ミズキの体が光に包まれ、変身を遂げる。
赤と青と白に包まれたガンダム。しかし、その手には何も持たず徒手空拳だ。
それでも構わない。いや、むしろそれがいいのだ。
そのガンダムにとって、拳は最大の武器だから!
ーーーー『我が心は明鏡止水〜されどこの掌は烈火の如く』
《ゴッドガンダム……変身完了!》
「この……お前も死にたいのかぁぁっ!?」
「死ね、Cファンネル!」
一瞬でファンネルがゴッドガンダムの周りを取り囲む。
「ミズキさんっ!」
四方八方からファンネルがゴッドガンダムを切りつけてくる……が、それはゴッドガンダムに掠りもしない。
全て上体だけの動きでかわしきっている。
(当たらねぇっ……!?気配を先取りしてんのに、それでも!?)
そしてゴッドガンダムは腰のゴッドスラッシュというビームソードを手に取る。
そしてその出力をあげた。
《ゴッドスラッシュ……タイフーンッ!》
ゴッドガンダムが高速で回転し、そこにはビームの竜巻が出来上がる!
そして周りのCファンネルをその竜巻に巻き込み、ネプギア達には傷一つつけられなかったCファンネルをバラバラに切り裂いていく!
《…………》
「やるな……!」
「それでこそ、殺し甲斐があるってもんだぜぇえっ!」
《……聞く!みんなを……ここまで傷つけたのは、君だな!?》
「ああん?違うぜ、傷つけるんじゃねえ……お前を殺したあと……殺すんだよ!」
《なら、女神を傷つけ、捕らえたのもお前か!?》
「それは違うな……。だが、お望みとあれば……今ここで殺してやってもいいぜ!」
《わかった、もういい……!君はここで倒す!》
「ハッハッハァッ!とんだ笑い話だ……とことん舐められてるらしいなぁっ!」
「そこのゴミ共と一緒に……まとめて殺してやるよ!」
ジャッジのパルチザンの先にエネルギーの球体が作られた。
しかし、それはさっきまでのビームマグナムではない。ジャッジのパルチザンの周りにはいくつものビームマグナムの球体が出来ていた。
「アレをいくつも……!?」
「ミズキさん、逃げて!アレは、お姉ちゃんの武器と同じ……!」
《ならば!分身殺法、ゴッドシャドー!》
ミズキが気を集中させた瞬間にゴッドガンダムがまるで忍者の使う影分身のように4体も現れた。
「なるほどなぁ……本物を見極めないとダメージはなしってことかぁ?」
「じゃあ、別にお前を狙う必要もねえ!」
ジャッジの標的は倒れている女神候補生へと向いた。
「これでも避けられるかぁっ!?」
高い銃声と共に4発の弾丸がそれぞれの女神候補生を狙って放たれた。
「っ……」
全員が襲いかかる衝撃に備えて目をつぶる前にゴッドガンダムがそれぞれの女神候補生の前に立ちはだかる。
「執事さん、やめて……!」
「あんなの食らったら、死んじゃう!」
ビームマグナムの弾丸が紫電を散らしながらゴッドガンダムの目前に迫った。
しかしゴッドガンダムはなんと、ビームマグナムを拳で迎え撃った!
《はっ!》
まるで、ビームマグナムは水鉄砲ほどの威力しかないと言わんばかりだった。
ビームマグナムの弾丸は風船でも破裂させたかのようにゴッドガンダムの拳に敗れ去る。
「う……そ……」
「こ、拳で……?」
「ば、バカな……」
「何を、しやがった……?」
驚愕しているジャッジをよそに、ゴッドガンダムが重なり合って元の1人に戻る。
そしてゴッドガンダムが静かに構えをとった。何処からでも攻撃できそうなのに、何処にも隙がない。
その構えからゴッドガンダムの構えは見たこともないものに変化していく。
《……流派!東方不敗が……》
ミズキ達の時代まで脈々と受け継がれてきた拳法、東方不敗。
たとえ文明がなくなろうと、人は残り、その技術は語り継がれてきた。
《最終……奥義……!》
朝焼けがギョウカイ墓場を照らした。
朝日はまるでゴッドガンダムを祝福するかのように眩く暖かな光を届けてくれる。
それと同時にゴッドガンダムは呼吸を整え、両手の間にエネルギーの球体を作り出していく。
「大地の力が、集まっていく……?」
「私達の時と、同じ!」
天然自然の力を集める技術はロムとラムのサテライトキャノンにも通ずるものがある。
しかし、ロムとラムを助けるのが月であるのに対し、ゴッドガンダムを助けるのは太陽!
月そのものを照らすほどの力を持った太陽!
《石……破ッ!!》
天然自然、その魔力にも似た力を両手の間に集める。
その気功砲は、どんな敵であろうと……!
《天驚けぇぇぇぇぇぇんッ!》
「な……!」
放たれた巨大な気功砲は拳の形になり、ジャッジへと一直線に向かう!
そして石破天驚拳はその拳を大きく開き、ジャッジを握り潰す!
「う、うおおおおっ!?な、なんだこれはぁぁぁっ!?」
圧倒的な強度を誇るはずのジャッジの鎧は熱を持ち、光り輝き消えていく。
そして石破天驚拳までもが光り輝き始めた!
《無限の熱量の前に焼かれていけ!これが、僕の、神としての力!》
「う、ウソだ!俺は、最強のはずだ!こんなヤツに、やられるわけがぁぁぁぁっ!」
《ばぁぁぁぁぁくはつ!!》
「貴様を殺してーーーー!」
石破天驚拳が今までに見たこともないような大爆発を起こし、ジャッジがいた場所を巨大な火球が包み込む。
「うおおおおっ!?」
もう1人のジャッジもその爆発の前に吹き飛んでしまう。
女神候補生もその爆風で危うく吹き飛びそうになってしまう。
「ば、バカな……!再生しない、だと……?」
ジャッジは火球に包まれてからもうその場に現れない。
ただただ大きなクレーターがそこに残っただけだ。それはつまり、細胞の1つすら残さずにジャッジは消え去ったということ。
《…………》
いつの間にかゴッドガンダムがさらに2機現れていて、その手には気絶したアイエフとコンパを抱えていた。
2人を優しく地面に横たわらせるとゴッドシャドーが消えた。
《良く、頑張ったね、みんな。遅れてごめん……。みんなを……君達のお姉ちゃんを助けられなくて……》
「そんな、私達だって……!忘れてて、思い出せないで……!」
《もう、大丈夫だ。僕の後ろにいて。そこが、1番安全だから》
全員を今すぐにでも抱き抱えて再会を喜びたい。
けれど、今は……目の前の敵を倒す!
《……かかってこい!まだ、戦う意思があるのなら!》
「……テメエ、舐めやがって……!だが、学習したぜ……!今の熱量、耐えられるように……!」
またジャッジの体が形を変えていく。
体躯が大きく膨らみ、装甲はさらに厚く刺々しくなっていく。
「クハハハハ、墓穴を掘ったな!さあ、ゆっくりと今から殺して……!」
ジャッジがゴッドガンダムに襲いかかろうと体を備えた瞬間、ジャッジの鼻先にゴッドガンダムはいた。
「な……!」
《それは驕りだ!》
「ぶべらぁっ!?」
ジャッジの顔面をゴッドガンダムの拳が捉えた!
ジャッジは気持ちいいくらいに吹き飛ばされ、地面を何度も転がっていく。
《どうした、もうおしまいか!》
「ペッ、NT-D……!」
ジャッジがキンッという音と共に消え去った。
いや、緑の閃光を残して移動しているのはわかるが、何処にいるのか全くわからない。素早すぎる。
「今の速さを学習した!これでお前は追いつけ……!」
《そしてそれも!自惚れだ!》
「ぐえぇっ!?」
しかし、ゴッドガンダムはジャッジよりも速度が遅いにもかかわらずジャッジの体を正確に見抜き、当てている。
またジャッジは吹き飛ばされ、岩山にその身を埋めた。
「くそっ、くそっ、くそぉぉぉっ!」
《……いい加減、理解しろ……!君に勝ち目はないよ!》
「そんなわけがねぇぇっ!俺は、無限に進化する存在だ!俺は、最強なんだァァァッ!」
再びジャッジの装甲が厚くなり、速度も上がっていく。
しかしゴッドガンダムはまるで幼子をあやす様にそれを幾度も弾き返す。
「ぐあっ!?ちぃっ、がぶっ!?この、がああっ!」
《………はぁーーっ……》
その度に衝撃が空気を歪ませ、そのすぐあとにはジャッジが地面に這いつくばる。
もうジャッジの体躯は最初の2倍ほどにも膨らんでいたし、スピードももはやネプギア達では視認できないほど速い。
しかし、ゴッドガンダムは全て見抜いているかのように完璧にカウンターしていく。
「何故だ……何故勝てねえっ!?俺は、俺は……!」
《君の強さは、所詮上辺だけのものだ!自分の身を痛めないで得られる強さなんて、何の役にもたちはしない!》
「そんなことはねえ!俺は、俺は常に進化しているはずだ!」
《そんな独りよがりの進化……早々に限界が見える!本当に大切なのは、仲間と寄り添い、高め合い、確かめ合うこと!》
「戯言をぉぉぉぉっ!」
ジャッジが今までの中で最大のスピード、最大のパワーでゴッドガンダムに突撃する。
しかし、その一撃は飛び上がったゴッドガンダムの鳩尾への一撃で遮られた。
「ご……ふっ………」
《はぁぁぁーーっ、はぁぁっ!》
浮いた体にゴッドガンダムの百裂拳が炸裂する!
腹の急所全てに叩き込まれる百裂拳は装甲ではなく、その内側にダメージを蓄積させていく。
そして最後の一撃でジャッジの巨体は宙へと吹き飛ばされる。
「が……!」
《超級!覇王!電影だぁぁぁん!》
それを追い、自身の体をエネルギーの塊としたゴッドガンダムが弾丸のように突撃する。
そしてそれはジャッジの腹へとぶつかる!
「ぐおおおおっ!」
《ぬううう、ああっ!》
ゴッドガンダムはそのままジャッジの腹を貫き、着地する。
ジャッジは腹に風穴を開けたまま地面へと叩き落とされた。
「な……!し、しまった……!」
《君の自己進化のコア……撃ち抜かせてもらった!》
ジャッジの腹にあった巨大なAの文字、それが超級覇王電影弾によってまるまる削り取られている。
このコアがなければ、もうジャッジは自己進化を行うことが出来ない。
《もう勝負は決まった!まだ来るか!?》
「……クク、油断していたのは、てめえの方じゃねえか!?」
だがまだジャッジは不気味に高笑いをする。
気配を感じたゴッドガンダムが振り返るが時すでに遅し。
「み、ミズキさんっ!」
倒れたネプギア達の首元にCファンネルが突きつけられている。
《お前は!》
「おっと動くな!1歩でも動けば、こいつらの首をぶった斬る!」
《外道が……!》
「ミズキさん、私達のことはいいから!」
「くそっ、体が動けば……!」
「執事さん……!」
「っ、力が入らない……!」
「ヒッ、ヒッヒッヒ……!弱くてもやり方があるってことだ!もう何も出来まい!」
《………フッ》
「ああん?」
《もう、躊躇わないよ。せめて、せめて退いてくれれば、命は助かったのに……!》
「まだ勝てる気でいんのか!?いいか、テメエはもうおしまいなんだよ!」
ジャッジが高笑いする中、ネプギア達が人質に取られていてもゴッドガンダムは動揺しない。
むしろ、心を落ち着けて呼吸を整える。
その心、まるで風1つない、凪いだ湖面のよう。
《はぁぁぁ……………》
水滴がその湖面に落ち、波紋を広げていく。
静かに、ただ心を落ち着ける。
今は何も考えない。
荒ぶる感情にも身を任せない。
怒りも、悲しみも、喜びも、全てを無にしてただ澄み切った鏡の如く。
あるいは、一点の曇りすらない青空のように。
その心に……ぴちょん、と雫が落ちた。
《見えた!水のひとしずく!》
その心意気、明鏡止水!
「なっ!?」
ゴッドガンダムの体が金色に輝き、周りを金色に染め上げる!
そしてその輝きはただの光ではなく、周りに不思議な効能をもたらす!
「あ、熱い!なんだ、これは……!シェアの光!?」
「か、体が……暖かい……?」
「傷が、治っていく!」
その光はジャッジの装甲とCファンネルを溶かし尽くし、ネプギア達を回復させていく。
「う……私、は……」
「なんですか、これ……」
「た、立てる……力が、湧いてくる!」
「この輝きって……シェアクリスタルに似てる……」
ネプギア達は立ち上がり、アイエフとコンパは目覚めていく。
しかし、ジャッジはただただ苦しむばかりだ。
「熱い!なんだ、これは!体が、燃えるぅぅっ!?」
「う………」
「え!?」
そして後ろからも小さな呻き声が聞こえた。
その声にネプギアが振り返ると、そこにはうっすらと目を開けるネプテューヌがいた。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「う……ぅ……」
すぐにネプテューヌは目を閉じてしまうが、心なしかその表情が柔らかい。
《最後だ……!》
ゴッドガンダムの背部のエネルギー発生装置が展開、そこにまるで日輪のような光が浮かび上がる!
胸部の装甲が展開、内部の露出したエネルギーマルチプライヤーに刻まれるのは燃え盛る炎のマーク!
この姿の名は、ハイパーモード!
《僕のこの手が真っ赤に燃えるぅぅぅぅっ!》
ゴッドガンダムの右手が激しく熱を持ち、赤熱し始めた。
そしてプロテクターが右手を覆い隠す。
《勝利を………!》
その時、ミズキの脳裏に浮かんだのは後悔の記憶。
助けにも行けなかった、傷ついていた事実を知りもせずに!
けど……けど、もう!
そんなことはさせやしない!
《あの日を掴めと!轟き叫ぶぅぅぅぅぅっ!》
右手を大きく振りかぶったゴッドガンダムがジャッジに向かって飛び出した!
「くそっ、くそっ、くそっ!審判もいらねえ……即刻死刑だ!行先、大焦熱地獄!!」
ジャッジの体からも強烈な熱線が放たれる!
そしてそれはゴッドガンダムの体へと直撃する。
「死ねぇぇぇぇぇっ!」
《っ………!》
脳裏に浮かぶ、安らかな日々の記憶。
ああ、それを取り返すためならば!
《ばぁぁぁぁぁくねつ!ゴォォォォォッドォッ!》
「なっ………!」
ジャッジの熱線の中をゴッドガンダムがくぐり抜ける!
そしてその右手を、何もかもの感情を乗せたその手を、ジャッジへと届ける!
《フィンッガァァァァァァァァッ!!!!!!》
「ぐおおおおっ!」
ゴッドフィンガーから送られる熱がジャッジの体を真っ赤に染めていく。
そしてゴッドガンダムはなんと、そのまま手を上にあげてジャッジを持ち上げてしまう。
「があああああっ!?」
《まだだぁぁぁぁっ!掟破りの!ダブルゥッ!ゴォォォォッド・フィンガァァァァァッ!!!!!!》
さらに、左手のゴッドフィンガーまでもがジャッジの体に突き刺さる!
「バカな……ありえねえ……!俺が、負けるなんて、ことは……!」
《ヒィィィィィィィトォォォォッ!!!!!!》
ジャッジの内部から光が溢れ出す!
それは、ジャッジの体が弾け飛ぶ証!
《エンドーーーーッ!!》
「ぐああああああーーーーっ!!」
大爆を起こし、ジャッジがその火球の中に消えていく。
弾けたジャッジはそこにいた証を何も残さず、ただただその名残のような熱があるだけだ。
ゴッドガンダムの変身も解かれ、さっきまでの激闘がウソのように静まり返った中でネプギア達に振り返る。
「ミズキ、さん……!」
ミズキに走り寄ろうとしたネプギア達をミズキはそっとその手で押しとどめた。
「僕よりも、先に会う人がいるだろ?」
「でも……!」
「僕は大丈夫、もういつでも会えるから。それよりも、これを……」
ミズキが手を広げると、そこには超巨大なシェアクリスタルが現れた。
今まで集めてきたシェアクリスタルも相当に大きかったが、これは別格だ。
「みんなを今すぐ解放してあげて。これは、返すから」
ネプギアがそのシェアクリスタルにそっと手を触れる。
するとそのシェアクリスタルから溢れんばかりの光が溢れ出した。
「っ………」
そこから溢れ出した光が捕らわれた女神達を包み込んでいく。
そして、その拘束を解き放ち、女神達の目を開かせた。
「っ、あ、あ………?」
「お姉ちゃん……!」
「お姉ちゃんっ!」
ロムとラムがブランへと駆け寄る。
飛び込んだ2人をブランはしっかりと受け止めた。
「ロム、ラム……アナタ達が助けてくれたのね」
「お姉ちゃん、あの……」
「何よ、泣いたりして……もう、待ちわびたわよ?」
「おね、お姉、ちゃん……」
「ごめんね、ありがとう」
涙がこぼれかけるユニをノワールが抱きしめた。
その暖かさを感じると、もうユニは堪えられない。
「ネプギア……会いたかった……」
「お姉ちゃん……お姉ちゃんっ!」
ネプギアがネプテューヌに抱きつく。
ネプテューヌもネプギアを強く抱き締めた。
「ごめんね、1人にして……もう、離れはしないから……」
「………良かった……」
「いいの?混ざってこなくて」
「後でいいよ。姉妹の再会に、水を差しちゃいけない」
「……みずみず、泣いてるですか?」
「………少し、ね。ほんの、少しだけだよ……」
ミズキの目からも静かに涙がこぼれ落ちる。
ひとしきり泣いたあと、ネプギアがネプテューヌに赤くなった目のままで話しかける。
「あ、あのね、お姉ちゃん!ミズキさんが……!」
「ミズキ……?」
その言葉を聞いた女神候補生達が女神と離れて、ミズキの前に押し出す。
「………ああ、その……いざとなると、言葉が出ないや……。その、ごめんね、助けに来るのが……遅れた……!」
「いいえ、ありがとう。アナタも手伝ってくれたのね」
ネプテューヌが1歩前に出てミズキの前に手を差し出す。
しかし、次に告げた言葉は……そこにいる全ての人間を、絶望の坩堝に迷い込ませる一言だった。
「“初めまして”。私の名前はネプテューヌ……パープルハート。アナタは?」
「ーーーー」
全員が言葉を失う。
今、なんて言った?
「お、お姉ちゃん……?今、なんて……?」
「え?私何かおかしなこと言ったかしら?」
「は、初めまして……って………?」
「………?だって、申し訳ないけど……私、この人を知らないもの」
ネプギア達の目の前が真っ暗になった。
ノワールも、ブランも、ベールも、それを肯定するかのように何も言わない。
「そ、ん、な………」
「ネプギア、どうかしたの?」
「………いいよ、ネプギア」
その声にネプギアが振り返ると、ミズキは柔らかな微笑を浮かべたままだった。
「少し、時間がかかるだけだよ。すぐに思い出すさ」
「だ、だって……!せっかく会えたのに、こんなのって、こんなのって……!」
「もう大丈夫なんだよ。もう、一緒にいるから、だから、大丈夫なんだ。けど、今はこれだけ言わせて……」
ミズキが4人の女神に近づき、全員を抱きしめた。
いきなりのことに、4人の女神全員が大なり小なり狼狽えてしまう。
「え、えと?その……」
「……変なところ触らないでよ」
「お、おい、どうかしたのか?」
「怪我でもなさったのですか?もし、気分が悪いのなら……」
「お帰り、みんな……!」
ミズキが静かに涙を流しているのを4人の女神が悟った。
それを見た女神は狼狽えるのをやめて優しく頭や背中を撫でたり、ただされるがままにしていたり、暖かな言葉をかける。
優しさに包まれたその空間は、そのつながりは、もう絶たれることはないように思えた。
………そう、今の間だけは、誰しもがそう思っていた。
次回予告
やっと会えた。やっと救えた。
それは喜びに変わるはずが、狂った1つの歯車が全ての運命を狂わせていく。
「触らないでっ!」
あの日はもうこの手には握ることが出来ないのか、あの温もりを感じることはもう許されないのか、戦場に限界を超えたミズキの血の涙が零れ落ちる。
「ウオオオアアアアアアッ!!」
信じたい、されど信じる根拠がない。だから信じないし、信じられない。
何もかもを諦めたミズキの体は崩壊を始めていった……。
次回、超次元機動戦士ネプテューヌ、『ミズキの慟哭〜光る掌はただ砕くことしかできず〜』
「ダメエエエエッ!!」
(もう……あの日に戻れないのなら……)