今度はラステイションにとんぼ返り。
「良かった……!よく無事で帰ってきましたね!」
ギュッと力強くミナがロムを抱きしめる。その目には少し涙が浮かんでいた。
「うん……ごめんなさい……」
ロムも安心したようにミナに力強く抱きついた。
「いろいろあったけど、これでルウィーの件もひと段落ね」
「ホントに、色々ありましたね……」
「前回といい今回といい、なんとお礼を言ったらいいか……」
「いえ、気にしないでください」
「それより、最初にした約束のことなんですけど……」
2人を助ければ、ロムとラムの旅の同行を認める。
そういう約束だったはずだ。
「その件なんですが、やはり、私は心配です……。2人はまだ幼すぎる……」
「む。ミナちゃんだって見たでしょ?あの、禁断魔法!」
「え?や、やっぱりアレ、2人が?」
「まずかった……?」
「マズいも何も、大ニュースよ……。ちょうど調査チームでも送ろうかと思っていたところだったわ」
「そりゃあ、あんな高い塔が建ったら事件にもなるですよ」
「あんな馬鹿げた魔法があるなんてね……」
伊達に禁断の名は持っていないのだろう。それでもアレはスケールが違いすぎる。同じ禁断でも多重影分身とはえらい違いだ。
「それに、私達決めたんだから!」
「え、なにを……?」
「決まってるわ!私達2人で、あの変態を倒すのよ!」
「うんうん……」
ラムの心の叫びにロムが頷いて応える。
「私とロムちゃんを洗脳した上、その、ぺろぺろまでして!許さないんだから!」
「へ?ぺろぺろ?」
「え?ぺろぺろ?」
「ん?ぺろぺろ?」
ミナとネプギアがきょとんとして、それにつられて言った本人のラムまできょとんとする。
「なんです、それ?」
「……なんだろう。あれ?特にそんなことされたことはなかったはず……だよね?」
「……うん。そうだと思うよ?」
ロムが笑顔で肯定するが、その目が一瞬ネプギアに向いた。目が合った瞬間、ロムが誰にもわからないようにウィンクする。
(………!)
(2人に、記憶が……?)
(洗脳された副作用かもしれないです)
アイエフとコンパも小声で会話を交わす。
2人がぺろぺろされたのは失くなった記憶の間の出来事。それが洗脳ということで無意識に現れたのだろう。
洗脳されていたことで2人が自覚していなかったサテライトキャノンも使えたのだから、それも有り得る話だ。
「ま、まあいいわ!とにかくあの変態を倒すの!」
「……2人が、自分で決めたの?」
「うん。それに、今まで助けてもらってばっかりだったから……今度は私達がネプギアちゃん達を助けたい……」
「ロムちゃん……」
「……それなら止めるわけにはいきませんね。ネプギアさん、2人をよろしくお願いします 」
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
「でも……」
「でも?」
「とりあえず……明日から……」
「もう、疲れた……寝るわね……」
そういえばまだ疲労困憊のままだった。
2人はがっくりとミナに倒れかかるようにもたれかかって……いや、甘えてまぶたを閉じる。
ミナはそれを見て仕方のない子達、とほんの少し微笑んだ。
ーーーーーーーー
「んで、結局こうなるのか……」
アブネスが呆れたように溜息をついた。
「一体全体、何をどうしたら両腕がカッチンコチンになるのよ!」
「ロムさんとラムさんを励ます際に凍ったようですけど……」
「普通は励ましただけで凍らないのよっ!」
《まあ、それはいい。いや、良くないが、それ以外に目立った損傷はないな?》
「まあ、ちょっとはあるけど、四天王を相手にしてこれくらいだったら幸運スキルEXよ。リミッターも解除された痕跡はないし、大丈夫なんじゃない?」
《またミズキとは連絡が取れていないが?》
「そればっかりは原因不明。というか、こっちの科学力じゃ現象を解明できても原因は解明できないのよ。推測でしか」
やれやれとアブネスはまた溜息をはく。
「そもそも管轄外だし」
愚痴を吐きながら教会の椅子にドカッと座る。
「それと、報告よ。新しい機体。これで、ミズキから受け取った設計図の機体は全て作ったことになるわ」
「ということは、完成系、と?」
「まあそうね。全ての能力値で上を行き、トールギスみたいにピーキーでもないわ。ある種の完成系かもね」
《……プレゼンは任せよう》
「サンキュー。型式番号、GNX-Y901TW」
空中にモビルスーツの画像が浮かび上がった。
「機体名は『スサノオ』!」
黒と白の装甲で体は覆われ、手足が長く頭には大きな兜のような装飾。
「ようやく、擬似太陽炉を使う時が来たわ。この機体の特徴としては、切り札の……!」
「あ、少し待ってください」
熱弁し始めたアブネスがガクッと膝を折られる。
不機嫌な顔で何事かとイストワールを見る。
「で、電話です、電話。すいません……」
苦笑いして平謝りするイストワール。まあ確かに電話ならばしょうがない。勢いを削がれたものの、渋々アブネスは引き下がる。
「はい、もしもし。……え?あ、はい。いや、でも……え?ええっ!?」
(どうかしたのかしらね)
(知らん)
(アンタなら盗み聞きくらいできるでしょうに)
(プライバシーの問題だ)
「いや、あの、少し待ってくださると……え、嘘ですよね?え、ホントですか?ほ、ホントのホントに?」
「しつこいよ」
「ん」
《………》
急にドアが開いた身構えたアブネスとジャックだったが、そこに立っていたのは……。
「ケイ、さん……」
携帯を耳に当てた神宮寺ケイだった。
冷や汗を垂らしてイストワールが頬をヒクヒクさせている。
「な、なぜ連絡もせず?」
「もちろん、もともとは連絡する気だったさ。けれど、そうも言っていられなくなってね」
「あ〜……なるほどね。急にここに来るって聞いて焦ってたってことね」
アブネスが電話の内容を推し量る。
《どうかしたのか?》
「ん、良い報告と悪い報告がある」
《どちらが先かと?》
「そういうことになるね」
「悪い報告からお願いできる?」
「わかったよ」
「あ、あの……私抜きで話を進めるのは……その……」
「ユニが行方不明になった」
「ふ〜ん……は?」
《ユニが、だと?》
「あ、あのあの、衝撃の事実が明かされたのはわかるんですけど、せめて間を……」
「で、いい報告は?」
「女神救出の目処がたった」
《ほう》
「………くすん」
イストワールはちょっと拗ねた。
ーーーーーーーー
夢を見た。
すっごく幸せな夢だ。
振り向くとみんながいた。また振り向けば死んだみんながいた。
僕はみんなに包まれて、暖かさを感じるんだ。
それで、なにか言葉をかけられていた。内容は覚えていないけれど、表情はとても幸せそうだったことを覚えている。
そして、目が覚めた。
「ーーー………」
冷たい地面がそこに広がっているばかりで、夢で感じた暖かさなど一片もない。
それでも立ち上がって拳を握る。
力いっぱい、何も無い空間を殴りつけた。
しかし、ミズキの拳はガン、と音を立てて壁にぶつかる。それは次元の壁とも呼べるものだ。
そして、その壁がぴしっとひび割れ、欠片がこぼれ落ちた。
「あと少し……」
ミズキはほんの少しだけ微笑むことが出来た。
ーーーーーーーー
翌日、ロムとラムを加え、賑やかになった一行はプラネテューヌに戻るべく、ルウィーを出たところだった。
そこでネプギアのNギアがなる。
「あ、電話……」
ちなみにこのNギア、ネプギアが持っていくのを忘れたことに気付いたイストワールが素早くメンテしてルウィーに送ったものである。宅配便で。
「もしもし?いーすんさん?あのですね、ロムちゃんとラムちゃんが協力してくれることになったんですよ!」
《それは良かった。まさか、あの双子が協力してくれることになるとはね》
「あ、あれ?この声……ケイさん?」
《ご名答。覚えていてくれて、嬉しいよ》
てっきりイストワールからかと思ったが、以外にも電話から聞こえてきたのはケイの声。
「あれ?えっと、てっきりいーすんさんからの電話かと思って……」
《ちょっとした事情があってね。つい先日から、プラネテューヌにお邪魔させてもらってるんだよ》
ホントに邪魔よ、とか、ホントに先日だな、とか電話越しに呟いていたがネプギアにはきこえない。
《まあ、今は僕のことは置いといて。至急君達に、ユニのことで知らせたいことがあってね》
「ユニちゃんが、どうかしたんですか?」
《端的に言うと、行方不明になった》
「ゆ、行方不明!?」
《僕も、プラネテューヌに向かう途中で聞いたことでね。留守はユニに任せっきりだったんだけど……まさか、こんなことになるとは》
「それで、ユニちゃんは!?」
《それを君達に調べてほしい。まずはラステイションの教会で詳しい説明を受けてくれ》
「わ、わかりました!」
《僕は今ここを離れることは出来ない。すまないけど、ユニのことを頼んだよ》
ブツっと通話が途切れた。
「というわけです!行きましょう!」
「あのねぇ……少しは相談しなさいよ。まあ、いいんだけどね?」
「ぎあちゃんのお人好しにも磨きがかかってきたですね」
「うっ……」
「けどほっとけない……」
「手が焼けるわよ」
なんだかんだ、ネプギアの意見に異を唱える人はいない。
5人は急ぎ、ラステイションへと向かった。
ーーーーーーーー
ようやく、5人はラステイションにたどり着く。そこの教会に入ると、前に見た気がするような男の人が立っていた。
「あ、やっと来た!待ってたよ!」
「……どっかで会ったわね」
「誰でしたっけ?」
「絶対に会ったことある人なんですけど……」
「私知らないわよ?」
「誰このおじさん……」
「さ、散々な言われようだなあ……」
おじさんだとふざけんなオラァ!お兄さんだろぉ?
がっくりと肩を落としたおじさんもとい青年は少しばかり悲しんでいたようだが、すぐに気を取り直す。
「と、と。そうじゃない。今はユニ様のことだ」
青年は手に持っていた書類を広げてそれを読む。
「え?ユニちゃんのこと、知ってるんですか?」
「ああ。ケイ様から情報を集めるようにと言われていてね。さっきようやく足取りを掴めたんだ」
「アンタ、やたらとあの教祖と仲良くない?」
「え?そ、そう?」
「言っちゃアレだけど、結構イヤミじゃない?いや、別に嫌いなわけじゃないんだけど」
「そうかな?結構素直だと思うけど?」
「素直?何処が?」
「すまし顔してるけど、なんだかんだ困ってる時は困ってるって言うし、嬉しい時は嬉しいって言うじゃないか」
「そうかもしれないけど……皮肉くさくない?」
「そんなことないさ。慣れれば結構可愛く見えて……はっ、ごほんごほん!」
青年が我に返って咳払いをする。
アイエフが計画通りと言った顔をしているがみんなは無視した。
「じ、順をおって話すぞ。まず、ユニ様はケイ様に留守を預けられてから、国中に散らばるマジェコンを1人で回収していたらしい」
書類を見ながらその要点だけを拾い上げ、読み上げていく。
「だが、突然ユニ様の前に人とも言えない巨大な影が現れ……」
雲行きが怪しくなった。
「2人はひとしきり口論した後、戦いで決着をつけようと去っていったらしい。そして……それから帰ってきていない」
悔しげに下を見る青年。
「それって、もしかして……」
「た、大変じゃないですか!すぐに助けに行かないと!」
しかし、見上げたその瞳にはしっかりと希望が宿っていた。
「だから、頼む!僕達に代わって、ユニ様を探し出してくれ!」
「あんまり、猶予はないみたいね」
「アイエフさん……」
「早く行きましょう。その向かった先はどこ?」
「ミッドカンパニーだ!頼んだよ!」
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ミッドカンパニーにたどり着いた5人は、その中を歩き回ってユニを探す。
もし、もし最悪の事態になっていたら……そんな考えを振り払うようにネプギアは慌ただしく動き回る。
「少し落ち着きなさい、ネプギア」
「アイエフさん、でも……!」
「犬でもいれば、探しやすかったかもしれないわね」
「この中に、匂いをかげる人は……いないですね」
野生児だったら別だが、あいにくここにはそんな人はいない。
「ネプギアちゃん……なにか、感じない……?」
「ううん、何も……。ロムちゃんは?」
「私も、わからない……」
ニュータイプもXラウンダーも言葉を借りればエスパーではない。
もしくは、感じるものすらない、なんて話は聞きたくない。
「スミキさんなら……」
だが、スミキとは連絡が取れない。だから未だにネプギアもロムもラムもお礼を言えていない。
毎度毎度のことなのでアブネスも「地下にでもいるんじゃないの?」とさじを投げている。これでも一応心配はしているらしいが。
「地道に捜索するしかないわよ!捜査の基本は足よ、足!」
「仕方ない……。歩こ……?」
5人はまとまって奥へと歩き出す。
ルウィーでネプギアとロムとラムは話し合った。
ラムの口から自然に飛び出たぺろぺろという言葉。そしてロムがほんの少しだけ思い出した記憶のことだ。
ぺろぺろ、というのは過去にもあの変態に会ってぺろぺろされたことがあるのでは、という結論に落ち着いた。
ロムとラムは全身から鳥肌を立たせていたが。
そしてロムが思い出した記憶というのは、過去にも2人はスミキに助けられているという記憶。
それにスミキが漏らした言葉などを加味して3人は推理を行った。
そんなこんなで3人の中では「過去にも洗脳なり捕まったなりされたことがあって、その時にスミキに助けられたことがある」という結論が出た。
何故記憶が消えているのか、消えた記憶は本当にそれであっているのか、などという疑問は多い。
推理だって、証拠も何も無い。
けれど、3人が合意できたのは「スミキは信頼に値する」ということ。自分達のために命を賭している男を、疑うほうがおかしい。
では、彼は何者なのだろうか。
そこから先はまともな結論は出なかった。
やれ、白馬に乗った王子様だの別の世界の神様だの宇宙人だの幽霊だの挙句の果てには情報生命体だの。
どこかの先輩並みに説が出たところで3人は考えるのをやめた。どうせ考えてもわからないことがわかったからである。
一体彼が何者なのか?
それについては誰も思い出せないし、掠りもしなかった。
しかし、全員口には出さずとも感じていたことは不思議な懐かしさ。体の芯から温まるような、そんな懐かしさだ。
「ん?あれ……」
考え事をしていたネプギアはアイエフの声につられて前を見る。
その先、ほんの少し地面が黒くなっている。
「………まさか!」
あの特徴的な黒髪。忘れるはずもない。
駆け寄ったネプギアは倒れた人影を起こして顔を見る。
……ユニだった。
拗ねるいーすん可愛いよいーすん。