フルグランサほんと好き。AGE2ノーマルの次に好き。
ネプギアはメガ粒子砲を盾で受けて仰け反りつつも、しっかりと開いた瞳で目の前の状況を視認していた。
目の前にいるのはメッサーラ。ビームサーベルを引き抜いてこちらに向かっている。
そしてネプギア達を包むように放たれるのはガザCのナックルバスターによる弾幕。
(急務……メッサーラを退ける!)
シールドライフルからビームサーベルが現れた。
それはメッサーラのビームサーベルと鍔迫り合い、バチバチとスパークを散らす。
「くううっ!」
《………》
しかし、ここではメッサーラの方が1歩上に行った。
メッサーラが咄嗟にビームサーベルを持った手の力を抜いて、タックルしてきたのだ。
「あうっ!」
(マズい!)
これは追撃をかけられる流れだ。
現に、メッサーラは次の攻撃体勢を整えている!
《………》
ゆっくりと……いや、実際は一瞬でメッサーラの背中のメガ粒子砲がネプギアに狙いを定める。
絶対に逃がしはしない。次の一撃で確実にネプギアを灰燼に帰すつもりだ。
ネプギアのXラウンダー能力が警鐘を鳴らす。アレに当たってはならない。アレが直撃すれば、大ダメージを受ける!
「………っ!」
けれど、避ける術はない。
ネプギアのXラウンダー能力は警鐘を鳴らすと同時に追撃が避けられないものであることも教えていた。
(どうする、どうする、どうする!?)
例え、強くとも速くとも硬くとも、賢くなければ。
大男総身に知恵が回らず、という諺が示すとおりだ。どれだけ屈強な力を持っていても、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れに過ぎない。
ネプギアにはポテンシャルがあった。1対大多数を覆すほどのポテンシャルはあったが、それを使いこなせなかった。
このピンチはそのツケだ。
(…………!)
考えられた手段は2つ。
この失敗を取り返す、逆転の一手は2つある!
1つ、グラストロランチャーでメガ粒子砲と撃ち合う!
もう1つは……!
《!》
「くっ!」
ネプギアが盾で自分の前を覆い、さらにその前に防御魔法を展開した。
「う、う、う、うぅ………!」
《…………》
ネプギアの防御魔法がひび割れ、崩壊していく。
「ああああっ!」
メガ粒子砲は防御魔法を突き抜け、盾で受けたネプギアをその勢いのままに地面に叩きつけた。
「あっ………くっ……!?」
さらに追撃のミサイル。メガ粒子砲を撃つのと同時に放たれたミサイルは地面にめり込んだネプギアに降り注ぐ。
「うあああっ!」
迎撃も追いつかない。苦し紛れに盾で受けたネプギアだが爆風と衝撃がネプギアの体を打つ。
「くっ……はっ……」
ネプギアが大きなクレーターの中に倒れ込む。
息は荒く、身体中傷だらけで力尽きた。
《………》
だが、まだ死んでいない。息の根を止めるまでは。
メッサーラがビームサーベルを引き抜いて追撃をかける。同時にネプギアへグレネードランチャーを撃つと、ネプギアへと避けも防御もせずに直撃した。
「うっ!」
《………》
爆風に打ちのめされたネプギアがわずかに呻く。
そしてメッサーラがビームサーベルの間合い、その一歩手前まで迫った瞬間に………ネプギアは、笑った。
「ふふっ……」
《………!》
「ひっかかって……くれました。これは、賭けでした。もしかしたら、失敗するかもしれない。そうすれば私は一気に窮地に陥ってしまう……その賭けに、私は勝ちました!」
メッサーラのビームサーベルを持った右手が強力なビームによって撃ち抜かれた。
それも、背後。ネプギアのいない方向から。
《!?》
「グラストロランチャー……最初の射撃の時に切り離してたんですよ」
メッサーラの背後には切り離されたバックパックが飛行していた。
ネプギアはメガ粒子砲の射撃を受け、地面にめり込んでいた時にそのバックパックを切り離したのだ。
もしグラストロランチャーで迎撃すれば、後続のミサイルにやられて体勢を崩し、そのままビームの海にその身を沈めていたかもしれなかった。
だからこその、この作戦。敵の意表を突くことが出来る、この作戦を選んだのだ。
「それと、もう1つ………」
動けないネプギアなど脅威ではない。
残った最大の脅威であるあのバックパックを撃ち落とそうと後ろを向き、狙いを定めたメッサーラに背筋が凍るような声がした。
「追加装甲を……なめないで!」
一瞬、辛うじて後ろを見ることのできたメッサーラのセンサーに映ったのは厚い装甲とスーツのほとんどを脱ぎ捨て、身軽になったネプギアの姿。
ネプギアが移動した痕跡を残すように、まるでネプギアが脱皮して本来の姿を得たかのような、アーマーパージアタック。
まさか、効いていなかったというのか?あれだけのビームの勢いで地面に叩きつけ、さらにミサイルを撃ち込んだというのに、ダメージはネプギア本体に届いていなかったというのか?
その答えはネプギアの体が表している。
強く、強く、“是”と。
《!?!?!?》
メッサーラの左腕と左足がまとめて切られた。
抵抗しようと苦し紛れに放った右足の蹴りもネプギアに受け止められ、足を引きちぎられた。
《………》
「逃がしはしません!」
背中のスラスターを使って逃げようとしたメッサーラにシールドライフルを向ける。
狙いを定め、撃てと命じればいとも容易く銃口からビームが放たれる。
それはたった一撃でメッサーラの2つのスラスターを同時に貫き、爆発させた。
《!?!?!?!?》
胴体だけになったメッサーラが地面へと落下していく。
「残りは………」
くるりと後ろを振り向けばガザCの残党達。だが、ほんのこれっぽっちでネプギアが止められないことは全員が理解している。
誰もが近寄るなとでも言いたそうに銃口をネプギアに向けてそこから動かない。
しかし、突如としてガザCが爆発した。
《!?》
「これは……」
「チュ!?」
次々と残ったガザCが何者かに撃ち抜かれて爆発していく。
気配を感じたネプギアが援護をしてくれた方向を見ると……。
「アイエフさん、コンパさん!」
「お待たせしましたです!」
「これで、鬼に金棒ね」
2人の射撃が次々とガザCを撃墜していき、ついに最後の1機が撃墜された。
ふわりと地面に降り立ったネプギアが2人と合流してワレチューを見据えた。
ワレチューの足元には袋に包まれたマジェコン。
ワレチューは冷や汗を垂らして3人を見つめている。
「ほ、他のマジェコンはどうなったっチュか!?ま、まさか……」
「そのまさかよ」
「です」
アイエフが投げたのは焦げた歯車。
コンパが投げたのは一部が溶解したパーツだった。
「チュ、チュ〜……!」
「さて、後はこれをぶっ壊すだけね」
「派手に行くですよ!」
「チュ、やめるっチュ〜っ!」
ワレチューの悲痛な声が響くが、問答無用で2人はマジェコンの山に銃弾と液体をぶつける。
まるで長い間出番のなかった軍隊が骨董品の処分だと派手に旧型の武器を消費するような散財具合。
もしくは仕事が忙しくせっかく多い給料を全然使えずようやく貰えた休みにお金の使い方がわからず盛大に贅沢してしまうほどの贅沢具合だ。
楽しげにマジェコンを叩き壊していく2人だったが、ネプギアはそれに参加していなかった。
ふと、自分の胸に手を当ててみる。
あの時感じられた速さ、強さ。生まれ変わった、ヴァージョンアップとも言えるほどの強さをあの一瞬だけは手に入れることが出来た。
今手に入れたこの新しい強さ、フルグランサは確かに強い。火力、装甲、機動力、全てが底上げされていた。
だが、それでもあの時には及ばない。
これは完成系ではないのだ。おそらく、足下にも及ばない。もっともっと、朧気ながら見える新たな姿は圧倒的なはずなのだ。
だが不思議とネプギアは自分の体の限界も感じていた。これ以上はどうしようもないような、そんな行き止まりを目にしたような感覚があった。
AGE1フルグランサ。果たして、これがネプギアの進化の限界なのだろうか……?
「ぎあちゃん?ぎあちゃんも壊さないですか?」
「……あっ、はい!こ、壊します!」
ネプギアが放ったビームはマジェコンを貫いたものの、地面にめり込んだ後に消え去った。
ーーーーーーーー
ミナが光り輝く機械の前でシェアクリスタルを精製し始めた。
その後ではラムが早く早くと急かしている。
「これで、ロムちゃんも治る!?」
「ええ、大丈夫よ。だから、少し休んでなさい」
さらにその後ろでは3人がそれを眺めていた。
「マジェコンは一つ残らず壊したし、これでしばらくはシェアを奪われる心配もないわね」
「溜まったシェアでクリスタルもすぐ作れるですし……」
「これで、2人も元気になるかな……」
ロムはまだ寝込んでいるし、ラムの体調も芳しくない。
だからこそ、2人には早くシェアクリスタルを使って元気になってもらいたい。
2人が動けなければシェアを取り戻すことも出来ないのだから。
「ネズミには逃げられたけどね」
「またシェアを奪われるかも知れませんから、油断は禁物です」
確かに、今あるマジェコンを全て壊したと言ってもまたマジェコンを引っさげて戻ってこないとも思えない。
(………?)
その時、ネプギアの体にほんの少しの震えが走った。
手首がプルプルと震えている。
不思議に思って抑えると震えはすぐに止まった。
さして気にもならないようなことのはずだったが……ネプギアはなんだか危機が迫っているような気がして、落ち着かなかった。
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「うぅ………ぁ……」
自室で呻きながらロムが眠っている。
寝汗はひどく、その表情はお世辞にも安らかとは言えない。本当に苦しそうに呻いている。
その部屋の窓から颯爽と足音も立てずに1人の女が舞い降りた。
怪盗のよう、と言いたいところだが格好はまるでコソ泥なので空き巣のようだ。
「へへっ……侵入成功……」
暗闇に紛れてロムの部屋に降り立ったのはリンダ。
そして窓の外にはさらなる巨大な影が見える。
長い舌を蠢かせ、目を赤く光らせる。ジュルリと涎を垂らす姿は怖気が立つような危機を見るものに感じさせる。
「また……会いにきたぞ〜……アクククク」
夜、暗闇、輝く星々。
月が、出ていた。
また、会いに来ました。
プラズマダイバーミサイルはゲハバーン枠っぽい。