「はあっ!」
《たあっ!》
ブレイブの剣とスサノオのH-M.P.B.Lがぶつかり合う。
そしてすかさずお互いに距離をとる。
『これは……?ネプギアの、だよね?』
『予備のよ。スサノオの射撃武装は貧弱なんだし、持っていきなさい』
アブネスのサービスでスサノオは本来の装備ではないH-M.P.B.Lを装備している。
性能はネプギアのものと変わりなく、圧倒的な貫通力を持ったものになっている、が。
《……剣での勝負を望んでるの?》
「無論、銃を使うのは貴様の自由だ」
《……そんな期待をされてもね》
スサノオはH-M.P.B.Lを投げ捨てた。
そして腰のシラヌイとウンリュウを引き抜く。
《でも、銃を使っても僕が窮地に陥るだけみたいだ……っ!》
「よくわかっているではないか。いざ、尋常にっ!」
『勝負ッ!』
「ユニちゃん、大丈夫だった!?」
「来ないでよっ!」
ネプギアが駆け寄るが、ユニは涙を流したまま声だけでネプギアを立ち止まらせてしまう。
「来ないでよ……っ、何よ、適当なことばっかり……!」
結局、励ましたんだかなんだかわからないまま、言葉だけ濁して。あんなの、適当なその場しのぎじゃないか。
「二刀流……、貴様が使いこなせるのかっ!?」
《あんまり舐めないでよっ!》
スサノオの剣とブレイブの剣がぶつかり合う。
「口だけではないか……っ!だが!」
しかし、スサノオの剣が弾かれた。
「貴様も所詮、俺には敵わぬ!」
《うくっ!》
スサノオは後退しながらブレイブの剣をいなす。
しかしブレイブの一撃は重く、スサノオは反撃に出れない。
「どうした、否定しないのか!?」
《……っ、チャクラム!》
スサノオの頭部の兜の角のような部分で粒子が渦巻き、円盤を作った。
それはまるで忍者の使う円月輪のようにブレイブに向かっていく。
「ふん、小癪な!」
しかし、ブレイブが足を止めて剣を振るとチャクラムは弾かれてしまう。
「……なるほどな、時間稼ぎか?あの小娘が立ち直るのを待っているのか……」
《……ま、当たらずとも遠からず、かな》
「な………!」
「だが、待っても無駄だぞ?アレはもう戦えん。捻くれて、いじけて、グチャグチャだ。戦いに参加しても足でまといにしかならん」
《……君はいくつか、間違えてる》
スサノオが足を地につけて強化サーベルを握り直した。
《ユニを舐めない方がいい。近い将来、ユニは強くなるんだ。その強さは、どんな女神さえも、敵も、超える強さだ》
「ほう?まるで、未来を見てきたかのようなセリフだな。だが、その判断は誤りだ。アレを見ろ」
ブレイブがユニの方を指さすと、そこには下を俯くユニがいる。
「貴様にああ言われても、戦おうとすらしない」
《だから、なんだって言うの?》
「待つのが無駄だと言っている。貴様も命が惜しいなら、逃げた方が……」
《僕は、ユニの可能性に賭けてる》
「………」
《今は、少し転んでいるだけだ。すぐに立ち上がる》
「なぜそう言える?」
《ユニは今まで、誰よりも努力してきた……それを僕が知っているからだ》
「努力は実るとは限らん」
《でも、嘘はつかない》
「何故そうも信じられる?」
《今だって、ユニはここから立ち去っていないから……》
「………っ!」
《決して、逃げたことはないから!負けて、くじけて、倒れようとも……!ユニは絶対に逃げていないから!》
「違う、逃げられないだけだ。ヤツの翼はもうもげた。引きちぎられた。逃げることも立ち向かうこともできん」
《けど、足がある!》
「ならば、次は足も手も切り伏せてやろう!」
《翼がないから……ユニは!何かを背負えるはずなんだァッ!》
再びスサノオとブレイブがぶつかり合う。
スサノオの背中に装備された擬似太陽炉が唸りをあげ、ブレイブを後ろへと押し込んでいく。
《それと、もう1つ!》
スサノオがブレイブを蹴飛ばす。
ブレイブはその巨体を蹴飛ばされ、地面に足を擦り付けてブレーキをかけた。
「この俺を……吹き飛ばすとはっ!」
《僕は負ける気は無い……!たとえ、僕の体が朽ちても……!》
「っ、貴様は……」
《君を倒す!》
「ユニちゃん……」
「……っ、うくっ、なんでよ……!」
ユニは膝をついて涙を流した。
もう隠すこともせず、床を殴りつけた。
「何も知らないくせに!どうして……どうしてそんなに、信じられるのよっ!?」
「ユニちゃん……スミキさんが、待ってるよ?」
「わかってる!わかってるけど……!今の私に、アイツは倒せないじゃない!」
「そんなこと……!」
「勝ちたい、勝ちたいわよ!でも、勝てないのよっ!助けたいわよ、でもね、思い通りにいかないのっ!それだけのことが出来る強さが、私には……ないっ!」
ユニは今度は自分の無力さに涙を流す。
さっきとは違う、自分のせいで泣いていても……その原因は違う。
ユニは今、人のために、他人のために泣いていた。
「勝ちたいのにっ!」
思い通りにいかないから、泣く。
言葉だけ聞けばなんとみっともないことか。
けれど、全世界の誰もがユニの涙を笑うことなどできないだろう。
「アイツ………」
《それみろ、もうユニは前を向いた……!》
ブレイブと互角に競り合いながら、スサノオは満足気な声を漏らす。
ブレイブには鉄の仮面に隠された下の顔が微笑んだように見えた。
《本当に、頼りになるよ……!ユニは、ユニは……!》
「っ、ええいっ!」
《くっ!》
強引にスサノオがブレイブに吹き飛ばされた。
《はあっ、くっ、どうかした?まさか、疲れたわけじゃないよね?》
「っ、黙れ!なんだというのだ、お前は……!」
《クスクス、何が?》
「そんな、手負いの体で何をしに来たッ!?」
「手負い……!?」
「………え……?」
《クスクス、なんのことだか……》
「黙れ!貴様、もう立っているのも辛いだろう!?体が震えているぞ!」
《心配してる、のかな?悪いけど、僕は……》
「いいからその剣を捨てろ!手負いの敵をいたぶる趣味はない!」
《……君は、正々堂々としてるね……》
ネプギアとユニが注意深くスサノオを見れば、スサノオの体は小さく震えていた。
それもそうだ、トリックとの戦いからまだ2日しか経っていないのだ。
そうでなくても、連戦に次ぐ連戦。そして激闘なら、怪我は治らなくても無理はない。
《でも、だからこそ、君も同じことをするはずだよ》
「なに……?」
《君にも、譲れないものがあるだろ?》
「……当然だ。俺は、貧しくてゲームを買えない子供の念から生まれた……だからこそ、そんな子供を守るためならば!」
《僕も同じだ。この世界で、守りたいと決めた人達……それを守るためなら……》
スサノオの体が赤く輝いた。
それはまるで血を全身から噴き出したような色で、それがネプギアとユニには命を削っているように見えた。
「スミキさん、ダメッ!」
《安心して、ユニ。君を傷つけさせやしない……!》
機体各部のコンデンサーに蓄積された高濃度圧縮粒子を全面解放することによって機体の性能を3倍以上に引き上げる、切り札。
そのシステムの名は……。
《トランザム》
「これは……!」
《かかってこい、ブレイブ!僕への躊躇いは捨ててみせろォッ!》
スサノオが赤い残像を残し、高速でブレイブへと近付いた。
「ぬっ!?」
《ぐっ!?く、く……!》
スサノオの剣はブレイブの目の前まで迫ったものの、寸前で止められる。
しかし切った方のスサノオの方が苦しんでいる。
「文字通り、命を削るか!」
《うぐっ、はあああーーーッ!》
「その覚悟……応えなければ、男ではない!」
スサノオが離れ、ブレイブを切り抜ける。
そして目にも留まらぬ動きであらゆる方向からブレイブを切り刻んでいく。
《今の僕は……阿修羅すら凌駕する……!》
「認めよう!貴様は俺の好敵手に値する!」
《あああああっ!》
叫びながらスサノオはブレイブへと何度でも向かっていく。
全ての攻撃は剣で弾かれているものの、確実にスサノオが優勢だ。
「つ、強い……」
「っ、けどっ!あんなのダメよ!スミキさんが死んじゃうっ!」
自分のために、彼が命を賭しているのなら、そんなの耐えられない。
彼は、私より価値がある、強い。
あの人を失っちゃいけない……!
「行かなきゃ……!」
「ダメ、ユニちゃん!」
「だって、行かなきゃ死んじゃうじゃない!」
「そんな気持ちで行っても、何も出来ないよっ!」
「でも、スミキさんは私を待ってるんでしょ!?行かなきゃ、行かなきゃ!」
「だから、ダメだって!」
「死んじゃうのよっ!?」
止めに行こうとするユニとそれを止めるネプギアとで口論が始まる。
「ネプギアはあの人を見殺しにするっていうの!?」
「違うけど!」
「だったら!」
「でもユニちゃんに死んで欲しくないよっ!」
「いいわよ、別に、死んでも!勝てなくても、助けられなくてもいいから……助けなきゃ!」
「みんなユニちゃんが死んだら嫌だって、スミキさんが言ってた!」
「じゃあ死なないわ!絶対に死なないから、止めに……!」
《ユニ、良く聞けぇぇっ!》
「っ!」
いつの間にかスサノオとブレイブの力関係は逆転していた。
切り抜けていたはずのスサノオはブレイブに何度も何度も弾かれながらも向かう形になっている。
それはまるで、火に近寄る虫のようだ。
《知ってるよ!わかるよ!僕だって、何度も負けた!だからこそ、君の気持ちだってわかる!》
スサノオの渾身の一撃がブレイブの剣を弾いた。
《弱音を口にしたらそうなってしまいそうで……!そういう自分を、必死に自分で殺してきたんだろっ!?》
「ぬ……うっ!死力とはこのことかっ!」
《憧れは遠い方が何処か安心していられるだろっ!?たどり着けないって……心のどこかで、そう思っているから!》
スサノオが飛び上がり、大車輪のように回転。トランザムの加速を利用した何よりも速い兜割りがブレイブの剣を続いて弾く。
「スミキさん、もうやめてっ!」
《君は確かに今はまだ弱いよ……そして、それが君の全てだよっ!でも……!でも……!》
「くううあっ!」
ブレイブとスサノオの剣がぶつかりあった。
「な……!?」
なんと、スサノオの剣がブレイブの剣に切込みを入れている。
「俺の剣を切るのかっ!?」
《成長した自分を、ちゃんと認めてあげなきゃ!君の描いた未来は、形になるって、君が信じてあげなきゃ!》
「ぬうっ!」
《ぐっ!》
たまらずブレイブがスサノオを蹴飛ばして距離をとる。
《立ち上がれ!何よりも強い想いがあるなら!》
「スミキさん……!」
《君と、ネプギアとで!みんなで!君だけの輝きが、道を照らす!》
「これで終いにする……!ブレイブ・ソードッ!」
《うわああっ!》
ブレイブの一撃がスサノオを襲う。
今度はスサノオは受け止めきることが出来ない、ブレイブの斬撃がスサノオの兜と仮面を砕いた。
《くっ、君は光だ!悲しみも、悔しさも、惨めさも……!全て受け止めて、みんなの道を照らせ!》
「そんな……!死ぬ前みたいに……!死ぬ前みたいなこと、言わないでください!」
スサノオが2つの刀を合体させ、ソウテンにする。
そして最後の力を振り絞り、ブレイブへと立ち向かった。
《ああああっ!》
「………手負いでなければ……!」
斬撃音が鳴り響く。
切り裂かれたのは、スサノオの片腕だった。
《うっ………》
「惜しい男だ……!」
返す刀の一太刀。
スサノオは受け止めることはできない。
スサノオの胸は深く深く、切り裂かれた。
「ーーーー!」
ユニとネプギアの声にならない叫びがこだまする。
スサノオは地面に音を立てて倒れた。