう。というか邪魔できない。can'tで。

 

しかし、それだけの日付を重ねても、女神達の記憶は戻ることは無かった……。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「おはよ、ミズキ!調子はどう?」

「うん、悪くないよ。体がなまってるくらいだ」

 

ミズキはメディカルチェックの結果、体に深刻なダメージを負っていることがわかった。

1週間経った今はほとんどの傷が回復しているものの、厳しく療養を言いつけられている。

ので、やっていることといえば簡単なトレーニングと書類仕事のみ。

 

「おはようございます、ミズキさん、お姉ちゃん」

「ん、おはようネプギア。ネプギアも、傷は大丈夫?」

「それはこっちのセリフです」

「クスクス、参ったなあ……」

 

一応、女神達には本来あるはずの記憶が無いこと、そしてミズキと一緒に成し遂げたことを話した。

それでも、そんなこと覚えていないの一点張り。

 

「ん〜、やっぱりネプギアとミズキって仲いいよね。十年来の戦友!みたいな!」

「だから、お姉ちゃん……私達、昔から知ってるんだよ。お姉ちゃんが忘れてるだけで……」

「あ、そうだった!ごめんごめん!」

「……いや、いいよ。無理に思い出そうとしなくてもいいから」

 

こんな些細なやり取りが、ミズキの心をチクリチクリと刺していく。

それから逃げるようにミズキが話題をそらす。

 

「あ、そうだ、ネプテューヌ。君とイストワールに話があるんだけど、時間ある?」

「へ?話?なになに〜、愛の告白〜?」

「そんなんじゃないよ。でも、そこそこ大切な話」

「ん〜、いいよ。どうせ暇だし」

「お仕事たくさんあるくせに」

「んぐ……」

 

ネプテューヌとミズキが寄り添いながら歩いていく。

それを後ろから見つめるネプギアには、ミズキの笑顔に陰りはないように見えた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

《はああああっ!?》

《はい………?》

《あぁ〜……っと……もう1度仰ってくれます?》

「だから、新国家が誕生するんだって!いや、させたい、かな」

 

テレビモニターに驚愕する各国女神の顔が映る。

数年ぶりに再開された女神会議という名の駄弁りは再開から1回目にしてとんでもない議題になってしまった。

 

《待って、国土は?まさか、私達の国を侵略するわけじゃないわよね》

「ううん、ギョウカイ墓場を開拓する予定だって」

《それじゃ、相当の時間がかかるわね。今すぐ即興でできるわけではないのね》

「うん。あくまで、予定。というか、宣言」

《女神……というより、神はミズキ様……でしたよね?》

「そうなるね。教祖はジャックがやる予定らしいけど、まだ未定」

 

スタンドも月まで吹っ飛ぶ衝撃だったが、今すぐに何かが起こるというわけではないらしい。

大変な案件であることには変わりはないが、とりあえず深呼吸して息を整える。

 

《で、その許可を求めてるってわけ?》

「他にも、セレモニーに参加してくれ〜とか、企業の参戦をさせてくれ〜とか、色々」

《そんなに急に……?犯罪組織を壊滅させてからでも、遅くはないはず》

「何かとシェアがあった方がいいから。まず、ミズキっていう神様の存在を知らない人が……というか、覚えてない人がほとんど……らしいし」

 

記憶が戻っていないネプテューヌも、らしいとしか言えない。

いくら助けてくれたとはいえ初対面の人間をずっと前から知り合いでしたなんて素直に信じられはしない。

一応、ネプギア達も擁護しているが……。

 

《……その話、少し不可解では?》

《ベールもそう思う?というか、不可解でしかないわよね》

《私も賛成ね。というより……本音を言えば、あの人は怪しいと思ってる》

「え?急にどうしたの、みんな?」

《百歩譲って記憶操作が可能だとして……それを全世界の人間に行える?》

「……確かに、難しいかもしれないけど……」

《そんな非現実的なことよりも、ロムとラム達が洗脳されて偽りの記憶を植え込まれたっていう方が筋が通る》

「え?まさか……ミズキが裏切り者だっていうの?」

《確証があるわけではありませんわ。ですけど、ネプテューヌもあの方の行動には気を付けた方がいいと思います》

 

3人の女神全員がミズキを疑いの目で見ていた。

ネプテューヌもにわかには彼の話を信じられないものの、みんながここまで懐疑的だったのは予想外だった。

 

《……まあ、根拠のない話をしてもね。わかった、建国についての件、考えておくわ》

 

3人の女神からの通話はそれで途切れた。

 

(ミズキが……裏切り者……?)

 

そんなわけはない。

……そう思いたい。

 

ネプテューヌが部屋を出ると角を横切るミズキの背中を見た。

 

「………」

 

さっきの話もある。

足音を立てないようにネプテューヌはミズキの後を付ける。

歩きながらもネプテューヌは少しずつ罪悪感に苛まれていく。

後を付けるってことは、信じてないってことだ。あんなに泣いて、帰還を喜んでくれたミズキのことをだ。

 

嘘だと思いたくない。けど、本当だって証拠もない。

 

「………」

 

不可解なことが多すぎる。というか、不確定要素が多い。

ネプテューヌが解放されたのがほんの少し前で、それ以前の記憶をネプギア達が改竄されていたのだとしたら……もう、ここにいる誰もを信じられなくなる。

それは……嫌だ。けれど、もし本当に記憶を操作されたのなら……奪い返す必要がある。

その時は……。

 

「………あ」

 

気がついたらミズキはとある部屋に入っていくところだった。

おかしい、あそこは使われていない部屋のはずだ。無論、ネプテューヌが捕まっていた期間の中に使う機会があったのかもしれないが……。

 

(突入、しよう)

 

見つかっても周りにみんながいるわけだし、何もしていないのならそれでよし。付いてきたって言えばいい。

何かしていたのなら、即刻その場で訴える。

そして、それで、それで……。

 

「………行こう」

 

できれば、やめて欲しい。

私とミズキの問題で終わらせたい。

誰にもミズキが裏切り者だったってことを気付かせずに、味方になってほしい。

すっかり思考はミズキが裏切り者だという方向に傾いてしまっているが、ネプテューヌはミズキを擁護したがっている。

 

何故かは……特に理由はない。

けど、ミズキは誠実だ。少なくとも、今は。

 

「……………」

 

扉の前についた。

恐る恐る……けれどできるだけ自然にドアを開く。

 

「……って、あれ……?」

 

勢いよくドアを開いて部屋に入るが、その部屋にはやはり何もなく、また誰もいない。

 

「え……?」

 

身を隠す障害物は何も無い。窓もあるが、この部屋に至っては人が通れるほどの大きさではない。

 

「何処に……んむっ!?」

 

ドアの裏側に目を向けた瞬間に躍り出た人影に口を抑えられて壁に叩きつけられた。

 

「むぐっ……!」

「……あ、ネプテューヌ!」

 

口を押さえつけたのはミズキだった。

壁に体を打ち付けて苦悶の声を漏らすネプテューヌを見て、ミズキはすぐにネプテューヌの口から手を離して謝った。

 

「ごめん、ネプテューヌ。まさか、君が尾けてくるなんて思わず……」

「けほっ、けほ、ううん、大丈夫〜……」

 

力なく尻餅をつきながらネプテューヌが少し咳をする。

ミズキの顔は本当に申し訳なさそうな顔をしていて、ネプテューヌには嘘をついているように見えない。

 

「それより、なんでこんな部屋に……」

「っ、ごめん、待って、ネプテューヌ」

 

急にミズキが目を開いたかと思うと立ち上がってネプテューヌに背を向ける。

 

「……ごめん、後で説明するから。今はこの部屋を出て、お願い」

「え?な、なんで」

 

急に態度が怪しくなった。

だがミズキは自分の口に手を当てながら苦しそうな顔をネプテューヌに向けた。

 

「いい、から……。早く……!」

「ううん、ダメ!理由を聞くまでは、私はーーー!」

 

「うっ、ヴォエエッ!」

 

「え……?」

 

ミズキが目の前で膝をついて口から血を吐いた。

ネプテューヌの頬と足元にべトリとした血が飛び散った。

 

「ああ、ごめん、汚しちゃって……う、ゴホッ、ウアアッ!」

「ちょ、ちょ、ちょっと!ミズキ、大丈夫!?」

 

ネプテューヌがしゃがみこんでミズキを抱きしめる。

 

「ダメだよ、服が汚れる……」

「バカッ、いいよ、そんなの!」

 

ミズキはなおも血を吐いてネプテューヌのパーカーを血で染めていく。

ミズキは本当に苦しそうにしていて、血を吐くのも収まる気配はない。

 

「待って、今、人を呼んで……!」

「っ、ダメだ!」

 

ドアを手をかけようとしたネプテューヌの手を払い、ドアを背にして鍵を閉める。

 

「ちょ、なんで!?どいてよ!」

「ごめん、でも、今はダメなんだ……!」

 

ミズキが優しくネプテューヌを抱きしめて動きを封じる。

 

「ちょ……!」

「今、みんなの士気は上がってる……!このまま行けば、きっと犯罪組織だって倒せるはずなんだ……!だから、みんなに心配をかけられない……うっ!」

「そ、そんな理由で!」

「君にも知られたくなかった……。ただの人だったら、ここで気絶させていたけど……」

 

ミズキが誰もいない部屋に入ったのは、血を吐くのを見られたくないからだったのだ。

ネプテューヌはちくりとした罪悪感に襲われるが、今はそれを反省している時ではない。

 

「言ってくれれば……!プラネテューヌだけの秘密にもできたのに!」

「……みんなの……君の記憶の中で……僕は、いつでも笑っていて欲しかったから……」

「な、なんでよ!?会ったばかりじゃん……まだ会ってから1週間しか!」

「君の中ではそうかもしれないけど……僕は、君ととても長い時間を過ごしたんだ……」

 

ハッとしてネプテューヌがミズキの顔を見る。

その顔は……寂しげな微笑。

 

「……ごめん、知らないことを話されても嫌だよね」

 

ミズキが来ていた上着をネプテューヌに着させた。

ネプテューヌにはやはり丈が長く、ちょっとしたワンピースのようだ。

 

「このまま、できれば誰にも見つからずに部屋で着替えて。血で濡れた服も、処分してほしい」

「や、やだ。絶対、みんなに知らせる。ミズキが実は大怪我してるって!」

「……ごめんね、嘘つかせて……」

 

ミズキが優しくネプテューヌを頭を撫でる。

そしてミズキは口元の血を拭って部屋を出ていく。

ネプテューヌもその後を追うが、部屋を出た後にはもうミズキの姿はない。

 

「あ、あいちゃん!」

「ん?どうしたのよ、ネプ子。ミズキのパーカーなんて着て」

 

偶然見つけたアイエフに駆け寄る。

言うんだ、怪我してるって。血を吐いてたって。

 

 

『……ごめんね、嘘つかせて……』

 

 

「………っ」

「ネプ子?」

「う、ううん、なんでもない!寝てたらミズキがかけてくれてたみたいでさ、ミズキ知らない?」

「ミズキ?さあ、知らないわね。自室じゃないの?」

「そっか、ありがとー!」

「……?」

 

笑いながらネプテューヌはアイエフから走り去っていく。

そして曲がり角を曲がるとその勢いはだんだんと小さくなり……やがて足は止まってしまった。

 

「………どうしよう」

 

一体、どうすれば?

 

ミズキの優しげな笑顔と寂しげな笑顔が交差する。

 

「………っ!」

 

ネプテューヌはその迷いから逃げ去るようにまた走り始めた。

 




ミズキを疑う女神達、傷ついているミズキ、そしてミズキを信じきれないネプテューヌ

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